12 / 53
幼少期編
12 喧嘩の後はきちんと謝るんです
しおりを挟む
「かしこまりました。では、給仕に伝えておきますね。準備が整い次第ご案内致しますので、暫くこちらでお待ち下さい」
そう言うとシンリーは出て行った。
レティシアはベッドから降りると部屋をウロウロと歩き出した。
スライディングの距離を測る為だ。
(スライディングは距離とタイミングが命……!)
レティシアはヤル気満々だった。
沈思黙考していると扉のノック音が聞こえた。シンリーが迎えに来たようだ。
(廊下でバッタリ出会うのが理想的! 偶然という名の奇跡が起きますように!!)
シュミレーション通りに行くか分からないが、ぶっつけ本番で行くしかない。
レティシアは覚悟を決めた。
「どうじょー」
その声に扉のドアが開かれた。その先にいたのは……。
「……にいたま……」
ユリウスが少し困ったように立っていた。
「レティシア……。少し、良いかな。君と、話がしたくて。……僕がここに居ることはシンリーさんも知っているから。……あの、……入っても、良いかな……?」
「ふ、ふあい!! どうじょ!!」
混乱したレティシアはテンパった声で了承した。ユリウスは安心した様に微笑んで部屋へと入った。レティシアは混乱しながらも部屋のソファーへ誘導した。
ユリウスが座るのを確認してからレティシアも向かい側に座る。
(しまった! スライディング土下座のタイミング逃した!!)
……こうなっては仕方がない。言葉で伝えるしかない。レティシアは勢いよく頭を下げた。
「「さっきはごめん!!」なちゃい!!」
声が被る。
驚いて顔を上げるとユリウスも下げた頭を上げる所だった。二人の視線が交わる。
「どうちて、にいたまがあやまりゅのでしゅか……?」
「どうしてって、レティシアに酷いこと言ったから……。レティシアこそどうして?」
「どうちてって、にいたまをひっぱたいちゃたかりゃ……。にいたまと、なかりょくなりたかったのに、あんなことしちゃたから…。……あにょ、わ、わたちのこと、きりゃいになちゃた……?」
ユリウスはかぶりを振った。
「レティシアを嫌いになんてならないし、むしろ何も悪くないよ。悪いのは僕の方だ」
そう言うと、少し辛そうに瞳を細め俯いた。
「……僕はね、大好きな父さん母さんと一緒にいられるだけで幸せだったんだ。……でも、父さんが死んだって聞かされて。死んだ父さんの後を追うように母さんまで。……二人の命を奪ったこの世界を心の底から恨んだよ。ルシータさ…義母さん…や義父さん…が家族になろうって言われた時も、どうせ口だけだと半ば自暴自棄になってた」
「にいたま……」
ユリウスはゆっくりと視線を動かしてレティシアを見た。
「でもね、君の平手打ちのおかげで目が覚めたんだよ」
「ほぇ? めめめ…め、めじゃめた?!」
(……も、もしかしてMに目覚めちゃった? ごめんっそんなつもりはなかったんだけど……でもアリ、かもしれない)
「君が……レティシアが怒ってくれてなかったら、僕はきっと今も、そしてこれからも、この世界を恨み続けてたと思う。でも、そうじゃないってレティシアが気づかせてくれたんだよ」
ゆっくりと立ち上がってレティシアの隣に座ると、レティシアの髪を優しく撫ぜた。
「……僕、頑張るよ。ちゃんと前を向いて生きていく。皆の気持ちに報いる為にも、自分自身のためにも。父さんや母さんも、きっとそれを望んでいるだろうから」
真っ直ぐにレティシアの瞳を見つめた。
「……大切なことを気付かせてくれて、ありがとう。……レティ」
ユリウスの憑き物がとれたような柔らかい笑顔に、レティシアは自分の馬鹿野郎な勘違いを頭から勢いよく追い出した。
そしてさも『分かってくれると信じてたよ』と言いたげな優しい微笑みを浮かべた。
「どういたちまちて」
最後だけは完全な顔詐欺だった。
その後、不安だった筈の昼食はとても楽しいひと時となったことは、言うまでもない。
そう言うとシンリーは出て行った。
レティシアはベッドから降りると部屋をウロウロと歩き出した。
スライディングの距離を測る為だ。
(スライディングは距離とタイミングが命……!)
