17 / 35
第一章
第17話 いらっしゃい
しおりを挟むしばらく歩くと、綺麗な一軒家の前に辿り着いた。整えられた芝生の先には、三段ほどの階段が見える。思っていたより何倍もオシャレな家に、俺は思わず目を剥いた。
トコトコと階段を登ると、灰色の扉が現れた。ノーキはポケットから鍵を取り出し、手馴れた手つきで鍵を開けてくれる。
「いらっしゃい。中においで、累」
「お……お邪魔します!」
緊張しながら中に入る。玄関にはノーキと俺の靴しか並んでいなかった。広く綺麗な家みたいだが……ノーキの家族は一緒じゃないのだろうか。
リビングに俺を案内するなり、ノーキは「座ってて」とソファを指さして、台所へ向かった。どうやらオムライスを作る準備をしてくれるらしい。
その間、俺はぐるぐると部屋を見渡す。ソファやテレビ、本棚なんかが置かれている広いリビングは清潔感があり、キッチンもピカピカのようだった。
「光輝の家、めっちゃ綺麗だな!」
「そうかな。配信部屋以外使ってないからかも。両親が海外出張でなかなか帰ってこないから、ほぼオレひとりで住んでるんだ」
「そうなのか。……ってことはやっぱ、光輝は自炊できるのか!? すげえな!」
ふかふかのソファに寄り掛かりながら、ライバルだということも忘れて、感心しながらノーキを褒める。しかしどうだろう。台所で料理の準備をしていた彼の手が突然、あからさまにピタリと止まったのが分かった。
「……?」
何かあったのかと思い、ソファから立ち上がってノーキに近付く。すると男は、俺を見ずに言ったのだった。
「ううん。オレ、オムライスしか作れないよ」
「え? そうなのか?」
「うん。……普段はあんまり料理しないけど、たまたまオムライスだけ作れタンダ」
少しカタコトになりながら話すノーキに俺は「おや?」と首を傾げる。確かにキッチンがやたら綺麗だし、ノーキが料理上手だという噂も聞いたことがない。
でもオムライスだけ作れるなんて──
まてよ、これってまさか……!
俺はピコン! と閃いたように目を丸くすると、早まる気持ちをぎゅっと抑えて、とっとことノーキの側まで駆け寄った。そして、心做しか気まずそうに目を逸らしているノーキの耳元で、コソッと言ってやったのだ。
「なあ光輝。もしかしてお前、本当は料理しないタイプだな!?」
どうやら俺の言葉が図星だったようでノーキは明らかに瞬きを多くした。
しかし──
「……するよ、たまに」
あくまで料理ができると主張したいのだろう。そっぽを向いて話すノーキに、俺はさらに追い打ちをかける。
「あ……! もしかして普段料理しないけど、俺にオムライスを食べさせるためにわざわざ練習したのか!? 普段料理しないのに!?」
するとノーキは明らかに困った表情をしながら、絞り出したような小さな声で言った。
「……うん。恥ずかしいからもう言わないで」
ぎゅんっ、と。
何故か猛烈に心臓が痛くなった。クールだとばかり思っていた、ノーキのレアな照れ顔に、不覚にもダメージを食らってしまう。
どうやら、ノーキは普段料理を全くしないのにオムライスができると言ったようだ。俺のために練習してくれてたと思うと、目の前で頬を赤らめながら恥ずかしそうにしているノーキが可愛く見えて仕方がなく思った。
「累に会ってみたかったから、ちょっとだけ嘘ついた。でもオムライスは上手になったよ。……累、怒った? 嘘ついてごめんね?」
自分より背の高い彼が、俺と目線を合わせるようしゃがみながら、顔色を伺うように言ってきたので──俺は思わず頬を染める。
なんだよコイツ……めちゃくちゃ可愛い。
俺は口元を緩ませて言った。
「怒ってないよ。むしろめっちゃ嬉しい! だって俺のために練習してくれたんだろ? そうやって努力できるとこ、ずげえと思う」
俺はノーキが屈んでいるのをいいことに、彼の頭をわしゃわしゃと撫でて言葉を続けた。
「美味しいオムライス、作ってくれよ」
俺がそう言うと、ノーキはパッと表情を明るくさせ──返事をする代わりに、にっこりと笑って頷いた。
121
お気に入りに追加
262
あなたにおすすめの小説
美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!
元森
BL
「嘘…俺、平凡受け…?!」
ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?!
隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
悪役令息は断罪を利用されました。
いお
BL
レオン・ディーウィンド 受
18歳 身長174cm
(悪役令息、灰色の髪に黒色の目の平凡貴族、アダム・ウェアリダとは幼い頃から婚約者として共に居た
アダム・ウェアリダ 攻
19歳 身長182cm
(国の第2王子、腰まで長い白髪に赤目の美形、王座には興味が無く、彼の興味を引くのはただ1人しか居ない。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
地味で冴えない俺の最高なポディション。
どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。
オマケに丸い伊達メガネ。
高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。
そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。
あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。
俺のポディションは片隅に限るな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる