小鳥遊医局長の恋

月胜 冬

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露見

周囲の困惑

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警察の事情聴取を受け、家に帰ったのは明け方近くだった。

「あー今日は流石に学校いけない…。疲れたー。」

冬はそう言いながら、額のガーゼを取りシャワーを浴びた。血はすっかり止まっていた。

「今日は一日ゆっくり過ごしましょう。」

小鳥遊は冬にシャワーを掛けながら言った。

「…過ごすのは良いんですけど、なんで狭いお風呂でふたりでシャワーを浴びてるんですかね?」

「…どうしてでしょうね。」

小鳥遊はとぼけた。

「明日は早速、起きたら婚約指輪を買いに行きましょう。」

小鳥遊は、冬の背中を優しくタオルで洗いながら言った。

「えー。別に良いですよ。ガクさんから貰ったあれで…。」

冬は洗面台の上にちょこんと乗った、紅いストラップの指輪を見ていった。

「丁度良い機会じゃないですか?起きたら行きましょう。」

小鳥遊は有無を言わせなかった。

「今日のガクさん…ちょっと押しが強いですね。」

冬は苦笑した。小鳥遊は冬を抱きしめた。

「ええ…でないとあなたはのらりくらりと逃げてしまいますから。」

…あ…ガクさんまた当たってる。

小鳥遊のそれは膨張し始めていた。

「これは仕様ですから…。」

小鳥遊は笑った。冬はそれを小さな手で包み込み、ゆっくりとスライドさせた。
小鳥遊は冬の乳房の先にそっと触れ、優しく摘まんだ。

「あなたさっき疲れたって言ってませんでしたっけ?」

冬の背中を優しく小鳥遊は撫でた。

「ええ…そうでした。 じゃあやめましょう。」

冬は意地悪く笑った。

「そんなことはさせません。今日学校へ行かないなら一日中ベッドの上で過ごしましょう。」

小鳥遊は満面の笑みを浮かべた。

「絶倫先生…勘弁して下さい。1度なら頑張れますけど、途中で寝ちゃいます。」

冬は苦笑した。

「今日は…興奮しているみたいで僕は止まらない気がします。あなたが寝てしまっても何ら差し障りはありませんのでご心配なく。」

小鳥遊はさっさとシャワーを止めて冬の髪を拭き、体をバスタオルで包み、そのまま寝室と連れて行った。

「ガクさんの部屋では無くって私の部屋?」

「ええ…あなたの香りがするとそれだけで興奮するんで。」

ベッドに冬を下した。

「僕は あなたがやっと承諾してくれて本当に嬉しいんです。」

そう言いながら冬の首から鎖骨まで舌を這わせた。

「…かなりのパワープレイでしたけど。」

冬が笑うと、柔らかな胸が揺れた。

「僕はこの日をどれだけ待ち望んでいたか、貴女には想像出来ないでしょうね。」

舌は冬の乳輪の上をゆっくりと這いまわった。

…あぁ。

小鳥遊の指はゆっくりと下腹部へ流れていき、温かで湿った二つの谷間の間を通り、入るべき入り口を見つけた。

「もしも…痛かったら教えて…。今夜僕はあなたを壊してしまいそうだから…。」

…駄目だ…これ絶対ダメなやつだ。

興奮している小鳥遊を見て冬は観念した。

「ガクさん…壊すのは構いませんけど、ちゃんとアフター・フォローもお願いします。」

冬は微笑んだ。

「ええ…僕の人生の全てを掛けてフォローします。」

小鳥遊は冬の唇を激しく貪った。暫くキスの音と二人の吐息だけが続いた。

冬は突然のプロポーズを思い出して、クスクスと笑った。

「どうしました?」

小鳥遊は額同志をくっつけたまま囁いた。確かに小鳥遊が言ったように、こんなことが無かったら、はぐらかしていたかもしれないと思った。

「いいえ…何でもありません。では、記念にお祝いをしましょう。」

あ♪そうだ!と冬はするりと小鳥遊の腕の中をすり抜けて、ガウンを羽織り、一階へと降りて行った。

「ほら…そうやってあなたは僕を焦らす。」

小鳥遊はズボンだけ履き、冬の後を追いかけた。

「ガクさん…上で待ってて♪今ワイン開けるから。」

棚の中からフルボトルのワインを出した。

「僕が開けましょう…。でも傷が痛みますよ?お酒飲んだりしたら。」

そう言うとワインオープナーで簡単に開けた。

「大丈夫。酔っちゃえば痛みも判らないから…」

グラスを…と冬が棚から取ろうとすると

「それは必要ないでしょう。」

そう言ってボトルに直接口をつけて一口飲み、冬を抱き上げて二階へ連れて行った。ベッドへ冬を再び寝かせた。

「無事に生還おめでとう祝い♪」

冬は微笑んだ。

「そして…婚約記念です。」

小鳥遊が再びボトルからワインを一口飲んだ。

「あ…私も飲みたい。」

冬がボトルに手を伸ばすと。

「では…僕があなたに飲ませてあげましょう。」

小鳥遊はワインを口に含み、冬の体を少し起こし、口移しでワインを冬に含ませた。

…ん…ん。

冬の白い喉がゆっくりと上下した。

「…美味しい。」

冬が笑った。

小鳥遊がもう一度ワインを口に含むと冬はゆっくりと対面座位になりながら唇を重ね、ワインをせがんだ。そしてキスをしながら、大きく膨張したそれにそっと触れた。小鳥遊が笑ったので、冬の口の端から真っ赤なワインが零れた。