レティシアはヤル気満々だった。
沈思黙考していると扉のノック音が聞こえた。シンリーが迎えに来たようだ。
(廊下でバッタリ出会うのが理想的! 偶然という名の奇跡が起きますように!!)
シュミレーション通りに行くか分からないが、ぶっつけ本番で行くしかない。
レティシアは覚悟を決めた。
「どうじょー」
その声に扉のドアが開かれた。その先にいたのは……。
「……にいたま……」
ユリウスが少し困ったように立っていた。
「レティシア……。少し、良いかな。君と、話がしたくて。……僕がここに居ることはシンリーさんも知っているから。……あの、……入っても、良いかな……?」
「ふ、ふあい!! どうじょ!!」
混乱したレティシアはテンパった声で了承した。ユリウスは安心した様に微笑んで部屋へと入った。レティシアは混乱しながらも部屋のソファーへ誘導した。
ユリウスが座るのを確認してからレティシアも向かい側に座る。
(しまった! スライディング土下座のタイミング逃した!!)
……こうなっては仕方がない。言葉で伝えるしかない。レティシアは勢いよく頭を下げた。
「「さっきはごめん!!」なちゃい!!」
声が被る。
驚いて顔を上げるとユリウスも下げた頭を上げる所だった。二人の視線が交わる。
「どうちて、にいたまがあやまりゅのでしゅか……?」
「どうしてって、レティシアに酷いこと言ったから……。レティシアこそどうして?」
「どうちてって、にいたまをひっぱたいちゃたかりゃ……。にいたまと、なかりょくなりたかったのに、あんなことしちゃたから…。……あにょ、わ、わたちのこと、きりゃいになちゃた……?」
ユリウスはかぶりを振った。
「レティシアを嫌いになんてならないし、むしろ何も悪くないよ。悪いのは僕の方だ」
そう言うと、少し辛そうに瞳を細め俯いた。
「……僕はね、大好きな父さん母さんと一緒にいられるだけで幸せだったんだ。……でも、父さんが死んだって聞かされて。死んだ父さんの後を追うように母さんまで。……二人の命を奪ったこの世界を心の底から恨んだよ。ルシータさ…義母さん…や義父さん…が家族になろうって言われた時も、どうせ口だけだと半ば自暴自棄になってた」
「にいたま……」
ユリウスはゆっくりと視線を動かしてレティシアを見た。
「でもね、君の平手打ちのおかげで目が覚めたんだよ」
「ほぇ? めめめ…め、めじゃめた?!」
(……も、もしかしてMに目覚めちゃった? ごめんっそんなつもりはなかったんだけど……でもアリ、かもしれない)
「君が……レティシアが怒ってくれてなかったら、僕はきっと今も、そしてこれからも、この世界を恨み続けてたと思う。でも、そうじゃないってレティシアが気づかせてくれたんだよ」
ゆっくりと立ち上がってレティシアの隣に座ると、レティシアの髪を優しく撫ぜた。
「……僕、頑張るよ。ちゃんと前を向いて生きていく。皆の気持ちに報いる為にも、自分自身のためにも。父さんや母さんも、きっとそれを望んでいるだろうから」
真っ直ぐにレティシアの瞳を見つめた。
「……大切なことを気付かせてくれて、ありがとう。……レティ」
ユリウスの憑き物がとれたような柔らかい笑顔に、レティシアは自分の馬鹿野郎な勘違いを頭から勢いよく追い出した。
そしてさも『分かってくれると信じてたよ』と言いたげな優しい微笑みを浮かべた。
「どういたちまちて」
最後だけは完全な顔詐欺だった。
その後、不安だった筈の昼食はとても楽しいひと時となったことは、言うまでもない。
24
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説

【完結】シンデレラの義姉に転生したらストーリー崩壊してました
伽羅
恋愛
母親の再婚で妹が出来たアナベルはある日、ここが「シンデレラ」の物語の中だと気が付いた。
けれど、様々な事がストーリーと違っていて…。
一体この話はどうなってしまうの!?
ゆるゆるのご都合主義の設定です。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
楠ノ木雫
恋愛
貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?
貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。
けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?
※他サイトにも投稿しています。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています
21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。
誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。
そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。
(殿下は私に興味なんてないはず……)
結婚前はそう思っていたのに――
「リリア、寒くないか?」
「……え?」
「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」
冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!?
それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。
「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」
「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」
(ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?)
結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる