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幼少期編

9 初めましてなんです

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(……清々しい朝だ)

 新しい朝を迎えた。
 今日はいよいよ義兄と初対面。緊張はするが、昨日とは打って変わって会うのが少し楽しみになっていた。

(折角家族になるのだから気兼ねない間柄になれると良いな)

 起こしに来たシンリーに早速着替えさせてもらう。本日は白を基調にしたフリルのワンピースだ。髪はハーフアップにしてもらい、白いレースのリボンで結んでいる。

 清楚な感じで良い。レティシアは鏡の前で満足気に頷いた。本日からきちんと鏡で確認する様にしたのだ。鏡に映る姿は相変わらず森の妖精のように神秘的に可愛い。

 昨日貰ったネックレスを首から下げて服の中に入れている。出来れば毎日身に付けて欲しいと懇願された為だ。
 両親曰く、強力な守りの加護が宿っているらしい。

「大変可愛らしゅうございます、レティシア様」
「えへへ、あいがと」

 相手は子供とはいえ男の子だ。これだけ可愛いければ初っ端から邪険にはされないだろう。レティシアは自分の可愛い外見をフルに活用しようと画策していた。

「朝食はユリウス様もご同席されるそうです。楽しみでございますね」

 緊張させまいとしているのだろう。何事もない事の様に笑顔で言うシンリーに、レティシアも笑顔で返事をした。

「うん! あと、このしりょいしろいおようふく、よごしゃないようにきをつけてたべなきゃね!」
「まあっレティシア様ったら。ふふっ」

 程よくリラックスしながらダイニングへと向かった。



 ***



「おはようレティ」
「おお! レティおはよう! 待っていたよ!!」
「おはよーごじゃーます」

 ダイニングには既に両親が自分の席に座っているが食事をしている様子はない。レティシアが来るのを待っていたようだ。

「もうすぐユリウスも来るよ! 昨日はなかなか寝付けなかった様でね! 少しお寝坊さんになってしまったが、許してやって欲しい!!」

 レティシアは頷いてシンリーに自分の席へと座らせてもらった。

 暫くすると、ノックも無しにダイニングの扉が勢いよく開かれた。

「おはようございまーす! ユリウス坊ちゃんをお連れしました~」

 少し垢抜けた感じの青年が笑顔で立っていた。

「これランディ!! 旦那様の許可を得るどころかノックもせずに扉を開ける従事があるか!」

 レオナルドの執事であるセバスが、ランディと呼んだ人に近づいて頭を叩いた。

「いってぇ! いきなり殴るなよ! セバス爺ちゃん」
「仕事中は爺ちゃんと呼ぶでないと言っておるだろう! この大馬鹿者!」

 再び頭を叩かれている。

「旦那様、奥様、並びにレティシアお嬢様。お騒がせして大変申し訳ございません」

 セバスは深々と頭を下げた。ランディは軽く会釈しただけだ。セバスはすかさずランディの頭を掴んで下げさせた。
 そんなやり取りを見ていたルシータは声を上げて笑い、レオナルドは微笑ましい様子で声を掛けた。

「セバス、そんなに気にしなくて良い。ランディは私の護衛をしっかりと務めてくれている。屋敷の中では畏まらなくて良いとランディに言ったのは私だからな」
「ですが、公爵家の使用人として大問題です。我が孫ながら何とも不甲斐ない……!」
「えー信用無いなー。外では結構ちゃんとやってるって! セバス爺…いたっ!」
「お前は坊ちゃ……旦那様に甘え過ぎだ!!」

 レティシアは呆気に取られながら二人を眺めた。

(この人がお父様の側近。初めて見た。髪と瞳の色がセバス爺やと同じだから、何だか祖父と孫ってよりか親子みたい。お父様と同じ歳位のイケメンだけど、言動が何だかチャラ男)

「わかった! わかったから! ちゃんとやる! ちゃんとやるから叩くなって!」

 ランディは咳払いをすると、顔付きがガラリと変わった。

「……失礼致しました。改めましてユリウス様をお連れ致しました。お通ししてもよろしいでしょうか、レオナルド様」
「ああ。通してくれ」

 急に真面目になったランディに連れられて、貴族の服を身に纏った子供がダイニングに入って来た。

 ルシータと同じ金髪に紫の瞳。子供特有のスラリとした体型の。

「……おんなのこ……?」

 思わず呟いてしまった。

 それ位にとても整った綺麗な顔。ぱっちりとした瞳がこちらを見て僅かに目を見張った。かと思えば直ぐにそっぽを向かれた。……さっきの呟きが聞こえていたのかもしれない。

 ルシータは立ち上がってユリウスに近づくとその肩を軽く叩いた。

「おはようユリウス! 昨日の今日で心労が残っているかも知れないが、今日から心機一転新しい生活に早く慣れてくれると嬉しい!! それでは改めて新しい家族として自己紹介してくれるか! ユリウス!!」

 ユリウスは小さく頷いた。

「……ユリウスです。……これからどうぞ宜しくお願いします…」

 少し元気がないが、耳当たりのいい声だ。
 ユリウスが頭を下げると、襟足を一つに束ねているのが少し見えた。

「うん!! レオとは既に顔合わせしたからいいとして! さあ! お待ちかねの私の娘を紹介しよう!! おいでっレティシア!!」

 ルシータに呼ばれたレティシアは椅子から飛び降りてユリウスに近づいた。
 近くで見るといよいよ女の子にしか見えない。レティシアは今世紀最大の笑顔で挨拶をした。

「はじめまちて。レティシアでしゅ。あたらちぃおにーたまができてうれしーです。よろしくおねがいしましゅ、ユリリュシュ…ユ・リ・ウ・シュにいたま!」
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