「ガクさんのが…欲しくなっちゃった。」

冬は充分に濡れ疼く入り口に大きく膨張したそれを掴むとあてがった。

「そんなに焦らなくても…いっぱいあげますよ。」

小鳥遊は冬の零れたワインを舌で綺麗に舐めとった。冬はゆっくりとそれの上に腰を沈めていく。

…ああ

二人から甘いため息が漏れた。

「ねえガクさんは動かないで…。」

冬は小鳥遊の上でゆっくりと大きく上下した。動くたびに、ねちゃねちゃといやらしい音が聞こえた。

小鳥遊を誘うように見つめながら、妖艶に蠢く白く細い腰を眺めた。快感を拾うたびに、眉を少し顰め、そして少し恥ずかしそうに優しく微笑む冬に激しい衝動を感じ始めた。

「温かくて気持ちが…良いです。」

片手で冬の揺れる胸の先端に掌で優しく触れた。冬の肌が徐々にピンク色に変わっていくその姿はとても艶めかしく色っぽかった。

…はぁ…はぁ。

「ガクさんはトーコにどうして欲しい?」

そう言いながらワインボトルに手を伸ばし、冬は一口飲んだ。冬の吐息から、甘いワインの香りがした。

「もっと…激しく。」

小鳥遊は、冬の尻をがっちりと掴み、上下運動を手伝った。

「こぅ…すれ…ば…いい?」

冬の呼吸が荒くなり、締め付けが強くなることで快感を楽しんでいることが判った。

「ねぇ…トーコさん…もう感じてるでしょう?」

欲望と高まりに弄ばれている、冬の口から嘆息が漏れた。

「うん…」

冬が切な気に答えた。

小鳥遊も衝動が一段と膨張し始めるのを感じた。

「ガクさんのだって、トーコの中で大きくなってるじゃない…とっても。」

冬は囁いた。

「トーコ…いやらしい先生も大好き。」

久しぶりに冬に先生と呼ばれて、下半身が熱くなった。

「あ…駄目だ…僕…我慢…辛い。」

「小鳥遊センセ…まだ… ダメ…です。」

冬は深く包み込み、ゆったりと動いた。

「トーコさん一緒に…いきましょう。」

先生と呼ばれるたびに、甘い衝動が小鳥遊を容赦なく突き動かす。

「駄目です…もう少しEasy rideを楽しみたいの。」

上下に動くと小鳥遊の足の付け根に力が入った。

「お願いします…僕と一緒に…。」

小鳥遊は冬を押し倒し、両足を自分の肩に乗せた。そして早く激しく腰を動かした。

「ああ…そんな…気持ちよくって…ああ。」

丸見えの結合部からは、愛液がトロトロと流れ出し、小鳥遊のアンダーヘアへ流れてキラキラと光った。

動くたびに聞こえてくる艶っぽい音と、冬の甘い声に小鳥遊はますます興奮した。

「トーコ…愛してる。」

「ガク…さん…感じる…いっぱい…頂戴。」

冬はすぐそこまで大きな快感が迫ってきていることを感じ、あがらうことを放棄した。小鳥遊の筋肉質な尻を手で掴んだ。

「一緒に…。」

「ああ…いくぅ…。」

…あいしてる。

下腹部から全身へ広がる幸福感に支配された…と同時に膣は小鳥遊から愛を吸い取ろうと強く収縮を繰り返した。

それに促されるように小鳥遊は冬の肩を抱き、溢れんばかりの情動を吐き出した。

それからも何度も愛を交わしふたりは重なりあったまま、騒がしいドアベルに起こされるまでぐっすりと抱き合って眠った。

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ドアベルがしつこく鳴っていた。

