11 / 53
幼少期編
11 本当の兄妹になりたいんです
しおりを挟む「……この、ばかちんがーー!!」
パチーンっ!
三歳の平手打ちがユリウスの頬に炸裂した。手のひらが小さい割になかなかの音が中庭に響いた。
「こうしゃくけはへーみんをようしにしたぐりゃいで、かみぇいにきじゅがちゅくなんてあるわきぇないでしょ!! おとーたまとおかーたまはね、かんがえたしゅえにあにゃたをようしにしゅるときみぇたの!! かじょくにむかえりゅってきめたの! しょのきもちをむだにしゅるき!? こじいんがどりぇだけたいへんなとこりょか、あにゃただってほんとはわかってりゅでしょ! こどもなんだかりゃこーいうときはあまえりぇばいいんでしゅ! めいわくかけりゅとおもうのなりゃ、がんばりなたい! がんばってりっぱなこうしゃくのこになりぇばいいんでしゅ。
わたちの…ほんとのあにになってほしいのでしゅ!!」
一気に捲し立てて喋ったので息が上がる。ユリウスは呆然とそんなレティシアを見ている。
右頬には、くっきりと小さな手のひらの跡が付いていた。
その顔を見たレティシアはハッと我に返った。
呆然とレティシアを見つめるユリウスに、どう何を言えばいいか分からなくなり、混乱したレティシアは居た堪れなくなって庭に逃げる様に走り出した。
庭は美しい花ばなが咲き誇っている。イングリッシュガーデンのような中を通り抜け、庭木の間を暫く走り続けると突然視界が開け、先には花畑の中央に大きな噴水が見えた。
レティシアは近づいて噴水の淵に両手を置くと、勢いよく顔を項垂れた。
(……やっちまった……!!)
仲良くする筈が引っ叩いた上にキレてしまった。何をやっているんだ自分は。
レティシアは自責の念に苛まれた。
「レティシア様」
その声に顔を上げると、シンリーが花畑を歩いてくるのが見えたが、再び下を向いた。
「……シンリー。どうちよ……わたちにいたま、たたいちゃた……」
「レティシア様」
「にいたま、わりゅくないのに。あーゆことゆうのしかたないことなのに、たたいちゃた……」
瞳からあっという間に涙が浮かんでくる。
「……確かに叩いたのは良くありませんでしたね。でも、あの時仰られた言葉は、全て間違っておりません」
その言葉に涙がポロポロと流れ出た。シンリーはレティシアの前に屈み込むと、優しい眼差しを向けた。
「悪かった事は後できちんと謝れば良いのです。そうすればきっとユリウス様は許してくれます。私はそう、思います」
「ごめん…なさい…!」
堪らずシンリーの胸に飛び込むと、勢いよく大声で泣き出した。
「レティシア様、謝る相手が違いますよ」
優しくレティシアを抱きしめると、その背中を優しくあやす様にポンポンとリズムよく叩いた。
「大丈夫、大丈夫」
懐かしいその響きを聴きながら、止まらない涙を流し続けた。
***
気が付いたら自分の寝室に寝かされていた。泣き疲れて眠ってしまっていた様だ。
ゆっくり上半身を起こすと、窓をぼんやりと眺めた。窓から漏れる日差しの明るさからそんなに時間は経っていないのが窺い知れた。
部屋を見回してみたがシンリーは見当たらない。レティシアは大きなため息を吐いた。
(……やってしまった事は仕方がない。シンリーが言ってくれた様にきちんと謝ろう。もし許してくれなくても、仲良くなる事をやっぱり諦めたくない……!)
失敗してもクヨクヨして逃げ出す事はもうしないって心に決めたのだ。
レティシアとして生まれてまだ三歳。これしきの事でへこたれている場合ではない。
気合を入れるように両手で両頬を軽く叩いた。
謝るとしたら全力で謝らなければ。
(だったらあれをやるしかない……!)
スライディング土下座だ。もうアレしかない。
どのタイミングでスライディングするか悩んでいると、遠慮がちな小さいノック音とともにシンリーが部屋に入ってきた。レティシアが起きているのに気がつくと笑顔を浮かべてベッドに近づいた。
「お目覚めでしたか、レティシア様。ご気分はいかがですか?」
「だいじよーぶ。めーわくかけてごめんね」
「謝られることではございませんよ。……そろそろご昼食の時間でございますがいかがなさいますか? こちらにご用意することも出来ますが……」
気を遣わせてしまっている様だ。しかしここで逃げる訳にはいかない。意を結したようにはっきりとした口調で答えた。
「だいじょーぶ。たべにいく。ユリリュシュ…ユ・リ・ウ・シュにいたまといっしょにたべりゅ」
12
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています
21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。
誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。
そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。
(殿下は私に興味なんてないはず……)
結婚前はそう思っていたのに――
「リリア、寒くないか?」
「……え?」
「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」
冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!?
それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。
「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」
「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」
(ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?)
結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
楠ノ木雫
恋愛
貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?
貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。
けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる