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むつみごとは密やかに
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今日は理人の発情期が始まる日だった。発情期が始まる前日から出かけて、その間屋敷を留守にするので、いつも来てくれているお手伝いさんにもお休みしてもらっている。そして夫は一ヶ月の出張に出ている。喜熨斗家お抱えの
興信所によると、出張先に恋人を連れて行っているらしい。夫は出張先で恋人と蜜月を過ごすのだろう。でも理人には関係なかった。なぜなら、理人も不倫をするから。今日から喜熨斗と一週間発情期を過ごす。理人が訪れたのは喜熨斗家が所有する別邸の一つで、使用人たちが敷地内にあるいくつかの家に住んでいる。夫が出張で留守にしている、それをいいことに、一週間別邸に閉じ籠もって、ヒートを共に過ごすのだ。夫はいつも帰って来ないけれど、絶対に帰って来ないと分かっていれば、ヒートの間は喜熨斗との時間に集中出来る。喜熨斗によれば、いくつかある別邸の中で、この別邸は特別だそうだ。結婚したばかりの当主は新妻と最低一ヶ月は屋敷に閉じ籠り続ける。この屋敷は当主夫妻が集中して夜の営みを行うために作られたものなのだそう。そのため歴代の当主夫妻はここで子作りに精を出したという。夫婦が性行為をするため、特にヒートやラットを過ごすために作られたので、使用人はベータしかおらず、屋敷にはいくつも寝室があって、どの寝室にも備え付けの浴室があり、そのほかの部屋にもベッドとまでいかないものの、リビングやダイニング、サンルーム、書斎にも、上に乗っかった二人が激しく愛し合っても壊れないような、丈夫で大きなソファが設置されていて、どこでもセックスし放題らしい。そして隠し扉みたいなものがどの寝室にもあって、使用人がどの部屋で主人夫妻が抱き合っているか把握したり、営みが終わった頃に食事を運んだりするのだ。まあ、それでも営みがどこで行われているか、隠し扉に頼らずとも使用人たちはみな分かるのだとか。家中の部屋に使用人を呼ぶための装置があって、当主夫妻が子作りのためにこの屋敷を訪れて、行為に励みだすとその装置から夫婦の声が流れてきて、どこに居るか丸わかりらしい。その声や音を聞いた使用人たちも劣情を催して、使用人夫婦やひっそり恋人関係にある者たちが仕事中に性行為に及ぶことも多く、使用人たちはみな大家族なことが多い。使用人たちが仕事中に性行為に及んでも咎めないのは、そもそも当主たちが性行為に夢中であるからなので、見逃しているのだとか。そんな話を聞いた理人は、もしかして最中の声や音を聞かれるのではないかと恥ずかしかったが、ヒートを過ごすための屋敷なら安心だなとも思った。ちなみに、性行為を楽しむための道具などが揃っている、隠し部屋みたいなのもあるらしいと喜熨斗がこっそり教えてくれた。
屋敷には、ヒートの前日から訪れている理人が巣作り出来るように、喜熨斗の衣料品が大量に送られてきていて、借りている寝室で巣作りに励んだ。喜熨斗のシャツやセーターからは、喜熨斗のいい匂いがして、巣作りの間多幸感でいっぱいになった。この中で喜熨斗と抱き合ったらどうなってしまうのだろう。期待に胸を膨らませた。当日、作った巣の中で、うとうとしながら過ごしていると、ノックの音が聞こえる。起き上がると、喜熨斗家に長く仕えているという老人の声がした。
「蕗谷様、旦那様がお見えになられました。体調は良ろしいですか? お迎えはいかがしましょう」
「……あ、今行きます」
人が四人寝ても大丈夫そうな大きなベッドからのそのそと下りて、老人の後に続いて玄関に向かう。開いた玄関扉の向こうに、待ちに待っていた喜熨斗その人が立っていた。老人が曲がっていない腰を折って、喜熨斗に挨拶する。
「お帰りなさいませ、旦那様。お久しゅうございます。立派におなりになられていて、わたくし感激しております。よくぞいらっしゃいました」
「久しぶりだね、三木谷。いつもここを管理してくれて、感謝しているよ」
三木谷を見ていた喜熨斗の瞳が理人を捕らえた。それだけで胸が熱くなって、後ろの孔が疼いた。
(ああ、ヒートが始まった……。体が熱い……)
ふわりと発情したオメガのフェロモンが玄関先に広がる。三木谷老人はベータなので、何も分かっていないようだったが、喜熨斗は理人のフェロモンを感じたらしく、色っぽく微笑んだ。この屋敷は閨房に特化していることと、長く喜熨斗家に仕えている三木谷老人は口が硬く信頼できるとのことで、結婚相手でもなく番でもない理人を密かに連れて来るのには、ちょうど良かった。
「三木谷、下がってくれて構わない」
「はい、承知しました」
三木谷が下がるのを見届けると、喜熨斗が理人の腰を抱き寄せた。
「あっ……」
「お久しぶり、と言うには短い期間ですが、会いたかったです、理人さん」
「はい……、俺も、あなたに会いたかった……」
二人は顔を寄せ合ってキスをする。ちゅっちゅっと挨拶がわりにバードキスをしてから、より互いの唇を味わう深いものへ。舌を出していやらしく絡ませ合いながら、互いの昂りを押し付け合う。
「あっ、ちゅ、んっ、む、あんっ、喜熨斗さんのっ、硬くてっ、熱くて、んっ、おっきいっ……。あんっ、そんなにっ、押し付けない、でっ。感じ、ちゃう……っ」
「ん、む、はあっ、いいんですよ、感じて……。むしろもっと感じて、ください……」
喜熨斗が理人を後ろから抱き締めて、擦り付け合って大きくなったモノを、ズボンの上からグリグリと理人の小ぶりな尻の狭間に突き上げるように押し付けた。
「あっ、あんっ、そんなっ、あんっ、ふぅっ、ズボンのっ、上からなのにっ、気持ち、いいっ、ああんっ」
「ねえ、理人さん。私と会えない間どう過ごしてらっしゃいましたか」
「えっ……、そんな、あの……」
理人は顔を赤めて俯く。耳まで赤くなった理人の頸には首輪があった。晒された頸に噛みつきたい衝動を堪えて、首筋にキスをして、昂りをさらに強く押し付ける。
「正直に。私とのセックスを思い出して、ご自分を慰められておられたのでしょう。それも何回も。一晩で一回の射精では済まなかったのでは? 私のペニスを思い出して何度も後ろを慰めましたよね?」
確信を持って理人に尋ねている。理人の昂ったモノから先走りが溢れてズボンにシミを作る。理人は小さく頷いた。首まで赤くなっている。
「ああ、可愛い……。本当に可愛い人だ、あなたは。私もです。あなたに会えない間、自慰を覚えたばかりの子供のように、何度も自分を慰めました。あなたがあまりにも無垢で純粋で、でも体はすでに男を知っていて、そのアンバランスさが愛しくて、いくらでも性欲が湧き出してきて、あなたに会えるまでの日々、毎晩何回も何回も自分を慰めました。あなたのお尻を激しく犯す妄想をしながら。でも今はあなたは私の腕の中に居る。ここで犯したい、今すぐ」
手に持っていたボストンバッグからコンドームを取り出して、理人を抱き抱えると玄関フロアの隅にさりげなく置かれている大きなソファに下ろして、後ろから覆い被さる。理人のズボンを下着ごとずり下ろし、後ろの孔を確認すると、自分のいきり立ったモノにゴムを被せた。玄関にソファがあることに今気付いた理人は思わず質問していた。
「あのっ、なんでこんなところにソファが、あるんですか」
理人の後ろの孔に屹立を宛がいながらさも当然のように答える。
「それは、本宅から長い時間をかけてここまで、夫婦が子作りを名目に性行為を心ゆくまで堪能しに来るわけで、だいたいのカップルは我慢ならなくて到着してすぐ玄関で励んでしまうので、ここにもソファがあるんです」
「あ、そうなんですか……、あっ? あんっ! 熱い……!」
言いながら、彼のモノが理人のナカに侵入してくる。もちろん発情期なのでアルファのペニスを受け入れるために、尻の準備は万端である。ローションを使わずとも、ナカは濡れに濡れていて、スムーズに入っていく。一突きで理人の結腸まで届いて、下品な音が腹の奥からする。
「あっ、あんっ、気持ちいいっ、奥っ! 奥がぁっ、ああんっ、んっ、ふぅっ、うっ、はあっ、すごいっ、イイッ、ああっ」
「この前よりもあなたのナカ、とてもうねっていますね……。発情期だと、はあ、こうなるんですね……。はっ、ふっ……」
彼は大きく腰を動かし、抜いては奥に突き刺すのを繰り返した。
「気持ち、良すぎるっ、あんっ、おかしくっ、なっちゃう! あっ、ああっ」
体を痙攣させて理人が達する。理人が達したことで後ろの孔が急激に喜熨斗のモノを締め上げて、喜熨斗もゴムの中に精を注いだ。
「あ、く、うっ……」
精液を出し切るために、喜熨斗が理人の腰に腰を強く押し付け、ゆっくりと腰を動かす。彼が亀頭を押し付けているところがちょうど膣腔で、気持ち良すぎる。くぱくぱと開いて、彼の亀頭を飲み込み始めている。
「あっ、あっ……。ん、ん、んっ、あっ……」
口元を抑えて喘ぎ声を堪えようとするが、中に精液を吐き出す動きが気持ち良くて、漏れてしまう。精液を出し切ろうとするオスの本能的な動きが、理人というメスを快感に浸らせた。彼が入っているだけで気持ちがいい。喘ぎ声を漏らし続けた。数十分ほどして精液を出し切った喜熨斗が理人から出ていく。抜かれるときにも理人の粘膜が惜しむように喜熨斗の陰茎に絡みつき、抜くという行為、それさえも気持ちいい。喜熨斗は大量の精液を受け止めきったコンドームを外し、口を閉めて、捨てるところがなかったのでバッグに放り込んだ。理人は荷物を持った喜熨斗に抱き上げられて、部屋はどこか聞かれて指差した。綺麗に作ったオメガの巣に寝かされて、理人のアルファも巣に入ってくる。自分のアルファが、自分で作った巣に居るなんて、なんて幸せなんだろう。幸せすぎて脳味噌が溶けてしまいそうだった。
「美しい巣ですね、偉いですよ、理人さん」
「嬉しいです、ありがとうございます……」
うっとりととろけている理人の服をすべて脱がせて、喜熨斗も衣服を脱ぎ去る。眼鏡をサイドテーブルに置いた。理人はアルファの鍛え上げられた美しい体を見て、子宮が疼くのを感じた。
(ああ……、この人の逞しい腕や胸に抱き締められたい……。抱かれて、何度も俺のナカを突き上げて、種付けして欲しい……)
そそり立っている喜熨斗のモノに触って、ゆっくり擦り上げる。熱くて、手のひらの中で脈打っていて、これがナカに入ると思うと、体が震えてくる。
(ナカに入れてもらう前に舐めたいな……)
体を起こし舌を伸ばして、子犬が水を飲むように、亀頭をぺろぺろと舐める。
「は……」
喜熨斗が熱い息を吐く。舐めていた亀頭をそのまま口に含んで、舌を絡めてしゃぶる。
「ん……、ん、んむぅ、ちゅ、ん、はあ、ん……」
亀頭を口に含み、幹を手のひらで何度も擦り上げていると、入れて欲しくて腰を無意識に揺らしてしまう。幹にも舌を這わせて、上から下へと味わう。雁首の出っ張りに舌を這わせて、精子を作ってパンパンに張り詰めた二つの袋も口で吸ったり、揉んだりする。
「ああ……、理人さん、可愛いですよ。そんなにいやらしく腰を揺らして、そんなにこれが欲しいんですか。さっき入れたばかりなのに」
「ああっ、欲しい、です……っ、これ、欲しくて、俺のナカで、食べたいっ、ナカをいっぱい、擦って欲しいです……。でも、舐めたいです……!」
亀頭を口に含んで先走りを舌で舐め取り、口の奥まで喜熨斗のペニスを咥える。口全体で愛撫すると、喜熨斗のモノが震えて愛おしい。
「はあっ、ふぅ……、理人さん、口の中とても熱くて柔らかくて、すごく……、ふ……、いいですよ、う、あ、口の中も、性感帯って、ご存知ですか……」
「ん、ふぅ、はあ、なんとなく、は知ってます。んぅ、ちゅ、ううん、ふむぅ、はあ、んっ」
喜熨斗が理人の頭を優しく押さえて、緩やかに腰を揺らし始めた。そうすると、口の柔らかな粘膜、頬の内側や舌の上、上顎の裏を、喜熨斗の硬いモノに刺激されて、理人は先走りをとろとろと溢れさせて、ベッドを汚した。喜熨斗の腰の動きが強くなる。口の弱いところを彼のモノに強く擦られて、理人は自分の腰が動いてしまうのが止められなかった。玄関で挿入されてたくさん攻められた尻の穴が、ジクジクと疼いて堪らない。
「喉の奥も、開発すればとても気持ち良くなるそうです。…………実を言うと、恥ずかしいことを言いますが、私はあなたの穴という穴を犯したいと思っています。人間性を捨てて、獣のようにあなたのすべてを支配して、征服したいのです。こんなに自分がアルファ性だったことを嬉しく思ったことはありません。あなたというオメガに出会えたのですから。…………あなたの喉を犯してもいいですか」
口腔内を彼のモノで占領されながら、尋ねられる。理人の意思を尊重されている。こんなことは初めてだった。両親にも夫にも理人は尊重してもらったことはなかった。いつも誰かの所有物で、自分の意見など通ったことなどなかった。こんなに魅力的なアルファが、彼に抱かれたい人間など女も男も数えきれないほど居そうなのに、こんな無力なオメガの意思を聞いてくれる。こんなに脈打って腹につくほど反り返った陰茎を勃たせているのに、理人の放つフェロモンに当てられて性欲に満ちたオスの顔をしているのに、欲望を堪えて、理人に聞いてくれる。嬉しくてたまらなくて、理人は彼の欲望を肯定した。
「俺の……、喉を犯してください……。あなたのモノで征服して、喉をあなたのものにしてください」
理人の言葉を聞いて、喜熨斗は理人の頭を掴み、口の中のモノをさらに奥の方へ押し込んだ。
「ぐふうううううっ! ぐぅっ、ううっ、おっ、おえっ、ぐう」
「初めてだから苦しいでしょうが、堪えてください。慣れれば、イイそうです。もっと奥まで入れますね。ふっ……」
屹立がもっと奥を目指して進み続けて、理人は目がチカチカした。苦しくてえずきつつも、口を大きく開けて彼の屹立を受け入れる。口蓋垂の辺りに来たところまでで止まる。これ以上は入らないところまで。
「んーっ、うっ、むっ、んーっ、うえっ」
「よくここまで入れてくれました。もう少しだけ頑張りましょう。……少し我慢して」
喜熨斗は口蓋垂のあたりで屹立を動かし始めた。喉の一番奥をゆるゆると掻き回されて、えずくのが止められなくて喉が震えて、彼のモノを締め付けてしまう。
「ふーっ、ふーっ、はっ、あっ、理人さん、すごいです。あなたの喉奥、はあっ、まるで性器みたいです」
喜熨斗は口から自分のモノをずるずると抜き出して唇の前で止めると、また口の中に侵入して、喉の一番奥を目指す。それを幾度も繰り返した。理人は彼の腰に手を回してしがみつき、涙を流しながら耐える。
「ぐ、うう、ぐちゅ、おっ、んっ、うぐ、おえっ、うう」
口の中を擦られると気持ちいいのに、喉の奥を攻められると苦しい。その両方の刺激に頭がくらくらした。大きく開けた口から、唾液が溢れ出てくる。
「苦しいですよね……。ああ、可愛い」
口に彼を含んだまま目線だけをあげると、今まで見たことない性欲と支配欲と嗜虐欲がごちゃ混ぜになった、オスくさくていやらしい顔をしていた。彼に可愛いと言われるたびに嬉しかった。嬉しくて彼のモノをもっともっと深く咥え込む。苦しくて苦しくて仕方ないけれど、彼が悦んでいるから。仄暗い被虐欲が子宮を熱くさせる。
「あなたの一番奥で精液を吐き出していいですか」
理人は頷く。喜熨斗の腰が口を犯し始めた中で一番強い力で腰を打ち付けた。理人の頭を押さえ込み、ガンガン喉奥を突いたり掻き回したりして、喉奥という口の中の性器に射精しようとしている。苦しいのに、だんだん気持ち良くなっていく。大切なアルファに喉を犯されて、そこは性感帯へと変わりつつあった。苦しみで悶える声に嬌声が混じり始める。
「んっ、ふっ、んむぅっ、んっ、んっ、おっ、うっ、んっ、んぅっ」
「出しますよ……! く……、う……っ!」
「んううううう! んっ、ぐうっ、うううっ、んっ、ふっ」
腰を顔に強く押し付けられて、ぐりぐりと喉を掻き回されながら、射精されている。喉に熱い精液を叩きつけられた途端、痙攣しながら理人も射精した。後ろの孔はヒクヒクと動いて、愛液を垂れ流している。ドロドロと精液が口腔内に溜まっていって、飲み込みきれなかったものがどんどん口の端から溢れていく。
(あっ、もったいない。喜熨斗さんの精液……、子種……)
ごくごくと飲み下すけれど、出される量に追いつかない。口の中に吐精される快楽に、自分もトロトロと射精し続けながら、止めどなく送り出される精液をひたすら飲み続けた。口元を白く汚しながら、彼のモノに吸い付く。最後まで出しきれるように、精液を喉で受け止める。喜熨斗は最後に何回か理人の口に腰を押し付けて、喉奥に精液を吐き出すと、離れていった。喜熨斗はベッドから降りて、部屋に備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、理人に渡した。ありがたく頂戴し、冷たい水が胃を通り過ぎていく。喜熨斗が労うように理人の髪を撫でる。
「頑張りましたね、理人さん。とても嬉しく思います。あなたの口や喉を私のものに出来ました」
精液のついた理人の口元を拭い、キスをする。水で冷えた口腔内が、喜熨斗の熱い舌で熱を帯びていく。
「んっ、ん、ちゅ、くぅん、ふぅ、あっ、うぅん、あっ、んっ」
「ん、ふぅ、はっ……、んむ、ん、ふ……」
ベッドに横たわって、唇で愛し合う。どれだけ唇を食んでも足りなくて、何度も唇を重ねる。場所を入れ替えて、体勢を変えて、ひたすら唇を味わい続ける。唇を食むという性行為はとても甘美で、密やかで、美しい。キスで前を昂らせた理人は、腰をくねらせながら、甘いキスを受け続ける。理人の可愛らしい動きに胸をときめかせた喜熨斗は、大きく開かせた膝の裏に腕を絡ませて固定し、上から覆い被さってキスをする。理人は喜熨斗の腕を掴んでさらに体を密着させて、もっととねだる。
「んっ、んっ、んっ、んっ、ふっ、んむっ、あっ、はあんっ、ちゅ、あんっ」
「ん、ふ……っ、む、は、ふぅ……」
唇を合わせるだけでこんなにも気持ちがいい。舌で満遍なく口の中を舐めまわされるだけで、達してしまいそう。理人の屹立は先走りを大量に垂れ流していた。理人のモノを見て、喜熨斗は嬉しそうに笑った。そして深い口付けをする。
「んむぅ、んっ、はあん、んっ、あっ、ふぅ、ふ、ちゅ……」
「ふふ、キスだけでイキそうですね? キスだけでイッてみましょう」
「え、そんなの、むりですっ、あっ、んむぅ、んっ、ああっ」
喜熨斗の舌が口の奥まで差し込まれて、理人の舌にねっとりと絡みついてくる。唾液を混ぜ合わせながら、舌同士を擦り付け合う。彼の舌が理人の舌の表面を撫でた。
「舌を出してください。しゃぶってあげますからね」
そんないやらしいことを美しく微笑みながら言う彼に、顔が熱くなったけれど、彼の言う通りにする。舌先を出すと、もっとと言われて、舌の根が痺れるほど突き出すと、いい子ですね、と言ってくれた。そして理人の舌は彼の口に食べられた。ジュルジュルジュルと音を立てて、舌を吸われている。そして頭を前後させて唇で舌を扱き始めた。
「んっ、んっ、んっ、ふっ、んっ、んっ」
「ふ、ふ、ん、ふぅ、んっ……」
舌を食べられて、理人はもうすでにイキそうだった。
「んっ、んっ、あっ、ふぅぅっ、ふっ、んっ」
腕を絡ませて固定されている下半身が勝手にガクガクと揺れる。イッていいですよ、と許可するように、彼が思いきり舌を唾液ごと吸い上げた。舌へ与えられた悦びで、理人は達した。何回も腰を揺らして射精した。
「はあっ、はあっ、ふう、ふ……」
顔を上気させて呼吸を整えている理人の額に、喜熨斗がキスをする。
「よくキスだけでイケましたね。とても可愛らしくて、素敵でした。まあ、さすがにキスだけでイクのはヒートのおかげでしょうが」
「俺も……、びっくりしてます……」
ヒート中とはいえ何回も極まって少し疲れている理人を見て、喜熨斗が少し休憩しましょうか、と提案する。だが理人は承知しかねた。なぜなら喜熨斗の屹立はまだ昂ったままなのだから。
「喜熨斗さん、まだ出してないですし……」
「私のことはお気になさらず。自分で発散しますので。とても美味しそうなオカズもあることですし」
横になっている理人を見下ろし、自分のモノを握った。
「オカズってもしかして、俺、ですか……」
「当然です。可愛いオメガが私の目の前に居て、私が何度もイかせたせいで疲れてるなんて、最高のシチュエーションですよ。アルファとしては燃えます」
子供みたいに目をキラキラさせて言うものだから、理人は苦笑いした。クールな印象だったのに、いろんなところが見えて、なんだか可愛い人だなって歳上の人に思ってしまう。
「疲れてるあなたをオカズにオナニーするので、私の目を見ていてください。ちなみにキスしてもいいですか?」
「……キスはダメです。感じちゃうので……」
どこかしょんぼりした顔で引き下がる彼を見て、キスくらい許してあげれば良かったかな、と後悔する。でも一度キスしたら、またキスでイクまで激しくしてしまう。休憩にならない。だから堪えた。ふと思いつく。
「キスの代わりになるか分かりませんけど、喜熨斗さんの口の中に指を入れてもいいですか?」
「……指、ですか?」
「舌を入れる代わりに、指で喜熨斗さんの口の中をいじってあげたくて」
喜熨斗が黙って口を開けたので、起き上がって彼の足に跨ると、人差し指と中指をそっと差し込んだ。抱き寄せられて、顔が至近距離になって、今日だけでも色々すごいことしたのに、やっぱり恥ずかしい。指を動かして口の中を掻き回してやると、彼が気持ち良さそうな色っぽい吐息を漏らしたので、嬉しくなってズポズポ抜き差ししたり、舌を指で挟んで扱いたりしてみた。その間も彼と目が合っていて、真っ直ぐな瞳に欲情を湛えて、理人を見る。彼の手は上下に早く動いていて、この状況に胸が高鳴る。時々彼の視線が動いて、理人の体を舐め回すように見るので、少しだけ体が反応してしまう。彼は時折、熱くて切ない吐息を漏らしている。
(ほんとに俺のことオカズにしてる……。俺のこと、やらしい目で見てるんだ……。すごい、俺に欲情してるんだ、可愛い)
濡れた指を口から抜いて、唇を撫で回す。薄い唇が少し開いていて、熱い吐息を吐き出していた。時折、低いうめき声みたいな、喘ぎ声のようなものも聞こえる。また指を差し込んで、舌の上を撫でながら出し入れした。
「はあ……、喜熨斗さん、とってもエッチです……。こんなに素敵な人がこんなにエッチだなんて、思いもよりませんでした。もっと喜熨斗さんのやらしい声、聞かせてください、とても色っぽくて、やらしくて、好き……」
「んっ、ふっ、ふぅ、はあ、はあ……、くぅ、ん……、もう……っ」
鼻にかかった吐息のような喘ぎのような声が、喜熨斗の唇から漏れる。彼の口内を犯している指にも、淫靡で熱い吐息がかかる。理人は自分の孔がじゅくじゅくと濡れるのを感じていた。
「ああっ、可愛いです……! すごい、やらしい! 素敵……」
喜熨斗が空いていた手で理人の頭を抱き寄せ、唇が触れ合いそうなほど、顔が近付く。チラリと彼が早く動かしている方の手を見ると、尋常じゃない量の先走りでびしょびしょになった屹立が、腹につきそうなほど反り返っていて、今にも爆発しそうな気配がした。
「はあ、ふぅ、……私の目だけを見ていてください」
彼が理人の目を見つめながら、激しく手を上下させている。愛おしくてたまらなかったので、彼の顔を包み込んで囁く。
「いいんですよ、もっとやらしいところ見せてください。もっと俺のこと見て、もっと俺に欲情して、もっと俺を犯して、もっと俺をオカズにして……」
彼の目を見つめた。彼の手の上下運動がもっと激しくなって、荒い息を吐きながら、それでもなお目線は理人を見つめていて。
(嬉しい、嬉しい!)
