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遅咲きの厨二病

視える!視えるぞ!

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…よし 青だ。

自転車のペダルをこぎ始めた。

誰かに後ろへ引っ張られた。

「…え?」

ーーーキキーッ。

砂が擦れる音。

次の瞬間。

――― ボンッ。

自転車が空を飛んだ。

(I can fly...。)

弾かれる様に俺も軽々と飛んだ。

(詰んだ…のか…俺?)

全世界がセピア色のスローモーション。

(先立つ不孝をお許し下さい…。)

俺をはねた真っ白なセダン。

同じ学校の女子生徒の凍りついた顔や、見知らぬおじさんが叫ぶ姿が、時計回りに逆さになった。


(俺は純真無垢なまま…天に召されます。無念)



そして記憶もとんだ。




――― ピッピッピッ。

規則的になる音。

薄っすらとした白い光。

重い瞼を開けた瞬間、強い光が眼を突き刺した。


…‼︎


体中がギシギシと軋む。鉛の様に重い。

(動…け…ない)

―――ピンポーンピンポーンピンポーン

鳴り響く耳障りな音。

パタパタと羽の様な軽やかな音が遠くから聞こえてきた。

馳目はせめさん。ここどこだかわかりますか?」

再びゆっくりと眼を開けた。

「名前言える?」

…大きな瞳の天使?

馳目はせめゆう…。」

俺は点滴とカテーテルに繋がれている。

ここでふと現実に引き戻された。

全身の強張るような痛みに思わず声を上げそうになった。

…しかも俺の大事な息子まで繋がれてるじゃないか!

「びょ…いん?」

呂律も回らない。

「そう。交通事故で運ばれたの。血圧測るね」

看護師がボタンを押すと、うなる様な低い音が響き、腕が締め付けられた。

「今日は何月何日かわかる?」

一瞬目にライトを照らされると、ぐるぐると天井が回った。

「し...7月…1日…。」

思わず眼をかたく瞑った。

「…3日間寝たままだったの。だから今日は7月4日」

…そんなに寝てたんだ。俺。

「…先が痛い…んですけど?」

恥ずかしかったが、先ほどからむずがる息子を指さした。

「あ…おしっこの管ね。ちょっと待ってね」

…あれ?なんかオカシイ。

部屋を去っていく看護師の後姿。
彼女の周りに、摺りガラスの様なモヤモヤとしたものが見えた。

…まるで頭から湯気が出ているみたいだ。

パタパタと数人の看護師が部屋にやってきた。そして全ての看護師の頭上には皆、サイズは違えど同じ様にモヤモヤとしたものが見えた。

…誰だっけか…戦国武将でこんな兜被ってた。それはまるで後光のように頭の上で放射状に広がっていた。

天使もコスプレする時代なの?

俺絶賛混乱中。

その“物体に”目を凝らそうとするたびに、木槌で容赦なく頭をと叩かれてる様な頭痛に襲われた。

…がっああああ。マジ痛ぇ‼︎

ーーーピンポーン ピンポーン ピンポーン。

頭上の機械が再びけたたましく鳴り出した。

その金属音と劇的頭痛がフュージョンしたかと思うと、ぐるぐると天井が廻り出した。

「馳目くん?!」

俺の体力ゲージ…著しく低下。

「痛ってぇぇぇ~‼︎止めてくれぇぇ…ぇぇ…」

…神様…死ぬのは良いけど、痛いの勘弁…して。

再び気を失った。


―――翌日。

「主治医のタカナシです。目を覚ました様ですね。」

主治医が看護師と共にやってきた。

馳目はせめくんは、昨日眼を覚ましてから、また意識が無くなってしまった様ですね。今日は7月5日です。ご気分は如何ですか?」

ふたりの頭上には、キラキラ光る蜃気楼。

主治医と看護師のもやもやとしたものが、ふとした瞬間、綺麗に重なり合った。

それは水飴のようにゆっくりと伸びて混ざり合い、溶け合った。

何度も混じり合ううちに無彩色から淡いセピア色へと形を変えながら変化する。

…‼︎

突如としてそのセピア色の水飴の表面にザラメ色のスノーノイズが現れた。

そして一瞬ちらっと映像の様なものが、消え…断続的に、時に数秒連続で映し出された。

…なんだ?

