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第一章

第17話 いらっしゃい

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 しばらく歩くと、綺麗な一軒家の前に辿り着いた。整えられた芝生の先には、三段ほどの階段が見える。思っていたより何倍もオシャレな家に、俺は思わず目を剥いた。
 トコトコと階段を登ると、灰色の扉が現れた。ノーキはポケットから鍵を取り出し、手馴れた手つきで鍵を開けてくれる。

「いらっしゃい。中においで、累」

「お……お邪魔します!」

 緊張しながら中に入る。玄関にはノーキと俺の靴しか並んでいなかった。広く綺麗な家みたいだが……ノーキの家族は一緒じゃないのだろうか。

 リビングに俺を案内するなり、ノーキは「座ってて」とソファを指さして、台所へ向かった。どうやらオムライスを作る準備をしてくれるらしい。

 その間、俺はぐるぐると部屋を見渡す。ソファやテレビ、本棚なんかが置かれている広いリビングは清潔感があり、キッチンもピカピカのようだった。

「光輝の家、めっちゃ綺麗だな!」

「そうかな。配信部屋以外使ってないからかも。両親が海外出張でなかなか帰ってこないから、ほぼオレひとりで住んでるんだ」

「そうなのか。……ってことはやっぱ、光輝は自炊できるのか!? すげえな!」

 ふかふかのソファに寄り掛かりながら、ライバルだということも忘れて、感心しながらノーキを褒める。しかしどうだろう。台所で料理の準備をしていた彼の手が突然、あからさまにピタリと止まったのが分かった。

「……?」

 何かあったのかと思い、ソファから立ち上がってノーキに近付く。すると男は、俺を見ずに言ったのだった。


「ううん。オレ、オムライスしか作れないよ」


「え? そうなのか?」

「うん。……普段はあんまり料理しないけど、たまたまオムライスだけ作れタンダ」

 少しカタコトになりながら話すノーキに俺は「おや?」と首を傾げる。確かにキッチンがやたら綺麗だし、ノーキが料理上手だという噂も聞いたことがない。
 でもオムライスだけ作れるなんて──

 まてよ、これってまさか……!

 俺はピコン! と閃いたように目を丸くすると、早まる気持ちをぎゅっと抑えて、とっとことノーキの側まで駆け寄った。そして、心做しか気まずそうに目を逸らしているノーキの耳元で、コソッと言ってやったのだ。


「なあ光輝。もしかしてお前、本当は料理しないタイプだな!?」
 

 どうやら俺の言葉が図星だったようでノーキは明らかに瞬きを多くした。
 しかし──

「……するよ、たまに」

 あくまで料理ができると主張したいのだろう。そっぽを向いて話すノーキに、俺はさらに追い打ちをかける。

「あ……! もしかして普段料理しないけど、俺にオムライスを食べさせるためにわざわざ練習したのか!? 普段料理しないのに!?」

 するとノーキは明らかに困った表情をしながら、絞り出したような小さな声で言った。


「……うん。恥ずかしいからもう言わないで」


 ぎゅんっ、と。
 何故か猛烈に心臓が痛くなった。クールだとばかり思っていた、ノーキのレアな照れ顔に、不覚にもダメージを食らってしまう。

 どうやら、ノーキは普段料理を全くしないのにオムライスができると言ったようだ。俺のために練習してくれてたと思うと、目の前で頬を赤らめながら恥ずかしそうにしているノーキが可愛く見えて仕方がなく思った。


「累に会ってみたかったから、ちょっとだけ嘘ついた。でもオムライスは上手になったよ。……累、怒った? 嘘ついてごめんね?」


 自分より背の高い彼が、俺と目線を合わせるようしゃがみながら、顔色を伺うように言ってきたので──俺は思わず頬を染める。

 なんだよコイツ……めちゃくちゃ可愛い。
 俺は口元を緩ませて言った。

「怒ってないよ。むしろめっちゃ嬉しい! だって俺のために練習してくれたんだろ? そうやって努力できるとこ、ずげえと思う」

 俺はノーキが屈んでいるのをいいことに、彼の頭をわしゃわしゃと撫でて言葉を続けた。


「美味しいオムライス、作ってくれよ」


 俺がそう言うと、ノーキはパッと表情を明るくさせ──返事をする代わりに、にっこりと笑って頷いた。


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