小鳥遊医局長の恋

月胜 冬

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密かな想い

突然の始まりは嘘から

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「ねぇ。今日準夜でしょ?当直室来ない?」

ナースステーションに誰も居ないことを確認し、小峠ことうげ医師はねっとりとした甘え声で話しかけて来た。


「ええ。でも…。」

誰かが残したままの脳外科の雑誌を片付け乍ら、気の無い返事を返した。

「生でさせてよ。」

…コイツ…やっぱ無理っ。

看護師 月胜 冬げっしょう とうこ は考えていた。


「だってピル飲んでないですし…。」

生でしたいとか、今時ゴネる医者いる?

遊び上手な医師なら、そういうところを一番気を付ける筈じゃないのか?

それともこのハゲ…ただの馬鹿なのか?

「あ…これ明日の朝から飲ませてぇ…。」

小峠ことうげ医師はPCのモニターを見ながら処方入力。

「緊急以外、オーダー変更は日勤でお願いしますって言ってますよね?」


小峠医師は、椅子から立ち上がると、じりじりととうこに近づいた。

月性げっしょうちゃんなら余裕でしょ?薬剤部にもう電話しといたからさぁ.頼むよ。」


••••頼むよ…緊急以外は、日勤帯で終わらせてくれよ。

「判りました。」

…早くここから立ち去りたい。

「ねぇ…月性げっしょうちゃん♩」

小峠医師が、とうこの尻を鷲掴み。

「ちょっ…。」

大きなため息をつく。

…だ・か・ら!!公衆では止めようよ。

「あ…もう感じちゃったぁ?」

…お前は…やっぱり真性馬鹿だ。

さらに忍び寄る小峠の魔の指先から、
素早く逃げた。

「小峠先生…この際ですからはっきり申し上げてお…こ…。」
 
冬が声を荒げた時だった。

「戻りました~♪」

点滴の交換や、見回りから他の看護師が戻って来た。

「じゃあ…お願いね」

何も無かったように、そっと冬の傍を離れた。

(待ってるから…)

小峠は唇の動きで読めた。

「小峠先生…その指示絶対無理ですからね」

冬は去って行く小峠の背中に向かってため息をついた。

「トウコどうしたの?またこんな時間に指示変更?あの禿」

冬と同期の 岩田看護師が、
端末からデーターを入力しながら呆れた。

「うん…。」

冬は再びため息をついた。

「…ったく。ナースにちょっかい出す暇があったら、さっさと指示くらい出せ!ヴァーカ!!」

きっかけは、冬が忘年会の帰りに気が付いたら、ラブホテルで小峠が自分の隣に寝ていた…ってだけだ。それ以降しつこく誘われ当直の度に、ほぼ無理やり襲われた。

…なんでよりにもよって…小峠なんかと。

冬は禿げるかと思うほどに落ち込んだ。バイタルチェックの患者をタブレットでもう一度確認してから、自分の勤務最後の検温に回る。

「見回り行ってきますー。」

他の看護師はPCの前に座っていた。

「はぁい…トウコいってらっしゃい。手伝い必要だったら言ってね」

点滴の残量を確認したり、モニターのチェックなど一回りするのに1時間。オムツや体位変換、重症患者が居る場合や、途中で担当患者にナースコールで呼ばれることもあるので、もう少し時間が掛かることもある。

経験が長くなってくると新人指導なども入り、大変なこともあったが、仕事はやりがいがあり楽しかった。

…今日はあの禿に合わず帰宅し、この先はこのまま…フェイド・アウトしたい。

タブレットと懐中電灯、体温計や血圧計、交換用の点滴などの備品を小さなカートに乗せて部屋を見て回る。

カラカラと小さな音を立て廊下を滑るようにカートは動いた。徘徊する患者は居ないが、一応…空き室も確認するのが冬の癖だった。空き部屋の前に来た時に、大きな腕がニュッと出てきて、冬を個室へ引っ張り込んだ。