クッと彼が息を詰まらせた。眉根を寄せて目をキツく閉じた。腹の辺りで熱い飛沫がかかるのを感じた。見ると彼の屹立から彼の体液が噴出していて、それが目の前に居る理人の腹に浴びせられていた。ヒートの時に、運命のアルファの精液をかけられて、感じないオメガなどきっと居ないだろう。そう確信するほど理人は興奮して、熱い精液をかけられたことに感じた。この美しいアルファが極まったときの表情を見られて、後ろから愛液が流れ落ちた。きっと今の理人の孔は海みたいに愛液という水で満たされているに違いない。二十分ほどだろうか、長い喜熨斗の射精が終わった。
少しの間、互いの体を愛撫したり、キスするだけに留めていいたけれど、理人が限界だった。見ると、喜熨斗のモノはもうすでに逞しくそそり立っていた。彼に入れて、と囁くと彼が頷く。喜熨斗がコンドームを自分のモノに被せている間、彼が欲しくて理人の後ろがうねりだし、シーツを愛液でびしょびしょに濡らしていた。喜熨斗は理人を抱き寄せた。耳元で秘め事のように静かに囁く。
「今日初めてあなたのことをベッドの上で抱くことになります。どのようにされるのがいいですか。前から、後ろから、上から、下から、と四つ選択肢があります。どれがいいですか」
「……んっ」
彼の吐息が耳に当たって感じてしまう。狙っているとしか思えなかった。後ろの性器が疼いて仕方なくて、身を捩らせながら、彼にしがみついて答える。
「…………前から、がいいです……。喜熨斗さんの顔を見ながら、シたい……」
恥ずかしくて彼の顔を見られなかったけれど、頷いてくれたのは分かった。
「可愛い私のオメガ。私を見て」
羞恥心を抑えて顔を上げる。喜熨斗は本当に優しい顔で、理人を見つめている。心が震えた。胸の鼓動がどんどん早くなる。凄まじい感情の熱に切なくなって、体は彼を欲しがっていて、想いを打ち明けずにはいられなかった。
「喜熨斗さんっ……! 好きっ! あなたのことが好きっ! あなたが運命の番だからとかじゃなくて、あなたのことが好きです……。出会ってまだ二回しか会ったことないから信じてもらえないかもしれないけど……。好きなんです。俺に初めて優しくしてくれた人だから。俺のことを大切にしてくれる人だから……」
「理人さん、私は運命の番なんて信じてませんでした。でもあなたと出会って、運命の番は本当に居るんだって。あなたは本当に無垢で、可愛らしくて、あの一夜でどんどん惹かれていく自分に気付きました。あなたを蔑ろにするご主人からあなたを奪い去りたい、本気で思っています」
喜熨斗の胸に縋り付く。嬉しくて涙が溢れてくる。
「奪い去って! あの人の元から俺を連れ去って、あなたのものにしてください……」
「理人さん、好きだ」
「俺も……、あなたのことが好きです」
自然と顔が近付いて、キスをした。これは誓いのキスだ。近い未来、理人を必ず自分の番にするという喜熨斗の誓いだった。
しばらく唇の感触を楽しんだ後、自然とベッドの上に倒れ込んだ。抱きしめ合って互いの肌や体温を感じていると、体が相手を欲しがるようになる。理人は足を持ち上げて、喜熨斗を迎え入れる体勢を作った。
「きて……」
喜熨斗は覆い被さると、理人のナカに自分を埋め込んだ。
「あああ……っ! すごいっ、おっきい……。玄関でシたときより、すごい……っ。んんっ、あっ、ああんっ、ふぅっ」
「きっと体も……、ふっ、思いが通じ合ったことを、はあ……、知って、変わっていっているのでしょう、ね……」
ゆっくりゆっくりストロークが始まる。明らかに今日初めてシた時よりも大きく硬く太く長くなっている。徐々に揺さぶられ始めた体が、夢心地でふわふわとなっていく。喜熨斗との運命的な出会い、初めて知った抱かれる悦び、運命の番という本能も超えて、思い合えているという安心感。ふわふわと浮遊している体に、愛しいアルファからの愛が与えられる。凄まじい快感だった。夫とした性行為、自慰、そして喜熨斗に初めて抱かれた時よりも、もっと強烈な快楽。思いが通じ合った番というのは、こんなにも性行為での快感が違うのか。そんなに強くナカを擦られていないのに、叫びたくなるほど、気持ちが良かった。夫が彼の恋人とのセックスに夢中だったのは、こういうわけだったのか、と理人は今更ながら気付いた。愛してる人とする、この愛の行為は測りきれないほどの悦楽をもたらす。理人も今日この瞬間身をもって知った。思い知らされた。もうこの人以外の誰かと、愛を紡ぐなんて出来ようもない。悦楽の雨に打たれながら、快感を耐えようとするのだけれど、耐えきれない。下品なほど大きな嬌声が勝手に口から漏れてしまうし、ナカが彼を食い締めて離さない。こんなふうになってしまって彼に呆れられていないか、不安になって上の彼を見上げると、クールで理性的な雰囲気がなくなり、ただひたすらにメスを自分のものにして種付けしようとするオスの顔をしていた。理知的な色をしていた彼の目が、肉欲や性欲、支配欲に目をギラつかせている。それを見た瞬間、腸壁が勝手にうねりだした。体が早くこの人ものになりたがっている。この人に支配されて、頭の中も体もめちゃくちゃになるくらいに抱かれて、嵐の最中の小舟のように揺さぶって欲しいと思っているのだ。
「おっ、おっ、ふぅっ、はっ、あっ、あっ、んっ、太くて、熱くて、すごいよぉっ、あなたがナカに居るだけでっ、気持ち、いいのっ! あっ、あっ、んぅっ、ふぅ、おっ、はあんっ、ああんっ」
頭を振り、身を捩って快楽を受け流そうとするとのだけれど、喜熨斗にがっちりと体を押さえ込まれて、彼の形を覚え込まされているので、ゆっくりとそして確実に強烈な快楽が骨盤を通って背骨から首へ、そして脳内に伝達される。
「だめっ、だめなのっ、気持ち良すぎて、耐えられないっ! 離してえっ! ああんっ、気持ち良すぎるっ、あんっ、ナカを通るだけなのにっ、こんなにっ、あっ、おっ……!」
頭の下にある枕にしがみついて悶える理人を見て、腕を取り自分の背中にしがみつかせた。尚のこと体が密着して、過分な快楽が理人の脳を焼いた。
「ふうぅっ、あっ、おっ、おっ、だめっ、良すぎるっ、こんなのっ、むりっ、ああんっ、ふっ、んっ、んっ」
「ごめんね、これからもっと強くなるよ」
少し口調の砕けた喜熨斗がそう囁いて、腰を大きく振って、理人の最奥である結腸を押し上げた。
「ああああっ! んううううううっ! ふーっ……、ふーっ……、ん、あ……」
理人はあまりの衝撃で一瞬意識が飛んだ。強く打ち続ける腰に足を絡めて、抵抗を諦めてひたすらに強烈な快楽に体を任せることにした。
「はあんっ、おっ、んぅっ、すごい、おっきい……っ、ああっ、気持ちいいのっ、良すぎて、壊れちゃいそうっ! あんっ、んっ、ううっ、はあん……、喜熨斗さん、キスしてっ?」
舌を絡めて唇を味わう。唾液の味すら変わったように感じる。甘くて、愛しくて、美味しい。
「喜熨斗さんの、よだれ、ちょうだい……。ねっ、もっとっ、んっ、あんっ、んむぅ……」
喜熨斗が唇を合わせて唾液を流し込むと、理人は後ろの孔をきゅうきゅう締めて喜んだ。水を飲むように喉を鳴らして、飲み干す。舌で彼の舌を舐め回し腰をゆすって、もっととねだると、さらに理人の口の中へ唾液を注ぎ入れる。
「んっ、んぅっ、おいしい……、んっ、くちゅ、んっ、ねぇ、喜熨斗さんの舌を、しゃぶってもいい……?」
理人の可愛いおねだりに喜熨斗は目を細めて、微笑んだ。
「君は舌をしゃぶられるの好きですもんね。私にもしたいんですか」
「うん……、俺、喜熨斗さんに舌をじゅぽじゅぽされるの、好き……。だから俺も、喜熨斗さんにしてあげたいの」
「いいですよ」
喜熨斗が舌を差し出すと理人はむしゃぶりついた。顔を大きく動かしてじゅぽじゅぽと音を立てながら吸い上げて、顔の角度を変えたり、舌を使いながら、喜熨斗の口の中を舐め回した。そうしていると理人に嵌っている喜熨斗の性器が脈打ち大きくなるのを、ナカで感じる。
「んんぅっ、あっ、きのしさんっ、んっ、んっ、んむぅっ、気持ちいいの? また、こんなにおっきくして……。俺にべろ、じゅぽじゅぽ吸われて気持ちいい?」
「……ええ、イイですよ。とっても……」
喜熨斗の腰が大きく前後に動き始めた。彼の大きなモノが、理人の孔をみちみちと押し広げ、彼のモノが出入りするたびに粘膜が捲れて、理人はあまりの快感に頭が真っ白になりそうだった。
「あっ、んっ、まだ、きのしさんの、べろ、じゅぽじゅぽしたいっ、んっ、のにっ……」
「ふっ、ふぅ……っ、それはまた、んっ、あとで……」
喜熨斗の亀頭が理人の前立腺を、ぶちゅぶちゅと先走りと愛液が混ざった音を立てながら、執拗に叩く。
「ああああああっ……! そこ、弱いのに……っ! あっ、んっ、なんかっ、いい、におい、する……っ! 喜熨斗さんからっ、いい匂いっ、するぅっ……!」
「お分かりにっ、なりますか……っ。どうやら、ラットが、始まった、みたいです……、うっ、ふぅ、はあ……、はーっ、はーっ、ふっ、ふっ。君と、思いが通じ合ったら……っ」
喜熨斗のアルファとしての体が、自分のオメガと心も体も通じ合ったことに喜び、発情期を起こしたようだ。理人を貫く喜熨斗の怒張が、玄関で彼を受け入れた時よりも明らかに大きくなっていたのは、気のせいではなく発情期で始まったからなのだろう。
「もっと、強く抱いても、いいですか……っ」
「え、これ以上……? ああ……、いいですよ、もっときて、もっと強くしてっ」
理人の尻を高く持ち上げて、上から押し潰すようにペニスを叩き入れた。理人の最奥の結腸より深い、S状結腸に彼のモノが捩じ込まれる。
「ああああああ……っ!」
理人はそれだけで絶頂した。ビュクビュクと精液を震えるペニスから吐き出しながら痙攣している。痙攣している体を彼が上から押さえ付けるように抱き締めていて、痙攣して体が震えることで、ナカに入っているモノを締め付けて、さらに感じてしまう。イッている理人をぎゅっと強く抱き締めて、また強く怒張を抜き差しして、理人の奥のさらに奥、S状結腸に捩じ込むことを繰り返した。揺れる頭の片隅で、この大きくて立派なベッドが激しく軋む音を聞いた。体だけではなくベッドも、彼の激しい動きに合わせて、揺れている。それほど激しいセックスをしていた。みちみちと理人の直腸に包み込まれている凶器のようなペニスが幾度となく腸壁を擦り上げ、腹が彼のペニスで膨らむほど奥まで捩じ込まれ、理人は頭がおかしくなりそうなほどの快感に身を焦がし、達し続けた。どれだけ絶頂しても、彼の壮絶な責めは止まらない。彼の逞しい腕の中で、イキ続けた。彼はどんなに理人が泣いても奥を犯すのを止めなかった。
「はっ……、はっ……、ふ……」
「あっ、んっ、んっ、んんっ、んっ、あっ、あんっ……」
彼が理人の腸壁に優しく包まれながら、達したのが分かる。彼の亀頭に吸い付いている結腸に温かいものを感じた。彼の亀頭を包み込んでいる結腸に被膜越しとはいえ、精液を吐き出されるのは、それだけでイッてしまいそうなほどの快楽だった。先走りで腹をびしょ濡れにしながら、喜熨斗が精液を吐き出し終わるのを待つ。コンドームから受け止めきれなかった精液が溢れ出す。それを見た喜熨斗が申し訳なさそうにする。
「すみません、アルファ用のコンドームを使ってるんですが、漏れてしまいました」
喜熨斗がずるりと理人の尻からコンドームを抜いた。
「ああんっ……、ん、恥ずかしい声出ちゃった」
ビニールに溜まった精液は見たこともないほど大量で、驚いた。口を縛ってゴミ箱に投げ入れる。
「少し休憩しましょう」
先ほど理人に渡したミネラルウォーターを飲み、喜熨斗は理人を抱き寄せ自分の上に乗せて、ベッドに寝転がった。
「あの、ヒートの時ってずっとエッチしてるものなんじゃないでしょうか」
「まあ、一般的にはそうだと思いますね。ずっと繋がりっぱなしと言うか。でも理人さんはイキやすいので、一週間ずっと繋がったままだと、一週間で何十回とイクことになってしまいますので」
「……それは、困りますね…………」
数えきれないほど達してしまうなんて、体がどんなふうになってしまうか、予想もできなくて怖い。喜熨斗に頭を撫でられて、気持ちが良くて恍惚とする。彼の鼓動を聞きながら微睡んだ。
そうして一日目は過ぎ、二日目、三日目……と場所を変え、体位を変えて本能の赴くまま求め合った。そして最終日の七日目の朝方。あんなに激しく求め合って、抱き合った日々がまるで夢のようで、今日で最後だなんて信じられなかった。夢から醒めて現実に戻らないとならないと思うと、憂鬱だった。隣で寝ている喜熨斗の腕の中に収まると、彼の胸に耳をあて鼓動を聞いていた。彼の鼓動を聞いていると、とても安心する。もう一度眠るために目を閉じた。意識がふわふわと浮上して、目を開けると目の前に喜熨斗の顔があった。この一週間どれだけ見つめても見飽きない、愛しいアルファの顔。とても整っていて美しい顔立ち。今までどれだけの人を魅了したのだろう。彼が伏せていた目を開けて、理人に微笑んだ。
「……おはようございます」
「おはよう、ございます」
額にひとつ口付けをされた。その後、喜熨斗が時計を確認する。
「朝食が運ばれて来たころですね。朝食にしましょう」
起き上がって、ベッド脇に落ちていた下着を履いただけの彼が、隠し扉を開けて、配膳台を引いて持ってくる。理人も下着を探したが、違う部屋で脱いだ気もするし、今は荷物を置いている寝室とは違う寝室に居るので、履ける下着がない。困っていると喜熨斗が助け舟を出してくれた。
「見えるのが恥ずかしいなら私のシャツを羽織ったらどうですか」
これまた落ちていたシャツを手渡され、着てみた。体格差があるのでブカブカだった。そのおかげで太ももあたりまで隠れている。
「彼シャツ、燃えますね」
「……か、彼シャツ」
そう言われてしまうと恥ずかしくなってきた。でも全裸で朝食にするよりは数倍マシだった。朝食を食べ終わって、ベッドで寝転んで食休みをしていると、喜熨斗がこんな提案をしてきた。
「今日はあなたの膣に触っても構いませんか」
言われてみれば、彼が挿入するのは直腸内で、膣に触れられたのは、屹立で直腸を擦り上げる時に一緒に膣腔も擦られるくらいだった。
「俺もヒートの時ぐらいしか触ったことないので、ちょっと不安ですけど……、喜熨斗さんが仰るなら」
不安げな顔をする理人を宥めるように体を撫でられて、リラックスするために一緒に風呂に入ることにした。挿入はなくてもキスしたりペッティングしたりして、イチャイチャした。軽く体を拭いたあと、綺麗なシーツに取り替えられていたベッドに二人で座る。喜熨斗に後ろから抱えられるように理人が前に座った。温まった素肌が心地いい。彼の腕が後ろから伸びてきて、理人の足を開かせた。恥ずかしかったけれど、彼に任せる。手は下腹部に伸びて、そこを、おそらく子宮があるあたりを、ぐっぐっと優しく押した。ただれだけのことなのに、甘い吐息を漏らしてしまう。指が奥に向かっていき、孔に差し込まれる。ゆっくりと出し入れされて、指を第二関節まで入れたところで、目的のところへ行き着く。直腸内膣腔があった。入り口を指で何度も優しく撫でられる。腰が跳ねた。
「はあっ、んっ、そこっ、んっ、あっ、あんっ……」
「濡れてきましたね……」
耳元でそんな恥ずかしいことを言われるとたまらなくなる。膣内に指が入ってくる。ヒートの時にしか開かれない、オメガの膣腔。今までヒートの時期に自分を慰める時にしか触ったことのないそこを、自分以外の人が触っている。信じられなかったが、自分の指とは違う、長くて骨ばった指が入っていくのを感じながら、不思議に思った。指がゆっくりと出し入れされる。だんだんナカからたくさんの愛液が溢れてくるのが分かる。
「ほら……、あなたの膣の中、濡れてグチュグチュいってますよ」
耳に舌を差し込みぺろぺろと舐めながら、彼が囁く。
「やっ……、はずかしい……っ! そんなことっ、言わないでっ」
「濡れているのは感じてくれている証拠です。入れる前に、あなたをイカせたい」
「えっ、俺、膣でイッたことない……っ!」
指が増やされて、ナカを念入りに擦り上げながら、拡げられる。指が子宮口にあたった。
「あっ、あんっ、そんなにっ、ああっ、あんっ、ふぅっ、ふぅ、んんっ」
指を出し入れする速度が上がる。トントンとテンポよく子宮口をノックされて愛撫されて、理人の息も荒くなる。
「はーっ、はーっ、はーっ、あっ、あっ、だめっ、は」っ、ああっ、んうっ、んぅっ、んっ、んっ、あっ、あっ」
彼のもう片方の手が理人の会陰を押し込む。
「ああああっ! 押しちゃっ、だめっ、むりっ、あっ、あんっ、あんっ、あっ」
「ほら、ナカがぎゅうぎゅう動いて、指を締め付けてきます」
理人は湧き上がる熱い奔流に流されていく。
「あっ、あっ、くるっ、くるっ、きちゃうっ、あっ、だめっ、あんっ」
「いいんですよ、イキそうなんですよね。いいですよ、イッて、ね、理人さん。もっとグチュグチュしてあげます。もっと子宮口を撫でてあげます。もっと指を締め付けて、ナカをうねらせて、いっぱいイッていいんです。ほら、初めて膣でイッてごらん?」
宣言通り、腹の奥から愛液を掻き回す音が聞こえるほど、激しくナカを撹拌された。
「あーっ、あんっ、いやっ、だめっ、あっ、あっ、ああああっ!」
腰をビクビクと震わせて、理人が絶頂する。肛口から膣から分泌されて溢れ出た愛液が流れ落ちていった。膣も直腸に繋がっている部分なので、尻の孔もヒクヒクしてしまう。喜熨斗の胸板にもたれて、息を整えていると、後ろから彼に抱き締められた。
「ああ、理人さん、とても愛らしかった……。あなたが膣でイッたことがないなんて……。初めての相手になれて、嬉しいです。……ヴァギナに誰かを受け入れたことは? 例えばご主人とか」
「ふぅ、ふぅ、……ありません。あの人、オメガのことなにも分かってないから。ただ尻の穴に射精すれば、子供が出来ると思ってる」
顎を持ち上げられて、理人の唇に彼の唇が触れる。ちゅうちゅうと吸われて、気持ちがいい。うっとりとした顔の喜熨斗が、幸せそうに笑う。
「嬉しいです、あなたのヴァギナは私のものです。あなたの初めては私です」
そのままベッドに押し倒されて、尻を高く上げさせられた。恥ずかしさと期待で腰を揺らす。
「初めてですから、楽な体勢でしましょう。こちらの方が入りやすいでしょうし」
いつの間にか立派に育った屹立にコンドームを嵌めて、理人のナカに入ってくる。
「あ……、ああっ」
いつもなら通り過ぎていくところへ、彼の大きなモノが入ってくる。膣腔が甘く押し広げられ、どんどんめり込んでいく。
「ああああっ!」
膣肉を擦られた衝撃で理人が達した。理人のペニスからは精液が出ていない。それに構わずどんどん侵入される。
(気持ちいいっ! 気持ちいいっ! 気持ちいいっ! すごいっ! おかしくなるうっ!)
