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天邪鬼
結婚前の騒動
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――――翌年の春
冬は大学院卒業に向けて実習、論文に病院での仕事と忙しく、珍しく休みがあれば、隣の州へ出かけたり、寝不足を補うために一日中寝て過ごした。もともと電話もメールも余りしない冬との連絡が益々取り難くなった。
今泉はきっと忙しいんでしょうと取り合わなかったが、小鳥遊は喧嘩別れをしたままだったので、気が気では無かった。
―――初夏
約束だった卒業・帰国も予定だった3月をとっくに過ぎていた。晩秋には結婚式を控えているのにも関わらず、冬は色々と理由をつけては帰って来なかった。夏には小鳥遊と今泉が揃って渡米することになっていたが、
「来るときに電話して。」
と言うだけだった。
「トウコさん。大丈夫でしょうか?」
今泉も流石に心配になってきたようだった。夏休みになり、今泉と小鳥遊は揃って2週間休みを貰った。
到着する日と便名を留守電に残すと、暫くしてからメールが来た。エアポートに迎えにいけないので、玄関の植え込みの傍にある鉢植えの下に鍵を入れておくので部屋に入って待ってて…という用件だけを伝えるそっけないメールだった。
二人は空港に着き、冬のアパートまでタクシーを飛ばした。
言われた通り、冬の家に入ると、
“お腹が空いたら食べて下さい”
…というメモと一緒におにぎりがキッチンの上にあった。
「わ~♪やっぱりトウコさん覚えてくれてたんだ♪」
と今泉は嬉しそうに言ったが、小鳥遊は不機嫌だった。
…もしや…浮気?
自分がしたことがあれば、相手もしている…と思うのが人の常。小鳥遊は考えたくは無かったが、疑いを払拭できずにいた。
トイレに行った帰り、何気なく見た洗面台の上に、男性用の髭剃りやデオドラントが置いてあるのに気がついた。
それを見た途端、嫉妬と怒りがふつふつと湧いて来た。浴室には、男性用のシャンプーがあった。そこに今泉がやってきた。
「あ…これは。」
今泉も言葉を失った。
…結婚も控えているのに。
「トウコさんが帰って来るまで待ちましょう。」
小鳥遊よりも今泉の方が冷静だった。
「静さん…これでよく冷静でいられますね。僕は無理です。」
「でも…ガクさん…あなたと設楽さんの時よりまだ決定的では無い気がするんですが…。」
今泉の言葉はチクチクと小鳥遊の心に刺さった。そう言われてしまえば小鳥遊は何も反論出来ないわけで、それを今、このタイミングでさらっと言ってのけた今泉に苛立った。
「あの時は“アクシデント”です。今とは状況が違います。」
自分で言って居てもおかしかった。
「アクシデント…ねぇ。」
今泉は言葉を濁しリビングへと戻った。
…ものは言いようですね。
今泉が思っていることがありありと見えた。小鳥遊は静かに2階へあがり、そのまま部屋に籠ってしまった。今泉はやれやれと大きなため息をついて、冬が作ったおにぎりを食べた。小鳥遊と今泉はそれぞれの部屋で過ごしているうちにふたりともいつの間に寝ていた。
―――バタン。
玄関のドアが開く音がして、小鳥遊は目を覚ました。誰かが話す声が聞こえた。
「彼氏が来るんだから、帰ってよね。」
「えー。良いじゃん。もうちょっと居させてよ。」
…日本人?
「駄目駄目…しなきゃいけないことが一杯あるんだから。」
「何だよ…色んなコトって…相変わらずだな。」
日本語を話す男は意味深に言って笑った。
「絶対そう言うと思った。でも…結婚前に会えてホント良かったわ。」
小鳥遊は親密そうな二人の会話を聞いていた。
設楽との"アクシデント"が見つかった時に、冬はとても冷静だった。同じ境遇に自分が立たされている今、それがどんなに苦しくて怒りを抑えることが難しいかを思い知らされた。
「トーコが結婚ねぇ。それはそれでちょっと寂しい気がするなぁ。他の男のモノになるなんて…。」
男は、寂しそうに言うと冬は笑った。
「何言ってるの。またいつでも会えるわよ!」
「そうだといいね。」
男性はそう言うと,チュッとキスをする音が聞こえた。小鳥遊は嫉妬で自分が焼け焦げてしまう気がした。
ふたりの会話をこれ以上はもう何も聞きたく無かった。小鳥遊はドアを開けてゆっくりと2階から降りて来た。
「このドレス…高いのに…本当に貰っちゃって良いの?」
冬は嬉しそうに言った。
「ああ…良いよ。今日付き合ってくれたお礼。」
冬は真っ黒なハイ&ローのイブニングドレス姿だった。冬はガーリーなドレスが好きだった。このドレスは冬の趣味とは少し違ったフェミニンな印象を受けた。
…男の趣味だろうか。ドレスのサイズを知る程の親密な関係。
考えてはいけないと思いつつも小鳥遊の妄想は膨らんだ。
「キャー♪ありがとうぅ!大好き♪」
そういって男性に抱きつき、跳ね上げた冬の足はキラキラと光るストッキングに包まれ、艶めかしかった。
高校生がプラムに着ていくような安いドレスとは質感が違うことが、遠目からみても判った。小鳥遊の胸はチクチクを通り過ぎて、ズキズキと痛み始めていた。
背の高い男性はタキシードを着ていた。冬は向かい合って男性の蝶ネクタイを外していた。男性は“甘いマスク”…どちらかと言えば、野性的で男らしい小鳥遊とは対照的な中性的な顔立ちだった。
「ねぇちょっと…今日は食べ過ぎちゃってドレスきついから、背中のファスナーおろしてくれる?」
そう言うと、冬は男性に背中を向けた。
「全く…トーコはしょうがないね。」
そう笑いながら言われるがままにファスナーをおろした。階段に立ち尽くす小鳥遊に男性が気が付いた。
「あ…ちょっと…トーコ。」
と声を出した。
「え?どーしたの?」
冬が男性の顔を見上げたのと、小鳥遊が声を掛けたのがほぼ同時だった。
「トーコさん。これはどういうことですか?説明して下さい。」
冬はその厳しい口調に飛び上がった。
「わわっ もうついてたんですね。」
そう言うと小鳥遊の方に向き直った。男性は慣れた手つきで冬のドレスの裾を直した。
「ちょっと待ってて着替えて来るから。」
そう言って階段に立ったままの小鳥遊の横を通り過ぎて、冬は慌てて自分の部屋へと入って行った。その時、玄関のドアが再び開いて、シモーネが入って来た。
「おーい!ワイン持ってきた…ぞー…あっ。」
小鳥遊と男性を代わる代わる見て、状況を察知したのか、シモーネは意地悪く笑った。
「よぉ…色男。久しぶり。」
その騒ぎを聞きつけて今泉も起きていた。深夜を回り、シモーネも酔っぱらっているのが判った。
「やぁ…初めまして。」
トーキと呼ばれた男も少し酔ってはいたが、シモーネ程では無く、小鳥遊に人懐っこそうな微笑みを浮かべた。
「おい…お取込み中みたいだから、僕の部屋で飲み直そうぜ。」
この状況を明らかに楽しんでいるシモーネはトーキの肩をガシッと強く抱いた。お…おいちょっと…というトーキを引き摺る様に連れ出すと、玄関から押し出した。
「あれだけトーコを一人にするなって僕は忠告しただろう?」
シモーネの声は悪意に満ちていた。
「トーコはモテるんだよ。僕だけじゃ無く、彼氏が居てもトーコを誘う奴なんて大勢いるんだ。これで判ったろ?」