映像の中ので、ふたり抱き合っていた。

正しくは“絡み合って”いた。昔の映画の様にコマ送りの映像から、徐々にスムーズな動きへと変化していく。

そして俺は身逃さなかった。

明らかに男女で、
楽しく”結合中“だったことを!

時々ザラメの様な砂嵐がザザザーッと入り見難いが、これは無修正エロビデオだ!

…しかも、主治医とあの…巨乳天使じゃないか!

もうちょっと身体も股間も元気になったら、
おかずにしようと思ってた。

場所は…どうやら病院の中…のしかもトイレらしい。

…俺は、まだ夢を見てるのか?

うん。夢なら永遠に醒めなくて宜しい。

立ちバックで緩々と主治医が動くたびに、看護師のふっくらとした唇が半開きになった。

…目くるめくオトナの世界。

うっとりとした看護師の表情が堪らなく綺麗で、見入ってしまう。

(…ん)

その唇から甘い吐息が漏れていることが見て取れた。

…ああああ…くっそう!画質が悪いっ!

動画はモザイク状に変化し、再び不安定になった。

…頼むよ神様!今、画像解析度を上げてくれたら、IQが20~30ポイント落ちたとしても構わねぇからっ!

ふたりの接続部は、透明な液体で濡れて主治医のアンダーヘアを光らせている。驚くべきは、巨大な”主治医“を看護師が全力でプライマリー・ナーシング。

…天は二物を与えずって言うが、渋イケメンの上に、ステータスが医者…然もenormousなイチモツ迄与えちゃってんじゃねーか!

「…くん?」

背後から突かれるたびに、ブラから零れ落ちた看護師の大きくて形の良い胸が、ふるふると揺れていた。

…神様…桃色乳首…って本当にあるんだね。

白い喉を見せて喘ぐ看護師の声が聞こえないのが、残念至極。

「馳目くん?…判るかい?」

…‼︎

呼ばれてハッと気が付くと、主治医の顔がドーンと俺の目前にあった。

「うわぁぁぁぁぁ‼︎」

驚いて大声を挙げたので、普段は冷静な主治医が一瞬たじろいだ。

「大丈夫かい?」

覗き込み真剣な表情で俺に問い掛けた。

「なんか 目眩がしたんで…。」

咄嗟に良いウソが出てきて良かったけど、
心臓が全力疾走した時の様にドキドキしていた。

丁度その時、母ちゃんが病室に入って来た。
そして主治医と看護師へ軽く会釈をした。


「…今日もまた頭のCTを撮りますからね」

主治医も母ちゃんに会釈を返すとボソボソと看護師に何かを話した。

…またと言われても、俺には全く記憶が無い。

「は…はい」

看護師が部屋を出ていくと、母ちゃんは、こっちをみながら主治医と話を始めた。

俺は、そろりそろりと主治医の頭上に視界を戻す…が、既に無修正映像は消えていた。

…さっきのは、一体なんだったんだ?

