小鳥遊医局長の恋

月胜 冬

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忘年会シーズンにありがちなゴタゴタ

甘いホットケーキ

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月性月性さん。病棟忘年会どうします?」

幹事の後輩が聞いて来た。

…忘年会は駄目。

とうこは去年の悪夢を思い出していた。

「準夜入れて貰うからみんなで行って来れば?」

冬はその方が良かった。


「え…トーコさん行かないんですか?」

帰宅後、冬が風呂に入って居ると知ると、そのまま風呂に入って来た小鳥遊たかなしは聞いた。

…なんか当たり前のように一緒に風呂に入ってるし。

「先生も ご存じでしょう?酔っぱらうと変になっちゃうの。それで去年は小峠先生に襲われたんですから、もう行きません。」

「僕も12月は病棟やらICU,オペ室、リハビリなんかの忘年会に色々呼ばれているんですよねえ。飲めないから面白く無い…。」

洗って欲しいと頭を出して甘えて来る小鳥遊。最近は、冬がシャンプーを当たり前のようにしていた。

「先生は誘われるのなら、色んな所に顔を出すべきです。楽しみにしている看護師が居るかも知れませんよ。」

「え…僕のファン?」

…はいはいお湯掛けますよー。

「ええ。」

小鳥遊は、
相変わらず熟女から絶大なる人気があった。

「そっか…じゃあ…いこっかな♪」

…結構単純Dr.エロ

「楽しんできてください。私は、準夜で頑張ろっと♪」

…と嬉しそうに笑っていた冬。


…が何故、忘年会で、師長の隣に膨れっ面で座っているかというと。

勤務交代があったからだ。

待ち合わせの中華料理店、日勤で会計さんにお金だけ渡し、逃げたかった…けれど、師長に摑まった。しかも席が思いっきり禿の隣だった。

…これってなんてセクハラ?

「わー月性ちゃんきてくれたんだぁ」

…お前の為に来たわけじゃ無い。

「しかも僕の傍に座ってくれるなんて♪」

…ほら…禿…周りの空気をよめ。

周りの看護師の冷たい視線にも動じず小峠は話しかけてきた。

…先生助けてぇ…ってあーあ。鼻の下伸ばしちゃって。

小鳥遊は、今年入ったばかりの新人達と先ほどから楽しそうに話をしていた。

「何で、月性さんばっかり狙ってんの?小峠先生。」

愛想笑いをしている冬を、
助けてくれた後輩が小峠を睨んだ。

(今度沢山手伝っちゃう♪入院だってとったげる♪)

「月性さんは、麻酔科の今泉先生と付き合ってるって噂があるんですから。ちょっかい出しちゃダメっ!」

(いやーん後輩 サンクスコ♪)

…あ。でも…まだそんな噂があったんだ。

「へーそれは光栄だなぁ。」

振り向くと今泉が丁度座敷に上がって来るところだった。

若い看護師から悲鳴が上がった。

…あれ?何で麻酔科の今泉先生が居るの?

今泉が迷う事なく冬のそばに座ったので、若い看護師達が他のテーブルから民族大移動してきた。それに紛れ、冬は挨拶を軽く済ませるとそそくさとトイレへと逃げた。

(青年医師;大丈夫ですか?)

(はい。今の所無事です。)

(青年医師;次カラオケだそうです。行きますか?)

(先生が行くなら♪)

(青年医師;判りました)