…おい。何やってんだよ。シモーネ。
トーキの声が近所に響いた。
「じゃぁまたな…色男。」
そう言ってドアを閉めた。
冬がTシャツと短パンに着替えて戻って来た。
「あ…あれ?二人は?」
冬は長い髪を手櫛で整えながら言った。
「シモーネの家へ行きました。」
小鳥遊は冬に向き直った。
「あの人はどなたですか?」
その言葉には抑揚が無く、冷たい響きに聞こえた。
「ガクさん…どうしたの?そんな怖い顔して。」
冬は小鳥遊の顔に触れようとしたが、その手を小鳥遊は除けて、しっかりと掴んだ。
「い…痛いわ。」
「誰ですか?」
小鳥遊はもう一度聞いた。
「…私の兄よ。」
「そんなこと…あの状況で誰が信じると言うんですか?」
冬をひとりにするからだ…シモーネの言葉がチクチクと胸に刺さった。
「だって…本当ですもの。」
冬が大きなため息をついた。
「今日は兄の会社のレセプションだったの。彼女と別れたばっかりで、一緒に行く相手が居ないからって誘われたのよ。」
小鳥遊は硬い表情で冬をじっと見ていた。
冬はハッとした。
「シモーネね?…またガクさんに変なこと言ったんでしょう?それで…そうでしょう?」
小鳥遊は何も言わなかった。
「私を信用してない顔ね?判ったわ…ちょっとついて来て。」
冬が階段を降りて行ったが、小鳥遊はその場に立ち尽くしていた。
イライラしながら小鳥遊の手を掴み引っ張った。二人は靴も履かず、裸足で歩いて10秒のシモーネの家へ行った。
シモーネの家の玄関まで来ると、冬は激しくドアを叩いた。
「ちょっと!開けなさいよ。」
冬はドアベルを連打しながら大声で言った。深夜の住宅街に冬の声が響き、近所の犬がそれに反応してワンワンと吠えた。
…ほら…やっぱり…きたぜ。
シモーネの笑い声が聞こえた。
「Hi.トーコ。久しぶりだね。いらっしゃい。何か用?」
シモーネはおちゃらけて笑っていた。
「…そこどいて。」
そう言うと、シモーネを玄関口から押しやった。
「秋?さっき紹介する時間がなかったけど、私の婚約者のガクさん。」
秋はゆっくりとソファから立ち上がり、
「初めまして…母から話は良く聞いています。兄の秋です。こっちではトーキって言われてますけど。」
笑って手を差し出した。
「すみません…僕はどうやら勘違いをしてしまっていたようで…小鳥遊 学です。」
それを聞いてシモーネがクスクスと笑った。
玄関のドアに寄り掛かるシモーネに冬がつかつかと近づいて言った。
「You're such a jerk!なんでいっつも人が嫌なことばかりするの? 」
「だってトーコは僕の事、構ってくれないんだもの。」
シモーネは悪びれずに言った。
「Che palle!」
ふたりきりだと、蕩けそうな甘いことばかり言うシモーネは小鳥遊のことになると、途端に意地悪で、嫌味っぽくなった。
「無視されたり、構ってくれないより、罵られた方がまだましだよ。」
…それじゃあ構って欲しくて駄々を捏ねている子供と一緒じゃない
冬は大きなため息をついた。すぐにばれる様な些細な嘘を楽しんでいるシモーネに苛立ちを感じた。
「そうね…あなたの御蔭で、私、イタリア語のスラング・マスターになれそうだわ。」
秋と話をしていた小鳥遊の手を引っ張った。
…もう帰りましょう…ガクさん。
「なんのお構いも出来ず…。」
シモーネは小鳥遊に向かって言い、ドアを開けて二人が出て行くのを待った。
…おい。シモーネ。トーコをからかうのは、それぐらいにしとけよ。
秋がリビングから言った。
「You’re such a bastard!!」
冬はシモーネを睨んだ。
…さっきまでの楽しい気分が台無しじゃない。
小鳥遊はシモーネを一瞥し,部屋を出た。
冬と小鳥遊が部屋に戻ると、今泉が待っていた。
「大丈夫ですか?」
冬に声を掛けた。
「…シャワー浴びて寝るわ。おやすみなさい。」
そう言うと冬は振り返りもせずに、自分の寝室へ行った。
「トーコさんのお兄さんでした。」
意気消沈する小鳥遊は言った。
「そうでしたか…安心しました。」
今泉はそういうと、僕も寝ますと言って立ち上がった。
「ガクさん…トウコさんに…。」
「はい…分かっています。」
冬の部屋のドアをノックしても返事が無かった。
「入りますよ…。」
小鳥遊が静かにドアを開けるとシャワーの音が聞こえた。そこは懐かしい冬の甘い香りがした。
コルクボードには、アメリカの看護師仲間と一緒に青いスクラブを着た冬の写真と、小鳥遊が冬にあげた手作りの指輪がピンでとめてあった。
風呂場の扉をノックし、脱衣所兼洗面所に入った。すりガラスの向こう側で冬がシャワーを浴びていた。そのシルエットは相変わらず、グラマラスで小鳥遊の下腹部をくすぐった。
「トーコさん…疑ったりして済みませんでした。」
シャワーの蛇口をキュッと閉める音がしたので小鳥遊は、タオルをガラス戸の上の隙間から手渡した。
「はい…疑われてちょっと嫌でした…でももし私があの状況に遭遇したら、同じように疑っていたかも。だからもう良いです。」
髪や体を拭き、バスタオルを巻いて冬は出てきた。頬はピンク色で、濡れた髪は頭頂部で結ばれ、団子になっていた。
「はいRepeat after me.シモーネの言うことは信じない。」
冬は,まるで教師が生徒に諭し、言い聞かせるように言った。
シモーネは小鳥遊の前では嫌味な男だったが、普段は優しく陽気な人柄である事は、冬の話からわかっていた。冬はあくまでも1人の友人,幼馴染として接しているのに対し,シモーネの冬に対するしつこ過ぎる情熱が心配だった。
「はい…肝に銘じておきます。」
小鳥遊が神妙な面持ちで答えたので、冬が笑った。
「ガクさん…来てくれてありがとう。」
冬は抱きついた。
「最近は余り連絡が来ないので心配していました。」
「学校や病院でのアルバイトで忙しかったの。」
冬はバスタオルを巻いたまま歯を磨いた。
「あなた学生ビザじゃ無かったんですか?」
「そうだったんですけど、この間日本に帰った時に書き換えたの。同僚たちも病院に掛け合ってくれて。」
「呆れた…あなたって人は…。」
「だって…アメリカにいるうちにやりたいことを全部したかったの。」
冬は無邪気に笑った。
「自分を追い込むようなことばかりして…体を壊したりしたらどうするんですか?」
元気だけが取り柄だから大丈夫。小鳥遊に触れた冬の手はポカポカと温かかった。
「そうだ。明後日の卒業式には静さんと一緒に来てくれる?」
「そのつもりです。」
冬の体を抱き上げてベットへと連れて行った。
「良かった♪」
小鳥遊は冬の優しい香りに包まれて、クラクラした。冬は小鳥遊のシャツを脱がした。
「あなたが恋しくて…仕方がありませんでした。」
小鳥遊は愛おしそうに冬の顔に触れた。その言葉を聞いて冬は微笑んだ。ふたりはどちらからともなく顔を近づけた。
…チュッ…チュッ…
何度も軽いキスを重ねた。
「あ…そうでした。ちょっと待ってて下さい。」
冬の首元にキスをすると、小鳥遊は部屋から出て行ったと思うとすぐに戻ってきた。手にはコンドームの箱がしっかりと握られていた。
「日本からわざわざ持って来たんですか?」
小鳥遊の用意周到さに驚いた。
「ええ…日本製のものは薄くて質が良いですから。」
付き合い始めて4年目になるが、衰えることの無い小鳥遊の性欲に呆れた。
「あ…でも病院行く前は2-3日しないで下さいですって。」
「トーコさんが傍にいるのに出来ないなんて…地獄だ。」
冬の柔らかい胸に顔を埋めた。
…またそんな大袈裟な。
「1日に3回位はしとかないと体が鈍ってしまいますから。」
優しく小鳥遊の硬い髪を撫でていた冬の手が止まった。
…積極的に鈍らせる方向でお願いします。
「だって私が居ない時には平気だったでしょ?」
「トーコさんの写真もビデオもあるから大丈夫だったんです。夜のオカズどころか…主食でしたね。」
…あれ?写真はこの間消した筈なのに…。
「へ…何?ビデオって?」
去年の夏、酔って愛しあった時ものを小鳥遊がスマホで撮影したものだった。
「トーコさん自分から言ったんですよ?〝これでトーコを思い出して慰めてね″って。」
動画には、あられもない恰好で喘ぎながら蠢く自分の姿があった。
「わわわ…ちょっと。何よこれ。」
「凄いでしょう?可愛いくて、積極的で♪トーコさんも僕の動画が欲しかったら遠慮なく言って下さい。」
冬は小鳥遊のスマホを取り上げようとしたが、大きな体に阻まれた。
「速やかに消して下さい!」
「嫌です。」
「消して!」
「嫌です。だって…病院行った時に必要でしょう?それに僕…洋物じゃ駄目だから。ねっ♪」
小鳥遊は冬に甘えるようにすり寄った。
…良く言うわ。ホントは雑食の癖に。
「そんな可愛く言っても駄目です。あなたのPocket Monsterはどんな状況下でも進化出来るでしょ?だから、消して下さい。」
「これは僕の宝物ですから駄目です。あ…じゃあ♪交換条件。」
小鳥遊が嬉しそうに言ったのを見て冬は警戒した。
「なんですか。」
「僕と新しいビデオを撮ってくれたら消します。」
…全然交換条件じゃないやん。
「もういい…。」
冬が背を向けた。
「わかりました…消します。でも病院行った後でも良いですよね?」
小鳥遊は、冬の背骨に沿って、熱い唇を這わせた。
「あっ…約束…ですからね。」
冬の全身にぞわぞわとした快感が走った。
「ええ。」
小鳥遊は冬にゆっくりと上を向かせた。既にツンと上を向いている乳房をおもむろに掴み左右交互に口に含んだ。
…チュク…チュク。
「僕達の体の相性はとても良い気がします。」
指先で乳首を軽く摘まみゆっくりと指先で転がした。
「…はい…私も そう思います。」
小鳥遊の唇はキスをしながら、下腹部へと迷うことなく向かった。
二つの肉丘の間を通り、隠れた突起を見つけ出し、優しく口に含んだ。
その優しい甘美な刺激に、冬の体はすぐに反応し始め、その様子を小鳥遊は微笑みながら見つめた。
…ちょっと…恥ずか…しい。
冬は耳も顔も真っ赤になり、その顔を小さな手で隠した。
「恥ずかしがっているあなたをもっとみたい…」
小鳥遊は舌先で小さな突起をチロチロと細かい動きで弄った。
冬の太ももの腱が浮き上がり、ピクピクと腰が動いた。
…ああ…だめ…。
花弁の中のピンク色の入り口からは、透明な蜜が流れ始めていた。
「トーコさん。もう…溢れています。」
小鳥遊は口を押し当て蜜を吸うように舐めとった。
…チュル…チュル…。
冬の体から発せられる芳しい香りと愛液のまろやかな香りは混じり合って、小鳥遊を益々興奮させた。
「ガクさんが…虐めるから。」
小鳥遊が入るべき入り口は、冬が声を出すたびに、キュッとしまった。
…ヌプッ
小鳥遊は人差指と中指、2本の指を沈めていき、深く浅く上壁に擦りつけるように動かしながら、親指の腹で冬の敏感な突起を愛撫した。
「ああ…。」
小鳥遊の指から逃げるように冬の腰は浮き上がった。
「動いちゃいけません。」
「だって…勝手に…動いちゃう。ああ…」
冬は堪らなくなり上半身を起こした。
「駄目…キス…キスして…うぅ…。」
冬にキスをしながら、コンドームを素早く装着した。
花弁の奥へと脈打ちながら出番を待っていたそれで冬の中を埋めていく。久しぶりの心地よい抵抗感に小鳥遊も思わず声を漏らした。それは冬が喘ぐたびに、抵抗感が強まり、膣の蠕動運動に変わっていった。
「トーコさん…そんなに締め付けたら…。」
深く突くと先端にコリコリとしたものが触れた。
「深い…の…いい。」
冬は片腕を小鳥遊の首に回し、左手で自分の身体を支え,それを助けて小鳥遊は冬の白く柔らかい尻と腰を大きな手で支えた。小鳥遊が腰を突き出す度に冬は甘く啼いた。
「奥に…当たってます。」
…ネチャ…ネチャ
動かす度に卑猥な音は大きくなった。小鳥遊は深く挿したままグランドさせた。
「あぁ…そこ…だめ…ぁ。」
小鳥遊の首に回った冬の腕に力が入った。そして快感が押し寄せると力なく緩み、支える小鳥遊の腕に身を任せ、冬は白い喉を見せて喘いだ。
…うう…ぁ。
「…駄目…と言われたら、余計に…したく…なる。」
腰をしっかりと抱え、先ほどよりも大きく深く突き刺した。
「あぁ…だ…め…いっちゃ…う。」
冬は小鳥遊が刺さっている場所が、固くなりヒクヒクと不随意に蠢くのを感じた。
「トーコ…感じてるの?」
小鳥遊はその締め付けの間隔が徐々に短く強くなっていることを感じた。
「うん…とって…も。」
冬は下腹部から溢れて来る快感に今にも足を攫われそうだった。
「僕を…いっぱい…感じて。」
…くっ…あっ…ん…んん。
冬のクーイングが、小鳥遊の頭と股間を一層熱く痺れさせた。
冬をしっかりと支え、冬が感じるその場所に集中的に突き上げ始めると、ベットの軋む音が大きくなった。
「ガク…だめ…もう…待てない…。ああ」
…い…く…ぅ。
あと数回で果てそうな時に、不意打ちで冬からの強く長い締め付けを受けた。
「そんなに…締め付け…あぁ…僕も…」
一瞬で急激に出口を求め暴れ出した欲望と、沸騰した衝動を抑えきれなくなり、冬の一番深いところへ、一滴残らず吐き出した。冬も小鳥遊も汗だくのまま暫く抱き合った。
「今まで…で…一番…気持ちが良かった…かも。」
まだ息の整わない小鳥遊は言った。
「う…ん。」
冬は恍惚の毛布に包まれたまま、小鳥遊の胸の中で眠りについた。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:
――卒業式
卒業証書にはDr.Tôko Gettusyô と書かれてた。
「はぁ~長かったぁ。」
冬が言うと、
本当です…と小鳥遊と今泉が笑った。
「さぁーこれからが忙しくなるわね。」
冬は小鳥遊と今泉に向かって言った。
その夜は冬の家で友人達と卒業祝いをした。
バイト、ボランティア先の病院の同僚達、大学の友人、そして誰が伝えたのか判らないが、雑貨屋のトム夫婦も来ていた。
「あなた達は命の恩人だ!」
そう言うと、シモーネ並みの長く強いハグを小鳥遊と冬にした。
「男性から長いハグをして貰うというのも…なんだか変な感じですね。」
小鳥遊は笑った。
冬はひとりひとり丁寧に話をして、お礼を言って回った。
まるでオープンハウスのように、次から次に人がやってきた。
シモーネも誘い、秋と一緒に冬の同僚と楽しそうに話をしていた。
恰幅の良い中年の男性が玄関から入って来るのが見えた。
「Dr.Smith!」
冬はドクター・スミスの元へ行き何か話をしていた。
「ガクさん静さんちょっと…。」
二人を呼んだ。
「ドクター・スミス。こちらがドクター・小鳥遊とドクター今泉です。」
二人は初めましてと握手をした。
「トーコから二人のお話は聞いています。」
ニコニコと優しい笑顔を浮かべた。
「ドクター・スミスは、私が働いている脳外病棟の部長さんなの。今回ドクターのお友達のクリニックを紹介していただいたの。」
「トーコはとても優秀で驚いたよ。CTやMRIを読める看護師はうちの病棟には居なくてね。それに、身の回りの世話は准看護師がするんだけど、積極的に患者のケアも、プランも立てて…日本じゃそれが普通なのかい?」
「そうですね…画像を勉強しているナースは多い気がしますね。日本では正看護師もプランを立てるだけでなく、患者のお世話をしますから。」
小鳥遊は微笑んだ。
「トーコには大学院を卒業したら、ぜひうちの病棟で働いて欲しいと言っていたのに、僕は振られてしまい、残念です。」
ドクター・スミスは笑うと目じりに深い皺が出来た。
同科の医者同士,ドクタースミスと小鳥遊は長い時間話し込んでいた。
「あれ?トウコさんいつの間にビザの切り替えしてたの?」
今泉が驚いて冬に聞いた。
「日本に帰った時よ。」
「相変わらずトウコさんさんは凄いよ。」
今泉は笑った。
部屋のそこここで人の話声や笑い声が聞こえた。
冬と今泉の間に沈黙が続いた。
「ねぇポーチに出ない?」
冬が誘った。外は涼しい風が吹き気持ちが良かった。意を決したように冬が口を開いた。
「本当にガクさんと私…結婚して良いのね?もしあなたが嫌なら…籍は入れない。」
今泉は冬の頬に優しく触れた。
「僕は…あなたの傍に居られれば良いから。トーコさんは、僕の事を心配していたの?」
「ええ…。2人とも大切な人だから。」
冬がポーチの階段に腰掛けると、その隣に今泉も座った。
「僕は、トウコさんとガクさんの結婚がとっても嬉しいんだ。もしかしてマリッジブルーになってる?」
「そうなのかな?今になって色々心配になってきちゃったの。」
「やっぱり…そうだ。」
今泉は薄々気が付いていた。
以前は遥か彼方に見えていた筈の“結婚”が、実は思っていた以上に傍にあったことに冬は戸惑っているように見えた。
「怖くなって逃げ出したいと思う前に僕に相談して。」
冬の手を優しく握った。
「一体どこへ逃げろっていうの?私にはもうあなた達の元にしか帰れる場所は無いのに。」
冬は自分の膝の上に肘をついていった。
「トウコさんには、僕もガクさんも居る。辛い時にはどちらを頼れば良い。僕たちがトウコさんを守るから…だから何も心配することは無いよ。」
今泉は冬の肩を優しく抱いた。
「ガクさんと静さんは私にとっては陽と陰。どちらかだけでも駄目なの。我儘なのは良く分かってる。でも…どうすることも出来ないの。」
…わかってるから大丈夫だよ。トウコさん。
「さぁ…もう中に入ろう。皆が心配するよ。」
立ち上がろうとする今泉を引き留めた。
…ねぇ…キスして。
冬の顎を白く細い指でくいっと上げその柔らかで温かい唇を指で確かめるかのように優しく触れた。
「心配しないで…トウコさん。」
今泉は、ゆっくりと冬に顔を近づけた。ポーチに出来た二人の影が、長い間重なっていた。
「…セデーション・キス。」
冬は今泉と額を付けたまま、大きなため息をついて微笑んだ。
「僕のキスは鎮静させるだけですか?それもなんか寂しい気がするなぁ。」
冬の顔は熱気を帯びてとても温かかった。
「じゃあ ベンゾ・キス。不安を取り除くけど、常習性が出ちゃうから。」
冬が今泉の頬に優しく触れながら笑った。
「その響き…可愛く無いな。僕だってガクさんのような、ノルアド・キスも出来ますよ。」
冬は声を出して笑った。
…ほんとうに…ガクさんのキスはそんな感じ。
「知ってます…だけど今は、あなたにしか出来ない甘くて優しいキスが欲しいの…。」
「僕のキスで、不安が減るのなら…喜んで♪」
再び長い口づけを交わした。
その様子を舐めるように窓越しに見ていた者が いたのも知らず,ふたりは額を寄せ合ってクスクスと笑いあっていた。
隣の部屋からは、ポーチが良く見えた。掃き出しの傍に置かれたソファにシモーネが座っていた。
「おい…トーキ。見て見ろよ!面白いものが見えるぞ。」
シモーネは、隣に座る秋を肘で激しく小突いた。
「おっと…急に小突くなよ。零すとこだったじゃないか。」
秋が既に何本目かもわからないビールを開けたところだった。
「トーコと…ポーセリンみたいに色が白いチビ…シズだっけ?」
秋はチラリとポーチの静と冬をみた。二人は長いキスをしている途中だった。
「ガクはこれをみたら心穏やかじゃ無いだろうね。」
シモーネは意地悪く笑った。冬は静にしな垂れかかり、静かに話をしているようだった。
「あぁ…色々あるんだよ。あんまり詮索するなよな。冬がまた激高するぞ。」
秋は春から3人の奇妙な関係のことを聞いていたが、家族内の秘密になっていた。
「お前知ってたのかよ?」
シモーネは二人から目を離さず、秋に聞いた。
「うん。だから色々あるんだって。シモーネ…いい加減トーコ…諦めろよ。」
ポーチの階段からゆっくりと二人は立ち上がった。
「お前ならすぐ可愛い子が見つかるだろ?」
今泉と冬は、お互いに見つめ合い微笑んでいた。
「俺が言うのも何だが、確かに顔はちょっと可愛いけどさ。あんな自由奔放な、じゃじゃ馬のどこが良いんだ?兄キの俺でもさっぱり解んね~や。」
秋は笑ってビールをゴクゴクと飲んだ。
「俺は、顔はどーでも良いから、優しくて大人しい子が良いなぁ。」
そう言って秋はソファの背もたれに寄り掛かった。
「僕にもまだチャンスがあるってことだよな…。」
シモーネは独り言のように呟いた。
冬は大学院卒業に向けて実習、論文に病院での仕事と忙しく、珍しく休みがあれば、隣の州へ出かけたり、寝不足を補うために一日中寝て過ごした。もともと電話もメールも余りしない冬との連絡が益々取り難くなった。
今泉はきっと忙しいんでしょうと取り合わなかったが、小鳥遊は喧嘩別れをしたままだったので、気が気では無かった。
―――初夏
約束だった卒業・帰国も予定だった3月をとっくに過ぎていた。晩秋には結婚式を控えているのにも関わらず、冬は色々と理由をつけては帰って来なかった。夏には小鳥遊と今泉が揃って渡米することになっていたが、
「来るときに電話して。」
と言うだけだった。
「トウコさん。大丈夫でしょうか?」
今泉も流石に心配になってきたようだった。夏休みになり、今泉と小鳥遊は揃って2週間休みを貰った。
到着する日と便名を留守電に残すと、暫くしてからメールが来た。エアポートに迎えにいけないので、玄関の植え込みの傍にある鉢植えの下に鍵を入れておくので部屋に入って待ってて…という用件だけを伝えるそっけないメールだった。
二人は空港に着き、冬のアパートまでタクシーを飛ばした。
言われた通り、冬の家に入ると、
“お腹が空いたら食べて下さい”
…というメモと一緒におにぎりがキッチンの上にあった。
「わ~♪やっぱりトウコさん覚えてくれてたんだ♪」
と今泉は嬉しそうに言ったが、小鳥遊は不機嫌だった。
…もしや…浮気?
自分がしたことがあれば、相手もしている…と思うのが人の常。小鳥遊は考えたくは無かったが、疑いを払拭できずにいた。
トイレに行った帰り、何気なく見た洗面台の上に、男性用の髭剃りやデオドラントが置いてあるのに気がついた。
それを見た途端、嫉妬と怒りがふつふつと湧いて来た。浴室には、男性用のシャンプーがあった。そこに今泉がやってきた。
「あ…これは。」
今泉も言葉を失った。
…結婚も控えているのに。
「トウコさんが帰って来るまで待ちましょう。」
小鳥遊よりも今泉の方が冷静だった。
「静さん…これでよく冷静でいられますね。僕は無理です。」
「でも…ガクさん…あなたと設楽さんの時よりまだ決定的では無い気がするんですが…。」
今泉の言葉はチクチクと小鳥遊の心に刺さった。そう言われてしまえば小鳥遊は何も反論出来ないわけで、それを今、このタイミングでさらっと言ってのけた今泉に苛立った。
「あの時は“アクシデント”です。今とは状況が違います。」
自分で言って居てもおかしかった。
「アクシデント…ねぇ。」
今泉は言葉を濁しリビングへと戻った。
…ものは言いようですね。
今泉が思っていることがありありと見えた。小鳥遊は静かに2階へあがり、そのまま部屋に籠ってしまった。今泉はやれやれと大きなため息をついて、冬が作ったおにぎりを食べた。小鳥遊と今泉はそれぞれの部屋で過ごしているうちにふたりともいつの間に寝ていた。
―――バタン。
玄関のドアが開く音がして、小鳥遊は目を覚ました。誰かが話す声が聞こえた。
「彼氏が来るんだから、帰ってよね。」
「えー。良いじゃん。もうちょっと居させてよ。」
…日本人?
「駄目駄目…しなきゃいけないことが一杯あるんだから。」
「何だよ…色んなコトって…相変わらずだな。」
日本語を話す男は意味深に言って笑った。
「絶対そう言うと思った。でも…結婚前に会えてホント良かったわ。」
小鳥遊は親密そうな二人の会話を聞いていた。
設楽との"アクシデント"が見つかった時に、冬はとても冷静だった。同じ境遇に自分が立たされている今、それがどんなに苦しくて怒りを抑えることが難しいかを思い知らされた。
「トーコが結婚ねぇ。それはそれでちょっと寂しい気がするなぁ。他の男のモノになるなんて…。」
男は、寂しそうに言うと冬は笑った。
「何言ってるの。またいつでも会えるわよ!」
「そうだといいね。」
男性はそう言うと,チュッとキスをする音が聞こえた。小鳥遊は嫉妬で自分が焼け焦げてしまう気がした。
ふたりの会話をこれ以上はもう何も聞きたく無かった。小鳥遊はドアを開けてゆっくりと2階から降りて来た。
「このドレス…高いのに…本当に貰っちゃって良いの?」
冬は嬉しそうに言った。
「ああ…良いよ。今日付き合ってくれたお礼。」
冬は真っ黒なハイ&ローのイブニングドレス姿だった。冬はガーリーなドレスが好きだった。このドレスは冬の趣味とは少し違ったフェミニンな印象を受けた。
…男の趣味だろうか。ドレスのサイズを知る程の親密な関係。
考えてはいけないと思いつつも小鳥遊の妄想は膨らんだ。
「キャー♪ありがとうぅ!大好き♪」
そういって男性に抱きつき、跳ね上げた冬の足はキラキラと光るストッキングに包まれ、艶めかしかった。
高校生がプラムに着ていくような安いドレスとは質感が違うことが、遠目からみても判った。小鳥遊の胸はチクチクを通り過ぎて、ズキズキと痛み始めていた。
背の高い男性はタキシードを着ていた。冬は向かい合って男性の蝶ネクタイを外していた。男性は“甘いマスク”…どちらかと言えば、野性的で男らしい小鳥遊とは対照的な中性的な顔立ちだった。
「ねぇちょっと…今日は食べ過ぎちゃってドレスきついから、背中のファスナーおろしてくれる?」
そう言うと、冬は男性に背中を向けた。
「全く…トーコはしょうがないね。」
そう笑いながら言われるがままにファスナーをおろした。階段に立ち尽くす小鳥遊に男性が気が付いた。
「あ…ちょっと…トーコ。」
と声を出した。
「え?どーしたの?」
冬が男性の顔を見上げたのと、小鳥遊が声を掛けたのがほぼ同時だった。
「トーコさん。これはどういうことですか?説明して下さい。」
冬はその厳しい口調に飛び上がった。
「わわっ もうついてたんですね。」
そう言うと小鳥遊の方に向き直った。男性は慣れた手つきで冬のドレスの裾を直した。
「ちょっと待ってて着替えて来るから。」
そう言って階段に立ったままの小鳥遊の横を通り過ぎて、冬は慌てて自分の部屋へと入って行った。その時、玄関のドアが再び開いて、シモーネが入って来た。
「おーい!ワイン持ってきた…ぞー…あっ。」
小鳥遊と男性を代わる代わる見て、状況を察知したのか、シモーネは意地悪く笑った。
「よぉ…色男。久しぶり。」
その騒ぎを聞きつけて今泉も起きていた。深夜を回り、シモーネも酔っぱらっているのが判った。
「やぁ…初めまして。」
トーキと呼ばれた男も少し酔ってはいたが、シモーネ程では無く、小鳥遊に人懐っこそうな微笑みを浮かべた。
「おい…お取込み中みたいだから、僕の部屋で飲み直そうぜ。」
この状況を明らかに楽しんでいるシモーネはトーキの肩をガシッと強く抱いた。お…おいちょっと…というトーキを引き摺る様に連れ出すと、玄関から押し出した。
「あれだけトーコを一人にするなって僕は忠告しただろう?」
シモーネの声は悪意に満ちていた。
「トーコはモテるんだよ。僕だけじゃ無く、彼氏が居てもトーコを誘う奴なんて大勢いるんだ。これで判ったろ?」
…おい。何やってんだよ。シモーネ。
トーキの声が近所に響いた。
「じゃぁまたな…色男。」
そう言ってドアを閉めた。
冬がTシャツと短パンに着替えて戻って来た。
「あ…あれ?二人は?」
冬は長い髪を手櫛で整えながら言った。
「シモーネの家へ行きました。」
小鳥遊は冬に向き直った。
「あの人はどなたですか?」
その言葉には抑揚が無く、冷たい響きに聞こえた。
「ガクさん…どうしたの?そんな怖い顔して。」
冬は小鳥遊の顔に触れようとしたが、その手を小鳥遊は除けて、しっかりと掴んだ。
「い…痛いわ。」
「誰ですか?」
小鳥遊はもう一度聞いた。
「…私の兄よ。」
「そんなこと…あの状況で誰が信じると言うんですか?」
冬をひとりにするからだ…シモーネの言葉がチクチクと胸に刺さった。
「だって…本当ですもの。」
冬が大きなため息をついた。
「今日は兄の会社のレセプションだったの。彼女と別れたばっかりで、一緒に行く相手が居ないからって誘われたのよ。」
小鳥遊は硬い表情で冬をじっと見ていた。
冬はハッとした。
「シモーネね?…またガクさんに変なこと言ったんでしょう?それで…そうでしょう?」
小鳥遊は何も言わなかった。
「私を信用してない顔ね?判ったわ…ちょっとついて来て。」
冬が階段を降りて行ったが、小鳥遊はその場に立ち尽くしていた。
イライラしながら小鳥遊の手を掴み引っ張った。二人は靴も履かず、裸足で歩いて10秒のシモーネの家へ行った。
シモーネの家の玄関まで来ると、冬は激しくドアを叩いた。
「ちょっと!開けなさいよ。」
冬はドアベルを連打しながら大声で言った。深夜の住宅街に冬の声が響き、近所の犬がそれに反応してワンワンと吠えた。
…ほら…やっぱり…きたぜ。
シモーネの笑い声が聞こえた。
「Hi.トーコ。久しぶりだね。いらっしゃい。何か用?」
シモーネはおちゃらけて笑っていた。
「…そこどいて。」
そう言うと、シモーネを玄関口から押しやった。
「秋?さっき紹介する時間がなかったけど、私の婚約者のガクさん。」
秋はゆっくりとソファから立ち上がり、
「初めまして…母から話は良く聞いています。兄の秋です。こっちではトーキって言われてますけど。」
笑って手を差し出した。
「すみません…僕はどうやら勘違いをしてしまっていたようで…小鳥遊 学です。」
それを聞いてシモーネがクスクスと笑った。
玄関のドアに寄り掛かるシモーネに冬がつかつかと近づいて言った。
「You're such a jerk!なんでいっつも人が嫌なことばかりするの? 」
「だってトーコは僕の事、構ってくれないんだもの。」
シモーネは悪びれずに言った。
「Che palle!」
ふたりきりだと、蕩けそうな甘いことばかり言うシモーネは小鳥遊のことになると、途端に意地悪で、嫌味っぽくなった。
「無視されたり、構ってくれないより、罵られた方がまだましだよ。」
…それじゃあ構って欲しくて駄々を捏ねている子供と一緒じゃない
冬は大きなため息をついた。すぐにばれる様な些細な嘘を楽しんでいるシモーネに苛立ちを感じた。
「そうね…あなたの御蔭で、私、イタリア語のスラング・マスターになれそうだわ。」
秋と話をしていた小鳥遊の手を引っ張った。
…もう帰りましょう…ガクさん。
「なんのお構いも出来ず…。」
シモーネは小鳥遊に向かって言い、ドアを開けて二人が出て行くのを待った。
…おい。シモーネ。トーコをからかうのは、それぐらいにしとけよ。
秋がリビングから言った。
「You’re such a bastard!!」
冬はシモーネを睨んだ。
…さっきまでの楽しい気分が台無しじゃない。
小鳥遊はシモーネを一瞥し,部屋を出た。
冬と小鳥遊が部屋に戻ると、今泉が待っていた。
「大丈夫ですか?」
冬に声を掛けた。
「…シャワー浴びて寝るわ。おやすみなさい。」
そう言うと冬は振り返りもせずに、自分の寝室へ行った。
「トーコさんのお兄さんでした。」
意気消沈する小鳥遊は言った。
「そうでしたか…安心しました。」
今泉はそういうと、僕も寝ますと言って立ち上がった。
「ガクさん…トウコさんに…。」
「はい…分かっています。」
冬の部屋のドアをノックしても返事が無かった。
「入りますよ…。」
小鳥遊が静かにドアを開けるとシャワーの音が聞こえた。そこは懐かしい冬の甘い香りがした。
コルクボードには、アメリカの看護師仲間と一緒に青いスクラブを着た冬の写真と、小鳥遊が冬にあげた手作りの指輪がピンでとめてあった。
風呂場の扉をノックし、脱衣所兼洗面所に入った。すりガラスの向こう側で冬がシャワーを浴びていた。そのシルエットは相変わらず、グラマラスで小鳥遊の下腹部をくすぐった。
「トーコさん…疑ったりして済みませんでした。」
シャワーの蛇口をキュッと閉める音がしたので小鳥遊は、タオルをガラス戸の上の隙間から手渡した。
「はい…疑われてちょっと嫌でした…でももし私があの状況に遭遇したら、同じように疑っていたかも。だからもう良いです。」
髪や体を拭き、バスタオルを巻いて冬は出てきた。頬はピンク色で、濡れた髪は頭頂部で結ばれ、団子になっていた。
「はいRepeat after me.シモーネの言うことは信じない。」
冬は,まるで教師が生徒に諭し、言い聞かせるように言った。
シモーネは小鳥遊の前では嫌味な男だったが、普段は優しく陽気な人柄である事は、冬の話からわかっていた。冬はあくまでも1人の友人,幼馴染として接しているのに対し,シモーネの冬に対するしつこ過ぎる情熱が心配だった。
「はい…肝に銘じておきます。」
小鳥遊が神妙な面持ちで答えたので、冬が笑った。
「ガクさん…来てくれてありがとう。」
冬は抱きついた。
「最近は余り連絡が来ないので心配していました。」
「学校や病院でのアルバイトで忙しかったの。」
冬はバスタオルを巻いたまま歯を磨いた。
「あなた学生ビザじゃ無かったんですか?」
「そうだったんですけど、この間日本に帰った時に書き換えたの。同僚たちも病院に掛け合ってくれて。」
「呆れた…あなたって人は…。」
「だって…アメリカにいるうちにやりたいことを全部したかったの。」
冬は無邪気に笑った。
「自分を追い込むようなことばかりして…体を壊したりしたらどうするんですか?」
元気だけが取り柄だから大丈夫。小鳥遊に触れた冬の手はポカポカと温かかった。
「そうだ。明後日の卒業式には静さんと一緒に来てくれる?」
「そのつもりです。」
冬の体を抱き上げてベットへと連れて行った。
「良かった♪」
小鳥遊は冬の優しい香りに包まれて、クラクラした。冬は小鳥遊のシャツを脱がした。
「あなたが恋しくて…仕方がありませんでした。」
小鳥遊は愛おしそうに冬の顔に触れた。その言葉を聞いて冬は微笑んだ。ふたりはどちらからともなく顔を近づけた。
…チュッ…チュッ…
何度も軽いキスを重ねた。
「あ…そうでした。ちょっと待ってて下さい。」
冬の首元にキスをすると、小鳥遊は部屋から出て行ったと思うとすぐに戻ってきた。手にはコンドームの箱がしっかりと握られていた。
「日本からわざわざ持って来たんですか?」
小鳥遊の用意周到さに驚いた。
「ええ…日本製のものは薄くて質が良いですから。」
付き合い始めて4年目になるが、衰えることの無い小鳥遊の性欲に呆れた。
「あ…でも病院行く前は2-3日しないで下さいですって。」
「トーコさんが傍にいるのに出来ないなんて…地獄だ。」
冬の柔らかい胸に顔を埋めた。
…またそんな大袈裟な。
「1日に3回位はしとかないと体が鈍ってしまいますから。」
優しく小鳥遊の硬い髪を撫でていた冬の手が止まった。
…積極的に鈍らせる方向でお願いします。
「だって私が居ない時には平気だったでしょ?」
「トーコさんの写真もビデオもあるから大丈夫だったんです。夜のオカズどころか…主食でしたね。」
…あれ?写真はこの間消した筈なのに…。
「へ…何?ビデオって?」
去年の夏、酔って愛しあった時ものを小鳥遊がスマホで撮影したものだった。
「トーコさん自分から言ったんですよ?〝これでトーコを思い出して慰めてね″って。」
動画には、あられもない恰好で喘ぎながら蠢く自分の姿があった。
「わわわ…ちょっと。何よこれ。」
「凄いでしょう?可愛いくて、積極的で♪トーコさんも僕の動画が欲しかったら遠慮なく言って下さい。」
冬は小鳥遊のスマホを取り上げようとしたが、大きな体に阻まれた。
「速やかに消して下さい!」
「嫌です。」
「消して!」
「嫌です。だって…病院行った時に必要でしょう?それに僕…洋物じゃ駄目だから。ねっ♪」
小鳥遊は冬に甘えるようにすり寄った。
…良く言うわ。ホントは雑食の癖に。
「そんな可愛く言っても駄目です。あなたのPocket Monsterはどんな状況下でも進化出来るでしょ?だから、消して下さい。」
「これは僕の宝物ですから駄目です。あ…じゃあ♪交換条件。」
小鳥遊が嬉しそうに言ったのを見て冬は警戒した。
「なんですか。」
「僕と新しいビデオを撮ってくれたら消します。」
…全然交換条件じゃないやん。
「もういい…。」
冬が背を向けた。
「わかりました…消します。でも病院行った後でも良いですよね?」
小鳥遊は、冬の背骨に沿って、熱い唇を這わせた。
「あっ…約束…ですからね。」
冬の全身にぞわぞわとした快感が走った。
「ええ。」
小鳥遊は冬にゆっくりと上を向かせた。既にツンと上を向いている乳房をおもむろに掴み左右交互に口に含んだ。
…チュク…チュク。
「僕達の体の相性はとても良い気がします。」
指先で乳首を軽く摘まみゆっくりと指先で転がした。
「…はい…私も そう思います。」
小鳥遊の唇はキスをしながら、下腹部へと迷うことなく向かった。
二つの肉丘の間を通り、隠れた突起を見つけ出し、優しく口に含んだ。
その優しい甘美な刺激に、冬の体はすぐに反応し始め、その様子を小鳥遊は微笑みながら見つめた。
…ちょっと…恥ずか…しい。
冬は耳も顔も真っ赤になり、その顔を小さな手で隠した。
「恥ずかしがっているあなたをもっとみたい…」
小鳥遊は舌先で小さな突起をチロチロと細かい動きで弄った。
冬の太ももの腱が浮き上がり、ピクピクと腰が動いた。
…ああ…だめ…。
花弁の中のピンク色の入り口からは、透明な蜜が流れ始めていた。
「トーコさん。もう…溢れています。」
小鳥遊は口を押し当て蜜を吸うように舐めとった。
…チュル…チュル…。
冬の体から発せられる芳しい香りと愛液のまろやかな香りは混じり合って、小鳥遊を益々興奮させた。
「ガクさんが…虐めるから。」
小鳥遊が入るべき入り口は、冬が声を出すたびに、キュッとしまった。
…ヌプッ
小鳥遊は人差指と中指、2本の指を沈めていき、深く浅く上壁に擦りつけるように動かしながら、親指の腹で冬の敏感な突起を愛撫した。
「ああ…。」
小鳥遊の指から逃げるように冬の腰は浮き上がった。
「動いちゃいけません。」
「だって…勝手に…動いちゃう。ああ…」
冬は堪らなくなり上半身を起こした。
「駄目…キス…キスして…うぅ…。」
冬にキスをしながら、コンドームを素早く装着した。
花弁の奥へと脈打ちながら出番を待っていたそれで冬の中を埋めていく。久しぶりの心地よい抵抗感に小鳥遊も思わず声を漏らした。それは冬が喘ぐたびに、抵抗感が強まり、膣の蠕動運動に変わっていった。
「トーコさん…そんなに締め付けたら…。」
深く突くと先端にコリコリとしたものが触れた。
「深い…の…いい。」
冬は片腕を小鳥遊の首に回し、左手で自分の身体を支え,それを助けて小鳥遊は冬の白く柔らかい尻と腰を大きな手で支えた。小鳥遊が腰を突き出す度に冬は甘く啼いた。
「奥に…当たってます。」
…ネチャ…ネチャ
動かす度に卑猥な音は大きくなった。小鳥遊は深く挿したままグランドさせた。
「あぁ…そこ…だめ…ぁ。」
小鳥遊の首に回った冬の腕に力が入った。そして快感が押し寄せると力なく緩み、支える小鳥遊の腕に身を任せ、冬は白い喉を見せて喘いだ。
…うう…ぁ。
「…駄目…と言われたら、余計に…したく…なる。」
腰をしっかりと抱え、先ほどよりも大きく深く突き刺した。
「あぁ…だ…め…いっちゃ…う。」
冬は小鳥遊が刺さっている場所が、固くなりヒクヒクと不随意に蠢くのを感じた。
「トーコ…感じてるの?」
小鳥遊はその締め付けの間隔が徐々に短く強くなっていることを感じた。
「うん…とって…も。」
冬は下腹部から溢れて来る快感に今にも足を攫われそうだった。
「僕を…いっぱい…感じて。」
…くっ…あっ…ん…んん。
冬のクーイングが、小鳥遊の頭と股間を一層熱く痺れさせた。
冬をしっかりと支え、冬が感じるその場所に集中的に突き上げ始めると、ベットの軋む音が大きくなった。
「ガク…だめ…もう…待てない…。ああ」
…い…く…ぅ。
あと数回で果てそうな時に、不意打ちで冬からの強く長い締め付けを受けた。
「そんなに…締め付け…あぁ…僕も…」
一瞬で急激に出口を求め暴れ出した欲望と、沸騰した衝動を抑えきれなくなり、冬の一番深いところへ、一滴残らず吐き出した。冬も小鳥遊も汗だくのまま暫く抱き合った。
「今まで…で…一番…気持ちが良かった…かも。」
まだ息の整わない小鳥遊は言った。
「う…ん。」
冬は恍惚の毛布に包まれたまま、小鳥遊の胸の中で眠りについた。
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:
――卒業式
卒業証書にはDr.Tôko Gettusyô と書かれてた。
「はぁ~長かったぁ。」
冬が言うと、
本当です…と小鳥遊と今泉が笑った。
「さぁーこれからが忙しくなるわね。」
冬は小鳥遊と今泉に向かって言った。
その夜は冬の家で友人達と卒業祝いをした。
バイト、ボランティア先の病院の同僚達、大学の友人、そして誰が伝えたのか判らないが、雑貨屋のトム夫婦も来ていた。
