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増えた秘密

正直辛い

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――― 冬休み。

「佑?ちょっと相談があるんだけど。出てこれる?」

ユカが暗い声で電話を掛けて来た。

「相談なら、電話ですりゃ良いじゃん。何?」

ユカのせいで面倒な事に巻き込まれるのは、もうこりごり。

「お願い…お願いだから…。佑以外に頼れる人が居ないの…。」

ユカは電話の向こうで泣き出した。流石に泣いている女の子をそのままにするほど俺も冷たい奴じゃない。

俺は、セナと買い物へ行く約束をしていたが、急に用事が出来たと言ってドタキャンした。

俺とユカは、駅前の広場で待ち合わせをした。ユカは青白い顔をしていた。その様子を見て何か尋常でない事が判った。

「おい…お前顔色が悪いぞ?大丈夫か?」

暫く見ない間にユカは痩せたように見えた。

「…うん。ここじゃなんだから、ファミレスへ行かない?」

俯いたままユカは俺を観ない。

「判ったよ」

いつもおしゃべりなユカが一言も話さないのは、不気味だった。

「冬休みは何してるの?」

話さずに歩くのもいよいよ気まずくなった俺が話しかける。

「家でゴロゴロ…かな」

友人が多いユカだ。遊びまわってるんじゃ無いかと思ってたのに。

「お前が家でゴロゴロなんて珍しいんじゃない?」

「…うん」

近くのファミレスに俺たちは入った。俺はオレンジジュース、ユカはホット・レモネードを頼んだ。

「で…話って?」

俯いたまま黙り込むユカ。

「おい…相談があるって言うから来たんだぞ?」

俺は上着を脱いで、ボックス席の奥に押しやった。

「…うん。ごめん…ね。そうだよね」

今にも泣き出しそうなユカに俺は慌てた。

「あ…いや…ユカがあんまりにも深刻そうだった…からさ」

ウェイトレスが、注文したオレンジジュースと、ホット・レモネードを運んできた。ちらりと俺たちの顔を交互に観た。

…なんか、別れ話をしているカッポ―みたいじゃねーか。ちーげーよ。

思わずウェイトレスの頭上を観てしまった。
いつものように映像は一瞬で始まる。

(あん…お兄ちゃぁん。だいしゅき♪)

…しかもプライベートでもコスプレかよ?

アニメから出てきたようなおっぱいを強調するメイド服を着ている。“お兄ちゃん”と呼ばれるそいつは、30を余裕で超えてるっぽい。

…ちょっと待てよ。この若禿どっかで見た覚えが…。

(お兄ちゃんはもう我慢が出来ないよぅ。おちんち●が痛いよぅ)

若禿は股間を膨らませている。

(我慢が出来ないって何?なんかおちん●んが腫れてるよ?)

ふわふわとしたスカートの下にガーターベルトを履いていて、ぶりっぶりのレースのショーツを履いている。

…ふーむ。ちょっと細すぎだ。俺のタイプでは無い。

まぁそれでも視るが。

(ミキのをくちゅくちゅすれば、痛くなくなるよぅ)

男は、ズボンを徐に脱いだ。

…ちょ…それがお前の全力か?ようビッツ。

俺よりも一回り小さいそれは、いっちょ前に勃起をしていた。ショーツを脱がすと、太い指で黒い綿毛の中を探っていた。

(ここを触るとね、ミキも気持ちよくなるからね)

クリに触れているらしかった。

(今度は指を入れて見ようね?)

…なんか展開早くねーか?

何度か動かしているとねちゃねちゃと音が聞こえ始め、透明な液体が綿毛に囲まれた薄紅色の中心部から溢れ始めていた。ふわふわスカートを持ち上げて、脚をM字に曲げているミキ。

…セナにも…着させたい。

(ミキ…僕のおち●こをここにいれるよ?ちょっと痛いかも知れないけど、すぐに気持ちよくしてあげるからね)

若禿は、自分の親指王子をゆっくりとミキに挿し込んだ。

(お兄ちゃぁん。赤ちゃん出来ちゃわない?)

