まさか俺が異世界転生ものの主人公になるなんて!

越路遼介

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最終回 まさか私が異世界転生もののヒロインになるなんて!

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 レンヤは三人の妻を看取ったあと死を選び、そして女神に召された。

 その後、彼は令和日本に戻り、救急車のなか、鶯谷駅で心不全を起こした直後に戻っていた。

 そして検査入院を経て、自宅へと戻った。
「ただいま」
 と、言っても迎える者はいない。異世界では複数の妻がいた時期があったのに。
 いや、あれも現実か分からないが、妻や子供たち、孫たちの顔はみんな覚えている。夢だったとは思えないし、思いたくもない。
「現実だったんだな…。たぶん」
 途中、文具店によって画用紙と色鉛筆を購入した。パソコンで絵は描かない。というより描けない。


 そして描いた絵は女神アフロディーテ
 描いた女神の姿絵を壁に貼り、手を合わせた。
「女神アフロディーテ様、レンヤを召して、再び立川廉也に戻してくれたのですね。あのまま死ぬと思いましたが…思えば立川廉也としてやり残してことも多いので、ちょうどいいかと。私は無宗教ですが、貴女のことは信じます。ありがとうございました」
 理想的な展開とも言えた。糖尿病に高血圧と言う既往症もあり、どのみち余命は二十年を切っているだろう。十分な時間だ。

『豚まん殿』
「…おおっ、お応え下さいますか!女神様」
 姿こそ現さないが声はレンヤの頭にしっかり届いた。何と神々しい声か。
『…私はこんなに美人ではありません。盛りすぎですよ。うふふっ』
「なにをおっしゃいます。私の筆力の至らなさが悔しくてなりません」
『さて…。豚まん殿、もうお分かりと思いますが、先に貴方が生きた異世界セイラの出来事は現実にあったことです』
「はい」
『貴方の望む通り、あのまま死を授けてもよかったのですが…やはり立川廉也としてやり残したこともあるかと思いますので戻しました。余命は…貴方自身が理解している通り既往症もあって、しかも心臓も患いました。おそらく長くて二十年程度かと』
「十分です。その残りの人生、全うしたいと思います」
『はい、豚まん殿がよく生き、よく死ぬことを願っております。あ、また何か私にお話がありましたら、私の絵姿に話しかけて下さいね』
「はい、ありがとうございます。女神アフロディーテ様」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 病休していた廉也だが、明日から復職だ。彼の勤め先は関東消防局の江戸川消防署、眼鏡をかけた名探偵は存在しない。廉也は上司や署長に復職の挨拶に出向いた。帰ろうとすると車庫では今年入った若い消防士が先輩に訓練を受けていた。その先輩が廉也に
「立川主査、おはようございますっ!」
「「おはようございますっ!」」
 その場にいた後輩たちも挨拶した。
「うん、みんなおはよう、ちょっと病気で休んでいたが明日から復帰するからよろしく。宮本主任、訓練終わったら、これでジュースでも飲んでくれ」
 千円札を渡した。
「ありがとうございますっ!」
「「ありがとうございますっ!」」
 こんな体育会系のノリの職場はもう消防署くらいだろう。
 廉也が新人のころは本当にパワハラの巣窟だった。嫌な思いをさせられた記憶は今も残る。
(こんな先輩には絶対になるまいと思ったが…どうやらならずに済んだようだ…)


 さて、翌日、消防署に復帰した廉也、さっそく救命救急の指令が入り出動だ。
 現場に向かう緊張感、何とも言えない。帰ってきたんだと思う。
『関東消防から、救急江戸川どうぞ』
 無線が入った。救急隊長の廉也は無線を取り
『救急江戸川です。通報内容どうぞ』
『了解、現場にあっては地図表記の通りの共同住宅、104号室山本方、四十八歳女性、230の4』

 無線コード230は自損行為、その4は薬物多量服用だ。
『支援隊にあっては江戸川ポンプ隊、どうぞ』
 救命の場合、ポンプ隊も支援で出動する。
『救急江戸川、了解』
 無線機を置いて
「四十八歳か…。俺と同じ年だな…。何があったか知らないが命を粗末にして馬鹿な女だ。工藤隊員、胃洗浄出来る搬送先を調べておいてくれ」
 隊員に指示した。
「了解しました」

ピーポー、ピーポー


 現場に着いた。築三十年は経つボロアパートのドアをノックすると老婆が出てきた。薬物を多量服用した女の母親だ。泣きながら現場に案内する。
「どうしてなんだよっ、どうして自殺なんか!」
 自損企図はやった当人を見るより家族を見る方がつらい。廉也は案内する母親の視線の先、自分と歳が同じころの女が意識不明で倒れているのを見た。

「…………!?」

「隊長?」
 廉也は意識を失い、口からよだれを垂れ流し、かつ大小の失禁をしている哀れな女を見て唖然とした。部下の隊員の声も届かないほどに。

「…真理子?」
 真理子の母親も何かを思い出したように廉也を見た。
「もっ、もしかして…立川くんなの?」
「は、はい…。と、とにかく処置を!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 真理子は一命を取り留めた。廉也は処置室の外で真理子の母親に話を聞いた。

「大学に進み、結構いいところに就職できたんだけど…どうも仕事についていけなくて辞めてしまってね…。それからあの子には、いいことなんて無かったね…。派遣かバイトかは知らないけれど全部長続きしなくて、今は私の年金で細々と暮らしているよ」
「…そうでしたか…」
「立川くんと結婚していたら、少しは違っていたかも、そう言っていたよ」
「…お恥ずかしい話ですが、高校三年の夏、彼女と初めて性行為に及びましたが失敗してしまいました。それを彼女に笑われて…気持ちが覚めてしまったんです」
「…それは誤解だと言っていたよ」
「え?」
「気にしないで、と言いたくて、あえて笑って励ましたら誤解されてしまったって。彼を傷つけてしまった、そう言っていた」
「…………」
「人の気持ちと言うのは難しいものだね…。励ますつもりが相手を傷つけて…」
 唖然とする廉也。そして頭を抱え、髪を掻きむしった。
「なんて…!なんて馬鹿野郎なんだ、俺は!」
「立川くん…」

「隊長、ドクターから記録票に署名いただきました。引き揚げましょう」
 救急の活動記録票に必要な医者の署名と病名を書いてもらったら救急隊の任務はひとまず終わりだ。
「分かった…。お母さん」
「ん?」
「見舞いに来て…いいでしょうか?」
「うん、真理子も喜ぶと思うよ」


 数日後、廉也は花をもって真理子の病室に訪れた。ベッドに座位し、窓の外を眺めていた真理子。母親もいたが、廉也が来ると席を外した。
「久しぶりだな、真理子」
「…ええ、久しぶり」
「座っていいかな」
「どうぞ」

 花瓶は病室に置いてあるので、それに花を入れた廉也、そして腰を下ろして
「お母さんから聞いた。あの時の君の笑みの意味を」
「…お母さん、おしゃべりね」
「俺はてっきり、君の性器に入れる前に果ててしまった情けなさを笑われたと思い、感情的になって君に別れを告げた。本当にいま思うと馬鹿みたいだな」
「…いいのよ、誤解されるような笑みを浮かべた私にも落ち度はあるから」
「…そう言ってもらえると少し心が軽くなる。だけど真理子…」
「どうして自殺なんかした?かな」
「ああ」
「最初の就職で失敗して、それから中々立ち直ることが出来なかった。派遣とバイトもあんまり長続きしなくて気が付けば婚期を逃して…。それから引き籠ることが多くなったわね。薬をいっぱい飲んだのは本当に衝動的…。その日の朝は死のうなんて思っていなかったし…何というか、自分が自分を殺しに来た、そんな感じかな」

「そうか…。美人の君のことだから、てっきり素敵な旦那様と子供二人くらいいて幸せにやっているかと思ったよ」
「廉也は?」
「俺は高校卒業と同時に消防士になった…のは知っているだろうけど、今も独り者だよ。君とのセックスに失敗して以来、恋愛ごとに憶病になり、やがては億劫になった。収入自体は安定しているから月に二度吉原で遊び、つい最近はソープの帰りに心不全を起こして救急車で運ばれたよ」
「…………」

「あとはまあ、アイドル声優のおっかけなんかしているかな。こっちも結構お金がかかる」
「へえ、廉也がアイドル声優のおっかけ…。ふふっ、何か想像つかないな」
「なあ、真理子…」
「ん?」

「吉原通いもアイドル声優のおっかけもやめる。消防士を定年まで全うする。もちろん、そのあとも働き口を見つけて働く!」
「…………」
「俺と一緒になってくれないか。やっぱり君は高校時代に俺が夢中になった山本真理子だよ」
「…………」
「真理子……」

「気安く名前を呼ばないでよ。何よ今さら!最初のセックスに失敗したくらいで相手の女を捨てて、かつ恋愛ごとに憶病になって吉原通い?そんな器の小さな男、まっぴらごめんだよ」
「いまは違う。素人童貞のままだが消防士として誇りをもって働いている。俺が人間的に未熟な部分は男女のことだけ。そのほかは一個の男として自信もある。大人物ではないが小者でもないつもりだ」
「…………」

「少し時間はかかったが、まだお互いやり直せる!俺の女房になってくれ真理子!」
「うっ、うう…!えぐっ、だ、だけど、もう私…うっ、うう…こんな歳だし…廉也の子供、ぐしゅ、ぐす、生めないよぉ」
「無理に生む必要は無いさ、子供がいなくったって仲のいい夫婦もいるだろう」
「廉也あ…」


 結婚式は行わないことに決めた。籍を入れるだけだ。やがて退院した真理子は廉也の住むJR尾久駅近くのマンションに身を寄せた。新婚旅行は熱海だった。温泉に入り、熱海の海岸沿いを夕涼みがてら歩く二人。

「なあ真理子」
「なあに?」
「子供は生めないと言ったが…セックスはしていいだろう?」
「なっ、なによもう!夕暮れの砂浜散歩している、いいムードの時に!」
「いや、気になってさ。夜に拒否されたらどうしようって」
「そんなわけないでしょ…。いいよ」
「そっか、良かった」
「避妊はいいから…」
「えっ、それって…」
「うん、かなりの高齢出産になるから危ういのは分かるけれど、もし命が宿ってくれたら嬉しいし、生んでもいいと思う。廉也の子供だしね」
「ありがとう~!もう真理子ってば可愛いんだから!」
 急に真理子に抱きつく廉也。
「やめてよ、もう!ばか!」
 と、言いつつ満更でもない真理子だった。


 真理子、齢四十八で初めて知ったセックスの快楽と癒しだった。
 廉也と別れて以来、交際した男は何人かいてセックスもしたが、それほど気持ちいいとも思えず、絶頂に達した演技をしていたものだった。つまり真理子は自慰以外で絶頂に達したことがない。それがどうだ。愛する夫の愛撫の甘美なこと。

「いやぁ、こんな歳であそこからそんなにおつゆがたくさん出て…はしたない女と思わないで…」
「そんなこと思うものか。そろそろ挿れるよ、本当に避妊はいいんだね?」
「うん…。廉也の子供…生めるなら生みたいから」

 優しく貫いていく。立川廉也に戻り、閨房スキルが失せても、彼自身の経験に残っている。四十八歳であろうとも、まだまだ男として現役だ。
「~!……!」
「気持ちいいよ、真理子…」
「おっきい…!かっ、かはっ、お腹が苦しくなってくるぅ…」
「動くよ。下から俺を抱きしめてほしいな」
「あっ、あなたぁ…!もう離さないんだからぁ!あんっ、んっ、ああ!」


 そして翌朝、ホテルの朝食バイキングでは
「はい、あなた、アーン」
「アーン」
 四十八歳の中年夫婦がやるには恥ずかしすぎるが廉也と真理子は堂々とやっている。
 隣のテーブルの老夫婦は苦笑していた。
 テーブルで向かいに座るのが普通なのに並んで食べて、真理子は廉也に体をくっつけている。昨夜のセックスで真理子は廉也に夢中になってしまったようだ。廉也もだが。

(女盛りで瑞々しい体だったなぁ…)
「ね、ねえ、あなた…。今日は三島のスカイウォークに行くって言っていたけれど、ホテルのチェックアウト前に…ね?」
「ああ、しようよ。よかった。『朝から何を考えているの』と言われるかと思って」
「そんなこと言うわけないでしょ…。あなたといっぱいしたいの」
「ふふっ、やっぱり伴侶を持つってのはいいもんだな」
「私も同じよ。はい、アーン」


 新婚旅行から帰ってほどなく、廉也と真理子は小田原に居を移した。
 上野東京ラインを使えば通勤も苦ではないし、少し足を延ばせば箱根湯本温泉もある。
 御幸ヶ浜近くのマンションを購入した。真理子の母も同居する。
「俺には、もう父母はおりません。これから真理子のお母さんを実の母と思い孝行させてもらいます」
「ありがとう、廉也さん。でも真理子がヤキモチ焼かない程度にね」
「なに言ってんのよ、お母さん!はははは!」
 レンヤは立川廉也に戻ったが異世界セイラで生きた経験が段々と容貌にも表れだした。魔王ラオコーンと殺し合いの死闘、稀代の名医、指導者、冒険者として生きてきた経験。そんな珠玉の経験が容貌に出ないわけがない。堂々たる偉丈夫、まるで老成された名君のように見えた。
 真理子の母百合子が『娘がヤキモチをやかぬ程度に』と言ったのは、そういうわけだ。顔の美醜ではない面構え。七十を越した女から見ても見惚れずにいられなかった。


 もちろん消防の仕事にもそれは生きている。救急隊から指揮隊へと異動した彼の災害現場における指揮官ぶりは日本全国の消防士が手本とすべきものと言われるほどになった。

 そして、ついに妻の真理子が妊娠、五十歳のことだった。
 妊娠してから出産後の三年、この時の妻に対しての行いが、その後の結婚生活に大きな影響を及ぼすと廉也は同僚たちから釘を刺されていた。この期間、妻を粗略にすれば、男は晩年にその報いを受ける。だから妊娠した妻は本当に大事にしなくてはならない、心しておけと同僚たちから、くどいくらいに戒められた。

 とはいえ限度というものもあり
「もう!お姫様抱っこはやめてよっ!みんな笑っているじゃない!」
「笑わせておけ。君の体はもう君だけのものじゃないんだぞ」
 車から病院の待合室までお姫様抱っこをして妻を運ぶ廉也だった。しかも腹部に圧迫がかからないよう何とも絶妙に。若々しい新婚さんならまだしも夫婦とも五十路越え、それは苦笑もされるだろう。
「知らない、もう、ばか!」
 と、言いつつ顔を赤めて嬉しがる真理子だった。

 仕事の日は丸一日いない廉也だが、朝に当直を終えるとすぐに帰宅し妻の世話。
 病院への送り迎えはもちろん、母体をいたわり妊娠中によい食べ物を作る。掃除洗濯も手際がいい。安心して出産に備えて安静にしていられる真理子。母の百合子は
「いい旦那さんと結婚できたわねぇ…。亡くなったお父さんは普通にパチンコ行っていたもの」
「うん…。彼と一緒になってよかった…」
 大きくなった腹を愛しそうに撫でる真理子、台所で夫が料理をしている音が心地よかった。


 生まれてからもまた大騒ぎだ。夜泣きをすれば母親の真理子より早く起き上がり息子真也を抱き、あやしている。
 だが中々寝かしつけられないので、結局は母親の真理子が抱く。真理子に抱かれて、すうすうと寝息を立てる真也を見て
(ふっ、相変わらず寝かしつけるのが下手だな…)
 と、どこかの勇者の父親みたいにシリアスに言ってみた。

 妊娠出産後三年の危機は、この夫婦には無縁だったらしい。というより真也を生んだ翌年には女の子彩華が生まれた。もうお父さんはデレデレで『お嫁になんかやらない』と言っている。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 幸せな時間は瞬く間に過ぎていく。三十年の歳月が流れた。真理子の母百合子はすでに召され、子供たちも立派な大人になった。女神アフロディーテに余命二十年と言われた廉也だが、八十歳を越しても生きていた。そして仲睦まじい夫婦も別れの時が訪れた。

「死なないでくれ真理子、男は年取って女房に先立たれたらダメになるんだよ…」
「また、そんなこと言って私を困らせる…。仕方ないでしょ…。自然死なんだから」
「まだ八十一だろ。自然死じゃない」
「あなた…」
「ん?」
「御幸ヶ浜が見たいわ」
「ああ、行こう」
 病躯で体が動かない真理子を背負って自宅近くの御幸ヶ浜へ。

 夕暮れ時で美しい海と砂浜。真理子は微笑んで
「きれい…」
「君ほどじゃないがな」
「ふふっ、ありがとう」
 潮風と波の音が心地よい。
「あなた…」
「ん?」
「ありがとう、また生まれ変わったとしても私はまたあなたの妻となりたい…」
 それが最後の言葉だった。真理子は廉也の背で眠るように死んでいった。
「真理子…!真理子おぉぉぉ!うっ、ううう…」


 その翌年、廉也にも最期の時が来た。妻と同じように自宅での死を選んだ。
 往診中の医師が廉也の脈を取って布団に入れた。
「ご最期のようです。お言葉を…」
「父さん」
「お父さん…」
 三十一の長男真也、父と同じく関東消防局に入庁し、現在救助隊に務めている。
 三十の長女彩華は声優を目指し、いまや大人気の声優だ。アイドルゲームのアイドル役を演じ、廉也も何度かライブに行っている。

 廉也は臥所から起き上がり正座をした。瞑目しつつ
「悔いなき人生を送れ。亡くなったお母さん、そしてお父さんが二人に願うのはそれだけだ」
「「はいっ」」
「真理子…。いま逝くぞ…」
 廉也は座位で死んだ。死ぬ時はそうありたいと思っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「…………」

 ひゅううううう~

 心地よい冷たい風が当たる。
「ああ…。そんな気がしたんだわ」

 一面に広がる大草原、薄く空に浮かぶ月は二つ、冠雪した美しい霊峰ベロニカ。かつて廉也が一四〇年以上も過ごした異世界セイラだ。

「いつ見ても美しいですよねぇ…」
「ええ、この光景を見ていると心が洗われますよ死神さん」
 あの時と同じ、十五歳くらいの少年時代に姿が戻り、そしていま朝日に映える霊峰ベロニカを、ものすごくいい笑顔で見つめている。今なら何でも許せてしまうくらいの絶景。
「お久しぶりですねぇ、廉也さん」
「どういうことです?私はまた若返り、死ねなかったようですが」


「説明するわ」
 女神アフロディーテが現れた。相変わらず美しい…。
「まあ、説明するより、こっちが早いかな。後ろを見てごらん」
「はあ…。えっ?」
 そこには中学生くらいの少女がいた。黒髪、人種は黄色、廉也が知る女だ。
 初めて出会った時よりも若い。

「真理子…?」
「あ、あなたなの!?」
「うんっ、立川廉也!」
「ああああっ、あなた!あなたーッ!」
「真理子!真理子ぉ…!」

 二人は抱き合った。何も言葉はいらなかった。死神が目のやり場に困りながら話を切り出す。
「ええとですね、廉也さんは、この世界で死して令和日本に戻ったあと消防士に復帰したわけですが、その後も多くの人命を助けました。定年後は消防学校校長になり後進の指導に。その徳行により天国か異世界に行けることに相成りました」

「さらに!」
 女神アフロディーテが
「ねえ、もんじゃ姫」
 真理子は自分のこととは思わなかったが女神は真理子を見て言っている。
「も、もんじゃ姫?私のことですか?」

「そう!覚えていますか、あれは貴女が還暦を越して間もないころです。もんじゃ焼き屋で焼き方と食べ方が分からず泣きべそをかいていた白人の少女を助けましたね?」
「は、はあ…。言われてみれば久しぶりに学生時代の友達と会って、好きなもんじゃ焼きを食べに行った時、そんなことがあったような…」
「実は!あの少女こそ人間に姿を変えて日本のグルメを食べに行っていた私であったのです!そして貴女が優しく微笑みながら焼いてくれたもんじゃ焼きの美味たること!さぞや名のあるもんじゃ姫と思いました!」
「…………」

「確かに君の作るもんじゃ焼きは美味かったな。あはははは!」
 廉也の言葉に女神はウンウンと頷き、そして
「女神の危機を救うと廉也殿と同じくらいの徳行となり!天国と異世界どちらかに行けるのです。というわけで、こちらに来ていただいた次第です」
「で、再び徳行によりこちらに生まれ変わる廉也殿とついでだから会わせて差し上げることにしました。何せテレビもラジオも、インターネットもない世界、巡り合えるか分かりませんからね」

「ありがとう死神さん!真理子もあんまり細かいこと気にするな!この世界で、もう一度恋をして!そして結婚しよう!」
「あなた…。うんっ、そうしよう!」
「ではお二人に幸あらんことを」
「じゃあね~」
 死神と女神は姿を消した。

「それじゃ、さっそく真理子…」
「えへへっ、セックスしよっか!」


 
 まさか俺が異世界転生ものの主人公になるなんて! 完
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感想 10

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みんなの感想(10件)

紫苑01
2021.07.11 紫苑01

確かに…もんじゃは食べ方わからないときつい…|д゚)ジー




カトレアにも救いが欲しかった

2021.07.12 越路遼介

感想ありがとうございました。
もんじゃ焼きを美味しく食べるには、それなりに熟練度も必要ですよね。私はそれなりの腕前と自負していますけど。

カトレアは復讐後どうするか、ずいぶん迷いましたがご覧の通りの展開としました。
好きなヒロインですので、書いていて私も少しつらかったです。

解除
ety
2021.05.15 ety

とても素敵な作品を読ませて頂きました。

一気に読みましたが、お気に入りに登録しておいて、また何度も読みたいと思います。

良き作品に出会えた感謝を伝えたくて、感想の投稿をさせて頂きました。

作者さん。ありがとうございました。

2021.05.15 越路遼介

拙作の拝読と感想ありがとうございました!
一気読み、お疲れ様でした。良き作品と言ってもらえて嬉しいです。また、何度も読みたいと言う言葉も大感謝!
こちらの方こそ、お礼を言いたいです。読者さん、ありがとうございました!

解除
マンティス
2021.04.27 マンティス

何回か読み返してるけど面白いです。
カトレアには復讐後にも幸せになってほしかった

2021.04.27 越路遼介

拙作の拝読と感想、ありがとうございました。
カトレアは復讐後にどうするか、ずいぶんと迷いました。もちろんレンヤと共にその後も生きる展開も考えましたが、思案のすえにご覧の通りにしました。本当に幸せになってもらいたかったです。

解除

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