「わっ」

冬は思わず小さな声をあげた。

…びっくりした。

月性げっしょうちゃん…最近ちょっと冷たくない?」

ドアをすぐに閉め,小峠は鍵を掛けた。

…ホントに面倒臭いな。海に帰れ。

冬は大きなため息をあからさまについた。

…仕事もこんなに素早くしてくれたら良いのに。

「この前に、これで最後って私言いましたよね?」

…もう手が掛かる医者はこりごり。

「どうせ後で来ないつもりでしょ?じゃあさ…5分で済むからココで…しよ?」

…気持ちよくさせる気…皆無な禿。しかも人の話を聞いてないし。

逃げるのは諦めて、冬は白衣の下のガーター・ストッキングの上に履いたショーツを脱いだ。

「やっぱり月性ちゃんはいい子だね…。」

小峠もすぐにズボンを下す。全然気持ちよくないセックス。

…医者なんだからもう少しうまく出来ないもんかね。

冬はベッドに摑まり おしりを突き出した。

「もう僕は…パンパンなんだよ。最近君とご無沙汰だから」

…って他病棟の看護師ともヤッてるって噂があるけど?

”みんなに僕との関係をバラしちゃうから♪“

小峠は、クリスマスの事件以来、冬の事を脅しては、断れない状況を作っていた。

コンドームを付けると前戯も無く押し入ろうとする。少々痛いがもう慣れた。

「君は締まりが良くって気持ちが良いんだよね。趣味で乗馬してるんだっけ?」

…おい禿…どこ情報だ。

「ええ…。」

乗馬には、忙しくて暫く行っていない。馬はいつも正直で優しい…そんなところに冬は癒しを感じた。それよりも何よりも、子供の頃に飼っていた愛馬を思い出した。

「ちょっと…股開いてくれる?」

…股って…もっとマシな言い方があるでしょ。

小峠は 冬の肩をがっちりと後ろから掴んでいた。その太い指は冬の細い肩に食い込んだ。挿入しようとするが、なかなか見つからないらしい。

身長差がなさ過ぎるのだ。

時間が気になった。

…点滴交換…アラーム鳴る前に交換しないと…。


カートの上の担当患者の点滴を見つめた。微量点滴装置にセットされた輸液が無くなる少し前には、アラームが鳴る様にセットされてる。

…早くしないと、誰か来ちゃう。

スタッフは、ナースステーションに輸液が患者の交換輸液が無ければ、必然的に、とうこと、輸液を乗せたカートを探す。

冬は少々焦っていた。

「せんせ…騎乗位にしません?」

4畳程の狭い個室のベッドでのセックス…しかも相手は小峠では、興奮も何も無いつまらないものだった。

「それは良いね…。」

シーツ交換をしたばかりのベッドに処置に使う防水シートを敷いた。小峠が横になるのと同時に冬は跨いで座る。

「僕ね…毛が無くてツルツルが好きなの。日本人は少ないけど。それにガーターベルトなんてエッチで良いよね」

…ハゲ洋物好き確定。

「昔の彼氏がそういう趣味だったとか?」

…煩い黙れ。

冬は笑って誤魔化しつつ、間違っても白衣が汚れないようにたくし上げた。

「ああ…良いね。そうすれば良く見える」

冬は先端からゆっくりと自分の中へと小峠を沈めていく。

「あああ…君のは…本当に…ああ」

一番深くまで入ったところで、少し喘ぎ声を冬が出すと小峠は喜んだ。

…全然気持ちよくなんて無いから。

「乗馬するとあそこの周囲に筋肉が付くからね…締まりが良くなるんだよ。…ああ」

腰を使い、小峠をグリグリといたぶる。

「…ぅぅ…もっと深いのが良いね」

…早く…イケ。

小峠の腰に冬は打ち付けるように自分の腰を上下に動かした。乾いた音とベッドの軋む音が小さな部屋に響いた。小峠の太い指は冬の細くて白い腰をしっかりと押え揺らした…がタイミングが合わず、冬の動きを邪魔する結果になった。

…ああ…もう下手糞!

