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幼少期編

16 色々ショート寸前なんです

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 束の間沈黙が生まれた。

 覆い被されるように強く抱きしめられながらソファーに倒されている。先程のショックなのか乙女心のドキドキなのか、とにかく心臓がバクバクしている。

(思考回路は、ショート寸前!!)

 懐メロと共にレティシアは少し落ち着きを取り戻した。

「ユ、ユリウス兄様……。あ、ありがとう。もう、大丈夫だから……」

 ユリウスの胸板を軽く叩く。ハッとしたようにユリウスは上半身をレティシアから離した。

「レティシア!! 大丈夫?! 怪我は…怪我は無い?!」

 レティシアを閉じ込めるように両腕を着いて、真上から心配そうな顔で十歳にして既に完成された美顔ユリウスが見下ろしてきた。

(うひぃ!! これは壁ドンならぬソファードンですか?!)

「ひゃいちょうぶですぅ!!」

 思考回路は今切れたショートした


 何とか思考回路を修復したレティシアはユリウスに手を引かれ上半身を起こされた。
 深呼吸してテーブルを改めて見る。見事な殆どに水晶は粉々に砕け散っていた。

「これは……まずい事になった……」
「これは……流石に想定外だね……」

 レオナルドとルシータも全くの無傷だが、レオナルドは疲れたように眉間を指で挟んでいる。ルシータは溜息を吐きながらソファーにもたれ掛かり天井を仰ぎ見ている。

 レティシアは自分の顔色が悪く(青く)なるのを感じた。
 不可抗力とはいえ公爵家の貴重な魔力測定器を木っ端微塵にしてしまったのだ。どれ程の価値があったのか想像もつかない。

(……今度はスライディング土下座では許される気がしない!!)

 もはや究極の土下座を披露するしかない。ジャンピングにツイストを絡ませればどうだろう。果たして自分に出来るのか。レティシアは頭を悩ませた。

「レティシア」
「ごめんなさい!!」

 レオナルドの声に素早く反応したレティシアは、勢いよく立ち上がって顎を引き背筋を伸ばしながら腰を直角に曲げた。
 やはり元日本の会社員、謝罪にはシンプルかつ礼儀正しいお辞儀が一番しっくりくる。レティシアは『適度に深く、長いお辞儀』を綺麗に披露した。

「本当にごめんなさい! 貴重な魔力測定器を壊してしまって……」
「ああ、別にそれは全く問題ではない。直ぐに新しい物を用意すれば良いだけのことだ」

(問題無いんかい!! 流石公爵家財力っパネェ!!)

「それよりも問題なのは、レティシア。お前自身だ」
「へ?」

 問題児認定ですか? レティシアはかなりのショックを受けた。

「水晶が割れる程の魔力など通常有り得ない。それに加えてあの透明な光。……あれが魔力量よりも更に問題だ」

(……確かに私が知っているテンプレなお話は魔力量が凄くて水晶ぶっ壊すやつだけだ。属性で透明ってどういうわけなんだろ?)

「あの、属性が透明って……。私の得意属性は……?」
「……属性を示す光は、透明な程適性が高い。無色透明という事は……。多分全属性、適性があるという事だ」

(テンプレチート来てもうたー!!)

 レティシアはソファーに倒れ込みたくなるのを辛うじて堪えた。

(なに……私、魔王倒さないといけないの? この世界には魔物は居ても魔族は居ない筈なのに裏設定か何か?! それともなに私、聖女ポジ? 最終的には最強目指して『私TUEEE~~!!』ってやつやらないといけないの?! つまりハイファンタジーまっしぐら!?)

「レティ、大丈夫?」

 少しよろけたレティシアをユリウスが優しく支えてくれる。

 レオナルドは考え込む様に瞼を閉じた。

「……ただでさえ美しすぎる容姿に、加えて憶測の域を出ないが歴代最高であろう魔力量、しかも全属性適性などと……私達の子は女神だったのか……」
「お、お父様しっかり! 気をしっかり持って下さい! 私は人間です!!」
「いや、レティ……。レオの言うことは揶揄するものではないよ。……それくらい前例が無いという事さ!!」

 再び沈黙が生まれた。

「……僕がレティを守ります」

「兄様?」

 レティシアの肩を抱いている手に力が入ったのが分かった。

「どれだけ公爵家で囲っていてもレティシアの美しさは既に世に知れ渡っている事は知っています。もしこの件も皆が知ることとなれば、どんな手を使ってでも手に入れようと躍起になるでしょう。……そんな事、僕が絶対にさせません」

(拉致監禁ルート!!)

 レティシアは僅かに震えた。そんなレティシアを安心させる様にそっと抱き寄せる。

「僕が守る。だから、安心してレティシア」

 優しく語りかけるその声に、強張っていた身体が少し解れた。

「……魔力量は魔力制御の魔導具で何とかなるだろう。得意適性は、人前では一つか二つに絞った方がいいな。あとは……レティシア」
「……はい」
「レティの兄であるユリウスがお前を守ってくれる。勿論私達もだ。だから、なにも心配する事はない。……ただ、心構えは必要だ。分かるな?」
「はい」
「本当な魔術から離れるのがいいのだが、レティには無理だろう? ならば自分の魔力をきちんとコントロール出来る様にならなくてはならない」

(流石お父様、私の性格をよく分かってらっしゃる)

「そこで私の出番だな!!」

 ルシータが勢いよく立ち上がった。

「お母様?」
「レティの魔力制御、この私が教えようではないか!! 私のレティのことだ! 特訓を積み重ねれば完璧にコントロール出来る様になるさ!!」


 (私、近々死ぬかもしれません……)
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