「…トーコさん。起きて下さい。誰か来ましたよ。」

小鳥遊はベッドから体を起こした。

…う…ん。

冬はほぼ丸2日寝ていなかった。小鳥遊は、冬の頭にキスをしてズボンを履き、Tシャツを掴んで、鳴り続けるドアベルにせかされるまま、1階へ降りた。

シャツを着つつ、チェーンを付けたままドアを少し開けた。

「あのうローカルのテレビ局ですが昨夜のことでお話を聞きたいんですが。」

「こちらはMs.トーコのお宅だと伺ったんですが…貴方はDr.Takanashiですよね?」

ドアの隙間から、次々とマイクが入って来た。小鳥遊は矢継ぎ早の質問に、大きな手で少し痛む額を抑えた。

「すみません…明け方近くに戻り…何が起こっているのか、分からないのですが、どなたか説明して頂けますか?」

「あなた方は人質を救っただけでなく、犯人たちの命を救ったヒーローとヒロインですよ。」

…一昨年の夏のフラシュバック。

「まだテレビをご覧になっていないんですか?」

「いいえ…あなた達に起こされたばかりですので。」

「Ms.トーコ!Ms.トーコ! 居るんでしょう?」

レポーターの声は、ガンガンと頭に響いた。

「済みません…今日は疲れているので申し訳ありませんが、お引き取り願えますでしょうか?」

そういうと小鳥遊は、失礼しますと言ってドアをゆっくりと閉めた。

「あ゛ぁ」

小鳥遊は声にならない声をあげ両手で顔を擦り、テレビを付けた。

ローカルニュースも大手のテレビ局も小鳥遊が搬送するシーンを繰り返し放送し、どこから仕入れたのか、911に小鳥遊が電話をした時の模様まで流されていた。そして極めつけは…プロポーズ。

それはまるで短編映画を観ているような編集のされ方だった。

…今回はもう何も言い訳は出来ない。

慌てて今泉に電話を掛けた。

「…掛かってくると思ってました。日本ではまだ放送されてませんでしたけど、CNNで…あなたがストレッチャーを押して患者と出て来るところを今見ていたところです。」

今泉はまだ起きていたようだ。

…やっぱり。

「プロポーズ…良いアイディアだと思いました。あれぐらいしないとトーコさんは駄目ですね。」

と言って笑った。

「でもトーコさんは未だにあなたと付き合っていることになっています。」

「それは…何とかなるでしょう。心配なのはあなた達です。」

…そうだ復帰後も冬は同じ病棟で働いて居たいからこそ秘密にしていた。

「まぁ…僕の方は、上手い具合にしておきますので…また何かありましたら連絡します。まだ先生の休みは長いですし、沈静化することを祈りましょう。」

今泉の声には張りがあり元気そうだった。

「それよりもあなたの身体の具合は如何ですか?」

「お陰様で、今は春さんが来てくれているので、話し相手になって貰ってます。」

…それなら安心だ。

「この事件を見たら、春さんに怒られそうです。」

小鳥遊は苦笑した。こちらは心配いりませんからと言って今泉は電話を切った。冷蔵庫からミネラルウォーターを掴むと、小鳥遊はベットルームへと戻った。冬は静かな寝息を立ててまだ眠っていた。顔に掛かった冬の髪を小鳥遊はそっと整えた。ベッドサイドには、今泉から貰ったネックレスと、ストラップで作った指輪が、ジュエリーディッシュの上に載せてあった。

