レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆

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幼少期編

23 初対面なんです

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 扉の先には、大規模コンサート会場の様に広いホールが姿を見せた。

 遠くに見える白い壁には、先程レティシア達が通ったと同じ扉が見えた。
 東西南北に扉があるという事は、他の公爵はそこからここに来たのだろう。

 部屋の中央には豪華な長いソファーが、中央の大きな円卓を囲む様に四つ置かれている。

 そこには、既に六人の公爵達が思い思いに座って寛いでいた。

 それぞれのソファーの後ろに、従者が二人づつ控えている。既に公爵全員が揃っていた様だ。


 レオナルドはそちらに向かって歩き出した。

 その後に続いて、優雅に歩き出したユリウスだが、レティシアをエスコートしているユリウスの指先が、少し力が入ったことにレティシアは気が付いた。
 しかし素知らぬフリをして、後に続いた。


「やっと来たかレオナルド! 待ちくたびれたぞ!」

 公爵の一人が、こちらに気付いて軽く手を上げた。
 レオナルドと同じ歳くらいの、銀髪で黄色い瞳。一見するとイケオジっぽい男性だ。

 レオナルドが軽く舌打ちしたのが分かった。


 レティシア達が座るであろうソファーの前で立ち止まる。

 多分此処が、外から見えた中央の塔の真下、神殿の中央にあたる場なのだろう。
 天井を仰ぎ見たいが、他の公爵親子が食い入る様にこちらを見ているので、何とか我慢する。

 最初に話しかけた男性が立ち上がった。

「さて、これで全員揃ったわけだ。この祝儀の主役の一人である、レオナルドの娘を早速紹介してもらおうか!」
「お前らが無理矢理招待したくせに、偉そうに指図するな。切り身にされたいのか」

 レオナルドが吐き捨てる様に言うと、銀髪の男性達の隣りのソファーに座っていた、結い上げた金髪に水色の瞳をした貴婦人が口を開いた。

「レオナルド。久しぶりに会うというのに、相変わらず刃物の様な物言いね。ルシータ様と結婚して、少しはマシになったのかと期待したのだけれど。とんだ期待外れ」

 見るからに豪華な指輪で着飾った指で扇を口元に当て、レオナルドを睨んでいる。

「レオナルドは心底機嫌が悪い様だ。確かに招いたのは我々だ。こちらから名乗るのが筋だろう。立っているアトラス、お前からやれば良い。私達は最後で良い」

 貴婦人達の隣りのソファーに座っている、黒髪にグレーの瞳の男性が冷たく言い放った。

「まあ、そうだな。では私達から名乗るとするか。私は東の領主、アトラス・ディスティニー。そしてこの子が私の息子だ。さ、自己紹介しなさいアルバート」

 アルバートと呼ばれた、プラチナブロンドの髪に紅蓮のように赤い瞳の美少年は、ソファーから立ち上がって軽く礼をした。

「ご紹介に預かりました、アルバートと申します。この度は祝儀にご参加頂き、ありがとうございます。以後よろしくお願いします」

 十歳にしてはしっかりとした挨拶を述べた。アトラスは満足そうに、アルバートの肩を叩いた。

「十歳なのにしっかりしているだろう? 私の自慢の息子だ。下に四つ離れた妹もいるが、今回はレオナルドの要望で、連れて来られなかったからな。また次の機会に会わせるとしよう!」
「次など無い」

 レオナルドは冷たく切り捨てた。アトラスはわざとらしく肩を竦めると、アルバートと共に座った。

「本当、触れたら切れそうな刃風の様。……では、気を取り直して私達が自己紹介するわ」

 貴婦人は、瞳と同じ水色のドレスを靡かせて優雅に立ち上がり、上品なカーテシーを披露した。

「初めまして。私は北の領主、ビクトリア・ロゴス。ロゴス公爵女領主ですわ。以後、お見知りおきを。そして隣にいるのが、私の一人息子、ウィリアムよ。さあ、ご挨拶なさい」

 隣に座っていた、透き通った水色の髪にコバルトブルーの青い瞳の、これまた美少年が立ち上がった。
 優しそうな微笑みを浮かべると、片手を胸に当て、流れる様に礼をした。

「風魔術の先覚者と謳われた、アームストロング公爵レオナルド閣下にお会いできて、光栄です。ご紹介に預かりました、ウィリアムと申します。以後、お見知りおき下さると嬉しいです」

 アルバートと同じく、十歳とは思えない挨拶だ。ビクトリアも満足そうに頷いていて、レティシアに視線を移した。

「確か、レティシアというお名前だったわね。レティシアちゃん、ウィリアムは学問に精通しているのよ? 聞きたいことが有れば、後で一緒にお話しすれば良いわ」
「話などしない」

 レオナルドは再び冷たく切り捨てた。ビクトリアは憎らしそうにレオナルドを睨み付けた。

「全く! こんなのが良くルシータ様と結婚出来たこと! ……憧れのルシータ様が、こんな奴と一緒になるなんて……!」

 どうやらビクトリアはルシータのファンの様だ。レティシアは少し親近感を持った。

 ビクトリアは怒りながらも優雅に着席し、ウィリアムもビクトリアの剣幕に、苦笑しながら座った。


「さて、最後は私達だな。私は西のノーザイン・ライトだ。隣が息子だ。……マクシミアン」

 立ち上がりもせずに名乗ると、目だけを横の少年に向けた。
 漆黒の髪に漆黒の瞳の三人目の美少年は、立ち上がると軽く礼をした。

「マクシミアン・ライトです。宜しくお願いします」

 それだけ言うと、直ぐにソファーに座った。ノーザインは特に気にせず、レオナルドを見た。

「レオナルド、これでこちらの紹介は済んだ。後はそちらの子供だけだ。折角の祝賀会なんだ。ちゃんと紹介してもらおうか?」

(……外見は折角のクールなイケオジなのに、中身はなんか嫌味ったらしいおじさん……)

 レオナルドもご立腹のまま、ノーザインを睨み付けている。

「……息子のユリウスだ」

 まずはユリウスが紹介される。ユリウスは一歩踏み出すと、優雅に礼をした。

「初めてお目に掛かります。紹介に預かりました、ユリウス・アームストロングと申します。若輩者ではございますが、レティシアを良き兄でありたい、と思っております。宜しくお願い致します」

 何やら含みを感じる挨拶に、公爵の親達はユリウスを見た。

「あら、レティシアちゃんのお兄さんだったの。そう言えば、新しく出来たとは聞いていたけれど、貴方なのね」

 棘のある言い方に、レティシアは内心ムッとしたが、ユリウスは気にするどころか、ビクトリアに妖艶な微笑みを浮かべた。

「ビクトリア公爵夫人の様な、麗しいご婦人に覚えて頂けていたとは光栄です。ルシータ義母様から聞いておりましたが、とてもお美しくあらせられる」
「まぁ! ルシータ様がそんな事を!?」

(流石お兄様、ビクトリア様の歓心を一気に掴んだ)

「そっそう。……そう言えば、貴方はルシータ様の妹君のお子だったわね。確かにルシータ様に似ているわ……。オホンッ……まあ、レティシアちゃんの兄として、良きに計いなさいな」
「ありがとうございます」

 ニッコリと笑うユリウスだが、眼はちっとも笑っていないのが声で分かる。
 ユリウスは、敵に回すと絶対怖いタイプだ。

(我が兄ながら、少し末恐ろしい気がします……。怒らせないようにしよう)

 レティシアは内心冷や汗をかいた。

「義兄の話はいい。用があるのは娘の方だ。その勿体ぶったベールを外して名乗らせろ。無理矢理剥がされたいのか」
「黙れ。貴様らに指図される覚えは無いと言った筈だ。娘に手を出したら徒では済まさんぞ」

 ノーザインの言葉を皮切りに、一触即発の雰囲気に包まれる。

 思わずレティシアは声を上げた。
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