喘くことすら出来ずに荒い息を吐く理人の腰を掴み、子宮口の少し手前をガンガン突き始めた。
「ああっ?! なにっ? あああっ、んっ、んっ、あんっ、あんっ、そこぉっ」
快楽に涙を流しながら逃れようとする押し潰すように、後ろから抱き抱え、激しく突く。
「おっ、おっ、おっ、あっ、あっ、あっ、あああああっ!」
体を陸に上げられた魚のように跳ねさせながら、理人はまた絶頂する。この時も精液が出ていない。
「ここはね、Gスポットですよ。女性のイイところです。膣があるなら男にもあるとは思っていましたが、やはりありました。。おや、精液が出ていない。ナカイキしたんですね」
震える理人を宥めるように首筋や肩、背中にキスしながら、彼が出ていく。ポッカリと穴が開いて、中の粘膜が見えるくらいひくつかせている理人の尻を撫でた。
「大丈夫、また入れてあげますから」
そう言ってまたのしかかってきて、入れられる。
「あああっ! またっ、あっ、ンンンンン」
ずちゅんずちゅんと膣をほじくられ、彼の亀頭が子宮口に届いて、子宮口をめいいっぱい突いてくる。
「あっ! あああっ! あっ、あっ、あっ、あっ」
顔が涙と涎でぐちゃぐちゃになった理人は、与えられる甘い責苦に悶え喘ぎ、嬌声を上げることしか出来なかった。そして何回目かの絶頂を迎えた。直腸壁も膣肉も快感に蠢き、うねり、彼のモノを強く締め付けて、彼は子宮に注ぐように絶頂を迎えた。彼が射精している間、子宮に塗り込むように腰を揺すられて、気持ち良くて気持ち良くて、たまらなかった。彼の長い長い吐精が終わり、ぐったりとベッドに横たわると、コンドームの始末を終えた彼が労わるように頭を撫でる。
「処女をくれてありがとう。嬉しかったですよ」
「はっ、恥ずかしいので、そんなこと言わないで……」
抱き込まれて、キスをされる。甘くて熱い吐息、くちゅくちゅと口の中を舐められる音、漏れる声、セックスしたばかりの汗と体液で濡れた体。
「好きな相手の初めては嬉しいものです。だから嬉しい」
「喜熨斗さん…………」
理人はこの瞬間がいつまでも続けばいいのにと願った。
夜寝ているとなんだか何かに触られている気がして、目を覚ました。手が背後からまわってきて、理人のパジャマを脱がせようとしている。
「……ん、あなた…………? 帰ったの?」
「……ああ。ここしばらく、シテなかったろ」
自分で家に帰って来なかったくせに、言い訳じみた言葉を述べて、夫の手が理人の体を這い回る。夫は一応普通に理人を抱こうとはするのだ。ただ、理人が快感を得られないタイプの人間だったというだけで。夫の手のひらが乳首を掠めた時、声が漏れた。
「あっ……」
恥ずかしくて顔が熱くなる。夫も理人の喘ぎ声じみた声に驚いているようだった。探るように手が動かされて、また夫の手が乳首を掠める。
「んっ……」
「…………お前」
今度は明確な意思をもって、乳首が捏ねられた。
「んっ、はんっ……」
鼻にかかった甘い声を夫の前で出したことが恥ずかしくて、手のひらで顔を覆った。不愉快そうに夫が言う。
「お前、不感症だったはずだろ。どこで仕込まれてきた?」
「……それは」
体を仰向けにされて、乱暴に上のパジャマを脱がされる。僅かな刺激で主張し始めている突起を見られて、羞恥に駆られる。不機嫌そうに眉を寄せた夫が、乳首を捏ねた。
「あっ、んっ!」
「どれだけ抱いても少しも感じなかったお前が、こんなになるなんて、誰に仕込まれた? 誰だ、俺の知ってるやつか?」
理人に詰め寄りながら、夫の両手が理人の乳首を責める。きゅっと摘んで引っ張ったり、捏ねくりまわした。
「はあああっ、あっ、んっ、あなたっ、そんなに、しないでえっ」
「クソッ、俺をバカにしやがって!」
悔しそうに顔を歪めて、乳首を苛み続ける。ふぅふぅと息を荒げていると、下着ごとパジャマのズボンを引き摺り下ろされた。理人の小さな陰茎が緩く勃ち上がっている。足を大きく広げさせられ、持ち上げられる。彼の視線が肛口に突き刺さっていた。
「俺が居ない間に何回そいつと会った? 何回、抱かれた?」
夫に指で孔の縁をなぞられると、ヒクヒクと縁が動いてしまう。
「この淫乱!」
尻たぶを思い切り叩かれた。
「痛いっ……!」
「こんなになるまで、そいつに抱かれたんだろ? いつからだ? いつからそいつと不倫してた?」
濡らしてもいない指を孔に突っ込まれて、ナカを掻き回した。痛かったけれど、だんだんナカが濡れていく。指を増やしてグチュグチュとナカを拡げて、濡れた指を引き抜いた。なぜ夫がこんなに怒っているのか理解出来なかった。
「なんで、そんなに怒ってるの? 明彦さんこそ、不倫してるでしょ」
「は?」
夫の顔が少し青褪めた。
「俺が何も知らないとでも思ってた? 俺と結婚する前から付き合ってる人と今でも関係持ってるじゃん。週に何回も会ってるの、知ってるんだよ。あの仕事部屋に連れ込んでるでしょ? この前の出張にも幸也さんを部下として同行させて、蜜月だったんじゃないの?」
「それは……」
理人は身勝手な夫を睨みつけた。自分のことは棚に上げて、人を詰るなんて。
「そんな人に不倫を責められる謂れはないよ。自分は不倫していっぱい恋人とのセックスを楽しむけど、相手の不倫は許せないなんて、おかしい。ふざけてるのはそっちだろ。俺に子供を産ませるだけ産ませて離婚しようって思ってるくせに」
「……なんで、それを」
「俺、見ちゃったんだよね。明彦さんと幸也さんがヤッてるところ。その時言ってたよね。さっさと子供作って別れたいのに、妊娠しやしないってさ。俺のことなんか愛してない、幸也さんを世界で一番愛してるって言いながら、腰振ってた」
本当のことを言われて頭に血が昇ったのか、明彦が理人の腕を掴んだ。
「なに? 離して」
「ふざけるな、ふざけるな」
両手首を掴まれて身動きを取れなくさせられ、のしかかってきた。同じ男でも、オメガはアルファはもちろんのこと、ベータにすら力では敵わない。
「なにっ? なにするんだよ、離せっ!」
なぜ明彦のモノが勃起しているのか分からない。なぜそれを入れようとしているのか分からない。だって彼は理人を愛していないのに。不倫されて怒って、それでどうして自分を抱こうとするのだ。彼のモノが穴に入ってくる。
「あ……、いや、やめて」
「うるさい!」
濡れた穴が夫のモノを誘惑し、オスの挿入を喜んでいる。彼の勃起したモノで粘膜を擦られて、嫌なのに感じてしまう。
「ああっ、やっ、あっ、んっ、んっ」
「嫌だと言っておきながら、悦んでるじゃないか! ふっ、ふっ、ふっ」
乱暴に擦られ、奥を突かれ、理人の性感は高まっていく。オメガである体が疎ましい。オスに入れられたら問答無用で感じるようにできている、この体が憎い。
「あっ、あっ、やだっ、あんっ、だめっ、あっ、んっ、んっ、んぅっ」
理人の両腕を掴み、乱暴に腰を使われて、腸壁が歓喜してうねっているのが分かる。
「ほら、出すぞ! ふっ、ふっ、はっ、はっ、うううっ!」
「いや、いや、いや、あっ、んっ、んっ、んんんんんっ!」
夫は出しても止まらず、一晩中理人を犯した。次の朝、起きたら明彦は居なくて、ほっとしたのも束の間、夜になって帰ってきて、また理人を抱いた。結婚してから今まで、家に帰ることなんて多くて一ヶ月に一度だったのに、毎日帰ってくるようになって、そして毎晩理人は抱かれた。明彦は嫌がる理人を抱き締めて、何度も挿入して理人のナカで射精した。つらくてつらくてたまらなかった。つらくてたまらなくて、とうとう喜熨斗に相談することにした。毎晩夫に無理矢理抱かれてつらい、と。いつも密会するホテルで打ち明けると、優しく抱き締めてくれ、キスしてくれた。そしてそのあとは縺れるようにベッドへ傾れ込んだ。喜熨斗にしては珍しく、今までにないほど乱暴に抱かれた。彼の目が、表情が、嫉妬に燃えていた。理人が婚姻しているということで、人目を憚りなかなか会えないというのに、結婚しているというだけで毎晩理人を抱ける夫に嫉妬したのだ。理人は喜熨斗が夫に嫉妬していると気付いて、歓喜に震えた。だからどんなに乱暴に突き上げられても、喜んでナカを許した。それはもう燃えるような熱いひとときだった。
明彦が家に帰ると、見知らぬ革靴が玄関に置かれていた。誰か来客だろうか、でもこんな遅い時間に――? と不審に思いながらリビングに行くと、ソファで理人が見知らぬ男の膝の上に乗って抱き合ってキスをしていた。
「な、なんだ、お前!」
振り返ってこちらを見た理人は、見たこともないような扇情的な顔で明彦を見た。
「……ああ、お帰りなさい、あなた」
「お帰り、じゃない! 誰だ、そい、つ……」
顔を覗かせた男の顔を見て、明彦は二の句を継げなくなった。
「お帰りなさい、蕗谷さん」
業界の中でトップの企業を率いる喜熨斗㬢だった。
「なんで……、あなたがここに……? というか理人と、どういう関係で……」
「なに、あなたと同じで不倫関係ですよ。蕗谷明彦さん、美上幸也さんとは二十年近く交際なさってるようですね。理人さんとご結婚される前から交際していて、結婚後も交際関係は続いてる」
幸也の名前を出されて動揺した。なぜ、そんなことを知っている?
「あなたのことを少し調べさせて頂きました。あと、あなたの会社やあなたのご両親、そして理人さんの実家の春夏冬家のことも。会社を大きくするために提携するのはいいですが、まったくこの時代になって、友好関係のために子供を結婚させるなんて時代錯誤も甚だしいですね。あなたも恋人が居るなら断ればいい」
「……、ですが」
喜熨斗は眼鏡を直すと、無表情で言った。
「親に言われたから。結婚しないと言ったら、会社を継げなくなるから。まあ、そんなところでしょう。そこまでは正直私も同情します。この時代でも子供を手駒ぐらいにしか思わない親もいることを残念に思います。しかし、その結婚相手を蔑ろにして、恋人との不倫に耽るのはどうかと思いますよ」
「っ! あんただって、うちの理人に手出しただろ! 不感症の理人の体が変わるくらい開発して、自分好みにしたんだろうが!」
軽蔑の表情で怜悧な顔が明彦を見やった。
「開発? なんですか、それは。理人さんは私に初めて抱かれた時からとても感じていらっしゃいました。ご自分でも不感症だと仰ってましたが、とてもそうには見えなかった。あなたの技量が下手なだけだと思いますし、それに……」
「それに……?」
セックスのテクニックが下手だと言われて怒髪天にきたけれど、その続きが気になった。
「私たちはね、運命の番なんですよ」
「……はあ? え、運命の、番……?」
そんなお伽話みたいな、都市伝説みたいなものが本当にあると言うのか。
「初めて出会ったときから、目と目が合った、それだけで惹かれあって、抱き合ったら体の相性は最高でした」
喜熨斗は自分の胸にもたれかかっている理人の頭を優しく撫でていた。まるで自分のものかのように。それにカッとして、喜熨斗に詰め寄る。
「あんたを訴えてやる! 俺の妻に手を出して、タダで済むと?!」
「それこそ、こちらから、理人さんがあなたを訴えることになる。私の方であなたの身辺を探っていましたので、あなたの不倫の証拠もたくさん持っています。それであなたを訴えることも出来ます。不倫されて離婚した彼を、世間は同情の目で見るでしょうね。そしてあなたは白い目で見られる」
その言葉に怯む。その言葉が本当なら明彦の人生は破滅に向かう。
「理人さんと離婚して、解放してください。いいですね? そうすればあなたを訴えることはしません。優しいことに、理人さんは大事にしたくないと仰ってくれています」
「あなた……、明彦さん、幸也さんとお幸せに」
理人はそれだけ明彦に述べると、また喜熨斗にもたれかかった。明彦は項垂れるしかなかった。
「ああ、明彦さん、もう出て行ってもらってもいいですか? これから私たちは愛し合う予定なので」
そう言って喜熨斗は理人の首筋に鼻を埋めて、そして丸みを帯びた尻を揉みしだいた。
「あんっ、やっ、まだ居るのに……。恥ずかしい……」
聞いたこともないような色っぽくて甘い声を出して、理人が喘いだ。喜熨斗の唇が理人の首筋にむしゃぶりつく。
「はあっんっ、きのしさんっ、ああっ」
明彦はそんな二人を見ていられなくて、自分の家を飛び出した。
興信所によると、出張先に恋人を連れて行っているらしい。夫は出張先で恋人と蜜月を過ごすのだろう。でも理人には関係なかった。なぜなら、理人も不倫をするから。今日から喜熨斗と一週間発情期を過ごす。理人が訪れたのは喜熨斗家が所有する別邸の一つで、使用人たちが敷地内にあるいくつかの家に住んでいる。夫が出張で留守にしている、それをいいことに、一週間別邸に閉じ籠もって、ヒートを共に過ごすのだ。夫はいつも帰って来ないけれど、絶対に帰って来ないと分かっていれば、ヒートの間は喜熨斗との時間に集中出来る。喜熨斗によれば、いくつかある別邸の中で、この別邸は特別だそうだ。結婚したばかりの当主は新妻と最低一ヶ月は屋敷に閉じ籠り続ける。この屋敷は当主夫妻が集中して夜の営みを行うために作られたものなのだそう。そのため歴代の当主夫妻はここで子作りに精を出したという。夫婦が性行為をするため、特にヒートやラットを過ごすために作られたので、使用人はベータしかおらず、屋敷にはいくつも寝室があって、どの寝室にも備え付けの浴室があり、そのほかの部屋にもベッドとまでいかないものの、リビングやダイニング、サンルーム、書斎にも、上に乗っかった二人が激しく愛し合っても壊れないような、丈夫で大きなソファが設置されていて、どこでもセックスし放題らしい。そして隠し扉みたいなものがどの寝室にもあって、使用人がどの部屋で主人夫妻が抱き合っているか把握したり、営みが終わった頃に食事を運んだりするのだ。まあ、それでも営みがどこで行われているか、隠し扉に頼らずとも使用人たちはみな分かるのだとか。家中の部屋に使用人を呼ぶための装置があって、当主夫妻が子作りのためにこの屋敷を訪れて、行為に励みだすとその装置から夫婦の声が流れてきて、どこに居るか丸わかりらしい。その声や音を聞いた使用人たちも劣情を催して、使用人夫婦やひっそり恋人関係にある者たちが仕事中に性行為に及ぶことも多く、使用人たちはみな大家族なことが多い。使用人たちが仕事中に性行為に及んでも咎めないのは、そもそも当主たちが性行為に夢中であるからなので、見逃しているのだとか。そんな話を聞いた理人は、もしかして最中の声や音を聞かれるのではないかと恥ずかしかったが、ヒートを過ごすための屋敷なら安心だなとも思った。ちなみに、性行為を楽しむための道具などが揃っている、隠し部屋みたいなのもあるらしいと喜熨斗がこっそり教えてくれた。
屋敷には、ヒートの前日から訪れている理人が巣作り出来るように、喜熨斗の衣料品が大量に送られてきていて、借りている寝室で巣作りに励んだ。喜熨斗のシャツやセーターからは、喜熨斗のいい匂いがして、巣作りの間多幸感でいっぱいになった。この中で喜熨斗と抱き合ったらどうなってしまうのだろう。期待に胸を膨らませた。当日、作った巣の中で、うとうとしながら過ごしていると、ノックの音が聞こえる。起き上がると、喜熨斗家に長く仕えているという老人の声がした。
「蕗谷様、旦那様がお見えになられました。体調は良ろしいですか? お迎えはいかがしましょう」
「……あ、今行きます」
人が四人寝ても大丈夫そうな大きなベッドからのそのそと下りて、老人の後に続いて玄関に向かう。開いた玄関扉の向こうに、待ちに待っていた喜熨斗その人が立っていた。老人が曲がっていない腰を折って、喜熨斗に挨拶する。
「お帰りなさいませ、旦那様。お久しゅうございます。立派におなりになられていて、わたくし感激しております。よくぞいらっしゃいました」
「久しぶりだね、三木谷。いつもここを管理してくれて、感謝しているよ」
三木谷を見ていた喜熨斗の瞳が理人を捕らえた。それだけで胸が熱くなって、後ろの孔が疼いた。
(ああ、ヒートが始まった……。体が熱い……)
ふわりと発情したオメガのフェロモンが玄関先に広がる。三木谷老人はベータなので、何も分かっていないようだったが、喜熨斗は理人のフェロモンを感じたらしく、色っぽく微笑んだ。この屋敷は閨房に特化していることと、長く喜熨斗家に仕えている三木谷老人は口が硬く信頼できるとのことで、結婚相手でもなく番でもない理人を密かに連れて来るのには、ちょうど良かった。
「三木谷、下がってくれて構わない」
「はい、承知しました」
三木谷が下がるのを見届けると、喜熨斗が理人の腰を抱き寄せた。
「あっ……」
「お久しぶり、と言うには短い期間ですが、会いたかったです、理人さん」
「はい……、俺も、あなたに会いたかった……」
二人は顔を寄せ合ってキスをする。ちゅっちゅっと挨拶がわりにバードキスをしてから、より互いの唇を味わう深いものへ。舌を出していやらしく絡ませ合いながら、互いの昂りを押し付け合う。
「あっ、ちゅ、んっ、む、あんっ、喜熨斗さんのっ、硬くてっ、熱くて、んっ、おっきいっ……。あんっ、そんなにっ、押し付けない、でっ。感じ、ちゃう……っ」
「ん、む、はあっ、いいんですよ、感じて……。むしろもっと感じて、ください……」
喜熨斗が理人を後ろから抱き締めて、擦り付け合って大きくなったモノを、ズボンの上からグリグリと理人の小ぶりな尻の狭間に突き上げるように押し付けた。
「あっ、あんっ、そんなっ、あんっ、ふぅっ、ズボンのっ、上からなのにっ、気持ち、いいっ、ああんっ」
「ねえ、理人さん。私と会えない間どう過ごしてらっしゃいましたか」
「えっ……、そんな、あの……」
理人は顔を赤めて俯く。耳まで赤くなった理人の頸には首輪があった。晒された頸に噛みつきたい衝動を堪えて、首筋にキスをして、昂りをさらに強く押し付ける。
「正直に。私とのセックスを思い出して、ご自分を慰められておられたのでしょう。それも何回も。一晩で一回の射精では済まなかったのでは? 私のペニスを思い出して何度も後ろを慰めましたよね?」
確信を持って理人に尋ねている。理人の昂ったモノから先走りが溢れてズボンにシミを作る。理人は小さく頷いた。首まで赤くなっている。
「ああ、可愛い……。本当に可愛い人だ、あなたは。私もです。あなたに会えない間、自慰を覚えたばかりの子供のように、何度も自分を慰めました。あなたがあまりにも無垢で純粋で、でも体はすでに男を知っていて、そのアンバランスさが愛しくて、いくらでも性欲が湧き出してきて、あなたに会えるまでの日々、毎晩何回も何回も自分を慰めました。あなたのお尻を激しく犯す妄想をしながら。でも今はあなたは私の腕の中に居る。ここで犯したい、今すぐ」
手に持っていたボストンバッグからコンドームを取り出して、理人を抱き抱えると玄関フロアの隅にさりげなく置かれている大きなソファに下ろして、後ろから覆い被さる。理人のズボンを下着ごとずり下ろし、後ろの孔を確認すると、自分のいきり立ったモノにゴムを被せた。玄関にソファがあることに今気付いた理人は思わず質問していた。
「あのっ、なんでこんなところにソファが、あるんですか」
理人の後ろの孔に屹立を宛がいながらさも当然のように答える。
「それは、本宅から長い時間をかけてここまで、夫婦が子作りを名目に性行為を心ゆくまで堪能しに来るわけで、だいたいのカップルは我慢ならなくて到着してすぐ玄関で励んでしまうので、ここにもソファがあるんです」
「あ、そうなんですか……、あっ? あんっ! 熱い……!」
言いながら、彼のモノが理人のナカに侵入してくる。もちろん発情期なのでアルファのペニスを受け入れるために、尻の準備は万端である。ローションを使わずとも、ナカは濡れに濡れていて、スムーズに入っていく。一突きで理人の結腸まで届いて、下品な音が腹の奥からする。
「あっ、あんっ、気持ちいいっ、奥っ! 奥がぁっ、ああんっ、んっ、ふぅっ、うっ、はあっ、すごいっ、イイッ、ああっ」
「この前よりもあなたのナカ、とてもうねっていますね……。発情期だと、はあ、こうなるんですね……。はっ、ふっ……」
彼は大きく腰を動かし、抜いては奥に突き刺すのを繰り返した。
「気持ち、良すぎるっ、あんっ、おかしくっ、なっちゃう! あっ、ああっ」
体を痙攣させて理人が達する。理人が達したことで後ろの孔が急激に喜熨斗のモノを締め上げて、喜熨斗もゴムの中に精を注いだ。
「あ、く、うっ……」
精液を出し切るために、喜熨斗が理人の腰に腰を強く押し付け、ゆっくりと腰を動かす。彼が亀頭を押し付けているところがちょうど膣腔で、気持ち良すぎる。くぱくぱと開いて、彼の亀頭を飲み込み始めている。
「あっ、あっ……。ん、ん、んっ、あっ……」
口元を抑えて喘ぎ声を堪えようとするが、中に精液を吐き出す動きが気持ち良くて、漏れてしまう。精液を出し切ろうとするオスの本能的な動きが、理人というメスを快感に浸らせた。彼が入っているだけで気持ちがいい。喘ぎ声を漏らし続けた。数十分ほどして精液を出し切った喜熨斗が理人から出ていく。抜かれるときにも理人の粘膜が惜しむように喜熨斗の陰茎に絡みつき、抜くという行為、それさえも気持ちいい。喜熨斗は大量の精液を受け止めきったコンドームを外し、口を閉めて、捨てるところがなかったのでバッグに放り込んだ。理人は荷物を持った喜熨斗に抱き上げられて、部屋はどこか聞かれて指差した。綺麗に作ったオメガの巣に寝かされて、理人のアルファも巣に入ってくる。自分のアルファが、自分で作った巣に居るなんて、なんて幸せなんだろう。幸せすぎて脳味噌が溶けてしまいそうだった。
「美しい巣ですね、偉いですよ、理人さん」
「嬉しいです、ありがとうございます……」
うっとりととろけている理人の服をすべて脱がせて、喜熨斗も衣服を脱ぎ去る。眼鏡をサイドテーブルに置いた。理人はアルファの鍛え上げられた美しい体を見て、子宮が疼くのを感じた。
(ああ……、この人の逞しい腕や胸に抱き締められたい……。抱かれて、何度も俺のナカを突き上げて、種付けして欲しい……)
そそり立っている喜熨斗のモノに触って、ゆっくり擦り上げる。熱くて、手のひらの中で脈打っていて、これがナカに入ると思うと、体が震えてくる。
(ナカに入れてもらう前に舐めたいな……)
体を起こし舌を伸ばして、子犬が水を飲むように、亀頭をぺろぺろと舐める。
「は……」
喜熨斗が熱い息を吐く。舐めていた亀頭をそのまま口に含んで、舌を絡めてしゃぶる。
「ん……、ん、んむぅ、ちゅ、ん、はあ、ん……」
亀頭を口に含み、幹を手のひらで何度も擦り上げていると、入れて欲しくて腰を無意識に揺らしてしまう。幹にも舌を這わせて、上から下へと味わう。雁首の出っ張りに舌を這わせて、精子を作ってパンパンに張り詰めた二つの袋も口で吸ったり、揉んだりする。
「ああ……、理人さん、可愛いですよ。そんなにいやらしく腰を揺らして、そんなにこれが欲しいんですか。さっき入れたばかりなのに」
「ああっ、欲しい、です……っ、これ、欲しくて、俺のナカで、食べたいっ、ナカをいっぱい、擦って欲しいです……。でも、舐めたいです……!」
亀頭を口に含んで先走りを舌で舐め取り、口の奥まで喜熨斗のペニスを咥える。口全体で愛撫すると、喜熨斗のモノが震えて愛おしい。
「はあっ、ふぅ……、理人さん、口の中とても熱くて柔らかくて、すごく……、ふ……、いいですよ、う、あ、口の中も、性感帯って、ご存知ですか……」
「ん、ふぅ、はあ、なんとなく、は知ってます。んぅ、ちゅ、ううん、ふむぅ、はあ、んっ」
喜熨斗が理人の頭を優しく押さえて、緩やかに腰を揺らし始めた。そうすると、口の柔らかな粘膜、頬の内側や舌の上、上顎の裏を、喜熨斗の硬いモノに刺激されて、理人は先走りをとろとろと溢れさせて、ベッドを汚した。喜熨斗の腰の動きが強くなる。口の弱いところを彼のモノに強く擦られて、理人は自分の腰が動いてしまうのが止められなかった。玄関で挿入されてたくさん攻められた尻の穴が、ジクジクと疼いて堪らない。
「喉の奥も、開発すればとても気持ち良くなるそうです。…………実を言うと、恥ずかしいことを言いますが、私はあなたの穴という穴を犯したいと思っています。人間性を捨てて、獣のようにあなたのすべてを支配して、征服したいのです。こんなに自分がアルファ性だったことを嬉しく思ったことはありません。あなたというオメガに出会えたのですから。…………あなたの喉を犯してもいいですか」
口腔内を彼のモノで占領されながら、尋ねられる。理人の意思を尊重されている。こんなことは初めてだった。両親にも夫にも理人は尊重してもらったことはなかった。いつも誰かの所有物で、自分の意見など通ったことなどなかった。こんなに魅力的なアルファが、彼に抱かれたい人間など女も男も数えきれないほど居そうなのに、こんな無力なオメガの意思を聞いてくれる。こんなに脈打って腹につくほど反り返った陰茎を勃たせているのに、理人の放つフェロモンに当てられて性欲に満ちたオスの顔をしているのに、欲望を堪えて、理人に聞いてくれる。嬉しくてたまらなくて、理人は彼の欲望を肯定した。
「俺の……、喉を犯してください……。あなたのモノで征服して、喉をあなたのものにしてください」
理人の言葉を聞いて、喜熨斗は理人の頭を掴み、口の中のモノをさらに奥の方へ押し込んだ。
「ぐふうううううっ! ぐぅっ、ううっ、おっ、おえっ、ぐう」
「初めてだから苦しいでしょうが、堪えてください。慣れれば、イイそうです。もっと奥まで入れますね。ふっ……」
屹立がもっと奥を目指して進み続けて、理人は目がチカチカした。苦しくてえずきつつも、口を大きく開けて彼の屹立を受け入れる。口蓋垂の辺りに来たところまでで止まる。これ以上は入らないところまで。
「んーっ、うっ、むっ、んーっ、うえっ」
「よくここまで入れてくれました。もう少しだけ頑張りましょう。……少し我慢して」
喜熨斗は口蓋垂のあたりで屹立を動かし始めた。喉の一番奥をゆるゆると掻き回されて、えずくのが止められなくて喉が震えて、彼のモノを締め付けてしまう。
「ふーっ、ふーっ、はっ、あっ、理人さん、すごいです。あなたの喉奥、はあっ、まるで性器みたいです」
喜熨斗は口から自分のモノをずるずると抜き出して唇の前で止めると、また口の中に侵入して、喉の一番奥を目指す。それを幾度も繰り返した。理人は彼の腰に手を回してしがみつき、涙を流しながら耐える。
「ぐ、うう、ぐちゅ、おっ、んっ、うぐ、おえっ、うう」
口の中を擦られると気持ちいいのに、喉の奥を攻められると苦しい。その両方の刺激に頭がくらくらした。大きく開けた口から、唾液が溢れ出てくる。
「苦しいですよね……。ああ、可愛い」
口に彼を含んだまま目線だけをあげると、今まで見たことない性欲と支配欲と嗜虐欲がごちゃ混ぜになった、オスくさくていやらしい顔をしていた。彼に可愛いと言われるたびに嬉しかった。嬉しくて彼のモノをもっともっと深く咥え込む。苦しくて苦しくて仕方ないけれど、彼が悦んでいるから。仄暗い被虐欲が子宮を熱くさせる。
「あなたの一番奥で精液を吐き出していいですか」
理人は頷く。喜熨斗の腰が口を犯し始めた中で一番強い力で腰を打ち付けた。理人の頭を押さえ込み、ガンガン喉奥を突いたり掻き回したりして、喉奥という口の中の性器に射精しようとしている。苦しいのに、だんだん気持ち良くなっていく。大切なアルファに喉を犯されて、そこは性感帯へと変わりつつあった。苦しみで悶える声に嬌声が混じり始める。
「んっ、ふっ、んむぅっ、んっ、んっ、おっ、うっ、んっ、んぅっ」
「出しますよ……! く……、う……っ!」
「んううううう! んっ、ぐうっ、うううっ、んっ、ふっ」
腰を顔に強く押し付けられて、ぐりぐりと喉を掻き回されながら、射精されている。喉に熱い精液を叩きつけられた途端、痙攣しながら理人も射精した。後ろの孔はヒクヒクと動いて、愛液を垂れ流している。ドロドロと精液が口腔内に溜まっていって、飲み込みきれなかったものがどんどん口の端から溢れていく。
(あっ、もったいない。喜熨斗さんの精液……、子種……)
ごくごくと飲み下すけれど、出される量に追いつかない。口の中に吐精される快楽に、自分もトロトロと射精し続けながら、止めどなく送り出される精液をひたすら飲み続けた。口元を白く汚しながら、彼のモノに吸い付く。最後まで出しきれるように、精液を喉で受け止める。喜熨斗は最後に何回か理人の口に腰を押し付けて、喉奥に精液を吐き出すと、離れていった。喜熨斗はベッドから降りて、部屋に備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、理人に渡した。ありがたく頂戴し、冷たい水が胃を通り過ぎていく。喜熨斗が労うように理人の髪を撫でる。
「頑張りましたね、理人さん。とても嬉しく思います。あなたの口や喉を私のものに出来ました」
精液のついた理人の口元を拭い、キスをする。水で冷えた口腔内が、喜熨斗の熱い舌で熱を帯びていく。
「んっ、ん、ちゅ、くぅん、ふぅ、あっ、うぅん、あっ、んっ」
「ん、ふぅ、はっ……、んむ、ん、ふ……」
ベッドに横たわって、唇で愛し合う。どれだけ唇を食んでも足りなくて、何度も唇を重ねる。場所を入れ替えて、体勢を変えて、ひたすら唇を味わい続ける。唇を食むという性行為はとても甘美で、密やかで、美しい。キスで前を昂らせた理人は、腰をくねらせながら、甘いキスを受け続ける。理人の可愛らしい動きに胸をときめかせた喜熨斗は、大きく開かせた膝の裏に腕を絡ませて固定し、上から覆い被さってキスをする。理人は喜熨斗の腕を掴んでさらに体を密着させて、もっととねだる。
「んっ、んっ、んっ、んっ、ふっ、んむっ、あっ、はあんっ、ちゅ、あんっ」
「ん、ふ……っ、む、は、ふぅ……」
唇を合わせるだけでこんなにも気持ちがいい。舌で満遍なく口の中を舐めまわされるだけで、達してしまいそう。理人の屹立は先走りを大量に垂れ流していた。理人のモノを見て、喜熨斗は嬉しそうに笑った。そして深い口付けをする。
「んむぅ、んっ、はあん、んっ、あっ、ふぅ、ふ、ちゅ……」
「ふふ、キスだけでイキそうですね? キスだけでイッてみましょう」
「え、そんなの、むりですっ、あっ、んむぅ、んっ、ああっ」
喜熨斗の舌が口の奥まで差し込まれて、理人の舌にねっとりと絡みついてくる。唾液を混ぜ合わせながら、舌同士を擦り付け合う。彼の舌が理人の舌の表面を撫でた。
「舌を出してください。しゃぶってあげますからね」
そんないやらしいことを美しく微笑みながら言う彼に、顔が熱くなったけれど、彼の言う通りにする。舌先を出すと、もっとと言われて、舌の根が痺れるほど突き出すと、いい子ですね、と言ってくれた。そして理人の舌は彼の口に食べられた。ジュルジュルジュルと音を立てて、舌を吸われている。そして頭を前後させて唇で舌を扱き始めた。
「んっ、んっ、んっ、ふっ、んっ、んっ」
「ふ、ふ、ん、ふぅ、んっ……」
舌を食べられて、理人はもうすでにイキそうだった。
「んっ、んっ、あっ、ふぅぅっ、ふっ、んっ」
腕を絡ませて固定されている下半身が勝手にガクガクと揺れる。イッていいですよ、と許可するように、彼が思いきり舌を唾液ごと吸い上げた。舌へ与えられた悦びで、理人は達した。何回も腰を揺らして射精した。
「はあっ、はあっ、ふう、ふ……」
顔を上気させて呼吸を整えている理人の額に、喜熨斗がキスをする。
「よくキスだけでイケましたね。とても可愛らしくて、素敵でした。まあ、さすがにキスだけでイクのはヒートのおかげでしょうが」
「俺も……、びっくりしてます……」
ヒート中とはいえ何回も極まって少し疲れている理人を見て、喜熨斗が少し休憩しましょうか、と提案する。だが理人は承知しかねた。なぜなら喜熨斗の屹立はまだ昂ったままなのだから。
「喜熨斗さん、まだ出してないですし……」
「私のことはお気になさらず。自分で発散しますので。とても美味しそうなオカズもあることですし」
横になっている理人を見下ろし、自分のモノを握った。
「オカズってもしかして、俺、ですか……」
「当然です。可愛いオメガが私の目の前に居て、私が何度もイかせたせいで疲れてるなんて、最高のシチュエーションですよ。アルファとしては燃えます」
子供みたいに目をキラキラさせて言うものだから、理人は苦笑いした。クールな印象だったのに、いろんなところが見えて、なんだか可愛い人だなって歳上の人に思ってしまう。
「疲れてるあなたをオカズにオナニーするので、私の目を見ていてください。ちなみにキスしてもいいですか?」
「……キスはダメです。感じちゃうので……」
どこかしょんぼりした顔で引き下がる彼を見て、キスくらい許してあげれば良かったかな、と後悔する。でも一度キスしたら、またキスでイクまで激しくしてしまう。休憩にならない。だから堪えた。ふと思いつく。
「キスの代わりになるか分かりませんけど、喜熨斗さんの口の中に指を入れてもいいですか?」
「……指、ですか?」
「舌を入れる代わりに、指で喜熨斗さんの口の中をいじってあげたくて」
喜熨斗が黙って口を開けたので、起き上がって彼の足に跨ると、人差し指と中指をそっと差し込んだ。抱き寄せられて、顔が至近距離になって、今日だけでも色々すごいことしたのに、やっぱり恥ずかしい。指を動かして口の中を掻き回してやると、彼が気持ち良さそうな色っぽい吐息を漏らしたので、嬉しくなってズポズポ抜き差ししたり、舌を指で挟んで扱いたりしてみた。その間も彼と目が合っていて、真っ直ぐな瞳に欲情を湛えて、理人を見る。彼の手は上下に早く動いていて、この状況に胸が高鳴る。時々彼の視線が動いて、理人の体を舐め回すように見るので、少しだけ体が反応してしまう。彼は時折、熱くて切ない吐息を漏らしている。
(ほんとに俺のことオカズにしてる……。俺のこと、やらしい目で見てるんだ……。すごい、俺に欲情してるんだ、可愛い)
濡れた指を口から抜いて、唇を撫で回す。薄い唇が少し開いていて、熱い吐息を吐き出していた。時折、低いうめき声みたいな、喘ぎ声のようなものも聞こえる。また指を差し込んで、舌の上を撫でながら出し入れした。
「はあ……、喜熨斗さん、とってもエッチです……。こんなに素敵な人がこんなにエッチだなんて、思いもよりませんでした。もっと喜熨斗さんのやらしい声、聞かせてください、とても色っぽくて、やらしくて、好き……」
「んっ、ふっ、ふぅ、はあ、はあ……、くぅ、ん……、もう……っ」
鼻にかかった吐息のような喘ぎのような声が、喜熨斗の唇から漏れる。彼の口内を犯している指にも、淫靡で熱い吐息がかかる。理人は自分の孔がじゅくじゅくと濡れるのを感じていた。
「ああっ、可愛いです……! すごい、やらしい! 素敵……」
喜熨斗が空いていた手で理人の頭を抱き寄せ、唇が触れ合いそうなほど、顔が近付く。チラリと彼が早く動かしている方の手を見ると、尋常じゃない量の先走りでびしょびしょになった屹立が、腹につきそうなほど反り返っていて、今にも爆発しそうな気配がした。
「はあ、ふぅ、……私の目だけを見ていてください」
彼が理人の目を見つめながら、激しく手を上下させている。愛おしくてたまらなかったので、彼の顔を包み込んで囁く。
「いいんですよ、もっとやらしいところ見せてください。もっと俺のこと見て、もっと俺に欲情して、もっと俺を犯して、もっと俺をオカズにして……」
彼の目を見つめた。彼の手の上下運動がもっと激しくなって、荒い息を吐きながら、それでもなお目線は理人を見つめていて。
(嬉しい、嬉しい!)
クッと彼が息を詰まらせた。眉根を寄せて目をキツく閉じた。腹の辺りで熱い飛沫がかかるのを感じた。見ると彼の屹立から彼の体液が噴出していて、それが目の前に居る理人の腹に浴びせられていた。ヒートの時に、運命のアルファの精液をかけられて、感じないオメガなどきっと居ないだろう。そう確信するほど理人は興奮して、熱い精液をかけられたことに感じた。この美しいアルファが極まったときの表情を見られて、後ろから愛液が流れ落ちた。きっと今の理人の孔は海みたいに愛液という水で満たされているに違いない。二十分ほどだろうか、長い喜熨斗の射精が終わった。
少しの間、互いの体を愛撫したり、キスするだけに留めていいたけれど、理人が限界だった。見ると、喜熨斗のモノはもうすでに逞しくそそり立っていた。彼に入れて、と囁くと彼が頷く。喜熨斗がコンドームを自分のモノに被せている間、彼が欲しくて理人の後ろがうねりだし、シーツを愛液でびしょびしょに濡らしていた。喜熨斗は理人を抱き寄せた。耳元で秘め事のように静かに囁く。
「今日初めてあなたのことをベッドの上で抱くことになります。どのようにされるのがいいですか。前から、後ろから、上から、下から、と四つ選択肢があります。どれがいいですか」
「……んっ」
彼の吐息が耳に当たって感じてしまう。狙っているとしか思えなかった。後ろの性器が疼いて仕方なくて、身を捩らせながら、彼にしがみついて答える。
「…………前から、がいいです……。喜熨斗さんの顔を見ながら、シたい……」
恥ずかしくて彼の顔を見られなかったけれど、頷いてくれたのは分かった。
「可愛い私のオメガ。私を見て」
羞恥心を抑えて顔を上げる。喜熨斗は本当に優しい顔で、理人を見つめている。心が震えた。胸の鼓動がどんどん早くなる。凄まじい感情の熱に切なくなって、体は彼を欲しがっていて、想いを打ち明けずにはいられなかった。
「喜熨斗さんっ……! 好きっ! あなたのことが好きっ! あなたが運命の番だからとかじゃなくて、あなたのことが好きです……。出会ってまだ二回しか会ったことないから信じてもらえないかもしれないけど……。好きなんです。俺に初めて優しくしてくれた人だから。俺のことを大切にしてくれる人だから……」
「理人さん、私は運命の番なんて信じてませんでした。でもあなたと出会って、運命の番は本当に居るんだって。あなたは本当に無垢で、可愛らしくて、あの一夜でどんどん惹かれていく自分に気付きました。あなたを蔑ろにするご主人からあなたを奪い去りたい、本気で思っています」
喜熨斗の胸に縋り付く。嬉しくて涙が溢れてくる。
「奪い去って! あの人の元から俺を連れ去って、あなたのものにしてください……」
「理人さん、好きだ」
「俺も……、あなたのことが好きです」
自然と顔が近付いて、キスをした。これは誓いのキスだ。近い未来、理人を必ず自分の番にするという喜熨斗の誓いだった。
しばらく唇の感触を楽しんだ後、自然とベッドの上に倒れ込んだ。抱きしめ合って互いの肌や体温を感じていると、体が相手を欲しがるようになる。理人は足を持ち上げて、喜熨斗を迎え入れる体勢を作った。
「きて……」
喜熨斗は覆い被さると、理人のナカに自分を埋め込んだ。
「あああ……っ! すごいっ、おっきい……。玄関でシたときより、すごい……っ。んんっ、あっ、ああんっ、ふぅっ」
「きっと体も……、ふっ、思いが通じ合ったことを、はあ……、知って、変わっていっているのでしょう、ね……」
ゆっくりゆっくりストロークが始まる。明らかに今日初めてシた時よりも大きく硬く太く長くなっている。徐々に揺さぶられ始めた体が、夢心地でふわふわとなっていく。喜熨斗との運命的な出会い、初めて知った抱かれる悦び、運命の番という本能も超えて、思い合えているという安心感。ふわふわと浮遊している体に、愛しいアルファからの愛が与えられる。凄まじい快感だった。夫とした性行為、自慰、そして喜熨斗に初めて抱かれた時よりも、もっと強烈な快楽。思いが通じ合った番というのは、こんなにも性行為での快感が違うのか。そんなに強くナカを擦られていないのに、叫びたくなるほど、気持ちが良かった。夫が彼の恋人とのセックスに夢中だったのは、こういうわけだったのか、と理人は今更ながら気付いた。愛してる人とする、この愛の行為は測りきれないほどの悦楽をもたらす。理人も今日この瞬間身をもって知った。思い知らされた。もうこの人以外の誰かと、愛を紡ぐなんて出来ようもない。悦楽の雨に打たれながら、快感を耐えようとするのだけれど、耐えきれない。下品なほど大きな嬌声が勝手に口から漏れてしまうし、ナカが彼を食い締めて離さない。こんなふうになってしまって彼に呆れられていないか、不安になって上の彼を見上げると、クールで理性的な雰囲気がなくなり、ただひたすらにメスを自分のものにして種付けしようとするオスの顔をしていた。理知的な色をしていた彼の目が、肉欲や性欲、支配欲に目をギラつかせている。それを見た瞬間、腸壁が勝手にうねりだした。体が早くこの人ものになりたがっている。この人に支配されて、頭の中も体もめちゃくちゃになるくらいに抱かれて、嵐の最中の小舟のように揺さぶって欲しいと思っているのだ。
「おっ、おっ、ふぅっ、はっ、あっ、あっ、んっ、太くて、熱くて、すごいよぉっ、あなたがナカに居るだけでっ、気持ち、いいのっ! あっ、あっ、んぅっ、ふぅ、おっ、はあんっ、ああんっ」
頭を振り、身を捩って快楽を受け流そうとするとのだけれど、喜熨斗にがっちりと体を押さえ込まれて、彼の形を覚え込まされているので、ゆっくりとそして確実に強烈な快楽が骨盤を通って背骨から首へ、そして脳内に伝達される。
「だめっ、だめなのっ、気持ち良すぎて、耐えられないっ! 離してえっ! ああんっ、気持ち良すぎるっ、あんっ、ナカを通るだけなのにっ、こんなにっ、あっ、おっ……!」
頭の下にある枕にしがみついて悶える理人を見て、腕を取り自分の背中にしがみつかせた。尚のこと体が密着して、過分な快楽が理人の脳を焼いた。
「ふうぅっ、あっ、おっ、おっ、だめっ、良すぎるっ、こんなのっ、むりっ、ああんっ、ふっ、んっ、んっ」
「ごめんね、これからもっと強くなるよ」
少し口調の砕けた喜熨斗がそう囁いて、腰を大きく振って、理人の最奥である結腸を押し上げた。
「ああああっ! んううううううっ! ふーっ……、ふーっ……、ん、あ……」
理人はあまりの衝撃で一瞬意識が飛んだ。強く打ち続ける腰に足を絡めて、抵抗を諦めてひたすらに強烈な快楽に体を任せることにした。
「はあんっ、おっ、んぅっ、すごい、おっきい……っ、ああっ、気持ちいいのっ、良すぎて、壊れちゃいそうっ! あんっ、んっ、ううっ、はあん……、喜熨斗さん、キスしてっ?」
舌を絡めて唇を味わう。唾液の味すら変わったように感じる。甘くて、愛しくて、美味しい。
「喜熨斗さんの、よだれ、ちょうだい……。ねっ、もっとっ、んっ、あんっ、んむぅ……」
喜熨斗が唇を合わせて唾液を流し込むと、理人は後ろの孔をきゅうきゅう締めて喜んだ。水を飲むように喉を鳴らして、飲み干す。舌で彼の舌を舐め回し腰をゆすって、もっととねだると、さらに理人の口の中へ唾液を注ぎ入れる。
「んっ、んぅっ、おいしい……、んっ、くちゅ、んっ、ねぇ、喜熨斗さんの舌を、しゃぶってもいい……?」
理人の可愛いおねだりに喜熨斗は目を細めて、微笑んだ。
「君は舌をしゃぶられるの好きですもんね。私にもしたいんですか」
「うん……、俺、喜熨斗さんに舌をじゅぽじゅぽされるの、好き……。だから俺も、喜熨斗さんにしてあげたいの」
「いいですよ」
喜熨斗が舌を差し出すと理人はむしゃぶりついた。顔を大きく動かしてじゅぽじゅぽと音を立てながら吸い上げて、顔の角度を変えたり、舌を使いながら、喜熨斗の口の中を舐め回した。そうしていると理人に嵌っている喜熨斗の性器が脈打ち大きくなるのを、ナカで感じる。
「んんぅっ、あっ、きのしさんっ、んっ、んっ、んむぅっ、気持ちいいの? また、こんなにおっきくして……。俺にべろ、じゅぽじゅぽ吸われて気持ちいい?」
「……ええ、イイですよ。とっても……」
喜熨斗の腰が大きく前後に動き始めた。彼の大きなモノが、理人の孔をみちみちと押し広げ、彼のモノが出入りするたびに粘膜が捲れて、理人はあまりの快感に頭が真っ白になりそうだった。
「あっ、んっ、まだ、きのしさんの、べろ、じゅぽじゅぽしたいっ、んっ、のにっ……」
「ふっ、ふぅ……っ、それはまた、んっ、あとで……」
喜熨斗の亀頭が理人の前立腺を、ぶちゅぶちゅと先走りと愛液が混ざった音を立てながら、執拗に叩く。
「ああああああっ……! そこ、弱いのに……っ! あっ、んっ、なんかっ、いい、におい、する……っ! 喜熨斗さんからっ、いい匂いっ、するぅっ……!」
「お分かりにっ、なりますか……っ。どうやら、ラットが、始まった、みたいです……、うっ、ふぅ、はあ……、はーっ、はーっ、ふっ、ふっ。君と、思いが通じ合ったら……っ」
喜熨斗のアルファとしての体が、自分のオメガと心も体も通じ合ったことに喜び、発情期を起こしたようだ。理人を貫く喜熨斗の怒張が、玄関で彼を受け入れた時よりも明らかに大きくなっていたのは、気のせいではなく発情期で始まったからなのだろう。
「もっと、強く抱いても、いいですか……っ」
「え、これ以上……? ああ……、いいですよ、もっときて、もっと強くしてっ」
理人の尻を高く持ち上げて、上から押し潰すようにペニスを叩き入れた。理人の最奥の結腸より深い、S状結腸に彼のモノが捩じ込まれる。
「ああああああ……っ!」
理人はそれだけで絶頂した。ビュクビュクと精液を震えるペニスから吐き出しながら痙攣している。痙攣している体を彼が上から押さえ付けるように抱き締めていて、痙攣して体が震えることで、ナカに入っているモノを締め付けて、さらに感じてしまう。イッている理人をぎゅっと強く抱き締めて、また強く怒張を抜き差しして、理人の奥のさらに奥、S状結腸に捩じ込むことを繰り返した。揺れる頭の片隅で、この大きくて立派なベッドが激しく軋む音を聞いた。体だけではなくベッドも、彼の激しい動きに合わせて、揺れている。それほど激しいセックスをしていた。みちみちと理人の直腸に包み込まれている凶器のようなペニスが幾度となく腸壁を擦り上げ、腹が彼のペニスで膨らむほど奥まで捩じ込まれ、理人は頭がおかしくなりそうなほどの快感に身を焦がし、達し続けた。どれだけ絶頂しても、彼の壮絶な責めは止まらない。彼の逞しい腕の中で、イキ続けた。彼はどんなに理人が泣いても奥を犯すのを止めなかった。
「はっ……、はっ……、ふ……」
「あっ、んっ、んっ、んんっ、んっ、あっ、あんっ……」
彼が理人の腸壁に優しく包まれながら、達したのが分かる。彼の亀頭に吸い付いている結腸に温かいものを感じた。彼の亀頭を包み込んでいる結腸に被膜越しとはいえ、精液を吐き出されるのは、それだけでイッてしまいそうなほどの快楽だった。先走りで腹をびしょ濡れにしながら、喜熨斗が精液を吐き出し終わるのを待つ。コンドームから受け止めきれなかった精液が溢れ出す。それを見た喜熨斗が申し訳なさそうにする。
「すみません、アルファ用のコンドームを使ってるんですが、漏れてしまいました」
喜熨斗がずるりと理人の尻からコンドームを抜いた。
「ああんっ……、ん、恥ずかしい声出ちゃった」
ビニールに溜まった精液は見たこともないほど大量で、驚いた。口を縛ってゴミ箱に投げ入れる。
「少し休憩しましょう」
先ほど理人に渡したミネラルウォーターを飲み、喜熨斗は理人を抱き寄せ自分の上に乗せて、ベッドに寝転がった。
「あの、ヒートの時ってずっとエッチしてるものなんじゃないでしょうか」
「まあ、一般的にはそうだと思いますね。ずっと繋がりっぱなしと言うか。でも理人さんはイキやすいので、一週間ずっと繋がったままだと、一週間で何十回とイクことになってしまいますので」
「……それは、困りますね…………」
数えきれないほど達してしまうなんて、体がどんなふうになってしまうか、予想もできなくて怖い。喜熨斗に頭を撫でられて、気持ちが良くて恍惚とする。彼の鼓動を聞きながら微睡んだ。
そうして一日目は過ぎ、二日目、三日目……と場所を変え、体位を変えて本能の赴くまま求め合った。そして最終日の七日目の朝方。あんなに激しく求め合って、抱き合った日々がまるで夢のようで、今日で最後だなんて信じられなかった。夢から醒めて現実に戻らないとならないと思うと、憂鬱だった。隣で寝ている喜熨斗の腕の中に収まると、彼の胸に耳をあて鼓動を聞いていた。彼の鼓動を聞いていると、とても安心する。もう一度眠るために目を閉じた。意識がふわふわと浮上して、目を開けると目の前に喜熨斗の顔があった。この一週間どれだけ見つめても見飽きない、愛しいアルファの顔。とても整っていて美しい顔立ち。今までどれだけの人を魅了したのだろう。彼が伏せていた目を開けて、理人に微笑んだ。
「……おはようございます」
「おはよう、ございます」
額にひとつ口付けをされた。その後、喜熨斗が時計を確認する。
「朝食が運ばれて来たころですね。朝食にしましょう」
起き上がって、ベッド脇に落ちていた下着を履いただけの彼が、隠し扉を開けて、配膳台を引いて持ってくる。理人も下着を探したが、違う部屋で脱いだ気もするし、今は荷物を置いている寝室とは違う寝室に居るので、履ける下着がない。困っていると喜熨斗が助け舟を出してくれた。
「見えるのが恥ずかしいなら私のシャツを羽織ったらどうですか」
これまた落ちていたシャツを手渡され、着てみた。体格差があるのでブカブカだった。そのおかげで太ももあたりまで隠れている。
「彼シャツ、燃えますね」
「……か、彼シャツ」
そう言われてしまうと恥ずかしくなってきた。でも全裸で朝食にするよりは数倍マシだった。朝食を食べ終わって、ベッドで寝転んで食休みをしていると、喜熨斗がこんな提案をしてきた。
「今日はあなたの膣に触っても構いませんか」
言われてみれば、彼が挿入するのは直腸内で、膣に触れられたのは、屹立で直腸を擦り上げる時に一緒に膣腔も擦られるくらいだった。
「俺もヒートの時ぐらいしか触ったことないので、ちょっと不安ですけど……、喜熨斗さんが仰るなら」
不安げな顔をする理人を宥めるように体を撫でられて、リラックスするために一緒に風呂に入ることにした。挿入はなくてもキスしたりペッティングしたりして、イチャイチャした。軽く体を拭いたあと、綺麗なシーツに取り替えられていたベッドに二人で座る。喜熨斗に後ろから抱えられるように理人が前に座った。温まった素肌が心地いい。彼の腕が後ろから伸びてきて、理人の足を開かせた。恥ずかしかったけれど、彼に任せる。手は下腹部に伸びて、そこを、おそらく子宮があるあたりを、ぐっぐっと優しく押した。ただれだけのことなのに、甘い吐息を漏らしてしまう。指が奥に向かっていき、孔に差し込まれる。ゆっくりと出し入れされて、指を第二関節まで入れたところで、目的のところへ行き着く。直腸内膣腔があった。入り口を指で何度も優しく撫でられる。腰が跳ねた。
「はあっ、んっ、そこっ、んっ、あっ、あんっ……」
「濡れてきましたね……」
耳元でそんな恥ずかしいことを言われるとたまらなくなる。膣内に指が入ってくる。ヒートの時にしか開かれない、オメガの膣腔。今までヒートの時期に自分を慰める時にしか触ったことのないそこを、自分以外の人が触っている。信じられなかったが、自分の指とは違う、長くて骨ばった指が入っていくのを感じながら、不思議に思った。指がゆっくりと出し入れされる。だんだんナカからたくさんの愛液が溢れてくるのが分かる。
「ほら……、あなたの膣の中、濡れてグチュグチュいってますよ」
耳に舌を差し込みぺろぺろと舐めながら、彼が囁く。
「やっ……、はずかしい……っ! そんなことっ、言わないでっ」
「濡れているのは感じてくれている証拠です。入れる前に、あなたをイカせたい」
「えっ、俺、膣でイッたことない……っ!」
指が増やされて、ナカを念入りに擦り上げながら、拡げられる。指が子宮口にあたった。
「あっ、あんっ、そんなにっ、ああっ、あんっ、ふぅっ、ふぅ、んんっ」
指を出し入れする速度が上がる。トントンとテンポよく子宮口をノックされて愛撫されて、理人の息も荒くなる。
「はーっ、はーっ、はーっ、あっ、あっ、だめっ、は」っ、ああっ、んうっ、んぅっ、んっ、んっ、あっ、あっ」
彼のもう片方の手が理人の会陰を押し込む。
「ああああっ! 押しちゃっ、だめっ、むりっ、あっ、あんっ、あんっ、あっ」
「ほら、ナカがぎゅうぎゅう動いて、指を締め付けてきます」
理人は湧き上がる熱い奔流に流されていく。
「あっ、あっ、くるっ、くるっ、きちゃうっ、あっ、だめっ、あんっ」
「いいんですよ、イキそうなんですよね。いいですよ、イッて、ね、理人さん。もっとグチュグチュしてあげます。もっと子宮口を撫でてあげます。もっと指を締め付けて、ナカをうねらせて、いっぱいイッていいんです。ほら、初めて膣でイッてごらん?」
宣言通り、腹の奥から愛液を掻き回す音が聞こえるほど、激しくナカを撹拌された。
「あーっ、あんっ、いやっ、だめっ、あっ、あっ、ああああっ!」
腰をビクビクと震わせて、理人が絶頂する。肛口から膣から分泌されて溢れ出た愛液が流れ落ちていった。膣も直腸に繋がっている部分なので、尻の孔もヒクヒクしてしまう。喜熨斗の胸板にもたれて、息を整えていると、後ろから彼に抱き締められた。
「ああ、理人さん、とても愛らしかった……。あなたが膣でイッたことがないなんて……。初めての相手になれて、嬉しいです。……ヴァギナに誰かを受け入れたことは? 例えばご主人とか」
「ふぅ、ふぅ、……ありません。あの人、オメガのことなにも分かってないから。ただ尻の穴に射精すれば、子供が出来ると思ってる」
顎を持ち上げられて、理人の唇に彼の唇が触れる。ちゅうちゅうと吸われて、気持ちがいい。うっとりとした顔の喜熨斗が、幸せそうに笑う。
「嬉しいです、あなたのヴァギナは私のものです。あなたの初めては私です」
そのままベッドに押し倒されて、尻を高く上げさせられた。恥ずかしさと期待で腰を揺らす。
「初めてですから、楽な体勢でしましょう。こちらの方が入りやすいでしょうし」
いつの間にか立派に育った屹立にコンドームを嵌めて、理人のナカに入ってくる。
「あ……、ああっ」
いつもなら通り過ぎていくところへ、彼の大きなモノが入ってくる。膣腔が甘く押し広げられ、どんどんめり込んでいく。
「ああああっ!」
膣肉を擦られた衝撃で理人が達した。理人のペニスからは精液が出ていない。それに構わずどんどん侵入される。
(気持ちいいっ! 気持ちいいっ! 気持ちいいっ! すごいっ! おかしくなるうっ!)
