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第十九話 御館の乱
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明智家の旧領丹波の国を拝領した塩見武蔵守長康、若狭と丹波、そして近江坂本、武州見沼で浮浪児から始まった彼の人生が、いつの間にやら二ヶ国の国主、天下人織田信長の信頼も厚い若き重臣である。
当主を失った明智家は、そのまま塩見家の家臣となった。嫡男の明智十五郎光慶が家督を継いだが、まだ若く筆頭家老となった明智左馬之助秀満が補佐に就く。史実と異なり、この当時の光秀の城、坂本、亀山、福知山の城より長康の城小浜の方が規模は大きく、これまでと変わらずに塩見の本城は小浜のままである。丹波は二十六万石、坂本を中心とした南近江十万石が加わり若狭の八万五千石を入れると四十四万五千石の大大名となった。
光秀の妻熙子の命を助けた長康は残る明智家臣たちにも快く受け入れられ、旧主日向と変わらぬ忠誠を誓う。彼らの中には武田徳川連合軍に敗れて深手を負ったところを長康に助けられた者も多く、彼らは長康が武田徳川連合軍の迎撃の総大将になった時に兵として参戦している。けして明智左馬之助と滝川一益だけが活躍した戦ではないのだ。
その経緯と光秀の遺徳もあり、丹波の国人たちも塩見の旗『理世安民』に参じることになった。
熙子は光秀の死後、落飾して尼になった。名は夫明智光秀の名前から『明』と『秀』を取り『明秀尼』と名乗り、明智家の主家となった塩見家の正室能に仕えることに。四十四万石越えの大名の正室ともなれば、見識確かな尼僧が仕えるもの。熙子がその役割を担うことになった。
織田の領内の立て直しも急務だった。なにせ武田徳川連合軍に宿老級の武将が多数討たれたのだから。長康は自国のことは家臣たちに任せて安土に赴き、柴田勝家と羽柴秀吉らと共に織田の国力回復に尽力するのであった。そこで活躍をしたサポートカードがこの『異日本戦国転生記』の世界に長康が転生して最初に戦った『見沼竜神』だった。このカードの特殊能力は『豊穣』であり、主人公が関わった新田開発では凶作が発生せず必ず豊作になるというもの。SSR◆4にもなると毎年『大豊作』となるが現在SSR◆1なので、それに至らないものの現実の世界に使うとなれば、このくらいでちょうどいいのかもしれない。いくら何でも毎度大豊作は不自然であるし、凶作に至らないだけで飢える者は減るのだから。
城内で久しぶりに信長正室の帰蝶と会ったので話すことに。彼女は長康がねねの不妊を治したと聞いても、その治療は望まなかった。吉乃が生んだ信忠がすでに世継ぎと信長が定めていたため、今更正室の子が生まれたら混乱すると考えたのだ。
しかし、それよりも
「武蔵守、本日はうなぎを仕入れるよう台所奉行に伝えてあるゆえ腕を振るってほしい」
「承知いたしました」
帰蝶の侍女たちが目を輝かせた。長康のうな丼は安土城内の女たちの胃袋も鷲掴みしている。ちなみに安土にも長康の現地妻がいる。園子という娘で、たったいま長康の前で『うな丼が食べられる』と目を輝かせている。
父の道三、兄の義龍から『うな丼という、この世のものとは思えぬ美味を料理する若者作太郎』の名は伝え聞いていた帰蝶、織田家の家臣となって長康が最初に安土に訪れた時に『おぬしが安土に来ると言うのでうなぎを仕入れておいた。父の道三、兄の義龍を魅了したうな丼とやらを食べさせてほしい』と言い、望み通りにすると帰蝶と彼女に仕える侍女たちは『こんなに美味しいものは食べたことが無い』と泣き出す有様。
そして侍女の中に熙子と同じく疱瘡による痘痕が顔にある若い娘がいたので、長康は治して痘痕が消えた。娘は泣いて喜んだ。名前は園子、痘痕により婚姻の話は皆無だった。
帰蝶はうな丼の美味もあったが、可愛がっていた侍女の顔を治してくれたことを喜び、その日城内に泊まる長康に女の世話を、と考えていたところ、園子自ら名乗り出て、現在に至るまで彼女が長康の安土現地妻でいる。子供も一人生んでいる。娘だ。長康の種は強いらしい。
うなぎを調理している長康の姿も安土城の女たちには人気だ。何ともいなせな大将の姿に見惚れてしまう。
美味しそうな香りにつられて信長を始め、秀吉と勝家もやってきた。
「帰蝶、ずるいではないか。女たちだけで武蔵のうな丼を食べようとは」
「あら、ちゃんと殿や重臣たちの分のうなぎも仕入れていますよ。武蔵守、かまわぬか」
「はい、上様の分は無論、筑前殿、修理亮様のも作りますよ」
「ありがたい、いや、これはねねに叱られてしまうのう。ずるいっ!と」
「ははは、筑前、そりゃ儂のところのお市と娘たちも同じよ。拗ねて口を利いてくれなくなるかもしれんて。ふははは!」
史実と異なり、羽柴秀吉と柴田勝家は不仲ではない。手取川の戦い前にこじれたものの、今は和解している。もっとも史実でも信長の逆鱗に触れた前田利家の織田家帰参のため二人は協力したという逸話があるため最初から不仲と言うことでもなかった。笑いあう秀吉と勝家を調理場から見つめる長康は
(少なくとも賎ヶ岳の戦いは起きそうにないな)
と思うのだった。
翌朝、重臣たちの朝議を終えると長康は帰蝶に呼ばれた。その帰蝶の側には昨夜長康に愛でられて顔が艶々の園子がいる。園子の同僚の侍女たちも。
「武蔵守、己が女だけひいきをする姿勢はいかがなものかと思う」
「はあ」
「園子が着物の下に身に付けている物は何じゃ」
「胸当てと下着のことにございますか」
「そうじゃ、それとこの…」
小さな長方形の厚い布地を帰蝶は出した。
「月当てにございます。当家ではそう呼んでおります」
「話を聞こうか」
「胸当ては私の助平心が生みだしたものです。私の妻、能と紗代は美しい乳房をしております。しかし加齢と共にその形は崩れるもの。現状、乳首は左右同じ位置にあるものの、いずれはずれてしまう。身勝手ながら夫として、それを阻止したかった。ずっと美しい乳房を愛でたいと思い、ならば美しい乳房の形のまま保つ物があればいいのではないか、と考えてあり合わせの布地で作ったのが始まりです。私は裁縫の心得もございますので」
サポートカード【SSR◆4佐保姫】を使って作ったのだから令和日本でもおしゃれなブラジャーとして売られていても不思議ではないものだ。佐保姫は裁縫を司る女神である。
基本的にこの時代の女性はノーブラかサラシのようなものを乳房に巻いているのが一般的だ。かつて能と紗代と東海道を旅していた道中、夜は二人を愛でたものだが、形の良い能と紗代の乳房が加齢によって形が崩れるのは断固阻止したくなった長康、当時作太郎は作ってしまった。令和日本のオーパーツは作らないでおこうと決めていたが、やはり、どんなに男が偉くとも女の乳房には敵わないという古の賢人の言葉は正しかったということか。能と紗代は大喜びで今は製法を長康から教わり自分で作っている。下着と月当てもだ。
「今は塩見家の女たちに作り方を教えて各自で作っております。一つ一つ手作りなので現状、産業にすることは視野に入れておりません」
「ふむ、我らにも伝授せよ、これ千代」
「はっ」
山内一豊の妻千代だ。長康の側室千代と同名だが別人である。裁縫を得手とする。
「武蔵守様、どうか私に伝授を。そして山内家の女たちにも胸当てを作るお許しを」
「ああ、かまいませんよ」(おおっ、良妻の鑑と言われるだけあって美人だな…)
「武蔵守、下着の方を聞かせよ」
「はい、それは月当てとも関連します。私がまだ牢人で妻二人と旅をしていた時です。各々に月のものが訪れて経血が垂れて着物も汚れます。言うに心苦しいことなれど異臭もいたします。だから私は考えました。事前に性器へ厚い布を当てておけば良いのではないかと。しかし都合よく、その厚地がペタと性器にくっつくものではないので、下着の発想にも至りました。それを履いて腰紐を結んで下着を固定、厚地を性器に当てておけば良いのだと。また月のものでないにせよ、女性器は繊細なものゆえ着物の下に何も履かぬより下着で覆った方が医者の観点からしても良いと考えました。当初は月当てのついでに考案したものですが、どうせなら可愛らしく、美しいものにした方がよいと考え、私が作りました下着と胸当てを園子に渡した次第です」
月当ては木綿に綿を挟んだ単純なもので使い捨てだ。誰でも発想できるものかもしれない。園子も長康に作り方を教えられて以来、自分で作っている。
当時女性の生理は血の穢れと言われていた。月経小屋なんてものが存在し、生理中は隔離されて暮らしていたという話もある。生理の話をすること自体が禁忌とも言えた時代、それを男である長康が妻の体を思い、これを作ったという事実が帰蝶には衝撃だった。
「武蔵守」
「はい」
「おぬしはまことの女好きじゃな」
「ありがたき幸せにございます」
「胸当てと下着、それと月当てか。確かに現状では産業化は難しそうであるが、私から上様に進言はしておく。いずれは実現させたいものじゃ。これに救われる女子は多いと思うからのう」
「はっ!」
「さらに」
「はい」
「園子の顔の肌がこれほど艶々な理由は何か」
「それは昨夜園子が何度も絶頂に達して…」
「ちょっと武蔵様!」
園子の顔が真っ赤になり両手で顔を覆ってしまった。サポートカード【光源氏】をセットして女を抱くと相手の女は極上の快楽と至福の癒しを得られる。ちなみに【嫪アイ】のサポートカードは夏江専用なので使わない。
「性豪と聞くが、それだけではなかろう?」
「ああ、もしかして、これですか?」
収納法術から栓がされている徳利を出した。
「それは酒?」
「いえ、容器として使っているだけです。中身は『化粧水』です」
ヒポクラテスと薬祖神は生薬に特化したサポートカードであるが、何も病に対応するだけの薬だけではなく、ゲーム内でレシピを手に入れれば、こうした化粧水も生薬出来る。前世ゲームプレイ中にレシピは入手済みであった。
この二枚のサポートカードはいずれもSSR◆4に達しているため出来上がる化粧水の完成度は高く、令和日本でも超高級品として販売されてもおかしくない逸品である。
「私は薬師でもあるので、肌の水分と保湿成分を補給する水を生薬しました。これは材料が結構貴重なものが多くて、申し訳ないですが私の妻たちと現地妻にしか渡しておりませんので…」
帰蝶および園子の同僚侍女たちが、園子の顔をジーと見ている。顔をそむけて、わざとらしい咳をする園子。何の手入れもしていない肌と違いが一目瞭然だった。
「さらに」
まだあるのか、長康はげんなりしていた。
「園子の髪がずいぶんと美しいが」
「ああ、それは単純にござります。行為の前に私が洗浄の法術を彼女に施したからにございます。私は綺麗好きなので、相手の女子には草津の湯に入泉したばかりのような綺麗な体と髪になってもらうのですよ」
「ほう」
帰蝶が園子を見つめる。目が据わっている。微笑んでいるが目は笑っていない。園子は帰蝶と顔を合わせられず横を向いて冷や汗をかいている。
「やはり最初の言葉に行きつくの。己が女にだけひいきをするのは言語道断じゃ」
「まったくです!」
頬を膨らませて怒る女がいた。彼女は信長の側室、お艶の方だ。信長より年下の叔母であり、史実では岩村城主の遠山氏に嫁ぐも、夫は亡くなり、その後武田氏の秋山信友に岩村城を落とされ信友の妻になった。信長は激怒して岩村を落としたあと信友とお艶を逆さ磔にして殺したのだが…こちらの世界では側室となって寵愛されている。これも『異日本戦国転生記』にある後世の『こうなったらいいなぁ』が反映された設定なのだろう。
ちなみに言うと、長康が熱田神宮で信長の不能を治した翌日に信長が長康に言った『正室と側室二人、足腰が立たなくなるまでしてやったわ』と言うのは、帰蝶、吉乃、お艶のことだ。この三人からも夫の不能を治してくれたことを感謝されていた長康。
しかし、今は自分の女しか特別扱いをしない長康に怒り心頭のようだ。お艶に限らず女は美しさに執着するものだ。一人だけ特別扱いなど許しがたいだろう。
「化粧水は仕方あるまい。ただ今後は園子だけではなく、私やお艶様にも寄越すよう。して、その洗浄の法術とやら、私たちにも施せるか?」
「ええ、人数は御台様を含め七人、この人数なら一斉に施せます」
「頼む」
「分かりました。法術『洗浄』」
長康の法力が帰蝶とお艶、園子、千代、そして侍女たちを包む。施し終えると
「すっ、すごいです。髪がこんな艶々に!」
一斉に歓声を上げた。
「指で掬っても全く支えない、こんなサラサラな髪に!」
惚れ惚れとして自分の髪に触れるお艶。
「体がすごくきれいに…。髪もいい匂い…」
千代は大喜びだ。帰蝶も満足げに髪に触れて
「武蔵守、その法術を使うことで、おぬしの体に何か負荷はあるのか」
「いえ、汗一つかきません」
「ならば、織田に仕える女たちに定期的に施してやるとよい。夫たちの閥も関係なく、織田の女たちは武蔵守に味方することになろう」
「そういたします。そのお言葉、十万の援軍を得た思いにございます」
長康がそう答えると帰蝶たちも含め女たちは笑った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
毛利家とは播磨と但馬を国境にして隣接している。史実通り、元就は子供と孫に東を望むな。天下を目指すな、そう言い残した。大内と尼子との戦いで疲れ切ってしまったか、尼子経久が元就の欲した石見銀山を完全に破壊したことが堪えたのかもしれない。毛利元就は死んだ。史実なら、とうに亡くなっているが、ここは『戦国武将、夢の共演』の世界。祖父と孫の年齢差の尼子経久と毛利元就が同一時代の武将として戦い続けた。
しかし勝利した元就もダメージが大きかった。尼子に勝利すれば得られたはずの石見銀山がまったく開鉱の目処が立たない。経久が元就に奪われるくらいならと闘気最大の気弾を撃ち込み、かつ念入りに大量の火薬まで使って破壊しつくした。
嫡男の隆元は健在、史実のようにネガティブ思考ではなく弟たちの才幹に僻むこともない優れた武将だ。次男吉川元春、三男小早川隆景、長康側室の夏江が『毛利三兄弟のように!』と子育ての目標を立てるくらい織田領にも、この三兄弟の英邁さは知られていた。治の隆元、武の元春、智の隆景と。
「東を望むな、そう父上は言っていたが儂も同意見だ。毛利は天下を狙わぬ」
「「はっ」」
「ただ…」
吉田郡山城、毛利隆元は城主の間にある地球儀に触れて回した。馬関海峡を通る南蛮商人から贈られたもの。日本のあまりの小ささに驚いたものだった。世界の大陸から見て、まるでイモのヘタではないかと。
「このまま、こんな小さい国がいつまでもまとまらなければ大陸や南蛮の邪教どもに付け入られ、日ノ本は窮地に陥るかもしれぬ。中央の覇者、織田信長には会わずばなるまい」
「兄上…」
「考えすぎと思うか元春、実際にイスパニアとやらは海を越えて、この国に邪教を広めに参った。そういう地力がある国と言うこと。日ノ本には、そんな力はない。応仁の乱以降、ずっと戦いが終わらぬからだ」
「あてにしていた石見銀山も経久の最後っ屁で使い物になりませぬ。織田と戦うにしても軍備が足りぬが現状、毛利は信長と共存の道を進んだ方がよいでしょう。あちらも武田徳川連合軍との戦で明智日向を始め宿老級の武将が多く討たれました。毛利とことを構えることはいたしますまい」
末弟、小早川隆景の言葉に長兄隆元、次兄元春は頷いた。
一方、上杉家。こちらでも上杉謙信が世を去った。脳卒中による死だった。
史実と同じく後継者を定めずに亡くなったため、御館の乱が発生した。だが結果は史実と異なり上杉景虎が勝利、北条家の援軍が春日山に来襲、孤立無援となった上杉景勝は将兵の助命を条件に切腹して果てた。樋口兼続はその前に景虎に斬られていた。
春日山城の最上階に上がり越後の海を見つめる景虎。城主の間には援軍の将である鉢形城城主の北条氏邦がいる。
「兄上、援軍感謝する」
「いや何の、北条が上杉を労せず乗っ取る策の最後の詰め、おぬしが謙信の養子になったころより決まっていたことじゃ」
「改めて義父の智謀知略には驚かされます」
景虎の義父とは早雲に代わり北条家の長老となった北条幻庵のことだ。温和な好々爺であるが、上杉乗っ取りという遠大な作戦を見事に達成させた老獪な武将だ。彼の娘が景虎の正室であったが
「雪殿も大儀であったな。お父上も褒めてくれよう」
「もったいなき仰せに」
北条幻庵の娘、雪姫、建前上は謙信の養子になるさいに離縁しているが実際はしていない。それどころか、くノ一として越後に来ている。北条幻庵は風魔忍軍を統括する立場にあり、雪は幼いころから風魔忍術を叩きこまれ、現在は風魔くノ一の頂点に君臨するほどの凄腕のくノ一。
雪もまた闘気と法力を駆使して戦う。そして『異日本戦国転生記』にも登場するヒロインだ。雪という名前、そしてくノ一になったのはゲームの設定であるが、とにかく強いうえ景虎のためなら命もいらぬというヒロインだ。
史実の雪姫は景虎と結婚はしたものの、結婚生活はわずか一年ほど。景虎は相模小机城の城主であったが上杉家に養子に出される際に雪姫と離縁、その後は景虎の弟氏光に嫁ぐ。
しかし御館の乱で景虎が亡くなったことを知るや、夫の氏光が存命中にも関わらずに髪を下して尼になった。
ここからは推測の話になるが、景虎の死より三年後、小机城領内にある神鳥前川神社が火災で焼失した。そのおり資金を出して再建させ、かつ二年の税を免除する書が宮司に発給された。その書の発給者の名は『上杉景虎』と記されている。景虎の死から三年後の日付のため、ありえない話だが、もしかしたら元小机城主だった景虎の妻、雪が行ったことではなかろうか。
『異日本戦国転生記』では、この歴史のミステリーが雪の設定に反映されており、見事なまでに景虎への恋慕の情が強すぎるヒロインとなっている。
「さて、これからどうするのだ。まずは越後を中心とした上杉領の統一かとは思うが」
氏邦が景虎に訊ねた。
「仰せの通り、まずは領地内の統一でござるな。景勝に着いた者も儂に忠義を誓い、かつ使える者なら登用し、そうでない者は討つ。統一後は北条と共に武田を討ち、その後は状況によって方針を考えればよろしいかと」
「そうじゃな、信玄も臥所を出られない状況と聞くし、まずは武田を討つべきであるな。その後のことは、それから考えても遅くはないの。で…景虎」
「はっ」
「手取川で見たのか、我らの妹、紗代を側室にしている男を。信玄と謙信にも一歩も引かなかったと聞くが」
「会うてはおりませぬ。しかし…絶望的な背水の陣に陥った柴田軍が一瞬で士気を取り戻し、迅速に魚鱗の陣を構築していった様を見た時は、ただ驚きました。あんな芸当は亡き養父謙信にも出来ますまい」
「そりゃ厄介じゃな…」
「はい、いずれ織田と戦うとしても…その前にあの男、塩見武蔵守を殺しておく必要がございますな」
当主を失った明智家は、そのまま塩見家の家臣となった。嫡男の明智十五郎光慶が家督を継いだが、まだ若く筆頭家老となった明智左馬之助秀満が補佐に就く。史実と異なり、この当時の光秀の城、坂本、亀山、福知山の城より長康の城小浜の方が規模は大きく、これまでと変わらずに塩見の本城は小浜のままである。丹波は二十六万石、坂本を中心とした南近江十万石が加わり若狭の八万五千石を入れると四十四万五千石の大大名となった。
光秀の妻熙子の命を助けた長康は残る明智家臣たちにも快く受け入れられ、旧主日向と変わらぬ忠誠を誓う。彼らの中には武田徳川連合軍に敗れて深手を負ったところを長康に助けられた者も多く、彼らは長康が武田徳川連合軍の迎撃の総大将になった時に兵として参戦している。けして明智左馬之助と滝川一益だけが活躍した戦ではないのだ。
その経緯と光秀の遺徳もあり、丹波の国人たちも塩見の旗『理世安民』に参じることになった。
熙子は光秀の死後、落飾して尼になった。名は夫明智光秀の名前から『明』と『秀』を取り『明秀尼』と名乗り、明智家の主家となった塩見家の正室能に仕えることに。四十四万石越えの大名の正室ともなれば、見識確かな尼僧が仕えるもの。熙子がその役割を担うことになった。