がっしりとミキの腰を掴んだ若禿は、へこへこと犬の様に腰を動かし始めた。

(へ…平気…だよ…。外に…出す…から…。)

そう言いながら、ぶちゅぶちゅといやらしい音を立て乍らミキにキスをした。

(ミキ…舌を出してごらん?)

若禿はミキの舌に自分の舌を絡めた。突くたびに、フリルの沢山ついたスカートが軽やかな音を立てた。

(お兄ちゃんのおちん●んいっぱい欲しい。お兄ちゃぁん♪お兄ちゃぁん)

ミキは甘い声で啼いている。なんだか中学生ぐらいに見えて来た。

(ミキ…気持が良いよ…ま●こがぐじゅぐじゅ言っているよ?生は、気持ちが良いなぁ)

(はぁん♪お兄ちゃん…ミキ悪い子なの…何だか気持ち良くなって来ちゃって怖ぁい)

ミキは若禿に腕を巻き付け、脚を腰に絡みつけた。

…だいしゅきホールドだ♪

(い…い…いく…ミキぃ…お兄ちゃんいくようぅぅ。ま●この中に…あっ)

若禿が引き抜くと、たらたらと白い液体が零れ落ち床に広がった。

(ミキ…ちゃんと外に出したからね)

…おい…立派に中だしじゃねーか。

若禿は縮んだ親指王子をティッシュで拭くと、ミキのそこも丁寧にふき取った。若禿は身なりを整えると、財布から万券を数枚出して足を開いたままのミキに渡した。

(これ…言ってたよりも大目だけど♪気持ちよかったぁ。じゃぁねぇ)

若禿はすぐに部屋を立ち去った。ミキが体を起こすと、蜜壺の中から、白い液体がドロリと流れ出た。ミキの顔に怒りの表情が浮かぶ。

(ちょっマジかよっ!中だしじゃねーか。糞禿がぁ!!)

ミキの豹変ぶりに、俺のち●こも縮みあがった。

俺はハッとした。どれぐらいの時間ボーっとしていたんだろうか?ユカが俯いたままということは、何も話さず沈黙していたに違いない。

「黙ってちゃ判らない…だ」

せかせるつもりは無いが、静かなユカをこれ以上見ているのが辛い。

「出来ちゃったの…。」

…今 何と?

