レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆

文字の大きさ
上 下
9 / 53
幼少期編

9 初めましてなんです

しおりを挟む


(……清々しい朝だ)

 新しい朝を迎えた。
 今日はいよいよ義兄と初対面。緊張はするが、昨日とは打って変わって会うのが少し楽しみになっていた。

(折角家族になるのだから気兼ねない間柄になれると良いな)

 起こしに来たシンリーに早速着替えさせてもらう。本日は白を基調にしたフリルのワンピースだ。髪はハーフアップにしてもらい、白いレースのリボンで結んでいる。

 清楚な感じで良い。レティシアは鏡の前で満足気に頷いた。本日からきちんと鏡で確認する様にしたのだ。鏡に映る姿は相変わらず森の妖精のように神秘的に可愛い。

 昨日貰ったネックレスを首から下げて服の中に入れている。出来れば毎日身に付けて欲しいと懇願された為だ。
 両親曰く、強力な守りの加護が宿っているらしい。

「大変可愛らしゅうございます、レティシア様」
「えへへ、あいがと」

 相手は子供とはいえ男の子だ。これだけ可愛いければ初っ端から邪険にはされないだろう。レティシアは自分の可愛い外見をフルに活用しようと画策していた。

「朝食はユリウス様もご同席されるそうです。楽しみでございますね」

 緊張させまいとしているのだろう。何事もない事の様に笑顔で言うシンリーに、レティシアも笑顔で返事をした。

「うん! あと、このしりょいしろいおようふく、よごしゃないようにきをつけてたべなきゃね!」
「まあっレティシア様ったら。ふふっ」

 程よくリラックスしながらダイニングへと向かった。



 ***



「おはようレティ」
「おお! レティおはよう! 待っていたよ!!」
「おはよーごじゃーます」

 ダイニングには既に両親が自分の席に座っているが食事をしている様子はない。レティシアが来るのを待っていたようだ。

「もうすぐユリウスも来るよ! 昨日はなかなか寝付けなかった様でね! 少しお寝坊さんになってしまったが、許してやって欲しい!!」

 レティシアは頷いてシンリーに自分の席へと座らせてもらった。

 暫くすると、ノックも無しにダイニングの扉が勢いよく開かれた。

「おはようございまーす! ユリウス坊ちゃんをお連れしました~」

 少し垢抜けた感じの青年が笑顔で立っていた。

「これランディ!! 旦那様の許可を得るどころかノックもせずに扉を開ける従事があるか!」

 レオナルドの執事であるセバスが、ランディと呼んだ人に近づいて頭を叩いた。

「いってぇ! いきなり殴るなよ! セバス爺ちゃん」
「仕事中は爺ちゃんと呼ぶでないと言っておるだろう! この大馬鹿者!」

 再び頭を叩かれている。

「旦那様、奥様、並びにレティシアお嬢様。お騒がせして大変申し訳ございません」

 セバスは深々と頭を下げた。ランディは軽く会釈しただけだ。セバスはすかさずランディの頭を掴んで下げさせた。
 そんなやり取りを見ていたルシータは声を上げて笑い、レオナルドは微笑ましい様子で声を掛けた。

「セバス、そんなに気にしなくて良い。ランディは私の護衛をしっかりと務めてくれている。屋敷の中では畏まらなくて良いとランディに言ったのは私だからな」
「ですが、公爵家の使用人として大問題です。我が孫ながら何とも不甲斐ない……!」
「えー信用無いなー。外では結構ちゃんとやってるって! セバス爺…いたっ!」
「お前は坊ちゃ……旦那様に甘え過ぎだ!!」

 レティシアは呆気に取られながら二人を眺めた。

(この人がお父様の側近。初めて見た。髪と瞳の色がセバス爺やと同じだから、何だか祖父と孫ってよりか親子みたい。お父様と同じ歳位のイケメンだけど、言動が何だかチャラ男)

「わかった! わかったから! ちゃんとやる! ちゃんとやるから叩くなって!」

 ランディは咳払いをすると、顔付きがガラリと変わった。

「……失礼致しました。改めましてユリウス様をお連れ致しました。お通ししてもよろしいでしょうか、レオナルド様」
「ああ。通してくれ」

 急に真面目になったランディに連れられて、貴族の服を身に纏った子供がダイニングに入って来た。

 ルシータと同じ金髪に紫の瞳。子供特有のスラリとした体型の。

「……おんなのこ……?」

 思わず呟いてしまった。

 それ位にとても整った綺麗な顔。ぱっちりとした瞳がこちらを見て僅かに目を見張った。かと思えば直ぐにそっぽを向かれた。……さっきの呟きが聞こえていたのかもしれない。

 ルシータは立ち上がってユリウスに近づくとその肩を軽く叩いた。

「おはようユリウス! 昨日の今日で心労が残っているかも知れないが、今日から心機一転新しい生活に早く慣れてくれると嬉しい!! それでは改めて新しい家族として自己紹介してくれるか! ユリウス!!」

 ユリウスは小さく頷いた。

「……ユリウスです。……これからどうぞ宜しくお願いします…」

 少し元気がないが、耳当たりのいい声だ。
 ユリウスが頭を下げると、襟足を一つに束ねているのが少し見えた。

「うん!! レオとは既に顔合わせしたからいいとして! さあ! お待ちかねの私の娘を紹介しよう!! おいでっレティシア!!」

 ルシータに呼ばれたレティシアは椅子から飛び降りてユリウスに近づいた。
 近くで見るといよいよ女の子にしか見えない。レティシアは今世紀最大の笑顔で挨拶をした。

「はじめまちて。レティシアでしゅ。あたらちぃおにーたまができてうれしーです。よろしくおねがいしましゅ、ユリリュシュ…ユ・リ・ウ・シュにいたま!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

21時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...