眼を凝らして見ようとすると、突然ズキズキと刺す様な痛みに襲われ、思わず頭を押さえた。

「あららら…やっぱり頭痛薬を看護師さんに持って来て貰いましょう」

主治医は点滴を確認すると、俺の背中に腕を回しゆっくりとベッドに寝かせてくれた。

天井がぐるぐると回って居る。

…駄目だ…なんか吐き気がする。

俺はかたく目を閉じた。

「まぁ 無理せずゆっくりと…ね」

主治医は母ちゃんと俺に頭を下げて部屋から
出ていった。

「ちょっとゆうったら。びっくりしたわよ。眠ったきり、起きないんだもの」

俺は母ちゃんの話を目を閉じたまま聞いた。

「さっき電話が掛かって来て意識が戻ったって言うから、様子を見に来たのよ~!みんなに心配させてぇ。全くっ」

…急死に一生スペシャル、人生の最終回になるとこだったのに一言目から小言かよ。

「煩いなぁ…。」

「どこも骨が折れてなくて奇跡だって、救急外来の先生も驚いてたのよ。その分頭打っちゃったみたいだけど…。」

看護師が新しい点滴と薬を持って入ってきた。

「もうぅ~大丈夫だから!荷物置いたらさっさと帰ってっ!」

「凄いわね…祐の石頭。あんた産んだ時、頭が突っかかって大変だったのは、そのせいね」

頭の固さはどんな人も殆ど同じで変わりませんよ?と看護師が笑った。

……あーっもうっ!!母ちゃん。勘弁してくれ。

病室のライトに母ちゃんの声。今は些細な事が、刺激になって激しい耳鳴りと共に頭痛が酷くなるような気がした。

俺は毛布を引っ張りあげると頭までしっかりと被った。

――― 数日後。

ふらりと病室にやってきた主治医。

「具合はどうだい?目はぼやけるかい?眼科では何も無かったみたいだけど」

俺の主治医は、親父よりちょっと若い位だって、母ちゃんが話してた。

…一体…何処情報なんだ?

おっぱいの大きい看護師は、どうやら彼氏が居ないらしい。母ちゃんの情報網はこれだから侮れない。

「あの…今は…変なものが見えるんです」

どんな状況だと発生するのか分からないが、
無修正動画は、度々出現していた。

…オカシイっていわれるかも。

目を合わせられなかった。

「変なものって?」

主治医がじっとこちらを見ているのが分かったが、俺は自分の痛々しい足の擦り傷を見ていた。

「信じて貰えないとは…思うんですが…。」

…そうだ 俺だって信じてない。妄想なのかも知れない。いや...遅咲きの厨二病なのか俺?

主治医は部屋の入り口にあった、椅子をベットの傍に持ってきて座ると、俺が話し出すのを静かに待っていた。

「あの…笑わないで下さい」

…なんて説明すりゃ良いんだ?

「うん。笑わないから…教えて下さい」

そう言われても、俺は主治医の顔を直接見る事が出来なかった。

…一笑にふされるに決まってる。頭がおかしくなったと思われるかも?

この主治医のことだ、涼しい顔して
”精神科を受診しましょう♪“とか言いそうだ。

俺は俯いたままで、辿々しく説明をした。

「先生の頭の上に…その…映像が…浮かぶんです」

俺と目があうと、主治医は続けて…と静かに言った。口元に少し笑みを浮かべ、優しい目でこちらを見ていた。

その様子から、警戒されたりしていないってことが分かって、ちょっとホッとした。

「あの…絶対怒らないって約束してくれます?誰にも言わないって?」

…こんな馬鹿げた事言ったら呆れられるかも。

前置きが長いのにも関わらず、主治医はせかしもせずに優しく微笑んでいた。

「うん。絶対に怒りませんし、誰にも言いません。僕の上に何が見えるの?」

好奇心…主治医の目には、それがありありと浮かんでいた。

「看護師さんと先生が…エッチ…してるのが見える。トイレ…かな」

俺は主治医の頭上を見上げ目を凝らすと、映画の小さなスクリーンが主治医の頭の上に広がりだす。

「へぇ。誰だろう?」

言葉は優しいが、主治医は俺の顔をじっと見つめている。

「知ってる…顔です。名前…視えるけど、読め…ない。いつも先生と一緒にこの部屋に来る、色が白くて美人と言うより可愛い系で…あの…その…おっぱいが大きな看護師さん」

…あわわわわ…まるで俺がおっぱいばっかり見てる奴に思われるかも。

「えーっと…その…苗字が…。」

頭に少し鈍い痛みを感じ、思わず手で頭を押さえたのと同時に、突然ドアをノックする音がして看護師が静かに入ってきた。

「タカナシ先生。お話中すみません…この患者さん貧血が…」

ちょっと失礼と、看護師の方に向き直り主治医は椅子に座ったまま、タブレットで何かを確認していた。

「あっ!」

思わず小さな声をあげて、俺はそっと指をさした。主治医はチラリと俺を見たがそのまま話を続けている。

「い…今のヒトですっ!先生と…その…」

看護師が去っていくのを見計らって俺は言った。

「彼女と僕が?」

主治医はくいっと眉毛をあげただけだったが、
確かに驚いていた。

「白い…ガーターベルト…履いてた。いたた…頭が痛い」

鋭い痛みを感じ、思わず頭を抱えると、主治医は椅子から立ち上がり、俺をベッドにゆっくりと寝かせた。

「大丈夫かい?ちょっと血圧を測ろう」

「すみません。。もう平気ですから…。」

主治医は無表情で血圧を測っているので、俺は一気に不安になった。

「変なコト言ってすみません」

横になり、深呼吸をしていると頭痛はスッと消えていく。

…オカシイよな。やっぱり。

丸一日悩んでいた事を静かに黙って聞いてくれただけでも有難かった。

「ううん…良いんですよ」

主治医はまだ考え込んでいた。

「ふーむ…凄いね」

…え?

