上 下
5 / 65
一章

第5話 慰謝料

しおりを挟む
「申してみよ」
「はい。まず一つ目に、私への償いです。私は「傷物」、社交界でも腫れ物として扱われるでしょう。ですから、国外へ行こうと思うのです。そのために必要な資金として、ということでございます」
「…!そう、か…貴女のような素晴らしい人材はこの王国に必要だが…うちの愚息は、それだけのことをしたのだな。誠に申し訳ない」

国王は頭を下げるが、王太子はもう成人した立派な大人、ここまで親に尻拭いさせるのはよろしくない。国王自身は悪くないのだから、私は頭を上げてください、と言う。
寛大なひとだ、と国王陛下は感心してくださった。

「恐れながら、二つ目の理由を申しとうございます」
「許す」
「私は、父の多大な迷惑をかけました。未来の王太子妃として期待してくださった方々には父も含まれております。せめてもの親孝行をしたく、しかし方法が思いつきませんでしたが…。慰謝料を公爵家に役立てることで、孝行になると思ったのです」

これは、本当に「」だ。
父に孝行をしたいなど、本当はあまり思ったことなどない。説得に、この理由を使ったために国王にも同じ案を使った、それだけのこと。
公開したら同情してもらえる、そんな理由はやはり必須だ。

「…本当に、セシリア嬢は素晴らしい。逃げ道は裏で用意しようか」
「…いえ、お気遣いなく」

思いやりは、時に毒となる。
私はもう、ここに関わりたくないのだ。連絡が取れてしまうと、王太子が何をしてくるかわからないのだし。

「そうか。勝手なことを言った。それでーー慰謝料はどれくらい?」
「そうですわね…。二つの理由から、少なくとも普通の二倍は欲しいかと」
「ああ。分かった、ならば800ルーク用意しよう」

結構大金だ…。
800ルークということは、つまり…農地が買えるどころか爵位を持つ家庭が半年間裕福に暮らせる…。
満足した私は、最後にお礼を言うことにした。

「王妃殿下。私の幼い頃からずっと、妃としての立ち居振る舞い、教養をお教えくださりありがとうございました。残念な結果ですが、ぜひ生かしてみせますので」
「まあ。気にしないで、あなたは優秀な生徒だったわ。元気でね」

国王陛下と王妃様は、いつも優しい。
どうしてあんな王太子が生まれたのだろうと、疑問に思う。
王城を出る。9年間、ここに通い続けたこことはもうおさらばだ。さようなら、やさしいひとたちーー。私は、このご恩を一生忘れません。

そして、私は旅立つーー。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

恋は盲目とはよく言ったものです。

火野村志紀
恋愛
魔法と呼ばれる力が存在する世界。 水魔法の名家であるロイジェ公爵子息クリストフには、かつて愛していた婚約者がいた。 男爵令嬢アンリ。彼女は希少な光魔法の使い手で、それ故にクリストフの婚約者となれた。 一生守るつもりだったのだ。 『彼女』が現れる、あの時までは。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。

火野村志紀
恋愛
花の女神の神官アンリエッタは嵐の神の神官であるセレスタンと結婚するが、三年経っても子宝に恵まれなかった。 そのせいで義母にいびられていたが、セレスタンへの愛を貫こうとしていた。だがセレスタンの不在中についに逃げ出す。 式典のために神殿に泊まり込んでいたセレスタンが全てを知ったのは、家に帰って来てから。 愛らしい笑顔で出迎えてくれるはずの妻がいないと落ち込むセレスタンに、彼の両親は雨の女神の神官を新たな嫁にと薦めるが……

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

処理中です...