トイレで少し時間を潰し戻ると、皆好きな席に就いていた。

冬は師長と医局長の傍を確保。

…とりあえず鉄壁の禿ブロック完成。

「今年はずっと生徒指導だったり、メンターだったり、看護研究を見てもらったり大変な思いをさせちゃってごめんなさいね。来年は大丈夫そうだから…。」

師長がすまなそうに言うと、その隣で小鳥遊は満面の笑みを浮かべた。

…変態さん…その笑顔が私は怖い。

「げっしょうさん♪」

ドカッと冬の目の前に座ったのは麻酔科医の今泉だった。若い子達と一通り話をして、お局看護師テーブルへとやって来た。

…出たな。チャラ男。

「はい…お疲れ様です。」

冬は少々戸惑いながらも今泉に挨拶をし、
ちらりと小鳥遊を見た。

「今泉先生は僕のオペに入ってくれるので、今日は招待したんですよ。」

小鳥遊は笑った。

「そうだったんですか~。お陰で若い子達は大喜びですよ。」

冬が今泉を見ると、いつも先生とコンビ組んでますと笑った顔は、超イケメン草食系男子だった。

…なるほどねぇ。確かにこの甘いマスクじゃほぼ全ての女が騙される。

「この間も、月性さんのことを聞かれましてねぇ。」

小鳥遊は、微笑んだ。

「脳外って、綺麗な看護師さん多いんですよね。」

今泉は周りを見回した。

「どうして私をご存じなんですか?」

…無難に、知ってるけど覚えてませんと言う振りしとこ。

「え?僕の事覚えて無いの?覚醒悪かった小鳥遊先生の患者さんだよ。ほら…小峠先生と学生さんが付いていた。」

…ここで何となく思い出した振り。

「あ~~‼︎そう言えば、そんなことありましたねぇ。私に声を掛けて下さったのって、今泉先生だったんですねぇ。」

…すっとぼけ…。

「うわぁ…かなりショックかも。僕は、割とすぐに看護師さんには覚えて貰えるんだけどなぁ。」

…ちょっとナルシストさん…なのね。

「ごめんなさい…人の名前覚えるの苦手で…。」

「月性さんは、うちの若いエースですからね。今泉先生どうぞよろしくね。」

師長は、冬の背中にそっと触れた。

「そう言えば…この間の動画…凄かったですね。あんな流暢に英語しゃべるんだ。驚いたよ。」

冬はその事に触れられたくなかった。

「C●Nのインタビューも見たけどさ…。」

冬が落ち着かなくなったのを見て師長が助け舟を出した。

「月性さんは、余り表に出るのが好きじゃないのよね?だからあのインタビューだって、とっても嫌がってたのよ。」

…師長さんありがとう。

「はい…。縁の下の力持ち的な役割の方が好きですね。」

冬は笑った。

「そっかぁ好きだなぁそういう人…能ある鷹は爪隠すって。」

今泉は周りをキョロキョロと見まわし、
ひとがいない事を確認した。

「じゃあ…小鳥遊先生と師長さんの前で宣言します♪月性さん…一目ぼれしました付き合って下さい。」

クラクラしそうなくらい
爽やかで優しい笑みを浮かべた。

小鳥遊も師長も、そして一番冬が驚いた。

…剛速直球ストレートだな…おい。

「ほら♪こういうのって、上を通しちゃった方が早いでしょう?」

看護師達の恋愛話からは、
除け者になっている師長は嬉しそうだ。

自信あり気な爽やかスマイルを、
師長にかます今泉。

月性げっしょうさんならお墨付きですよ~♪真面目だし、頼りがいがあるし、美人だし…なのに彼氏も居ないって、いつもいってるんだから付き合っちゃいなさいよ。ねっ!ねっ!」

…いやいやいや…そんな無責任な。

「他の人に聞かれるのが嫌だったんで、この4人の秘密ってことで、お願いしまぁす。」

…なんか…この人って、人を巻き込んじゃうタイプ?外堀から埋める家康系?

「あの…でも…。」

冬は慌てて断ろうとすると、今泉はすかさずそれを止めた。

「じゃあ お試しで3ヶ月だけ付き合おうよ。それで僕の事やっぱり嫌だったら振れば?」

…満面の笑みを浮かべられても困る。

「…ってことで、師長さん♪月性さんの勤務表をあとでメールして下さい。」

今泉は自分のメアドを渡すと、師長は満更でもない様子だ。

…てかめっちゃウキウキしてませんか?師長さん。

「ですって♪もうお引き受けしちゃいなさいよぉ。私と医局長の秘密にしときますから♪」

…絶対…このナルシスト王子には、関わらん方が良さそうだ。

冬はちらりと小鳥遊を見た。

…ちょっとそこのデ●チン・エロ?ボヤッとせずに助けてよ。

「医局長…どうしましょう?」

…ほら良い球投げてやったぞ。
上手く返して下さいよ。

「そこまで真剣なら、お試しで交際しても良いんじゃないでしょうか。」

…場外ホームランかーーーい!

「じゃぁ二人のお墨付きを戴いたってことで…早速今度の日勤後デートね。そうだ月性さんのメアド教えて♪」

…どんどん話が進んでる。

「あ…今日は携帯忘れてきちゃ…。」

冬は咄嗟に嘘をついた。

「あーちょっと待って。月性さんのメアドなら知ってるから今教えてあげる。」

師長は自分のバッグから、
スマホをゴソゴソと取り出した。

…師長さーーーん。あなたまで私を押し出してどーする?!

「やったー♪今日来て良かったー。声掛けようと、病棟でいっつも探してたんだけと,君いっつも居ないんだもん。じゃあ…月性さんの日勤終わりにメールするね♪」

今泉は満面の笑みを浮かべ,他の看護師達が集まる場所へと移動したが、先生何話してたんですか?と若い子達に内緒と笑う今泉。

「良かったわねーデートですって♪超イケメンとなんて凄いじゃない。」

…師長…もう学生指導もやってあげない。

冬は2次会にも今泉が来ると言うので、さっさと家に帰って来た。



風呂に入り、終寝準備に入ったところで、
デ●チン・エロが帰って来た。

「トーコさ~ん。怒ってますよねぇ。だけど僕は今泉先生に3ヶ月近くもあなたのことで言い寄られていたんですよ…僕は彼があなたのことを気に入っていることを彼から直接聞いて知ってましたしぃ。」

…だったらわざわざ忘年会に誘うな!