+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:

冬は小鳥遊が煎れたコーヒーを静かに飲んでいた。

ふたりはダイニングテーブルに向かい合わせに座っていた。

その間も玄関のドアを叩く音とチャイムが鳴り続けていた。

「再びこんなことになるなんて思ってもいませんでした。本当に済みません。」

冬は少し考えてコーヒーを口にした。

「私は仮にも病院を退職した人間ですから、大丈夫でしょうけれど、ガクさんと静さんが心配です。」

小鳥遊のコーヒーは手つかずのまま冷めていった。

「僕は大丈夫ですが、あなたが病院に再就職したとしても一緒にはもう働けませんし…。」

…んんんーーーっ!!

冬は大きく伸びをした。

「でも…このタイミングでバレて良かったのかも…。さてと、ガクさんが出ているニュースを録画しよっと♪」

…トーコさん。

「もうバレちゃったんでしょう?仕方が無いじゃない。堂々としてれば良いわ。」

チャンネルを換えながら冬は言った。

「さぁてと…お昼でも食べに行きましょうか?あ!その前にお財布を取りに警察へ行かなくっちゃ。」

冬はシャワー浴びて準備してきますね♪と言って鼻唄を歌いながら2階へとあがった。

「あなた…この状況を楽しんでいませんか?」

冬の背中に向けて言った。

「私は一度経験してますから…今度はあなたの番ですよ。質問があるなら、先輩の私に何でも聞いて下さい。」

冬は2階の踊り場から顔を出し嬉しそうに笑った。繊細だと思えば大胆で、冬のこの余裕に小鳥遊は困惑した。

「あ…ちょっと…待って下さい…僕も一緒に入りますから。」

小鳥遊は慌てて冬の後を追いかけた。付けっぱなしのテレビからは、繰り返し昨夜の事件が流れていた。

「警察にバッグ貰いに行ったら、車で少し遠出しましょうか。この町じゃ煩いかも知れないけれど、少し離れれば大丈夫でしょうから。」

バスタオルを小鳥遊に1枚渡すと、冬は着替えを出し、自分もタオルを持った。不謹慎だが他に大きなニュースでもあれば、自分たちのニュースなんてすぐに消えて無くなるのにと小鳥遊は思った。冬がシャツを脱ぐと、今朝方小鳥遊が付けた愛の跡が鎖骨に付いていた。

「残りの休みをこんな状態で過ごすのは嫌です。」

「アダルトショップに暫くいけないのは確かですね。」

冬は意地悪そうに笑いながらバスルームに入った。

「病院にバレる事よりも、それが一番残念で仕方がありません。」

小鳥遊はパジャマ代わりのTシャツとスウェットを脱ぎながら、寂しそうに言った。

…流石だ…変態エロはそうでなくっちゃ。

冬は声を出して笑いシャワーを捻った。ぬるめの湯は、体に気持ちが良かった。

「でも…あなたの指輪は買いに行きましょう。心変わりされそうですから…。」

全裸になった小鳥遊がバスルームへ入り、冬に当たり前のように寄り添った。

「だーかーらー。ちょっと先生!自分の部屋でシャワーを浴びれば良いでしょう?」

冬は小鳥遊を睨んだ。

「僕の事はまた先生に戻っちゃったんですか?どうせなら〝お医者さんごっこ“の時にそう呼んでくれると嬉しいのですが。」


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二人が家を出る時には、数人の記者だけだった。その音を聞きつけてシモーネが出て来た。

「トーコ!」

記者を押しのけ、冬に無駄に長いハグとキスをした。ハグを続けながら、

「やぁ 有名人 気分はどうだい?」

小鳥遊に向かって言った。冬はシモーネの大きな胸から逃れようともがいていた。

「悪くないよ。」

小鳥遊はシモーネをみて微笑んだが、その目は笑っていなかった。

「僕はいつも一緒に居られるし、どんなに忙しくても彼女を優先する。彼女は君が思っている以上にポピュラーなんだ。心配じゃないのかい?」

シモーネの言葉の一つ一つに悪意が籠っているのを小鳥遊は感じた。

冬はやっと解放された。

「ええ…全く。少なくとも彼女の心は僕のものですから。では…失礼。」

小鳥遊はシモーネににっこりと笑い、冬と静かに立ち去った。その後をしつこく記者たちが追いかけて来た。

「そうだ…。あなた達にお聞きしたいことがあります。この辺りで、ジュエリーショップはありますかね?」

小鳥遊はにこやかに笑って記者たちに聞いた。

「早速婚約指輪を買いに行かれるんですか?」

「はい…そうしないと…彼女は僕から逃げてしまいそうですから。」

と冬をチラリとみて笑った。

…あ…それなら…と、ひとりの記者がジュエリーショップを何軒か教えてくれた。

その間、冬は他の記者に負傷者の容態を聞いた。

「けが人は全員無事に手術が済んだそうですよ。」

人懐っこそうな記者が言った。

「そう…それは本当に良かったわ。」

冬はホッとした。警察署へ行き、遺留品を受け取った。冬はモールまで車を飛ばし、ジュエリーショップに寄った。道すがら、要らないと言い続けた冬だったが、小鳥遊は耳を貸さなかった。

「ガクさん…本当に大丈夫だから。」

冬は尻込みをした。

「こういうことは思い立ったが吉日です。」

なかなか選ぼうとしない冬に、何種類か小鳥遊は選んだ。

「トーコさんこの中からか、もしくは自分で選んでください。選べないのなら、僕が選んだものを全て買います。」

小鳥遊は真面目な顔で冬に宣言した。

「あ…ちょっと待って。選ぶから…。」

そこまで言われてやっとひとつを選んだその指輪は、小鳥遊が密かに冬によく似合いそうだと思っていたもので嬉しかった。

冬よりも小鳥遊の方が嬉しそうにしているのを見て、店員が笑った。

「あら…あなた達って…、昨日の?ニュースの?」

小鳥遊が支払いを済ませながら言った。

「ええ…まぁ。」

そうだ…静さんに写真を送りましょう。冬はブカブカの指輪を付けて小鳥遊と一緒に写真を撮った。

「あなたたち本当にそうだったのね。一緒に写真撮って貰えないかしら。」

店員と3人で写真を撮ることになった。

「隣町でも駄目でしたね。」

冬は苦笑した。

「…でしょうね。全米のニュースになっていましたからね。」

アメリカでは、日本と違って銃撃戦や、銃の乱射事件は日常茶飯事と言っても過言じゃない。

…数日もすれば、今回の事件だって、埋もれてしまう。

冬に余裕があるのは、そんな理由からだった。
ただ今の時代、事件自体は忘れられても、SNSやネットミーム等で永遠にネットの世界に残り続ける…今更遅いが、それだけがちょっと心配だった。

小鳥遊は笑った。

「ガクさん携帯早く充電したほうが良いかも知れません。友達の少ない私でさえ…ほら見て。」

冬のスマホには昨日から着信が100件を超えていた。


「僕に掛けてくるとすれば、師長さんと小峠先生、あとはあなたのファンだった高橋先生ぐらいでしょうかね。」

小鳥遊は携帯に関しては、余り気にしている様子は無かった。

その後二人で仲良くモールをブラブラと歩き、映画を観た。結局、小鳥遊の念願だった大型アダルトストアにも寄り、小鳥遊は嬉しそうに色々物色していた。

「ガクさん…それ日本に持って帰るんですか?」

大量に買い込んだ小鳥遊を見て冬は苦笑した。

「ええ…どうしてですか?」

大きな袋に4つも買い、冬も持つのを手伝った。

「荷物チェックで引っかかりそうな気がする。」

「いざとなったら、静さんの所に送りますから大丈夫です。さっ早く帰って使いましょう♪」

…駄目だ…以前の変態エロに完全復活してる気がする。

冬はため息をついた。家に戻りドアを開けると、ドアの下に沢山の名刺が挟まっていた。

「これ全部 テレビとか新聞社じゃない?」

見覚えのあるCNNや日本のテレビの海外支局の名刺もあった。冬はそれを綺麗に拾い集めた。

「頑張れ…小鳥遊先生♪あなたはやればできる子♪可愛い子♪私がマネージャーをしてあげますから。」

「あなた楽しそうですね。」

小鳥遊はため息をついた。

「ええ…私の時もガクさん楽しそうでしたから…これぞ2年越しにやってきた、“他人事だと思って”返しです。」

冬は嬉しそうに笑った。学校へ翌日から冬は戻ったが、それなりに声を掛けられるものの余り話さなかったので、あっという間に落ち着いた。小鳥遊は数日、インタビューを受けていた。

その間にも助けた男の子の母親、トムの奥さん、赤ちゃんのお母さんがお礼に来たりして再会を喜びあった。

トムのお店には、親戚の子が店を暫く切り盛りしていた。冬は店のものを勝手に使ってしまったのでとお金を置いて来た。

しかし、トムの奥さんはわざわざそれを返しに来た。最初に搬送した老婆以外は1週間も掛からずに退院していた。

ふたりは警察と市長から感謝状を貰った。市長から直々に何か困ったことがあったらと言われ、冬はダメもとで病院のボランティアのことを聞いてみたところ、市長の口利きですぐに何軒も見つかり、看護師としてボランティアで働くことになった。

+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:

小鳥遊は、帰国の飛行機の中で考えていた。これからの事、入籍、3人の関係、子供…。問題が山積している…答えは早々に出るものでは無かった。

マンションへ戻ると今泉が待っており、今後の事について話し合った。

「無難な所で、僕はトーコさんと別れ、あなたが付き合っていることにしました。」

…それは冬の意図するところでは無い。

けれど、小鳥遊もそれが一番無難なことだと思った。

「でもそれでは…。」

今泉はお茶を小鳥遊に出した。

「どうせ、僕らの関係は理解して貰えないと思います。僕は、ちゃらんぽらんですから。でも公にしてしまって、あなた達が大変じゃないですか?」

いつから、どのような経緯で付き合っていたのか、ゴシップ好きの小峠や冬を知る若い看護師達には、色々聞かれることを考えると憂鬱になった。

「仮にも3人の関係がバレてしまったら、トウコさんも、あなたも私生活が奔放だと知られたら…。それこそかなりのスキャンダルになる気がします。」

小鳥遊はそれを聞いて少し眉を顰めた。

「その奔放な計画には、あなたも含まれていることをどうぞお忘れなく。」

「ええ僕はYoloライフを満喫してますから…何を言われたって、今更気にもなりません。」

今泉は、3人の関係が周囲に知られることになっても全く意に介さないといった雰囲気だった。

「今の状況は僕にとっては当たり前でも、あなたとトウコさんにとっては違う。どうしても女性であるトウコさんへの風当たりは強くなると思います。またこれが職場復帰となるとどうなるか見当もつきません。」

今泉は真面目な顔になった。

「彼女のことです、風当たりが強くなろうが、虐められようが、僕たちには決して言わない気がします。」

小鳥遊は考え込んだ。

「独りで悩んで、またどこかに行ってしまったら…と思うと僕はそれが怖いんです。」

「静さんは…本当に良いんですか?僕と彼女が籍を入れても。」

小鳥遊は今泉を凝視した。

「ええ…それは構いません。」

今泉はにこにこしていた。

…相変わらず、この男の反応には驚かされる事ばかりだ。

「…それで…ですね。彼女はあなたとの子供も欲しいと言っているんです。」

小鳥遊が子供のことを切り出すと、今泉は神妙な面持ちとなった。

「あなたと冬さんの子であれば、可愛いでしょうし、冬さんやあなたに叱られるほど、甘やかしてしまうだろうと思います。」

「しかし…あなたの子…。」

話し出す小鳥遊を制した。

「僕の子供については、〝夫“になるあなたさえ良ければ、正直言って僕は嬉しいです。僕はもともとあなた達に子供が出来て、大変であれば、病院を辞めてクリニックででも働こうと思って居ました。そうすれば、定時ですし、土日は休みになるでしょうから、子育てを手伝うことが出来ますし。」

「あ…あなたは仕事を辞めてしまうんですか?」

小鳥遊は驚いた。

「ええ…別に僕は構いません。トウコさんと一緒に居られれば。」

今泉は、はいこれ先日トーコさんから送られてきた荷物に一杯入ってましたと言ってTwinki●を出した。結構お茶にもあうんですねと笑った。

「そう言えば…小峠先生にあなたとトウコさんの関係を色々聞かれて困りました。勿論何も言いませんでしたけれど。」


…ゴシップ好きの小峠には困ったものだ。

小鳥遊はため息をついた。

+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:

翌朝、2週間ぶりの病院。足早に医局へと急いだ。幸い誰にも会わなかった。いつもは遅刻ギリギリの小峠が、早くに医局にやってきた。

「小鳥遊先生…驚きましたよ。あなたも月性さん狙いだったとは…。いつからだったんですか?」

小峠の言い方に小鳥遊はムッとした。

「いつからだったんでしょうね?もしかしたら、あなたとも小泉先生とも被っていたかも知れませんね。」

それを聞くと小峠の顔色が変わった。

「僕は月性さんのことに関して今は話したくありません。誰にも理解して貰えないことは確実ですから。で…僕の休み中に何か変わった事はありました?」

小鳥遊は有無を言わせなかった。

しかし、その後は医局内で小峠のようにズケズケと聞いて来る医者はいなかったので小鳥遊は内心ホッとしていた。


師長は小鳥遊を見つけるとすぐにナースステーションの端に呼び出した。

「よりによって先生と…月性さんが…今泉先生とはどうなったんでしょう?」

ご迷惑を掛けてすいませんと師長に詫びた。

「その話は改めて、…本人が居ないことには今はお話出来ないんです。彼女が戻って来た時に改めて…。」

と小鳥遊は丁寧に言った。

「判りました。小鳥遊先生がおっしゃるのでしたら、何か事情があるんでしょう。」

師長は静かに言った。

―――遡ること数日前

小鳥遊が日本へ戻る日が近づいており、毎日お互いを確かめ合うように愛しあった。

「ガクさんが帰ってしまうと寂しくなります。」

珍しく小鳥遊に甘え、そんな姿をみてますます愛おしく思った。

「あなたが日本を離れてまだ半年じゃないですか。あと同じ期間を我慢すれば、帰国出来るんでしょう?」

小鳥遊は胸の中にぴったりと寄り添う冬の背中を優しく撫でながら言った。

「ええ…予定では。」

小鳥遊は自分の胸に顔を強く押し付ける冬を愛おしく思った。

「あっと言う間ですよ。」

小鳥遊は囁いた。

「クリスマスとお正月には帰れないと思う…。」

冬は胸の中でゴソゴソと動き回り、小鳥遊の胸にキスマークを付けながら言った。

「次は静さんにここに来て貰いましょう。」

「それから…。」

小鳥遊は言葉を切った。

「結婚式は…どうしましょう?」

あくまでも冷静にさりげなく冬に聞いた。

「私はどちらでも良いけれど、ガクさんは?」


「僕は…したいです。ずっと待ちましたから。」

…そうだ…冬にはずっと待たされた。

「子供は…ガクさんと静さんの子供が欲しい…ガクさんが良いなら…。」

冬は静かに言った。

「でも…大学院も卒業出来るか不安だし、これから先のことを考えるのが、少し難しい気がするの。」

小鳥遊は自分の気持ちが良く分からなかった。そして、ムラムラとしていた気分が、急に無くなってしまった。

「今夜の話はピロートークにしては重すぎますね。」

小鳥遊が苦笑した。

「じゃあ…今日はもう寝ましょう。おやすみなさいガクさん。」

そういって冬はブランケットを肩まで掛けて、小鳥遊にしっかりとくっついて目を閉じた。数分もすると冬の寝息が聞こえて来てたので、小鳥遊は笑った。

…おやすみなさい…トーコさん。
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