冬はもどかしくてイライラした。

「うぅ…。」

小峠は、冬の中でもう既に拍動し始めた。

「せんせぇ。どうして欲しいの?」

「もっと…早く…。」

冬は小峠医師の要望に応えた。

…自分で動いた方がまだましだ。

「繋がってるのを…よく見せて」

懐中電灯を小峠に持たせると、冬はベッドの柵に捕まり、大きく激しく動いた。

…この状態…ちょっと笑える。

それは不埒なふたりの接続部を煌々と照らした。

「はぁ~はぁ~良いよぅ…凄くぅ良いよぅ…。」

小峠は興奮しながら、ギラギラとした目で冬の中に出入りする短小のそれを凝視していた。


「月性ちゃんも 濡れてきたんじゃない?」

…こんなんで濡れるか。

「そう…かしら…ん」

冬が演技をしているのも知らず,小峠医師は嬉しそうだった。

…といっても小峠はマグロで自分で動くだけ。

不覚にも冬は潤い始め、いやらしい音をたてた。

「す…凄い濡れてる。僕のおちんちんが気持ちが良いんだね?」

…気持ちよさに関係なく女性は濡れる事をコイツは知らないのか?

「い…いい」

…ここまでで約2分。

「あん…」

リップサービスの甘い声を耳元で囁く。

「トウコちゃん もう…我慢できない…出すよ…出すよ」

…名前で呼ぶな。

「うっ。」

昇天。

とうこの業務の一環であるかのようなセックス。小峠が起き上がりズボンを履いている間に、使用済みのコンドームをカートの下の段に乗せた。

「言い難いんですけれど、私…今は小鳥遊たかなしセンセと御付き合いしてるんです」

冬の声は、一気にビジネスライクな調子となった。

「えっ。そうなの?」

小峠は、直属上司の名前を聞いてたじろいだ。

「なんで…なんで?よりによって医局長と月性げっしょうちゃんなの」

動揺,困惑,怒り…が小峠の顔に次々と浮かんだ。

…ざまぁ見ろ。

冬は言い難そうな振りをして見せた。

「えー…なんでって…二人でいる時に押し倒されちゃったの。ずっと前から憧れてたし」

「月性ちゃん…それホントにホント?」

小峠は縮んだゴム臭いそれをズボンにしまって、ベルトを締めなおした。

「だから今日が最後…ごめんなさい。楽しかった…かな…では」

楽しかったと言ったのは冬の小峠への精一杯の優しさ。


小鳥遊 たかなし医局長は既婚の脳外科の医局長で、小峠の上司。真面目で渋め、ワイルドな働き盛りの40代。仕事も早いし、他の医者と違って、看護師が催促や確認をしなくても指示漏れなども無い珍しく“完璧”な医者。

人望も厚く、浮いた噂は一切なしの上に、奥さん一筋…と噂があることも年齢を問わず、ファンが多い理由だ。

…そんなカタブツ医局長と寝た…なんて言ったら、そりゃ誰だって驚くよね。

冬はカートを押しながら、
小峠の驚く顔を思い出し笑った。

…そんなん…嘘に決まってるじゃん。

医師との“プライベートなお付き合い”は、面倒だった。顔も普通で取り柄と言えば痩せてるだけの、自分のような看護師は所詮、不倫や、遊ぶのに丁度良いと思われていると冬は分析していた。

それでも言い寄って来る医師がいるのは、冬自身が思っているより美人で可愛らしかったからだ。

他の看護師とは余りつるまない上に、真面目で、分け隔てなく親切で、口が堅くプライベートもミステリアス。

そんな冬にとって小峠は普通なら、相手にもしない部類。

…完全なるアクシデント。

病棟でも隙あらばベタベタしようとしてくることが、とうこは何よりも許せなかった。

…見た目はイマイチ、遊びもセックスも下手な上に、仕事もできないって、マジで終わってる。

小峠は他病棟の看護師ともよく噂になった。それも何人も同時だった。その殆どは、看護師本人が他をけん制するために流しているようなものだ。

…そんなにまでして、あんな禿と結婚したいとか信じられない。

別段嫉妬もしなければ、詮索もしたくは無かった。点滴のカートをコロコロと押しながら、冬は次々に病室を巡回した。

…さらば禿!家に帰ってシャワー浴びて寝よっと。




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