「はっ?」

俺の頭は混乱した。

「妊娠したの…。」

…中だしされたのはコスプレ・ミキで、ユカは…。

「へっ?」

…落ち着け自分。

「だから赤ちゃんが出来ちゃったの」

ユカは初めて俺の顔を見つめた。

「ちょっと…それ…って」

「元彼の子…だと思う」

「お前…それ俺に相談する事じゃ無くて、元彼に相談する事だろ?普通」

「うん…相談した…けど・・・・。」

「けど?」

「家に行ったら女が居て、それが本命の彼女で…修羅場になっちゃって…お金投げてよこしたの」

…ひでぇ。

「産婦人科の処置の予約を今日取ってあるの。だけど誰か付き添いが必要だって言われたんだけど…両親には心配かけたくないし、言える友達は、佑ぐらいしか居なくって」

ユカの眼から大粒の涙が溢れ頬を伝う。

「お前…これからって…。」

「1時間ぐらいで終わるって。こんなこと頼んでホント…ごめんね。お金はあるから…。」

俺は大きなため息しか出なかった。

「わかった…判ったよ」

ユカは結局レモネードには口を付けず、俺たちは店を出た。

駅から近くの産婦人科には女医が診察をしてると言うので、ユカが選んだらしい。

「こんな人目につく病院で…友達に見られでもしたらどーすんの?」

冬休みで、小学生や高校生らしき年代の若者で溢れかえっていた。

「今日しか開いてないって言われたから…。」

綺麗な産婦人科の入り口でユカは、立ち止まり震えていた。

「おい…こんなところで立ち止まってたら目立つだろ?」

俺はユカの手を取って、病院の中へと入った。
受付で問診票を渡され、手術同意書にサインを書いた。

――― 着信音。

ユカが手続きをしている間に、俺は入り口の傍で携帯を見ると
セナからだ。

「ねぇ…今どこ?」

俺は焦った。

「あ…今…友人と、ファミレスだよ」

俺は静かな声で話していたが、傍に座っていた妊婦が俺をちらりと見た。

「そう…じゃぁ…ね」

セナがすぐに電話を切ったのでホッとした。ユカは俺に紙を渡した。父親の名前には、元彼の名前、俺は付添人として名前を書いた。待合室とは別の場所で待たされた。妊婦が行きかうし、これから処置をする患者への配慮だろう。

「じゃぁ彼氏さんはここで待ってて下さいね?」

着替えが済んだユカと俺は、個室へと通され、看護師さんがユカを処置室へと連れて行く。

ユカの震える肩を、看護師さんが優しく撫でながら、処置室へと歩いていくのが見える。40分程すると看護師さんが、個室からベッドを持ち去った。数分後に、酸素マスクを付けたユカが戻って来た。

「まだ麻酔が効いてますからボーっとしているけれど、ちょっと休んで、問題なければ、帰れますからね」

看護師が俺に静かに説明をする。涙の跡が付き、閉じられたままのユカの顔を見つめながら、それを黙って聞いていた。

「ごめんね…佑」

気が付くとユカが目を覚ましていた。

「大丈夫か?」

「うん…平気」

看護師が来て酸素マスクを外し、血圧を測った。俺は慌てて病室の外で待った。

「もう大丈夫そうね…暫く休んで、また帰りに受付によって下さい。お大事にね」

俺とユカはありがとうござましたとお礼を言った。ユカはゆっくりと起き上った。

「お…おい…大丈夫かよ?もう少し休んでろよ」

ユカが起き上って靴を履く。

「ううん。大丈夫。ちょっと着替える」

あ…外で待ってると慌てて外に出た。
暫くすると、ユカがゆっくりと歩いて出て来た。俺はユカのバッグを持つと、ユカは俺の腕を掴んでそろそろと歩いた。

「ごめん。今日だけこうしてても良い?」

「何言ってんだよ…そんなの気にしなくて良いから掴まれよ」

いつものユカとは全く違ってよわよわしい。

「家まで送るよ」

病院を出ると、寒くて身震いをした。

「ううん…平気」

道はところどころ凍り付いていて、危なっかしく歩くユカが俺は心配だ。

「お前…どう考えたって平気じゃないだろ?タクシーで帰ろう。なっ?」

会社帰りのサラリーマンで混み合う駅前からタクシーに乗り、ユカの家へと送った。俺はそのまま帰るつもりだったが、ユカのおばさんに偶然あってしまった。

…やばい。

「あら佑ちゃん久しぶりね。あの時は本当にありがとうね。折角きたんだから上がっていきなさい」

「一緒に遊んでたら途中でユカの具合が悪くなっちゃったんで…今日は失礼します」

優しいユカのおばさんに嘘をつくのは、気が引ける。

「あら…そうだったの?ユカ大丈夫?あらホント…顔色が悪いわね」

「大丈夫…生理が…酷いだけだから…。佑…ありがとね」

ユカは、寂しそうに笑った。

「うん。また学校でな?」

俺は寒空の中、複雑な気持ちでトボトボと歩いて帰った。やりきれなさと怒りがふつふつと湧きだす。歩いた方が、気分が落ち着く気がした。

俺はユカが気の毒で仕方が無かった。レイプ魔のこと、そして妊娠、中絶。ここ数カ月で、あいつの周りで色々な事が起きている。女友達にも話せないものなのだろうか?俺はセナに電話を掛けたが、留守電になってしまった。

(今日はドタキャンごめんな)