「あなた達は命の恩人だ!」
そう言うと、シモーネ並みの長く強いハグを小鳥遊と冬にした。
「男性から長いハグをして貰うというのも…なんだか変な感じですね。」
小鳥遊は笑った。
冬はひとりひとり丁寧に話をして、お礼を言って回った。
まるでオープンハウスのように、次から次に人がやってきた。
シモーネも誘い、秋と一緒に冬の同僚と楽しそうに話をしていた。
恰幅の良い中年の男性が玄関から入って来るのが見えた。
「Dr.Smith!」
冬はドクター・スミスの元へ行き何か話をしていた。
「ガクさん静さんちょっと…。」
二人を呼んだ。
「ドクター・スミス。こちらがドクター・小鳥遊とドクター今泉です。」
二人は初めましてと握手をした。
「トーコから二人のお話は聞いています。」
ニコニコと優しい笑顔を浮かべた。
「ドクター・スミスは、私が働いている脳外病棟の部長さんなの。今回ドクターのお友達のクリニックを紹介していただいたの。」
「トーコはとても優秀で驚いたよ。CTやMRIを読める看護師はうちの病棟には居なくてね。それに、身の回りの世話は准看護師がするんだけど、積極的に患者のケアも、プランも立てて…日本じゃそれが普通なのかい?」
「そうですね…画像を勉強しているナースは多い気がしますね。日本では正看護師もプランを立てるだけでなく、患者のお世話をしますから。」
小鳥遊は微笑んだ。
「トーコには大学院を卒業したら、ぜひうちの病棟で働いて欲しいと言っていたのに、僕は振られてしまい、残念です。」
ドクター・スミスは笑うと目じりに深い皺が出来た。
同科の医者同士,ドクタースミスと小鳥遊は長い時間話し込んでいた。
「あれ?トウコさんいつの間にビザの切り替えしてたの?」
今泉が驚いて冬に聞いた。
「日本に帰った時よ。」
「相変わらずトウコさんさんは凄いよ。」
今泉は笑った。
部屋のそこここで人の話声や笑い声が聞こえた。
冬と今泉の間に沈黙が続いた。
「ねぇポーチに出ない?」
冬が誘った。外は涼しい風が吹き気持ちが良かった。意を決したように冬が口を開いた。
「本当にガクさんと私…結婚して良いのね?もしあなたが嫌なら…籍は入れない。」
今泉は冬の頬に優しく触れた。
「僕は…あなたの傍に居られれば良いから。トーコさんは、僕の事を心配していたの?」
「ええ…。2人とも大切な人だから。」
冬がポーチの階段に腰掛けると、その隣に今泉も座った。
「僕は、トウコさんとガクさんの結婚がとっても嬉しいんだ。もしかしてマリッジブルーになってる?」
「そうなのかな?今になって色々心配になってきちゃったの。」
「やっぱり…そうだ。」
今泉は薄々気が付いていた。
以前は遥か彼方に見えていた筈の“結婚”が、実は思っていた以上に傍にあったことに冬は戸惑っているように見えた。
「怖くなって逃げ出したいと思う前に僕に相談して。」
冬の手を優しく握った。
「一体どこへ逃げろっていうの?私にはもうあなた達の元にしか帰れる場所は無いのに。」
冬は自分の膝の上に肘をついていった。
「トウコさんには、僕もガクさんも居る。辛い時にはどちらを頼れば良い。僕たちがトウコさんを守るから…だから何も心配することは無いよ。」
今泉は冬の肩を優しく抱いた。
「ガクさんと静さんは私にとっては陽と陰。どちらかだけでも駄目なの。我儘なのは良く分かってる。でも…どうすることも出来ないの。」
…わかってるから大丈夫だよ。トウコさん。
「さぁ…もう中に入ろう。皆が心配するよ。」
立ち上がろうとする今泉を引き留めた。
…ねぇ…キスして。
冬の顎を白く細い指でくいっと上げその柔らかで温かい唇を指で確かめるかのように優しく触れた。
「心配しないで…トウコさん。」
今泉は、ゆっくりと冬に顔を近づけた。ポーチに出来た二人の影が、長い間重なっていた。
「…セデーション・キス。」
冬は今泉と額を付けたまま、大きなため息をついて微笑んだ。
「僕のキスは鎮静させるだけですか?それもなんか寂しい気がするなぁ。」
冬の顔は熱気を帯びてとても温かかった。
「じゃあ ベンゾ・キス。不安を取り除くけど、常習性が出ちゃうから。」
冬が今泉の頬に優しく触れながら笑った。
「その響き…可愛く無いな。僕だってガクさんのような、ノルアド・キスも出来ますよ。」
冬は声を出して笑った。
…ほんとうに…ガクさんのキスはそんな感じ。
「知ってます…だけど今は、あなたにしか出来ない甘くて優しいキスが欲しいの…。」
「僕のキスで、不安が減るのなら…喜んで♪」
再び長い口づけを交わした。
その様子を舐めるように窓越しに見ていた者が いたのも知らず,ふたりは額を寄せ合ってクスクスと笑いあっていた。
隣の部屋からは、ポーチが良く見えた。掃き出しの傍に置かれたソファにシモーネが座っていた。
「おい…トーキ。見て見ろよ!面白いものが見えるぞ。」
シモーネは、隣に座る秋を肘で激しく小突いた。
「おっと…急に小突くなよ。零すとこだったじゃないか。」
秋が既に何本目かもわからないビールを開けたところだった。
「トーコと…ポーセリンみたいに色が白いチビ…シズだっけ?」
秋はチラリとポーチの静と冬をみた。二人は長いキスをしている途中だった。
「ガクはこれをみたら心穏やかじゃ無いだろうね。」
シモーネは意地悪く笑った。冬は静にしな垂れかかり、静かに話をしているようだった。
「あぁ…色々あるんだよ。あんまり詮索するなよな。冬がまた激高するぞ。」
秋は春から3人の奇妙な関係のことを聞いていたが、家族内の秘密になっていた。
「お前知ってたのかよ?」
シモーネは二人から目を離さず、秋に聞いた。
「うん。だから色々あるんだって。シモーネ…いい加減トーコ…諦めろよ。」
ポーチの階段からゆっくりと二人は立ち上がった。
「お前ならすぐ可愛い子が見つかるだろ?」
今泉と冬は、お互いに見つめ合い微笑んでいた。
「俺が言うのも何だが、確かに顔はちょっと可愛いけどさ。あんな自由奔放な、じゃじゃ馬のどこが良いんだ?兄キの俺でもさっぱり解んね~や。」
秋は笑ってビールをゴクゴクと飲んだ。
「俺は、顔はどーでも良いから、優しくて大人しい子が良いなぁ。」
そう言って秋はソファの背もたれに寄り掛かった。
「僕にもまだチャンスがあるってことだよな…。」
シモーネは独り言のように呟いた。
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