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幼少期編

27 ウィリアム・ロゴス公爵嫡子なんです

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「此処から真っ直ぐ庭を歩けばロゴスの庭に行けます。本来なら公爵個々の結界で通れないのですが、今日は解除されています。行きましょうか」
「はい」

 ウィリアムに手を引かれ歩き出す。

 暫く歩きながらアルバートの時と同じような、たわいも無い話をしていたのだが。

 ふと魔術の話になり、魔術に関することを二人で話していると。
 段々、魔力の根源や魔法の想像力など、どんどん魔術の高度な内容となり。
 やがて、どうすれば高度な魔法を上手く発動出来るか、二人で悩み出すまでになった。

「レティシア嬢、やはり想像した魔法に見合った名を唱えないと、上手く想像通りの魔法は発動しないのでは無いのでしょうか?」
「いえ、一番大事なのは力の緻密さだと思います。どれだけリアルに、どの様な効果をもたらすのか。そこまで出来れば、名はそれ程重要では無いように思いますが」

 段々議論は熱を帯び、とうとう立ち止まって討論会の様になった。

「……分かりました。そこまで仰るのであれば、力が凄ければ、どれだけ緻密な魔法を発動出来るか検証してみましょう? ウィリアム様、何か力のいる魔法を一つ仰ってくださいませんか?」
「……そうだね。では造形魔法、なんてどうかな?」
「造形魔法……ですか?」
「そう。造形魔法で形造られた……そうだな、美しい蝶を見せ合う、なんて面白そうだ」

 ウィリアムは楽しそうに微笑んだ。

が今夢中なのは、造形魔法なんだ。見たこともない位美しい魔法を作って見たくて、最近研究しているんだ。レティシア嬢、此処では無理だから、今度、一緒に検証を……」
「成程、造形魔法……。見たこともない位美しい蝶……ですね。分かりました。では今から簡単な名を唱えて、発動してみせますね」
「え? いや、だから此処でそれは……」

(めっちゃ綺麗な蝶と言えば、やっぱり切り絵アートでしょう!)

 レティシアはネット検索で見た事のある、美しい模様の切り絵で作られた蝶をする。
 人差し指を立てて魔法の名を唱えた。

バタフライ

 するとレティシアの人差し指から、白く輝く、この世には存在しない蝶が現れた。その美しい複雑な模様の羽根を動かし、蝶は宙を綺麗に飛んだ。

「……どうですか? 魔法の名が簡単でも大丈夫でしょう?」

 少しドヤ顔でウィリアムに微笑みかける。ウィリアムは呆然と魂が抜けた様に蝶を見ていた。

「レティシア嬢は……結界の中でも、こんな素晴らしい魔法が使えるんだね……」

(!! まっ、またやってもーたー!!)

 レティシアが狼狽していると、いきなり手を握られた。興奮したのか顔を赤らめ、瞳を輝かせながらレティシアに詰め寄った。

「レティシア嬢! 凄い、凄いよ! 君は本当に凄い魔法使いだよ!! こんな綺麗な蝶、初めて見た!!」

(はい! 美少年の初々しくキラキラ眩しい、夢見る笑顔、頂きましたー! ごっつぁんです!!)

 余りの可愛らしい笑顔に、レティシアは素早く扇子を取り出すと、瞬時に顔を隠した。

 勿論、涎が出ていないか確認する為である。

(初々しい笑顔、堪らん……! 涎、出てないかな……良かった出てない)

「レティシア嬢?」
「……お願いします、この事は内密に……内緒でお願いします!」

 にやけ顔を隠しながら懸命に懇願すると、ウィリアムは優しい笑顔を見せた。

「分かった。僕とレティシア嬢の秘密だね。……じゃあ、秘密にする代わりに、僕もレティシアって呼んでいいかな?」

レティシアは「秘密を守ってくれるなら喜んで!」とあっさり承諾してしまった。

 こうして更に仲良くなれたようだった。
 ウィリアムとレティシアは一旦魔術の話を終わりにして、見事な噴水が目を引く綺麗に整備された美しい庭園を散策した。


「おい」

 散策が終わりに差し掛かった時、後ろから声を掛けられた。
 レティシアとウィリアムが振り向くと、不機嫌そうなマクシミアンがこちらに向かって歩いて近づいて来た。

「ウィリアム、いつまで散歩している。さっさと戻ってあいつらの相手をしろ。コイツの親が本気で暴れそうだ」

 とんでもない修羅場のようです。

「それは大変だ。僕が戻ってもどうしようも無い気がするけど。マクシミアンもレティシアと話をしなくちゃね。……ではレティシア」

 ウィリアムはレティシアの手を取ると、手の甲に口づけを落とした。

(うひゃぅ?!)

「今度は是非、僕の屋敷に遊びに来て下さい。また一緒に魔術の話をしようね? ……マクシミアン、レティシアに失礼の無い様にね」

 そう言うとウィリアムは踵を返して、神殿に戻って行った。

「驚いたな。ウィリアムはレティシア嬢のことを随分と気に入ったようだ」
「そ、そうなのでしょうか……?」

(まあちょっっっとだけ、やらかしたかもしれないですけどね?!)

 ウィリアムまでも手に口づけられたレティシアは、顔を赤らめながら答えた。

「……まあどうでも良い。取り敢えずライト家の庭まで行くぞ」
「……はい」

 マクシミアンの父親に似た、そっけない態度に一気に冷静になったレティシアは、先に歩くマクシミアンに置いて行かれないよう、少し小走りについて行った。
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