仕方が無いのでメッセージを送った。セナに余計な心配は掛けたくないし、波風が立つのも嫌だった。

…またセナに言えない秘密が増えた。

俺は、ベッドの上でゴロリと横になった。参考書で勉強をしようと思ったが、もうその気力は皆無だ。

――― 着信音。

俺は慌てて出た。

「もしもし?あたし」

…何だユカか。

俺はセナかと思ったので少々がっかりした。

「大丈夫か?」

「うん。今日はありがとね。まだお腹が痛いけど、大丈夫。お母さんにも何も言わないでくれてどうもありがとう」

俺の中のユカは、いつも笑っていて元気で煩くてお節介な印象。それが今は消え入りそうな声で話してる。

「疲れただろう?今日はゆっくり休め」

俺はそれ以上のことは、ユカに言えなかった。

「うん…そうするよ。じゃぁ…ね」

ユカが静かに電話を切るまで待った。




――――3学期。

冬休み明け学校の騒がしいクラス。

「よお久しぶり」

フナキが俺に声を掛けた。何か話したそうな顔だ。

…あ…お前も…お前も卒業したんだな?

動画が浮かぶ。
慌ててコンドームを付けるフナキ。

…うわっ…こんなところ見たくねぇ。

早回し…と思ったら終了。

…へっ?お前何やってんの。

逆戻し…再生。

テニス部の高島だ。普通な子だったが、顔も…普通だ。

(ミユキちゃん…挿れるよ?)

震える声で、ゆっくりと挿入。どうやら高島は初めてじゃないらしい。

(うん平気)

フナキよりリラックスしている。くちゅっと音がして、入った瞬間、高島が筋肉が発達しているその足で、ギュッとフナキを引き寄せた。

(はぁぁん)

…なんだそりゃ。

(ごめん…出ちゃった)

…みこすり半どころか、挿入だけで昇天か。

(えっ。もう出ちゃったの?マジで?)

高島が不満そうな声を出した。

(うん…。)

(こんなんじゃ嫌~。フナキくん元気になるまで待つからもう一回しよう♪今度はあたしが上になるよ。)

…フナキ思いっきりリードされてるじゃん。

「俺さぁ」

フナキが勿体ぶって腹が立つ。

「高島とやったんだろ?」

…あっ…いけね。

「えっ。お前何で知ってるの?」

フナキが驚いた顔をした。

「だ…だってお前冬休み前、テニス部に入り浸ってたじゃん」

…俺…動揺。

「もうさぁ…あんあん言っちゃってあいつスゲーんだぜ?」

…ちょ…待てよ?

俺はフナキを再び見つめる。

…あ…ホントだ続きがあった。あれ?ってことは?

早回しをしつつ待っていると次の映像が出て来た。俺の中でレベルアップの音が聞こえた。

…俺ってスゲー♪過去も遡って見れるのねん♪

俺は試しに目を凝らしてユカを見た。吐き気のするあの出来事…そして…えっ中学…でって…どんだけすすんでんだよお前。

数えきれないぐらいの援交に、彼氏は年下から会社員までストライクゾーンが広いというか何なんと言うか。

…言葉は悪いが、ユカ…お前こそビッチじゃねーか。

でもやっぱり俺はユカを嫌いにはなれなかったし、幼馴染で小学生の頃からずっと片思いだったあいつの悲しい顔を見るのは嫌だ。

ユカは取り巻きの女子と楽しそうに話をしていた。

…もう大丈夫なんだろうか。

ふとユカと目が合うと、あいつは俺を見て笑った。


…それとも無理をしてるのか?

俺が心配しても仕方が無いのだが、それでも気になる。


「おい!馳目。話聞いてんのかよ?」

俺はハッとした。

「ああ…ごめんごめん。何だっけ?」

俺は再びフナキの話を聞く振りをしたけど、でもやっぱり別のことを考えて居た。

…俺…大人の階段をまた…登った…ぽい?

ただ全力で思ったのは、セナには絶対こんな悲しい想いをさせたく無いってこと…それだけは確かだ。

冬休みが明けてから、セナの様子がおかしかった。

「なぁ…セナどうしたんだよ?」

折角会えても、会った時のように、俺の後ろを歩くセナ。何度聞いても黙ったままで、超絶気まずい登下校が何日か続いていた。

「佑くん…知ってる?山岸さんと佑くんが付き合っているっていう噂があるの。」

…えっ?