喘くことすら出来ずに荒い息を吐く理人の腰を掴み、子宮口の少し手前をガンガン突き始めた。
「ああっ?! なにっ? あああっ、んっ、んっ、あんっ、あんっ、そこぉっ」
快楽に涙を流しながら逃れようとする押し潰すように、後ろから抱き抱え、激しく突く。
「おっ、おっ、おっ、あっ、あっ、あっ、あああああっ!」
体を陸に上げられた魚のように跳ねさせながら、理人はまた絶頂する。この時も精液が出ていない。
「ここはね、Gスポットですよ。女性のイイところです。膣があるなら男にもあるとは思っていましたが、やはりありました。。おや、精液が出ていない。ナカイキしたんですね」
震える理人を宥めるように首筋や肩、背中にキスしながら、彼が出ていく。ポッカリと穴が開いて、中の粘膜が見えるくらいひくつかせている理人の尻を撫でた。
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そう言ってまたのしかかってきて、入れられる。
「あああっ! またっ、あっ、ンンンンン」
ずちゅんずちゅんと膣をほじくられ、彼の亀頭が子宮口に届いて、子宮口をめいいっぱい突いてくる。
「あっ! あああっ! あっ、あっ、あっ、あっ」
顔が涙と涎でぐちゃぐちゃになった理人は、与えられる甘い責苦に悶え喘ぎ、嬌声を上げることしか出来なかった。そして何回目かの絶頂を迎えた。直腸壁も膣肉も快感に蠢き、うねり、彼のモノを強く締め付けて、彼は子宮に注ぐように絶頂を迎えた。彼が射精している間、子宮に塗り込むように腰を揺すられて、気持ち良くて気持ち良くて、たまらなかった。彼の長い長い吐精が終わり、ぐったりとベッドに横たわると、コンドームの始末を終えた彼が労わるように頭を撫でる。
「処女をくれてありがとう。嬉しかったですよ」
「はっ、恥ずかしいので、そんなこと言わないで……」
抱き込まれて、キスをされる。甘くて熱い吐息、くちゅくちゅと口の中を舐められる音、漏れる声、セックスしたばかりの汗と体液で濡れた体。
「好きな相手の初めては嬉しいものです。だから嬉しい」
「喜熨斗さん…………」
理人はこの瞬間がいつまでも続けばいいのにと願った。
夜寝ているとなんだか何かに触られている気がして、目を覚ました。手が背後からまわってきて、理人のパジャマを脱がせようとしている。
「……ん、あなた…………? 帰ったの?」
「……ああ。ここしばらく、シテなかったろ」
自分で家に帰って来なかったくせに、言い訳じみた言葉を述べて、夫の手が理人の体を這い回る。夫は一応普通に理人を抱こうとはするのだ。ただ、理人が快感を得られないタイプの人間だったというだけで。夫の手のひらが乳首を掠めた時、声が漏れた。
「あっ……」
恥ずかしくて顔が熱くなる。夫も理人の喘ぎ声じみた声に驚いているようだった。探るように手が動かされて、また夫の手が乳首を掠める。
「んっ……」
「…………お前」
今度は明確な意思をもって、乳首が捏ねられた。
「んっ、はんっ……」
鼻にかかった甘い声を夫の前で出したことが恥ずかしくて、手のひらで顔を覆った。不愉快そうに夫が言う。
「お前、不感症だったはずだろ。どこで仕込まれてきた?」
「……それは」
体を仰向けにされて、乱暴に上のパジャマを脱がされる。僅かな刺激で主張し始めている突起を見られて、羞恥に駆られる。不機嫌そうに眉を寄せた夫が、乳首を捏ねた。
「あっ、んっ!」
「どれだけ抱いても少しも感じなかったお前が、こんなになるなんて、誰に仕込まれた? 誰だ、俺の知ってるやつか?」
理人に詰め寄りながら、夫の両手が理人の乳首を責める。きゅっと摘んで引っ張ったり、捏ねくりまわした。
「はあああっ、あっ、んっ、あなたっ、そんなに、しないでえっ」
「クソッ、俺をバカにしやがって!」
悔しそうに顔を歪めて、乳首を苛み続ける。ふぅふぅと息を荒げていると、下着ごとパジャマのズボンを引き摺り下ろされた。理人の小さな陰茎が緩く勃ち上がっている。足を大きく広げさせられ、持ち上げられる。彼の視線が肛口に突き刺さっていた。
「俺が居ない間に何回そいつと会った? 何回、抱かれた?」
夫に指で孔の縁をなぞられると、ヒクヒクと縁が動いてしまう。
「この淫乱!」
尻たぶを思い切り叩かれた。
「痛いっ……!」
「こんなになるまで、そいつに抱かれたんだろ? いつからだ? いつからそいつと不倫してた?」
濡らしてもいない指を孔に突っ込まれて、ナカを掻き回した。痛かったけれど、だんだんナカが濡れていく。指を増やしてグチュグチュとナカを拡げて、濡れた指を引き抜いた。なぜ夫がこんなに怒っているのか理解出来なかった。
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「それは……」
理人は身勝手な夫を睨みつけた。自分のことは棚に上げて、人を詰るなんて。
「そんな人に不倫を責められる謂れはないよ。自分は不倫していっぱい恋人とのセックスを楽しむけど、相手の不倫は許せないなんて、おかしい。ふざけてるのはそっちだろ。俺に子供を産ませるだけ産ませて離婚しようって思ってるくせに」
「……なんで、それを」
「俺、見ちゃったんだよね。明彦さんと幸也さんがヤッてるところ。その時言ってたよね。さっさと子供作って別れたいのに、妊娠しやしないってさ。俺のことなんか愛してない、幸也さんを世界で一番愛してるって言いながら、腰振ってた」
本当のことを言われて頭に血が昇ったのか、明彦が理人の腕を掴んだ。
「なに? 離して」
「ふざけるな、ふざけるな」
両手首を掴まれて身動きを取れなくさせられ、のしかかってきた。同じ男でも、オメガはアルファはもちろんのこと、ベータにすら力では敵わない。
「なにっ? なにするんだよ、離せっ!」
なぜ明彦のモノが勃起しているのか分からない。なぜそれを入れようとしているのか分からない。だって彼は理人を愛していないのに。不倫されて怒って、それでどうして自分を抱こうとするのだ。彼のモノが穴に入ってくる。
「あ……、いや、やめて」
「うるさい!」
濡れた穴が夫のモノを誘惑し、オスの挿入を喜んでいる。彼の勃起したモノで粘膜を擦られて、嫌なのに感じてしまう。
「ああっ、やっ、あっ、んっ、んっ」
「嫌だと言っておきながら、悦んでるじゃないか! ふっ、ふっ、ふっ」
乱暴に擦られ、奥を突かれ、理人の性感は高まっていく。オメガである体が疎ましい。オスに入れられたら問答無用で感じるようにできている、この体が憎い。
「あっ、あっ、やだっ、あんっ、だめっ、あっ、んっ、んっ、んぅっ」
理人の両腕を掴み、乱暴に腰を使われて、腸壁が歓喜してうねっているのが分かる。
「ほら、出すぞ! ふっ、ふっ、はっ、はっ、うううっ!」
「いや、いや、いや、あっ、んっ、んっ、んんんんんっ!」
夫は出しても止まらず、一晩中理人を犯した。次の朝、起きたら明彦は居なくて、ほっとしたのも束の間、夜になって帰ってきて、また理人を抱いた。結婚してから今まで、家に帰ることなんて多くて一ヶ月に一度だったのに、毎日帰ってくるようになって、そして毎晩理人は抱かれた。明彦は嫌がる理人を抱き締めて、何度も挿入して理人のナカで射精した。つらくてつらくてたまらなかった。つらくてたまらなくて、とうとう喜熨斗に相談することにした。毎晩夫に無理矢理抱かれてつらい、と。いつも密会するホテルで打ち明けると、優しく抱き締めてくれ、キスしてくれた。そしてそのあとは縺れるようにベッドへ傾れ込んだ。喜熨斗にしては珍しく、今までにないほど乱暴に抱かれた。彼の目が、表情が、嫉妬に燃えていた。理人が婚姻しているということで、人目を憚りなかなか会えないというのに、結婚しているというだけで毎晩理人を抱ける夫に嫉妬したのだ。理人は喜熨斗が夫に嫉妬していると気付いて、歓喜に震えた。だからどんなに乱暴に突き上げられても、喜んでナカを許した。それはもう燃えるような熱いひとときだった。
明彦が家に帰ると、見知らぬ革靴が玄関に置かれていた。誰か来客だろうか、でもこんな遅い時間に――? と不審に思いながらリビングに行くと、ソファで理人が見知らぬ男の膝の上に乗って抱き合ってキスをしていた。
「な、なんだ、お前!」
振り返ってこちらを見た理人は、見たこともないような扇情的な顔で明彦を見た。
「……ああ、お帰りなさい、あなた」
「お帰り、じゃない! 誰だ、そい、つ……」
顔を覗かせた男の顔を見て、明彦は二の句を継げなくなった。
「お帰りなさい、蕗谷さん」
業界の中でトップの企業を率いる喜熨斗㬢だった。
「なんで……、あなたがここに……? というか理人と、どういう関係で……」
「なに、あなたと同じで不倫関係ですよ。蕗谷明彦さん、美上幸也さんとは二十年近く交際なさってるようですね。理人さんとご結婚される前から交際していて、結婚後も交際関係は続いてる」
幸也の名前を出されて動揺した。なぜ、そんなことを知っている?
「あなたのことを少し調べさせて頂きました。あと、あなたの会社やあなたのご両親、そして理人さんの実家の春夏冬家のことも。会社を大きくするために提携するのはいいですが、まったくこの時代になって、友好関係のために子供を結婚させるなんて時代錯誤も甚だしいですね。あなたも恋人が居るなら断ればいい」
「……、ですが」
喜熨斗は眼鏡を直すと、無表情で言った。
「親に言われたから。結婚しないと言ったら、会社を継げなくなるから。まあ、そんなところでしょう。そこまでは正直私も同情します。この時代でも子供を手駒ぐらいにしか思わない親もいることを残念に思います。しかし、その結婚相手を蔑ろにして、恋人との不倫に耽るのはどうかと思いますよ」
「っ! あんただって、うちの理人に手出しただろ! 不感症の理人の体が変わるくらい開発して、自分好みにしたんだろうが!」
軽蔑の表情で怜悧な顔が明彦を見やった。
「開発? なんですか、それは。理人さんは私に初めて抱かれた時からとても感じていらっしゃいました。ご自分でも不感症だと仰ってましたが、とてもそうには見えなかった。あなたの技量が下手なだけだと思いますし、それに……」
「それに……?」
セックスのテクニックが下手だと言われて怒髪天にきたけれど、その続きが気になった。
「私たちはね、運命の番なんですよ」
「……はあ? え、運命の、番……?」
そんなお伽話みたいな、都市伝説みたいなものが本当にあると言うのか。
「初めて出会ったときから、目と目が合った、それだけで惹かれあって、抱き合ったら体の相性は最高でした」
喜熨斗は自分の胸にもたれかかっている理人の頭を優しく撫でていた。まるで自分のものかのように。それにカッとして、喜熨斗に詰め寄る。
「あんたを訴えてやる! 俺の妻に手を出して、タダで済むと?!」
「それこそ、こちらから、理人さんがあなたを訴えることになる。私の方であなたの身辺を探っていましたので、あなたの不倫の証拠もたくさん持っています。それであなたを訴えることも出来ます。不倫されて離婚した彼を、世間は同情の目で見るでしょうね。そしてあなたは白い目で見られる」
その言葉に怯む。その言葉が本当なら明彦の人生は破滅に向かう。
「理人さんと離婚して、解放してください。いいですね? そうすればあなたを訴えることはしません。優しいことに、理人さんは大事にしたくないと仰ってくれています」
「あなた……、明彦さん、幸也さんとお幸せに」
理人はそれだけ明彦に述べると、また喜熨斗にもたれかかった。明彦は項垂れるしかなかった。
「ああ、明彦さん、もう出て行ってもらってもいいですか? これから私たちは愛し合う予定なので」
そう言って喜熨斗は理人の首筋に鼻を埋めて、そして丸みを帯びた尻を揉みしだいた。
「あんっ、やっ、まだ居るのに……。恥ずかしい……」
聞いたこともないような色っぽくて甘い声を出して、理人が喘いだ。喜熨斗の唇が理人の首筋にむしゃぶりつく。
「はあっんっ、きのしさんっ、ああっ」
明彦はそんな二人を見ていられなくて、自分の家を飛び出した。
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