一杯入ってご機嫌の小鳥遊だった。

「だから…。いい球投げたじゃないですか先生に…なのに、一体どーゆーことですか?簡潔に、はい!10文字以内で答えよ。」

冬はいらいらしていたし、小鳥遊なら庇ってくれると思っていたので少し悲しかった。

「動揺したんですよ。」

「どーして、“いやーうちのエースだから困りますよ”とか、うま~くいってくれなかったの?」

小鳥遊も、今泉の公開告白にかなり動揺したのは事実だった。どんな時も冷静で居られるのに、冬のことになると難しかった。

「シュミレーションしとかないと無理でした。」

小鳥遊が、ベッドの上に寝転がり傍に寄って来たのを冬はひらりとかわした。

「御蔭で今度の日勤終わりにデートすることになっちゃったじゃないですかぁ。」

…もうっ。このデカ馬鹿チンが。

「トーコさぁん。」

冬の上に覆いかぶさってきた。

「酔って甘えても駄目です。」

小鳥遊の耳は真っ赤で、飲めないのに結構飲んできたらしい。

「ごめんなさい…トーコさん。今日も愛しますから許して下さい。」

既に小鳥遊の手は、パジャマに潜り込んで、柔らかな冬の胸をソフトタッチで揉んでいた。

「それって…先生にとってはご褒美になってやしませんか?」

冬は小鳥遊の身体のしたでもがいた。

「あ…ばれちゃいましたか?まぁ良いか。」

小鳥遊は、あっという間にパジャマのボタンを全て外し、露わになった冬の白い胸に吸い付いた。

「…あっ…駄目。」

小鳥遊は強く揉みながら乳房を吸った。

「…先生…ちょっと…痛い。」

小鳥遊は、冬が誰かに告白されただけでも不安な気持ちになった。

「トーコさぁん…僕のものだけになってぇ。」

しかも相手が病院一…どころか、大学でも在学中からカッコよくて有名だった若い今泉が冬に言い寄ってくるなんて気が気では無かった。

「先生…もうなってますから。」

小鳥遊が今泉に嫉妬し不安に思っている事など冬は気が付かない。それも小鳥遊にとっては哀しかった。

「じゃあさ…結婚してくれる?」

酒臭い息を吐きながら、冬の首筋に唇を這わせ、柔らかな乳首をこりこりと甚振った。

「あっちょっと…先生飲み過ぎです!」

小鳥遊は離れようとする冬の胸に顔を押し付けた。

「タカナシ トウコになってよ。」

時々こうやって本当か、冗談か分かり難いギリギリを攻めてくる小鳥遊に冬はドキドキさせられた。

「そういうことは、酔ってない時に言って下さったら、前向きに検討いたします。」

小鳥遊は冬のショーツの中に指を入れた。

「“小鳥遊 冬“になってくれたら、いいことしてあげる。」

冬は笑った。

「良い事?」

…どうせロクでもないことだ。

「ずっと前からトーコさんに使って見たかったものがあるんだけど。」

そう言って出してきたのは特大のディルドだった。

「これね…僕のと同じ大きさなの。特注品で、先月届いたの♪」

…BA・KA・DA

「で?」

「結婚したら毎晩これでイイ事する特典付き」

…いやいやいやいや…特典ちがいますやん。拷問やん。

「却下」

「じゃあ毎日僕とエッチ出来る優待券」

…エロ馬鹿チンの熟女ファンに1万ぐらいで売ったろか。

「遠慮しておきます。」

「もう…トーコさんの意地悪。」

…酒臭い顔を押し付けてくんなっーのっ。

冬はその小さな手で迫り来る彫りの深い顔面を押し返すと、小鳥遊は仕方なく胸元へと唇を這わせた。少し湿り気を増した冬の花弁の中をクチュクチュと指で愛撫していた。

「先生…もう今日は寝ましょう。ね?」

突然静かになった胸の上の小鳥遊をみると寝息を立てていた。

…お…重い。

「ちょ…ちょ…せんせ?…私に…指入れたまんま寝ないで下さい!」

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病棟忘年会から始まり、
怒涛の忘年会シーズンに突入。

リハビリテーション室からも忘年会のお呼びが掛かった。

異職種の交流は本当に楽しいし、勉強家な人達が多いので励みになる。

療法士、放射線医師やリハビリテーション科の医師達、そして脳外医師達。

(リハ科の忘年会は、脳外医者は誰が行くんですか?)

(青年医師:禿)

…え…良いのか部下を…。

(マジで?)

(青年医師;マジです)

(あとは?)

(青年医師;以上)

とうこはピーーーーーンチです)

いや…マジで地味に危険だ。師長は会議で遅くなるので参加出来ないので、代打で冬が参加することになった。

月性げっしょうさんは、リハ科の忘年会だから緊急入院は他の人に回して下さい。」

…あわよくば逃げたかったのにぃ。

師長に絶賛宣伝されてしまった。緊急入院3人ぐらい来てくれないかなぁというこんな時に限って、定時あがりのミラクル発生。

待ち合わせは居酒屋だった。

続々とリハ科の知った顔が集合してきた。

「えー月性ちゃんが来たの?若い子~新人~新人が良い~。」

「チェンジで♪」

…お前ら一度死ね。

「えーそんなこと言わないで、脳外代表で来ましたから。」

…と言うのは、冗談で結構仲は良かったりする。

メッセージが来た。

(青年医師;緊急オペなり。無毛助手)

…無毛って…でも…って事は、ちょびっと飲んでも平気かな?