「実はそうなんだよ…。」

主治医はまるで死の宣告でもする様な顔で、
俺をじっと見つめた。

…マジか!

「えっと…ちょっと」

てか、それを認めちゃマズくないか?

「あ…誰にも言わないで下さいね。僕達だけのヒ・ミ・ツ♪」

口元に人差し指を当てながら、真剣な表情で言った。

「それから…この事は、おっぱい看護師さんにも、誰にも言っちゃいけませんよ?」

そして主治医は椅子からゆっくりと立ち上がると、楽しそうに笑い乍ら病室を出て行った。



――― 自己啓発タイム。

歩けるようになったその日から、ナースステーション前のベンチに居座った。

本を読んでる振りをしつつ、忙しく動き回る看護師を観察する。

日に日に、トレーニングの成果は現れた。まるで摺りガラスの向こうで蠢いているように見えていた影が人の形を成した。

…日替わりエロ動画無料見放題。

そんなネットの安っぽいエロサイト広告を思い出していた。

見放題なのだ…と言っても全く視えない人も居る。

…波長が合う合わないで見え方に違いがあるのか?

若そうな看護師が多い。おっぱいは小さいが、そこそこ可愛いチッパイ看護師。傍ではラガーマン風の男性看護師が、他の看護師達と冗談を言い合ってる。

蜃気楼のようにゆらゆらと揺れて映像が視にくい彼女に目星をつけた。

モヤモヤと湯気が立ち昇る様に現れ始めた映像。

…淡い…桜色?

うっすらと僅に色がついているように視える映像はネットの接続不良の時のように時折フリーズしたり、ノイズが奔った。

男性看護師が、チッパイ看護師の隣に並んだ瞬間、画像が揺らぎ2人の頭上の霧が絡まり合い溶けてひとつになった。

…どーゆーことだ?

眉間に神経を集中させる。

凝視をし始めて約10秒。

画像が鮮明になってくる…それでもうっすらと顔が判別できる程度。

…結構時間が掛かるもんだな。

チッパイさんのアパートの様だった。何だか甘々の雰囲気だ。

…相手は男性看護師ラガーマン!

そうか…社内恋愛か!そうなのか?

男性看護師特権だよな。周りは可愛い看護師ばっかりだもんな。

長い間キスばかりしてやがる。

…早く始めろや。

イライラした瞬間、動画が突然、早回しになった。

…ちょっ…どうやったら早回しになるんだ?

止め方が分からない。マッチョなラガーマンがスカートの中に手を入れたが、チッパイさんがそれを阻止。

…あわわっ。ここで止まれ!

慌てると動画が元の速さに戻った。
音声は相変わらず聞こえない…無念だ。

ラガーマンが、時計を気にしてる様子から、どうやら合体する時間は無いようだ。

…なんだよ!期待させやがって。

気を抜いた瞬間…画像が鮮明になった。

…おお!少しリラックスした方が、みえやすいのか♪

折角判ったのに今日はこれ以上は無理かと諦めかけたその時、チッパイさんの前でラガーマンは手際良くズボンのベルトを外し、ズボンとトランクスを一気に膝まで下げた。

―――ポロリン。

俺 奇跡のガッツ・ポーズ♪

…とりま、サイズは勝った。

そしておもむろにチッパイさんがパクリと、ラガーマンのイチモツを咥えた。

…うおおお。なんてこった!

ラガーマンは優しくチッパイさんの茶色の髪を撫でていたが、途中から携帯を出した。

どうやらメールが来たようだ。ラガーマンは、にやにやしながら携帯を見ている。

…なんだ?何を見てるんだ?

チッパイさんの頭は、ラガーマンの股間で前後に動いていた。

…さぁ 童貞の俺にも見せてくれ給え。

突然、携帯の画面が見えた。それはまるで、ラガーマンの視線の様だ。

何という便利な機能なんだ!

…女からのメール?!またHしようね はぁと…だとぉぉ。

メールをチェックした後に、そのまま画像を検索し、巨乳グラドルの写真を眺めてやがる。

チッパイさんは、上目遣いで、可愛く絶賛ご奉仕中だ。

…ひっでぇ。二股じゃねーか!

おいそこのラガー野郎!!ジョナ・ロムーが許しても俺はお前を許さない。いやお前なんてゴリラ以下だ!むしろゴリラに失礼だ。

ゴリラの腰が、チッパイさんの動きと相対するように前後に動き始めた。

…ああ。俺が知らない大人の世界!

そしてグラドル観ながら ゴリラは昇天。事が終わると携帯を置いて、初めてチッパイさんの顔を見た。

…おいゴリラ。お前にノーサイド精神は適応外だ。

―――ごっくん。 

チッパイさんは、ゴリラのポーク●ッツを綺麗にお掃除までしている。

…えっ?アレってやっぱり、飲んでくれるものなの?

AVだけじゃねーのか?訂正…俺の知らなすぎる世界。

すぐにズボンを挙げて、また携帯をいじくりだすゴリラに寄りかかり嬉しそうにしているチッパイさん。

…チッパイさん。こんな人でなしと付き合わんで、童貞で良ければ、俺と付き合って下さい。

院内放送が入り、現実にふとそこで戻された。まだまだ修行が足りぬのだ!

入院中の有り余る時間を活用して、鍛錬を積まなければ。

…まて?突然現れたこのスキルは、いつか突然消えちまうってこともあるのか?

いや…それは困る!絶対に困るぞ~‼︎

ナースステーション前のベンチで過ごすのが俺の日課。

…あのラガーマン…いやゴリラ…いやお前如きはゴリで充分だ。

今日はチッパイさんは見かけなかったが、朝からゴリがナース・ステーション内で他の看護師達と冗談を言って笑ってる。

…このゴリはノリが良いからモテるのか?ゴリなのに?

俺は、ゴリの頭上に集中した。男の恋愛事情なんて知りたくも無いが、これも鍛錬の為だ。

…解せぬ。何故だ?

リラックスしようとしても、チッパイさんへの裏切り行為への怒りが先立つ。然も視えない。

大きく深呼吸をすると、少しづつ鮮明になっていく。

…ラブホテルか?


ゴリはまた知らない女と一緒に居た。怒りが湧いてくると動画にノイズが入り出した。

…いかん。落ち着け…落ち着くんだ俺。

再び深呼吸。派手な色のマットの上に寝た全裸のゴリの上を同じく全裸のお姉さんがツルツルと動き回っている。

…こ・れ・は泡の国。

もしかして“泡踊り”というやつか。チッパイさんと“はぁと女”はどうしたんだろう。

好きな子とだけしたいと思うのは、俺が童貞だからだろうか。30を越えた童貞は、妖精になると聞いたことがある。ゴリ如きにも彼女は出来たんだ。

俺も大丈夫だとは思いたいが、それでも妖精さんになる前には、絶対に泡の国で御指南頂くとしよう。

その為にも、工程をしっかり見ておいた方が良いぞ。

…社会見学ってとこだな。

―――トントン。

突然肩を叩かれて、ハッとした。

「そんな怖い顔して、看護師さんたちが怖がっていますよ」

主治医が隣に座ってニコニコ笑っていた。

「うわぁーーーっ!」

飛び上がらんばかりに驚いた俺の声が廊下に響きわたった。

ナースステーションの看護師達が一斉にこちらを向いた。

「…というのは冗談です。やっぱり“視える”のですね」

…主治医脅かすなよ。

「は…はい」

まだ胸がドキドキしている。

「脳という臓器は、未だに解明されていない部分の方が多いんです。それに人間は活動中でも脳の30%も使っていないと言われています」

二人で病室へと戻りながら話した。

「…で、今日はどうですか?」

主治医は嬉しそうに聞いた。

「え…?看護師さん達のことですか?」

「いえいえ…。そんなの聞いちゃったら僕、純情なんで、気になってチームで働けなくなっちゃいますから…。」

主治医は慌てて、勘弁してくださいよと手を振った。

「今日の僕のことですよ♪どうでしょうか?」

とても嬉しそうに笑っている。

…主治医…お前は、露出狂プロトタイプか?

「ちょっと待ってくださいね。先生のは何故か良く見えやすいんですよね。何でだろう?」

…何という事でしょう!

