短編妄想

水上 まこと

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スクランブル交差点

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雨の酷い日に私は奇妙な体験をした。
雨で濡れるスクランブル交差点に傘もささずに立ち尽くす人が一人。
傘をさしていなければ、ものの数分でシャツを絞れる用になるこんな雨の日に傘もささずいる人…
だが、その人の服は濡れておらず気になった私はその人を眺めていると、信号待ちをしている私の方を向かいの横断歩道からじっと見つめ返してきた。
その目は私の中を捉えていた。
他にも人がいるにも関わらず完全に目が合ってしまった私はスッと目を逸らし足元を見る。
足元のアスファルトは早朝から降り続いているこの雨のせいで濡れており、道路のわきには所々水たまりができていた。行き交う車はワイパーを忙しく揺らし水しぶきをあげ走っている。
数秒の間、足元を見ていると視界の隅で横の人達が歩き始めるの確認する。
信号が赤から青に変わり各々が歩き始めると、向かい側から私の方へ向かって、先程私のことを見ていた人が近づいて来た。
こちらに向かって来ていることに気づいた私は目を合わせないように足元を見ながら可能な限りの速足で歩く。
10メートル、5メートル、3メートル、どんどんと近づいて来るのがわかる。
それに伴って私の心臓は鼓動が早くなっていくのがわかった。
何かされるのでは無いか、もし危害を加えられたらどうしよう。そんな事を頭の中で考え
何も起こるなと心の中で念じながら歩いているとその時が来た。
すれ違う瞬間・・・・
「頑張れ、どうにかなるから」とその人は声を発した。
突然のことに聞き間違いかと思い私は一瞬立ち止まると、後ろから来たスーツの男性とぶつかった。
スーツの男性は「チッ、突然止まるな」という短い舌打ちと怒りを発し、立ち止まった私の事を避け歩いて行く。舌打ちを聞いた私もそれに続き再び歩き出した。
傘にあたる雨音の中でもはっきりと聞こえた「頑張れ、どうにかなるから」という言葉。
誰に向けて言った言葉なのか、ほんとにそう言ったのか。単なる私の聞き間違いである可能性の方が圧倒的に高いだろう。だが、私にはしっかりとそう聞こえた…
突然すれ違った人に声をかけられた普段ならおかしいと思い不安になるようなことだが、私は違った。そしてこの言葉が頭の中で大きくなる。私自身気づいていなかった不安や諦めを見透かしたかのようなその言葉。私は横断歩道を渡り切ると再び後ろを振り返った。
だが、先程すれ違った人の姿はもう見えなくなりスクランブル交差点は雨の中傘をさす人で溢れていた。
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