俄然ヤル気が出てきた冬だった。

(じゃあ…Dr.Bald来ないならちょっと飲んじゃいます♪)

冬はグレープフルーツサワーを頼んでチビチビと飲んでいた。

「小峠先生が来たー。」

誰かが言った。リハ科では、そんなに嫌われていないらしい。


(マジか…早く終わっちゃったのかオペ…。)

…これは詰んだ予感。

「あれ?あれれれれ?月性ちゃん?なんで?」

月性ちゃん顔が赤いよ大丈夫?と誰かが言った。

「脳外代表でーす。もうウーロン茶にしまーす。」

小峠は私の隣に座った。

「もう酔っぱらっちゃったの?月性ちゃん。」

(…ちょっと…トウコに触らないで下さい)

小峠は皆から見えないことを良いことに、冬の太ももを触り始めた。

もうすぐ1次会も終わろうとしていた。

「カラオケ行く人―?」

「すみませーん私帰りますー。お疲れさまでしたぁ。」

挨拶も早々に、冬はそそくさと居酒屋を出た。金曜日のせいか、人通りも多かった。

「月性ちゃんー。もう帰るの?送っていくよ。」

(青年医師;病院でました。)

(ただ今、居酒屋●xの前。家で待ってて下さい。)

小峠に追いつかれてしまった。

…駅の向こう側だし、駅へ行く振りをして、巻けるか…も?