それは、しっかりとカラー映像になっていた。

「えーっと...えええええええええっ‼︎…よ…夜の病院屋上?あの看護師さんを壁に押し付けて立って…しょ…正面…から」

真っ暗な病院の屋上で白い白衣を捲り上げ、露出された”enormous主治医“は、優にヘアースプレー缶の太さはあった。

高々と持ち上げられた看護師の白くて長い脚。お陰でこちらから丸見えの絶妙なアングルである。

そして主治医のハード・キープされたそれは、緩々としたピストン運動や、突き上げ大きく掻き回す様な動きへと変化する。あられもない格好で、アヘ顔で喘ぐ看護師の姿が映し出された。

主治医の顔がみるみる嬉しそうに緩んだ。

「ご名答♪」

そしてパチパチと手を叩いた。

…おま…何やってんの?いい年して。全然純情じゃねぇから‼︎

「判るんですね。僕もアスモデウスの目が欲しいです」

先生あとで回診をお願いしますと看護師に声を掛けられると、主治医は返事をしながらベンチからゆっくりと立ち上がった。

…ア…アスモ…?

キョトンとしてる俺を見ると、主治医は胸ポケットからモンブランの万年筆とメモを取り出した。

「アスモデウス…大悪魔です」

そう言いながら何かサラサラと書いた。

『Asmodeus』

綺麗な筆記体で書かれた単語。

「…大悪魔?」

メモ帳から紙を破り、それを俺にくれた。インクで書かれたばかりの単語は、濡れて妖しく黒々と光を放っていた。

「ええ。ラスボスがサタンだとすると、中盤ボスの悪魔ですかね」

主治医はにこにこと笑っていた。

「色欲や肉欲を司る大悪魔で、竜に乗り、口から火を吐き、幾何学・天文学に精通していて、怖がらない者にはその知恵を惜しみなく授けるそうです」

…色欲?童貞の俺には、全く意味無いじゃん?!

残念ながらその部分だけは、俺には無用の長物だ。

「アスモデウスが存在したら、あなたのように他人の情事をいつも覗き見れるんじゃ無いかなぁ…と思っただけです」

主治医は、やたらと嬉しそうだった。

「ダンテの死後の日記 地獄篇に出てきます。僕は全く宗教に興味はありませんが、なかなか面白いですよ」

主治医は部屋を出て行った…が、慌ててすぐに戻ってきた。

「おっと…僕としたことが、一番大切なことを言うのを忘れるところでした。そろそろ退院しましょう♪お母さんにもお伝えくださいね。では…。」

主治医は長い廊下を大股で颯爽と歩いて行った。そして俺はただその後ろ姿を…正しくは主治医の後光の中のエロ動画を眺めていた。


俺はアスモデウスについて調べてみた。
主治医が教えてくれた事の他にも資料は少ないが、少しだけこの悪魔について分かった。

 “地獄の王子”の7人のひとり。欲望の煽動特化型悪魔。他の悪魔と同様に怒りや復讐なども司る。夫婦間の結婚を破綻させ、夫に姦淫させたり、処女の美しさを汚し、人々に犯罪を犯させる“…のがお仕事ならしい。

3つの頭、鬼、雄羊、および雄牛の頭、攻撃的な動物の象徴とされた雄鶏の脚を持つ。そして背中には翼、毒ヘビのしっぽを持ち、龍に乗って火を吹きまくる。

取り敢えず、本の挿絵などで見ると聖書の中で性的に有害だと考えられてきた動物全ての特徴を兼ね備えて描かれる。絶倫で知られる兎だったり、山羊は多産で、ギリシャ神話の牧羊神パンの奔放で淫らなイメージなどから古来より、悪魔の化身として…云々。
 
要するに怒りや欲望などを司る悪魔ならしい。

色々調べて最も気になったのは、悪魔と言えば、“取り引き”だ。

人間は、古来から自分の何か大切なモノと引き換えに、彼等から魔力を得てきた筈だ。

交通事故で俺は九死に一生を得たし、其れだけで充分だったが、この不思議で素晴らしい能力迄授かった。

…俺は気が付かないうちに何か大切なものと引き換えに契約を交わしてしまったってことなのか?

スマホでネット検索を続けながら、ふと不安が過った。

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