「一緒に仲良く腕を組んで歩いてたのを見た人がいるんだって。」

…あ…病院の時か。

「確かに…一度一緒に出かけたけど、付き合って無いのは、セナが一番知ってるだろ?」

セナは返事をしなかった。

「もしかして、それを心配しているの?」

セナは益々歩くスピードが遅くなった。

「そんなことあるわけ無いじゃないか。」

「やっぱり…わたしより、いつも明るくて元気な山岸さんの方が良いよね…。」

俯いたセナは、怒っているのか悲しんでいるのかよく分からない。

「おっ…おい。何言ってんだよ」

確かに、あんなにビッチだとは思って無かったし、以前はユカが好きだったけど、今は違う。

「だからって二股なんて酷いよ…佑くんのこと大好きだったのに…。」

…どういうことだ?

「ちょっと…なんだよ二股って。」

「見ちゃったの駅前で腕を組んで歩いてるところ。わたしと会う約束をしてたのに、山岸さんと会ってたなんて…。」

「ち…違うよ…。誤解だよ」

「わたしが電話を掛けた時に一緒に居た友達って山岸さんでしょう?」

…ああ。また面倒なことになってきたぞ。

「確かに…そうだったけど…。」

セナの眼が大きく見開かれた。ショックと悲しみ。

「酷いよ…。いつからだったの?去年の文化祭の頃から?」

大きな目から涙があふれ出したが、セナはそれを拭おうともしない。

「二股なんてしてないし、俺はセナだけが好きだ。あの日は…その…頼まれたんだ。」

俺たちはいつの間にか立ち止まってた。

「何を…何を頼まれたの?」

…ああ。まただ…なんて言えば良いんだ?

「ちょっと付き合って欲しいところがあるって」

「それはどこ?何で佑くんがわたしとの約束を断ってまで行かなきゃいけなかったの?」

ほんの数メートルしか離れていない俺とセナとの間が、フルマラソン程の距離があるような気がした。

「それは…言えない…よ」

…またこんなことで、喧嘩になるのか。女の子って何でも詮索したがるものなのか?

「わたしにも言えないことなのね?」

俺も少しイライラしてきた。あの時だって、ちゃんと話し合っていれば長い間拗れることなんて無かったのに。

「俺からは言えない…ユカに聞いてくれ。ごめん。今はそれしか言えない…でもやましいことはしてない」

「やましいことがあるから言えないんでしょう?」

セナの声は怒りに震えていた。

「あーっ。もう面倒臭い…していないって言ったらして無いよ!セナこそどうして俺を信じてくれないんだ?」

セナは俺がきつい口調で言ったのでちょっと驚いた。

「だって…だって不安なの。佑くんが山岸さんに取られちゃうんじゃないかって心配なの。」

セナは制服のスカートの裾をギュッと握った。

「俺はセナが、セナだけが好きだ。それを信じてくれないなら、もう良いよ。」

…そうだ俺は悪くない。ユカに聞いてくれ。

なんでユカが関わると必ず面倒なことになるんだ?

「もう…もう良いって…どういう意味?」

セナもセナだ以前の事だって勘違いだったのにどうして判ってくれないんだ?どうして信じてくれないんだ?

「その言葉の通りだよ…じゃあな。」

セナの事は、大好きだけど、一瞬面倒臭いと思ってしまったんだ。

俺は自分の家へと向かって振り向きもせずに歩いた。この時…こんな喧嘩さえしなければ、ユカのことをきちんと話してさえいれば、良かったんだ。

「貴様…セナちゃんに何をした!」

俺は玄関を開けてただ今を言う前に、ヨウコの飛び蹴りを食らった。

「いってーなぁっもうっ!何すんだよ!!」

俺は不意打ちを食らって、植え込みに倒れ込んだ。バキバキと酷い音がしたが、ひとまず頭を打たずに済んだ。

「ちょっとヨウコ!佑っ!玄関先で兄弟喧嘩?ご近所迷惑だから、やるなら庭でやりなさい」

家で兄弟喧嘩をすると必ずヨウコが物を壊すので、外でするルールが自然と出来た。

「あらっもうぅぅぅ!!植え込みをこんなにしちゃって」

…母ちゃん…植え込みより、大切な息子の1時間後の未来を心配しようか?

「着替えたら…庭な?」

俺は恐怖で虫唾が奔った。

…まずいぞこりゃ。女TNのことだ話も聞かずにボコボコにされるに違いない。ああ200%だ。

俺は洋服に着替え、取り合えずトイレに籠った。すっかり出し切っておかないと、酷い目に合うからだ。それは小1の時に経験済みだ。

「佑?新しい洋服は止めてね?ボロボロになっちゃうから!」

母ちゃんが一階から大声で叫んだ。

…洋服よりもあなたの息子がボロボロになるんだが?

「駄目だ…窮鼠でも、猫はぜってーに噛めねえ」

そんなのは、万が一にでも勝ったヤツが言えるんだ。全敗の俺には無理だ。

上手く一発KO負け…が、一番被害が少なくラッキーだ。でもそれじゃすまねーだろうなぁ。てかなんであいつがセナとの喧嘩を知ってんだ?

俺はハッとした。

「あっ!!!母ちゃん経由ヨウコ行か!!…母ちゃぁぁぁん。勘弁してくれよぉ」

俺は覚悟を決め、鏡を見た。

…この顔も見納めか…アディオス…俺の顔。

イケメンでも無いが、ブサメンでも無いと自分では思っていた。

庭へ降りた。

「ヨウコ…ちょっとタイム。あのさ…」

…一応な。ヨウコが、俺の話を聞いてくれる…。

「いまの貴様にタイムは皆無だ」

…筈も無いよな。…やっぱりね。


「お…ま…。ヨウコか?そうなんだろ?」

フナキが俺の顔を観てギョッとした。

ほぼKO負けの鼻骨骨折。大きく腫れた目のせいで眼窩骨折も疑われたが大丈夫だった。

「あぁ…セナのことで…な」

「ちょっと大丈夫?また兄弟喧嘩?」

最近は、ユカも学級委員のミキもヨウコのことを知っているので心配される。

「うん」

セナと帰らなくなって、フナキやユカ、ミキなど何となく日替わりで帰る友人が出来た。

「父ちゃんが会社から帰って来て、助けてくれた」

そうだ助けて貰えてなかったら、今頃は、めでたくご入院。

「マジかよ…お前の父ちゃん空手師範か何かか?」

フナキがびっくりした顔で聞いた。

「びりっと…。」

「びりっと?」

ミキが俺の隣の席に座った。

「スタンガンで…。」

皆が一瞬静まり返った。

…おい…ここは、笑うところでドン引くとこじゃねーんだぜ?

「すまん。聞いた俺が悪かった」「ごめんね…馳目くん」

フナキとミキが俺に謝った。

「目の周りに輪っかって本当に出来るんだね」

ユカが俺の腫れている目の下を押した。

「痛ぇ…触るなよ…全く誰のせいだと思ってんの?」

俺はユカを睨んだ。今回は軽症で済んだが、

いつか本物の天使の輪が俺の頭上に輝くような気がする。

何だか色んな事が面倒臭くなってきた。

セナの事は好きだけど、疑われるのは、信用されていない証拠だと思うと正直何でだよと思う。

そんな自分も嫌だった。セナからの電話は一切無いし、メールも来ない。

俺は休み時間にセナのクラスへ向かう。俺の顔を見て、クラスメートがセナを呼んだ。

「話があるんだけど、今日昼飯食べた後、屋上に来てくれない?」

セナはおどおどとした様子で俺を見て頷いた。

「じゃぁ…また後で」

俺は教室へ戻り、席に付くと大きなため息をついた。

「よお…ため息つくと、幸せが逃げていくんだとよ」

フナキは、高島ミユキとセックスフレンド的な事を続けているらしい。ミユキを視たが、どうやら童貞食いならしい。

フナキはいつも幸せピンクだが、ミユキは灰色だったり青だったり…しかも、男も数人いるらしい。

…友人として教えてやるべき何だろうか?…でもどうやって?

「あぁ…幸せならとっくに逃げてるよ」

授業を始めます…と言って煮雪が入って来た。

…そうだこいつのこともすっかり忘れてたぜ。

相変わらず、女子にはキャーキャー言われている。最近は音楽教師が必死に煮雪にアプローチをしているという噂だった。

…って待て…頭痛が…消えた…のか?

いや…まだ頭痛はしていたが、以前より酷く無いのは何故なんだ?
何か壁の向こうで聞こえる様なもごもごとくぐもった声が聞こえ始めた。
相変わらず目を凝らしても映像は、見えない。

(…は…ズ)

俺は周りを見回した。クラスメートは煮雪の朗読を静かに聞いて居る。

…煮雪の声?

俺は再び煮雪に視線を戻した。

(…は、クズだ)

…やっぱりダークマターからの声だ。集中するんだ俺。俺はやれば出来る子、頑張る子。

(見た目が…残念な…)

こめかみがキリキリと疼き始めた。

(見た目が残念…女なんて…。)

――― キャーッ!!

耳元で女の叫び声。

「ちょっと…馳目くんっ!大丈夫?先生!!馳目くんがっ!」

…えっと…俺?

俺は慌てて我に返った。

「うわぁぁぁ!なんじゃこりゃぁぁ!!!」

鼻血がたらたらと、しかも両方から垂れて、机の上のノートが血液でドロドロだった。振り返ったフナキも驚いた。

「馳目…お前…って、ヨウコとの決闘と良い、スナッフの日野監督からオファーでも来てんの?」

あらら…酷い鼻血ですね。ちょっと誰か保健室へ一緒に行ってあげて…煮雪が箱ティッシュを俺にくれたので、取り合えず机の上の血液を綺麗にふき取り、その後ティッシュでしっかりと押さえた。

「痛ぇ…」

…そうだ…鼻が折れてたんだった。

俺はそのまま病院へ行くことになった。

「久しぶりですねぇ。お元気そうで何よりです♪」

…ちょっと待て…お元気だったらここに来てねーからっ。

CTや、レントゲンを取らされて、耳鼻科経由の脳外科へと回された。脳外外来へ入るとあの医者だ…まただよ。

…声高に叫びたい ‟チェンジでっ!!”

「凄いね…お姉さんと仁義なき戦いだって?」

診察しながら主治医がこれまた嬉しそうで腹が立つ。

「ええ…まぁ」

しっかり鼻に詰め物をされ、俺はフガフガしながら答えた。

「…で?」

…はいはい…判ってますって…。

「過去も遡れるようになったので…って…さ…3P?これって結構前ですかね…って一日どんだけ…してるんすか?」

「うーん。いっぱい♪」

そう言いながらも主治医は俺の画像をじっと見つめていたので、不安になってきたぞ。

「僕もうすぐお昼なんだけどね、お昼御馳走するから、ちょっと脳波測っていかない?3-40分ぐらいで済むから」

「え…僕ってどこか悪いんですか?」

「画像上はなぁんも無いね。あ…鼻は見事に折れてるけどね」

「だって…脳波…って」

「うん♪ただ僕が観たいだけなんだけどね。ご飯だけじゃ駄目?じゃぁ…5千円あげる♪」

…おいおい。親戚のおっさんじゃねーんだぞ?