「僕が送ってってあげるよ。」

小峠は冬の腕を掴んだ。

「そう言えば去年もこんな感じだったよね。」

小峠は、冬の腰に手を回しガッチリと押えた。

…アクシデントです。

「やっぱさ、付き合う運命なんじゃない?僕たち?」

「あの…トウコは、今泉先生と…。」

「え…まぁたまぁた.。それも嘘なんじゃないの?」

…いや…これはギリギリホントだよね。

「ねぇ家遠いんでしょう?どこか休んで行こうか?」

小峠はホテル街へとさりげなく冬を連れて行こうとした。

「ちょっと…せんせ…どこ連れてくんですか?トウコは行きませんからね。」

冬は足を止めた。

「なぁーんにもしないから。休むだけ。ね?」

…眠い。

「駄目です…もう眠いから帰りまーす。」

冬はメインストリートから離れたらまずいと必死になったが、足元がふらふらで思うように歩けなかった。

「友達呼ぶんで大丈夫でーす。」

…携帯から誰かに電話をして助けて貰おう。

「えー僕が送っていくって言ってるじゃん?月性ちゃんの家ってどこ?一緒に行ってあげるよ。」

…だが…断る。

「ちゃんと一人で帰れますから…。」

小峠のが腰に回した腕を振り払おうとした時だった。

「あれ?月性さん?」

小峠と冬が同時にその方向へ向くと、今泉がこちらに向かって歩いてきていた。

…救世主 現る

「今泉センセ…一緒に駅まで行って下さいますか?」

小峠をチラリとみた。

「ええ…良いですけれど。」

「さっき月性さんが言っていたけれど今泉先生と月性さんって付き合ってるの?」

短い沈黙が流れた

「ええ…つい最近ですけれど…。医局長も、師長も公認の中です。」

小峠は少しびっくりしたようだった。

「では~小峠せんせ。おやすみなさいー。」

冬はそう言って今泉の腕に摑まった。
暫く歩くと今泉が止まった。

「月性さん…どれだけ飲んだんですか?」

今泉は酔っている割に、冬からアルコールの香りがしていないことに気が付いた。

「あーっと…今日はグレープフルーツサワー1杯ですかね。」

「1・2・3の1杯?」

「はい。そーです。」

ふらふらしている冬の腰を躊躇しながらも、
転ばない様にと支えた。

「沢山のいっぱいじゃなくってですか?」

「はい数字の1でぇす。」

ふらつく冬を支えて、月性さんお酒弱いんですねと今泉は笑った。

「はーい。トウコ弱いんです。」

今泉は冬と10センチ程しか身長が変わらなかった。

「酔っぱらうと月性さんって可愛くなるんですね。」

「小峠先生に危なく連れ去れるところを助けて頂いて有難うございまーす。」

ぺこりと冬は頭を下げた。

「やっぱ可愛い…。」

駅まで数分の所で小鳥遊が歩いて来るのが見えた。

「あ…たかな…。」

冬は突然今泉に抱きしめられた。

「前向きに考えてね。僕とのこと…。」

今泉のフローラルの優しい香りが冬を包んだ。

「僕、本当に好きになっちゃったから。」

今泉は爽やかに笑った。小鳥遊はそれを数メートル先から驚きが混じった表情でじっと見ていた。

「小鳥遊先生…。」

冬が言うと

「見られちゃいましたかね。」

小鳥遊に少し恥ずかしそうに笑った。

「今、告白をしてOKを貰ったところだったんです。」

と今泉は言った。

「え?…トウコそんなこと言いましたっけ?」

「ええ、先ほど小峠先生に言われた時に…。」

「そうでしたか…では、今日はお疲れさまでした。」

少し間を起き、小鳥遊は優しい微笑みを浮かべ歩いて行った。

…先生お迎えに来てくれたんだ。

「タクシー乗り場まで送りましょう。」

今泉は、冬が乗るのを確認し、去って行った。冬は小鳥遊のマンションまでタクシーを飛ばした。

冬はマンションの入り口で待っていた。10分ほどして大きな影がこちらに歩いて来るのが見えた。

「トーコさん無事で良かったです。」

冬は小鳥遊と手を繋いだ。

「トウコが、小峠先生に連れて行かれるところを助けてくれたんです。救世主のナルシス王子現る♪」

小鳥遊の胸にチリチリとしたものを感じた。

「お迎えに来てくれてありがとう。トウコ嬉しかった。」

小鳥遊は冬の手をギュッと握った。

「あなたは…なんでそう無邪気でいられるんですかね?」

冬は小鳥遊に凭れ掛かる様にして歩いた。エントランスを入りエレベーターのボタンを押した。ドアは開いて、二人は乗り込んだ。

「トウコ…今はちょっと酔っぱらっちゃってるだけです。」

真っ赤な頬をして潤んだ目で小鳥遊を見上げる冬が愛おしかった。

同時に、いつもひらひらと舞っては、男性を惑わせるこの蝶を、標本針で刺し部屋に飾りたい。

自分のものだけにしたい衝動に駆られ、時々抑えることが出来なくなりそうだった。

「トーコさん…あなたは忘れてしまうかも知れませんが、僕はあなたの事を心から愛しているんですよ?」

寂しそうに言った。

「トウコもそうです…先生の事が好きです…でも、大人の関係と言われた以上は割り切った御付き合いでしょ?」

冬は,小鳥遊の腕に摑まりながらフラフラしていた。

「それは…あの時は、あなたのことをまだ良く知らなくて…。」

…今話しても覚えていないかも知れないのになぜ僕はトーコさんに言わなくちゃ気が済まないのだろうか?

「私はセンセのこと、尊敬してるし好きでしたよ…でもセンセは、遊びと言ったでしょ?」

それを聞いて冬が笑った。

…そうだ冬の体が欲しかったんだ。最初は…

「“大人の関係”ですよ?」

ゆらゆら動き倒れそうに冬がなるたびにその体を支えた。

「はい。」

「なら…それで良いじゃないですか?今が大切なんですよ。今が…。今を大切に出来ない人が未来も大切に出来るはずが無いもの。」

…僕は何をしたいんだ?

「明日は先生もトウコもお休みでしょ?…何をしましょうかねぇ。」

…何なんだこのざわつく気持ちは。

鍵を開け、部屋に入った。

「あー。今日疲れた。」

冬は洗面所で歯を磨いた。

冬は小鳥遊がしてきた今までの恋愛の中で一番手が掛からない。

女性は少々突き放したような、距離を置いて付き合う方が楽だった。そう思っていたのだ。

…今までは。

なのに、自分自身が冬と距離を置いて冷静でいる事が出来ないのだ。

小鳥遊は歯磨きが終わりうがいをしている冬に聞いた。

「ねぇ。初恋はいつ?」

タオルで口を拭きふらふらと戻って来た。小鳥遊は酔っていてもネクタイを緩めようとする冬が可愛らしかった。

「うーん…純愛のこと?それとも肉体関係を含む?」

「どちらのことも聞きたいです。」

無意識に冬は小鳥遊の手を取り、
寝室へと歩いた。

「うーん。どうだったかなぁ…。」

冬はベッドに座り、服を脱いだ。ストッキングをゆっくりとおろし、スカートのジッパーを下した、白のブラとショーツ。その恰好のまま洋服をハンガーに掛けた。小鳥遊が部屋着に着替えて、冬を見つめていた。


「あ…初恋か…。」

「6歳の時かなぁ。近所に住んでたタカシくん。優しかったから…。でぇ…大人になってからは…エリッ…。」

途中までそう言って黙ってベッドに潜り込んだ。

…エリックが初めての人。

「初めてだったし、大好きだったからとっても緊張したの…先生は?」

「初恋は、近所の髪の長い女の子でした。初めてしたのは…19のときでしたね。」

「ふーん。」

冬は小鳥遊の胸に顔を埋めた。

「最初はどうでしたか?」

冬が酔っていることを良いことに、反則技だとは思いつつも、色々聞いて見たくなった。

「痛かった。こんなことしていつか気持ちが良くなるのかなと思った。」

小鳥遊は笑った。

「僕は、相手の方が処女だったので、先しか入れられませんでした。」

冬は笑った。

「で…どうでしたか?イキましたか?」

「ええ…先っちょだけでも気持ちが良かったですから。」

「流石…妄想王者。」

冬が笑った。

「なんか、プライベートではどんどん酷いあだ名が増える気がするんですが…。」

冬は大きな欠伸をした。

「トウコ…したくなっちゃった…けど…眠いの。じゃあ…明日は処女を愛するように優しく愛して♪」

冬はその酔った熱い唇で、笑っている小鳥遊の首にそっとキスをした。

「良いですよ…途中で寝ちゃっても…僕セルフで続けますから。」

冬の胸をブラの上から優しく触った。

「おお…せんせぇの独りエッチ見たいかも~。」

冬は小鳥遊のスウェットの上を脱がせた。

「違いますよ。セルフ・トーコです。」

冬は笑って、そしてブランケットの中に潜り込み、ズボンと下着を下した。そこは、既に大きく硬くなっていた。冬はそっとそれに触れ、先を口の中に入れた。

「あ…ちょ…処女はフェラなんてしないでしょ?」

突然の先端への甘い刺激に小鳥遊の腰が少し引けた。

「やっぱり?そうですよね普通。」

まるでソフトクリームを舐めるような舌使いで冬は小鳥遊を愛撫した。張り付くような気持ちよさに、冬の頭を無意識に抱え込んでいた。

「まさか、トーコさん…初めての時にしたんですか?」

小鳥遊は笑って聞いた。

「うん…だってぇ…みんなしてるってぇ…思っていたの。」
「相手の男性はびっくりしてなかったですか?」

小鳥遊はクスクスと笑った。

「はい…びっくりしてましたぁ。友達たちが“挿れる前に、最初はするもんだよ”と言ってたからやったのにぃ…2-3人付き合った後、かなり経ってからあれは冗談だよって。」

