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第4話 レンヤ、勇者の仲間になる

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「叔母上、改めて彼を推薦した理由をお聞かせ願えますか」
 ギルド内は突如の王子登場でざわめく。

 カール・イレ・グランシア、現グランシア七世の長男である。
 彼に叔母上と呼ばれたギルド職員エルザ、レンヤが昨日採取した薬草を見せる。
「これは…」
「根っこ一つ損傷していないだろう?これは収納魔法を応用して採取しているんだ。薬草に触れて直接傷つけずに魔法内に入れる。これはね、収納持ちの術者で5人に1人出来るか出来ないかだ。アタシも収納持ちだが、出来ない芸当だよ」
 やっちまったとレンヤは思う。エルザは特に驚きもせず薬草を受け取っていたから誰でもやっていることかと思っていた。
「つまり、レンヤの魔力操作は銀か金級と言っていい。それとレンヤ…」
「はい?」
「お前、ダムス商会の馬車を襲った盗賊団『破壊槌』およびギルドを裏切った元銀級冒険者のドイスとダオジを討っているね?20人以上いた悪党どもを投石術で一瞬に」
「のワの」
「馭者の爺さんはお前のことを一言もしゃべっていない。彼の名誉のためにこれは言っておく。だけどお前は戦闘時に声を出したね。娘と奥方に馬車に入って耳と目を塞げと。その声をダムスが覚えていた。今日の土木工事の投資者でね。今日も隠れてお前の声を聴いていて間違いないと言っていたよ」
「…………」
「お前は並外れた強さを持つ」
「…………」
「そして、その強さに見合う強い心もね。お前くらいの若さでその強さなら驕っているのが当然だ。しかしお前は悪目立ちを避けて地味仕事をコツコツとやる。あの時に絡んできた荒くれ男ABCも本当なら瞬殺できたはずだ。己が強さを誇示するのを良しとしない。なかなか出来ることじゃないし、平時なら私もギルドマスターも気づかぬふりを通すつもりだった。ダムスもだ。だが、そうもいかなくなった」

「王子、それにエルザさん、私は田舎から出てきたので魔王と言われても実感がない…。グランシア、いやテインズ大陸は現在どんな危機的状況なのでしょうか」
「叔母上、それは私から」
「ああ、頼む」

「レンヤ殿、我が国はテインズ大陸南端にある。そして魔王軍が乗り込んできたのは大陸北東のカノンダ帝国。距離にして陸路約2万ヴェイ(2万キロ)ある。人間同士の戦争なら仮想敵国にもならない距離だ。しかし相手は人間ではない。ヒト以外の種族みんな魔王側についている。有翼族もいれば、地中を飛ぶように掘り進む土竜系のモンスターもいる。2万ヴェイあろうとも、鼻先に上陸されたに等しいことなのだ」
 さらにカールは続ける。

「200年前の戦いでは魔族とモンスターが、ここ大陸南方に攻めてきた。しかし祖シンシアが残した書によると『魔王』は存在しなかった。部隊長クラスの者が、それぞれの隊を率いて寄せてきて総大将みたいなのは存在しなかったとある。シンシアは言っている。『この襲来は様子見ではないのか』そして『魔王はいる。後に攻めてくる』と」
「…200年と言っても彼ら魔族からすれば泡沫…」
「そうだ。祖シンシアとグランは子と孫にくどいくらい『魔王は来る。警戒を怠るな』と言い残している。だからギルドを始め、王国内でも対魔王に備えていたけれど、その侵略があまりにも早く後手後手になってしまった」
 エルザが添えた。どうやらゲームのように居城でデンと構えているような魔王ではないらしい。だからこそ厄介だ。

「それと殿下とレンヤは歳も同じだ。よい相棒となるだろう」
「しかし平民の私とでは…」
「レンヤ殿、いやレンヤ、我が祖シンシアはセントエベールの元お姫様だけど、グランの方は元農民。私も平民と変わらないよ」
「…………」
「だが、一応強さを見ておきたい。ここの練兵場で手合わせを」
「…いいでしょう」


 王子とギルドが見込んだ少年レンヤとの模擬戦が始まるというので練兵場には見物人が続々と。荒くれ男ABCもいる。Aはダンク、Bはガンバ、Cはオーネンと云う名だ。
「なあ、ダンク」
「なんだオーネン」
「思うんだが…あの坊主、本当ならあの時、俺たちを簡単に倒せたんじゃないのか?」
「かもしれない。しかしそうせず、愛嬌振りまきながら近づいてきた」
「ある意味、そっちの方が恐ろしいな。それが出来る器と云うのが。しかもあいつ、まだ16の小僧だろ」
 と、ガンバ。

「殿下、私がもっとも得意とするのは無手です。もっとも対人戦、しかも一対一に限りますが…武器を取った戦いの方がよいでしょうか」
「いや、レンヤが一番得手とするものでいい。対モンスターについての互いの武器は模擬戦の後に話し合ってもいいだろう」
「承知しました」
 練兵場はギルド3階にある。レンガで四角に囲まれた砂地だ。
 カールとレンヤはその中央で対峙した。レンヤはカールの顔を見て微笑む。
「私の顔に何かついているか?」
「いや、安心したのですよ。王子と云っても顔立ちは我らと変わらず、いやむしろ精悍さが出て面構えがいい。私は顔だけがいいロクデナシは嫌いでしてね」
「私も嫌いだよ。まあ、私の家族に美男美女はおらんがね。祖シンシアの肖像画は美女に描かれることが多いが、実際は不美人だったらしい」

「そろそろいいかい?」
 エルザが二人の間に立つ。
「「ああ」」
「はじめ!」
 カールは一瞬でレンヤの懐に入った。横薙ぎの一閃。
「早い、しかも振り切られると衝撃波が出るな。なら」

 レンヤはカールの剣を持つ手を掴み、逆にカールの懐に入り、突進のエネルギーそのまま使って腰に担いで一回転。一本背負いだ。この世界、打撃の格闘技はあるがレンヤの得手とする柔道のような組内術はない。
「ぐほっ」
背中から叩きつけられ、しかも
「ぐああああっ!」
 左腕の関節を極められた。まいったは手を床か相手に二度叩くことだが、当然カールはそんなことを知らない。レンヤはほどほどで離して立ち上がった。

「な、なんだ、今の技…?」
「私の故郷の古老たちから教わりました対人用の武芸です。投げる極めるを極意とします」
「「…………」」
 荒くれ男ABCを含め、他のギャラリーも唖然としてレンヤの技を見ていた。レンヤはカールに手を差し伸べるがカールは叩きはらい

「もう一本。今度はレンヤの剣が見たいが…」
「いいですが…私の剣は自作の木刀ですよ。鉄の剣を買う金がまだないので」
 稼いだ金を、みんな色町の女に使ってしまうのだから買えるわけがない。だが自作の、というのがキモだ。レンヤの木刀は銘木でも何でもないが、大樹をこれでもかと魔法で圧縮して現在の通常サイズとなっている特製品。よほどの達人でない限り、レンヤの木刀は斬れない。
(妙な話になってきたな…。冒険者として花代稼いで色町の女とセックスする。これでいいと思っていたのに、まさか勇者の仲間になれときた)
 しかし、悪くない。そう感じる自分がいるのも確かだ。

 剣熟練度100というのがレンヤのステータス、エルザの再び『はじめ』がかかっても両者動かず。レンヤは居合抜きをするかのように木刀を腰に差したままジリジリとカールへ近づく。すでに剣を抜いて構えるカールにはレンヤの意図が分からない。剣の間合いに入ると上段袈裟懸けで斬るカールの剣を抜刀術で弾き返して、木刀をカールの首でピタリと止めた。カールの剣が砂地に落ちた。

「…まいった」
「見事な上段一閃でした。右手がしびれていますよ」
「カール、まだ修業が足らないね」
「はい、叔母上、まだ魔王ラオコーンには太刀打ちできないでしょうが、こんな心強い相棒を得ました」
 カールは改めてレンヤに向かい頭を下げた。
「レンヤ、どうか私と共に魔王ラオコーンを打倒する旅に出てほしい」
「分かりました。及ばずながら微力を尽くしましょう」

 右手がしびれた。それは敗者のカールへの思いやりのフォローではない。本当のことだった。レンヤは苦もせず手にした反則的な強さだが、カールは血の滲むような鍛錬の結果で得たチカラ。武芸すべて熟練度100のレンヤでも惚れ惚れする一閃だったのだ。
 王子と云えば婚約破棄した悪役令嬢の逆襲で転落する者しかおらんだろう、と根拠もなく思っていたレンヤだが、この世界この国で出会った王子は本物であった。


 練兵場のある三階から一階のギルドフロアに戻ってくると
「お待ちしておりました。我が命の恩人たるレンヤ殿」
 それは盗賊団より影ながら助けた商人ダムスだった。これ以上隠すことも無意味と思ったレンヤは
「いえ、たまたま通りがかっただけで」
「そのお礼をさせていたただきたいと思いまして。この剣をお贈りいたします」
「……!こんな高そうな剣!?」
「はい、私も商人、必要な投資は惜しみません」
「ダムス、そのボテ腹と同じく太っ腹だね。ミスリルソードか」
「ボテ腹は余計だ、エルザのババア」
 どうやら悪口言い合えるほどの仲らしい。エルザは顔が広いようだ。
「そして殿下にも同じ剣を」
「ありがたいダムス、いま国費を国防に回しているから俺の装備費なぞ後回しでな」
 王子が魔王を討つ旅に出ると云うのに与えられる武器はショボい。某国民的RPGのスタートのようだと思う。
 しかし、そのRPGと異なるのは、主人公の勇者にのっけからチート全開の仲間がいることか。
(俺も男なんだなぁ…。胸がときめくわ)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「父上!母上ええ!」
「はっははははは」
 テインズ大陸北東の国カノンダ帝国皇城ミッドガルドは魔王軍により陥落した。皇帝の間は血の海と化した。
 遠い昔、亜人の楽園の地であった草原、初代皇帝となる冒険者と仲間たちが開拓者として入り先住民たる亜人たちを虐殺した。その先祖のツケを支払わされることになったのだ。
 皇女サラは惨殺された父母の亡骸に泣きすがる。

「どうして!私たちが何をしたと言うのよぉ!」
「先祖を怨め、何度言えば分かるのよ」
「そうそう、奪われたものを奪い返しに来ただけ。まあ、安心おし。同じ女としてお前の尊厳だけは守ってやる」
 皇女の首が宙に舞った。
「けっ、アタシら追い出してこんな趣味の悪い城ォ建てやがって」
 将軍格の女戦士が帝座を蹴って粉々にした。
「姉さん、そろそろ出ないと爆発に巻き込まれるよ」
「と、そうか」
 カノンダ帝国皇城ミッドガルド、寄せ手の大将はアマゾネス軍団。族長シレイア、その妹ジャンヌ。無双の武勇を誇る彼女たちに帝国兵はなすすべもなく敗れた。
 シレイアたちが外に出ると同時にミッドガルドの城は爆薬によって砕けて崩壊した。

 魔王ラオコーン、勝鬨をあげる。
「ヤア、ヤア、ウオオオオオ!」
 シレイアとジャンヌ、剣を空に掲げた。そして魔王軍全軍。
「「ヤア、ヤア、ウオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」」
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