「タカナシせんせぇ…ちょっとすみません。これ緊急のデーターです」

そんな時、ひょっこり顔を出したヤツに見覚えがあった。

「おやゆビッツ!!」

俺が思わず呟いたのを主治医は横目で見ながら、検査結果を受け取ると、点滴変えなくてよさそうだねと若禿ににっこりした。

ウェイトレスの女の子に中だししてた野郎だ。

…あいつ…医者だったのか。そう言えば入院している時に見かけた…な。

「コトウゲ先生が何か?」

「あ…いえ…なんでもありません」

俺は慌てて誤魔化した。

「なんでこんなにδ波が出てるの?初めて見ましたよ」

俺は暇だったので検査を受けることを了承した。主治医とその医者は俺の結果を食い入るように眺めていた。

「あっ…この先生はね脳神経内科の渋沢先生です」

厚みのあるメガネ眼鏡を掛けており、主治医よりちょっと若いぐらいだが、アキバに居そうな感じの中年太りした医者だった。

…あーあ。童貞拗らせてやがる…ぜ。2次元好きか。

ふたりはボソボソと話をしていた。

「ああ…この子ですか…タカナシ先生が言ってたのは」

脂で少し汚れた眼鏡を拭きながら渋沢が言った。あなたも見て貰いなさいよと渋沢をぐいぐいと俺の前に押し出した。

「…どうでしょう…あの…ホントに見えるの…かな?」

恐々俺の前に立つ渋沢の白衣はヨレヨレで、ポケットにはボールペンの染みが出来ていた。

「えーっと…拗らせ系で…枕…2次…。」

…素人童貞。

「ああああ…やっぱりいいです!!結構です!!」

渋沢が大慌てで、怯えるように主治医の後ろに隠れた。

「何々?馳目くん拗らせ系ってどういう意味でしょう?ニジってなぁに?最近の若者言葉は難しくてねぇ。解説が必要ですね」

主治医があなたわかりますか?と渋沢に振った。

「え…えっと」

渋沢は顔面にびっしょり汗を掻いていた。

「あの…その…何とか波って?」

俺は渋沢を助けるように、会話を替えた。すると渋沢はホッとしたような顔をしていた。

…ある意味ふたりとも突き抜けちゃってるな。ベクトルの方向は違うが、長さは一緒…ぽい。てか医者がみんなそうなのか?

「えっと…超能力者に多く出る波形って言われてます」

主治医の後ろから隠れながら渋沢が答えた。

「かなり深い睡眠の時に出るって言われてるんですけどね。この徐波が、
あなたの場合は70%近くあるんですよ…脳みそ爆睡してますね。普通の時は…正常なんですけどね。うふふ…EOGやEKGも付けてくれて…」

…いつの間にか、会話が独り言になってるっぽい?

ウキウキしている渋沢は不気味だった。


…医者というステータスは同じであっても、かたや著しいステータス異常を起こしてやがる。

「寝てないのに爆睡…不思議ですねぇ」

ふたりとも検査用紙を食い入るように見ながら感動していた。

…童貞卒業したばかりの俺が言うのも何だが渋沢頑張れよ!

「この検査結果僕に下さい。じっくり見て見たいんです」

渋沢が主治医の手の中にある俺の脳波記録用紙を物欲しそうに見た。

「…駄目です。僕の患者ですから」

綺麗に記録用紙を折りたたみながら主治医が言った。

…ただの興味でとったくせに。

「…お願いします」

渋沢は食い下がらない。

…子供のおもちゃの取り合いじゃねーんだから。

「…駄目です」

「お願いします」

「嫌です」

主治医と渋沢が奪い合いをしていた。

「じゃぁ馳目くん…あともう一回40分お付き合いしてくれる?」

…別にこの後予定は無いんだが、脳みそマニアのこのふたりに付き合うのも僕…ちょっと怖いの。

「渋沢先生は僕に5000円、馳目くんに5000円…合計で1万円でどうでしょう?」

…ちょ…待てよ。何故そこで仲介料が発生するんだ?

「あ…僕手術あるんで…バイト料を馳目くんにあげて下さいね」

そう言って主治医は去っていった。

「ねぇ…バイト料2倍にするから、電極いっぱいつけさせてくれる?」

渋沢はグフグフと脂ぎった顔に満面の笑みを浮かべている。

…MS-07…お前の好きにすりゃいいさ。

「はい…良いですよ」

俺は怖いもの見たさで了承した。








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