小鳥遊は優しく冬の髪を撫でていた。

「ねえ…トーコさんに…挿れたくなってしまいました。」

「じゃぁ、今日は処女設定なので、正常位だけでお願いしまぁす。」

今、咄嗟に決めたんでしょうと笑いながら小鳥遊が触れると、冬は充分に潤っていた。冬に自分の先端を当てがい、くびれ部分までをゆっくりいれた。

「あ…ん。」

冬の甘い声は耳に心地が良かった。先だけでゆっくりと冬を刺激する。ゆっくりとかき回すとねちゃねちゃといやらしい音がした。

「もっ…と。」

冬は小鳥遊を欲しがり、腰に絡めていた足に力を入れて小鳥遊を引き寄せた。

「意地悪しないでぇ…あぁ…中に…深く入れてぇ。」

アルコールでピンク色に染まった冬の身体は艶めかしかった。

「処女はそんないやらしいことは…言いませんよ…。」

小鳥遊はそう言いながら、冬の中を掻きまわしながら進んだ。

「はぁ…いぃ…もっと…。」

小鳥遊を根元までしっかりと咥えこんだ冬の中はピクピクと動いていた。

「ぁぁ…気持ちがいい…」

小鳥遊はゆっくりと腰をスライドさせた。冬は抵抗も無く迎え入れそれを優しくねっとりと締め付けた。

「せんせぇ…トーコだけを見て…。」

段々と熱を帯びてきた根元に力を入れる。

「あなただけを見てますよ。」

「…感じる…先生…一緒に…。」

冬の艶めかし顔を見つめる身もだえながら喘ぐ冬が吐息の間で言った。

「…もっ…と…激しく…トウコを犯して。」

「あぁ…そんなこと…言われたら…。」

小鳥遊は大きく強く何度も動いた。下半身に血流が集まりだしたのが判った。どくどくと拍動し、その波は徐々に大きく強くなるようだった。

「あぁ…いく…。」

そう言って白い液体を冬の中に衝動と共に押し出した。

「…ガク…愛してるわ…。」

冬は快感とともに至福の眠りに落ちた。


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「師長さん…病院全体の忘年会…行きたくないから準夜にして下さいな♪」

今年は特に色々なところの忘年会に派遣され酷使されているのは絶対に気のせいでは無い筈だと冬は思った。

「だーめよ。あなた有名人だから、院長もまた会いたいって言ってるし、病院のパンフレットなんかに使う写真を撮りたいからって言ってたのよ。」

…だったらもっと若くて可愛い子にした方が良いと思いますよ?

「だから月性さんは日勤さんでお願いします。」


今回こそは、飲まないと決めて後輩や新人と共に参戦。ちゃんとドレスコードがあるので面倒だ。

立席だが、テーブルごとに部署が分かれている。
脳外、ICU、オペ室は、医局長同士が仲が良いので、大抵の場合同じような場所に固まる。

冬はひざ丈の、ブルーのワンピース。背中が少し開いている。新人はいつも目を付けている医者を目で追ったり、少し話したりして楽しんでいた。

長い院長の挨拶が終わった後、好きなものを持ってきて食べる。毎年ほぼ同じ感じだ。

月性げっしょうさん。」

振り返ると今泉が立っていた。冬はあの時以来会っておらず、勤務交代などが重なり、ラッキーなことにデートも出来きていなかった。

「ああ…今泉先生…この間は有難うございました。」

そう言えば、何度かメールと電話を貰っていた。

「月性さん…僕の彼女なのに既読スルーとか酷いですよ。」

今泉は哀しそうなそぶりを見せながら言った。

「僕が番号渡した子で電話を掛けてこなかったのは月性さんだけかも…。」

…ナルシストも健在か。

「ま…それは冗談として、僕小峠先生もあなたのことを狙ってたなんて知りませんでした。」

…ああ危うく再びアクシデントに見舞われるとこだった。

「あら…そうなんですか…知りませんでした。」

冬は笑って誤魔化した。

「あの…忘年会終わったら飲みに…じゃ無くて何か甘いものでも食べません?」

今泉は笑った。

…ん?飲みにとか、食事に…などは良く聞くが、なかなか出来る子なのかもしれない。

冬は今泉の事を、余り気にも留めていなかったが、普段とはちょっと違う誘いにびっくりした顔をした。

「どうしました?」

「ああ…飲みにとか誘われるんですが、私はお酒を飲めないので、すぐお断りしちゃうんですけれど、気を使って下さっていただいてるんだなと思いまして。」

冬は手に持っていたウーロン茶を今泉に見せた。

「ちょっと僕のこと好きになっちゃったでしょ?」

今泉は悪戯っ子の様に笑った。

…これだ! これに女は騙されるんだ。私のバックに変態エロがついている限り惑わされないぞ。

「はははは…どうコメントして良いのか。」

冬は笑うしかなかった。

「で…。お返事は?」

今泉は冬の目を見て待っていた。

…スウィーツだけならまぁいっか。

「判りました…良いですよ。」

「本当に?じゃあ 一旦どこかで待ち合わせして、それから行こう。僕も今日車で来たんだ♪お酒飲めないから。じゃあまた後でね。」

そう言って冬からすっと離れた。小鳥遊、小峠、高橋…以下雑魚がぞろぞろとやって来た。

小峠は流石に小鳥遊が見ている所では、冬には声を掛けて来ないので、何気なく小鳥遊バリアの中に納まっていれば安心だった。

「先生…師長が来るまで、ちょっと傍にいさせて下さい。」

小さな声で言った。

「さっき楽しそうに今泉先生とお話されていましたね?」

小鳥遊は思わず、聞いてしまった。

…聞かなくても良いことを…冬のことになると調子が狂う。

「ええ…この後、とうとうデートに誘われてしまいました。」

「そうでしたか。」

小鳥遊はそう答えるのが精いっぱいだった。

―――短い沈黙。

…変態エロが行くなというなら、行かないでも良くってよ?

「じゃあ気を付けて…。」

小鳥遊はあっさり言った。

「えっ?」

冬は、行くなと言われるだろうと思っていた為、驚いて思わず小鳥遊の顔をまじまじと見た。

「えっ?何ですか?」

小鳥遊は冬の顔を見て微笑んだ。

「止めないんですか?」

…普通は止めるでしょう?

「止めて欲しいんですか?」

…うわ…もうメンドクなった。

丁度後輩が近寄って来た。

「月性さん。医局長と写真を撮って下さい♪」

…ほら変態エロお前の出番だ。

「嬉しいぁ。若い子に誘って貰えるなんて…。」

…写真…だがな。

後輩は小鳥遊の腕に自分の腕を絡ませた。

…あーあー鼻の下伸ばしちゃって。

「あ…月性さんも撮ってあげましょうか?」


「え…私は大丈夫。
小鳥遊先生、若い子が良いみたいだし…。」

そうですかーと後輩は笑った。

小鳥遊がちょっと寂しそうな顔をしたのが目の端で見えた。

「あ…でもせっかくだし撮って貰おうかな。」

冬は後輩に携帯を渡した。

「はーいチーズ♪」

小鳥遊は冬の肩を抱き寄せた。

…そっか。二人で初めて写真撮ったかも。

「あ…では僕の携帯でも月性さ…ん…と。」

スマホを差し出そうとした時に、遠くから声が聞こえてきた。

あー!せんせいぇ…。

黄色…違う…赤色の声が遠くから徐々に近づいて来た。出た!熟女看護師軍団。

「ねぇ…せんせ写真一緒にとって~♪」

「せんせカッコ良いから旦那に見せちゃう♪」

パートの人や受付など、小鳥遊は物腰が穏やかなので人気があった。ここから怒涛の写真撮影大会だった。

…渋チン…さらば…健闘を祈る。

冬は意地悪な微笑みを浮かべながら他の看護師の元へと逃げた。師長も会議の後遅くなってから参加したので、師長にくっついて回った。

「あなた 院長にご挨拶に行った?」

「いえ…師長を待ってました。」

…嘘です。

「あら♪じゃあご挨拶に伺いましょう。」

そういうと、看護部長、院長の所へ連れて行かれた。テレビのテロップに病院の名前が出たと嬉しそうに話し、これからも頑張って下さいとのお言葉を戴いた。やっと熟女軍団から解放された先生からメッセージが来た。

(青年医師:嘘です…飲みにいかないでぇぇ。)

(大丈夫。…甘いものを食べに行くだけだから。)

(青年医師:あ…後方に禿!)

「月性ちゃん。」

メッセージを見たのと同時に小峠から声を掛けられた。

「わ…お疲れ様です…何でしょうか?」

「この間は今泉先生とあのあとどこへ行ってたのかなぁ。」

にやにやしながらやって来た。

「自分の家に帰りましたよ。」

手が届かない位置に少し距離を保つ。

「ふーん。なんか妬いちゃうなぁ。」

じりじりと近寄って来る禿。

「ねえ今夜はどうするの?」

「先生…医局長が…見てますよ。」

小鳥遊は確かにこちらを見ていた。

「あ…じゃあまたねぇ。」

(ありがと はぁと)

(青年医師:何かあったら連絡下さい。裸でエプロンで待ってます はぁと)

冬は遠くに居る小鳥遊と見つめ合っていた。

忘年会は無事に終わり、各々好きなメンバーと纏まって飲みに行く話をしていた。冬はロビーで人がはけるのをさりげなく待っていた。

(青年医師:熟女に拿捕された。二次会なり)

(首尾よく任務を全うせよ。裏情報の宝庫だ。ベストを尽くせ。)

背の高い小鳥遊が、おばちゃん軍団にガッチリとガードされて出ていくのが見えた。

…頑張れ小鳥遊…お前はやれば出来る子だ。

冬の携帯が再びメールの着信を告げた。

(今泉:今泉です。裏の黒いポルシェです。)

(判りました。今行きます)

こうして今泉と冬の初めてのデートが始まった。

「お待たせしました」

車内で待っていた今泉に声を掛けると、爽やかな笑顔で冬を迎え入れた。

「さぁ行きましょう。乗って下さい。」

右側のドアを開け座ると車内はフローラル系の女性っぽい香りがした。

「店内で食べるのと買って夜景を観ながらとどちらが良い?」

「では…お店で」

冬はロマンティックなムードになるような状況を回避したかった。

「南青山に遅くまでやってるホットケーキ屋さんがあるんだけど、そちらにしますか?それとも渋谷にあるシフォンケーキのお店。」

…流石遊び人…ってそうだよね。遊んでるわなぁこのルックスじゃ。

「ホットケーキ…美味しそうですね。」

判りましたと言って今泉の車は動き出した。今泉をこんな近くで見たのは初めてだ。

…確かにちょい悪エロより白馬の王子さま系のお顔をしていらっしゃる。

今泉は、まさに童話の世界から抜け出てきた様な絶世の美男子だった。

…睫毛長いし、目が綺麗。それに鼻の形も素敵。どうしたらこんなパーフェクトフェイスに生まれる事ができるのかしら?

「今日は忙しかったですか?」

冬は聞いた。

「麻酔科医は、緊急さえなければ、ほぼ定時…とまではいかないけど、時間通りですからね。」

…そっか…病棟に比べてオペ室とかICUの看護師が結構早くに終わるのと同じか…。

「脳外病棟はいつ行っても忙しそうですね。僕、月性さん見た事ないなぁ。」

「そう言われてみればそうですね。」

「もしかして…僕から隠れてた?」

今泉が爽やかに笑うと、白い歯が見えた。

…わわわ…もうちょっと若けりゃキュン死してるかも。

「ははは…小峠ブロックに掛かってたのかも。」

「さっきもお話してましたね。」

…あ…見られてたのか。

「あれってお話っていうのかしら…ちょっと微妙です。」

冬は自分がよっぽど嫌な顔をしていたんだろうなと思った。

「でも…この間丁度、話している時に医局長が来て注意して下さったんです。なので今後は大丈夫かと。」

私は笑った。

「ふーん。そうなんだ。」

…沈黙

「ところで、今泉先生は何で私をお誘い頂いたのでしょう?私よりも若くて綺麗な看護師や素敵な女医さんは沢山いるでしょうに。」

冬にはそれが判らなかった。

「うーん…何でだろう。可愛いから?特に酔ったところが可愛かったから?」

…だから…それやめて。

「さあ着きましたよ。」

素敵な可愛らしいお店だった。

「ここのホットケーキ美味しいんですよ。」

カップル…と言うよりは女性同志でくるような感じの場所だった。

「よく姉に連れて来られていたんです。」

「そうなんですかー。」

…また…これ…無難な受け答えだわ。

「じゃあ 今泉先生のお勧めのホットケーキにします。」

今泉はとっても美味しいんだよと少年のように無邪気に笑った。

…ま…眩しい。

「先生は甘いものと、お酒どちらがお好きなんですか?」

冬も今泉もブラックコーヒーを頼んだ。

「僕はどちらかというとお酒ですかね。弱いですけれど。」

「お酒飲むと陽気になる方ですか?
それともからんじゃうとか?」

…こんな先生に甘えられたら、女子はもうキュンキュンしちゃうだろうなぁ。

「月性さんと同じで、可愛くなる…かなぁ。」

…ちょこちょこ挟んでくるなぁ。

コーヒーを飲みながら今泉は言った。

「想像出来ないですね。」

「だから、あんまり外じゃ飲めないよ。」

今泉は、それに車のことが多いからと笑った。

「私も同じです。だから一緒に飲む人を考えないといけないの。」

冬は気の置ける友人の前でしか飲まない様にしていた。

「じゃあ今度、僕の家で飲んで、可愛くなった僕を見てみます?」

…だーから。それやめれ…。

冬は整った顔で無邪気に笑う今泉にドキドキした。ふわふわのホットケーキは温かくてとても美味しかった。

「先生は明日は?」

「普通に仕事ですね。」

…あ…そうだ明日は脳外オペ日だ。

22時を過ぎていた。

…あ…そろそろ帰りましょうか?

「そうですね。」

ふたりは席を立った。冬は今泉にきっちりとお金を渡した。冬はデートする時には必ず割り勘にしていた。気にすることは無いのにと今泉は笑った。

…あ…でもエロスは違うか。

「こういうことはきっちりしとかないと。」

では…ありがたく頂きますと微笑み、助手席の車のドアを開けた。

「お家まで送りますよ。」

ハンドルを持つ手も、白くて大きくとても綺麗だった。

「いえ最寄りの駅までで大丈夫ですよ。」

…ちょっと警戒。てか流石に先生のマンション前まではまずいもんね。

「判りました。」

…あら…結構あっさりしてて良かった。

駅までは直ぐについた。

「どうも有難うございました。では…」

駅の方向へ歩き出した時に呼び留められた。

「月性さん!忘れ物…。」

…え?

「ごめんなさい私何か忘れてましたか?」

冬は慌てて車に戻ると、今泉は運転席の窓を大きく開けて少し顔を出した。

「はい 忘れ物。」

―――チュッ。

今泉はそっと冬の顔を支えたかと思うと、顔を近づけて、冬の唇を吸うように優しくキスをした。ホットケーキ・シロップの甘い味がした。

冬は、余りにも唐突で、一瞬の出来事だったので呆然とした。冬の顔は紅潮し、耳は真っ赤になった。

「おやすみなさい♪また…ね。」

今泉はとても嬉しそうに笑って車を出した。

…あれ?なんか…私…キュンキュンしてる。




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