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第二章
第4話 ひそむ影
しおりを挟む「光輝ごめん、俺……お前がアンチコメント貰ってることすら知らずにいた。彼氏失格だ」
何も知らなかった俺は、眉を下げてノーキに謝る。配信中に荒らしコメントを貰うのは、メンタル的にも気分的にも良いものじゃない。
ちゃんと気付いていれば、何か出来たかもしれないのに──
やるせなさのあまり俺が俯くと、ノーキは困ったような笑みを浮かべ、それから……俺の肩をぎゅっと優しく包んで言った。
「累は何も悪くないよ。オレの配信内の話だし、そんなに落ち込まないで」
「……でも」
綺麗なノーキの笑顔に見とれながらも、俺は悔しくて唇を噛む。
「累」
するとノーキは、急に立ち上がり──バッと俺に向けて両手を広げた。
ノーキがこの動作をした時は……これまでの多くの経験から推測するに、俺とイチャイチャしたい時の合図だ!!
もしかしたら、ノーキは甘えたい気分なのかもしれない。
両手を広げたまま、綺麗な表情で俺を欲するノーキを前に、俺は笑いながら立ち上がった。
その瞬間、『待て』が出来なくなったノーキが、堪らず俺の身体を抱き寄せる。
触れ合う互いの体温と、心臓の音が心地よい。 俺はすぐ傍で幸せそうに目元を緩める可愛い彼氏を前に、微笑まずにはいられなかった。
* * *
☆「お疲れ様です。来月? 分かりました」
男はヘッドホンを耳から外し、スマホで誰かと電話をしていた。綺麗な黒髪マッシュに、耳には無数のピアスがつけられている。
「来月のイベントはゲームの五周年を祝って、大物ゲストも来るそうだ」
電話の向こうにいる相手は、声のトーンを上げて、楽しそうに話をしてきる。
しかし黒髪の男は、一切興味がない、とでも言うように適当な相槌を打つだけだった。
☆「タバコ吸ってもいいですか?」
「おい~、まだ話終わってないだろ。聞いて驚け! 今回の大物ゲストはなんと……」
黒髪の男は、電話越しにいる相手に構うことなくタバコを取り出し、口に咥える。
「オルさんとノーキさんだ!!!!」
その瞬間。黒髪マッシュの男は、口からタバコをぽろっと落とし、目を見開いた。
☆「平塚(ひらつか)さん。……今、なんて言いましたか?」
珍しく真剣な声で言った黒髪の男に、平塚は自信満々な声でもう一度言葉を述べる。
「だ! か! ら! あの人気配信者のオルさんとノーキさんがゲスト解説で来るんだよ! 今、確認とってるところだから、まだ確実ってわけじゃないけどな」
☆「……」
その言葉が信じられないのか、黒髪の男は、黙ったままその場で固まっている。
「おいどうした? プロゲーマー」
返事がないことを不思議に思ったのか。平塚は首を傾げて疑問符を投げる。
☆「平塚さん。おれ練習に籠るんで、必要最低限の連絡しかしないでください」
「は? ちょっ……どうしたんだ急に? いつも適当なくせに、今回は珍しくやる気だな」
☆「はい。絶対に、活躍します」
黒髪の男は鋭い目でそう語ると──静かに電話を切るのだった。
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