織田の領内の立て直しも急務だった。なにせ武田徳川連合軍に宿老級の武将が多数討たれたのだから。長康は自国のことは家臣たちに任せて安土に赴き、柴田勝家と羽柴秀吉らと共に織田の国力回復に尽力するのであった。そこで活躍をしたサポートカードがこの『異日本戦国転生記』の世界に長康が転生して最初に戦った『見沼竜神』だった。このカードの特殊能力は『豊穣』であり、主人公が関わった新田開発では凶作が発生せず必ず豊作になるというもの。SSR◆4にもなると毎年『大豊作』となるが現在SSR◆1なので、それに至らないものの現実の世界に使うとなれば、このくらいでちょうどいいのかもしれない。いくら何でも毎度大豊作は不自然であるし、凶作に至らないだけで飢える者は減るのだから。
城内で久しぶりに信長正室の帰蝶と会ったので話すことに。彼女は長康がねねの不妊を治したと聞いても、その治療は望まなかった。吉乃が生んだ信忠がすでに世継ぎと信長が定めていたため、今更正室の子が生まれたら混乱すると考えたのだ。
しかし、それよりも
「武蔵守、本日はうなぎを仕入れるよう台所奉行に伝えてあるゆえ腕を振るってほしい」
「承知いたしました」
帰蝶の侍女たちが目を輝かせた。長康のうな丼は安土城内の女たちの胃袋も鷲掴みしている。ちなみに安土にも長康の現地妻がいる。園子という娘で、たったいま長康の前で『うな丼が食べられる』と目を輝かせている。
父の道三、兄の義龍から『うな丼という、この世のものとは思えぬ美味を料理する若者作太郎』の名は伝え聞いていた帰蝶、織田家の家臣となって長康が最初に安土に訪れた時に『おぬしが安土に来ると言うのでうなぎを仕入れておいた。父の道三、兄の義龍を魅了したうな丼とやらを食べさせてほしい』と言い、望み通りにすると帰蝶と彼女に仕える侍女たちは『こんなに美味しいものは食べたことが無い』と泣き出す有様。
そして侍女の中に熙子と同じく疱瘡による痘痕が顔にある若い娘がいたので、長康は治して痘痕が消えた。娘は泣いて喜んだ。名前は園子、痘痕により婚姻の話は皆無だった。
帰蝶はうな丼の美味もあったが、可愛がっていた侍女の顔を治してくれたことを喜び、その日城内に泊まる長康に女の世話を、と考えていたところ、園子自ら名乗り出て、現在に至るまで彼女が長康の安土現地妻でいる。子供も一人生んでいる。娘だ。長康の種は強いらしい。
うなぎを調理している長康の姿も安土城の女たちには人気だ。何ともいなせな大将の姿に見惚れてしまう。
美味しそうな香りにつられて信長を始め、秀吉と勝家もやってきた。
「帰蝶、ずるいではないか。女たちだけで武蔵のうな丼を食べようとは」
「あら、ちゃんと殿や重臣たちの分のうなぎも仕入れていますよ。武蔵守、かまわぬか」
「はい、上様の分は無論、筑前殿、修理亮様のも作りますよ」
「ありがたい、いや、これはねねに叱られてしまうのう。ずるいっ!と」
「ははは、筑前、そりゃ儂のところのお市と娘たちも同じよ。拗ねて口を利いてくれなくなるかもしれんて。ふははは!」
史実と異なり、羽柴秀吉と柴田勝家は不仲ではない。手取川の戦い前にこじれたものの、今は和解している。もっとも史実でも信長の逆鱗に触れた前田利家の織田家帰参のため二人は協力したという逸話があるため最初から不仲と言うことでもなかった。笑いあう秀吉と勝家を調理場から見つめる長康は
(少なくとも賎ヶ岳の戦いは起きそうにないな)
と思うのだった。
翌朝、重臣たちの朝議を終えると長康は帰蝶に呼ばれた。その帰蝶の側には昨夜長康に愛でられて顔が艶々の園子がいる。園子の同僚の侍女たちも。
「武蔵守、己が女だけひいきをする姿勢はいかがなものかと思う」
「はあ」
「園子が着物の下に身に付けている物は何じゃ」
「胸当てと下着のことにございますか」
「そうじゃ、それとこの…」
小さな長方形の厚い布地を帰蝶は出した。
「月当てにございます。当家ではそう呼んでおります」
「話を聞こうか」
「胸当ては私の助平心が生みだしたものです。私の妻、能と紗代は美しい乳房をしております。しかし加齢と共にその形は崩れるもの。現状、乳首は左右同じ位置にあるものの、いずれはずれてしまう。身勝手ながら夫として、それを阻止したかった。ずっと美しい乳房を愛でたいと思い、ならば美しい乳房の形のまま保つ物があればいいのではないか、と考えてあり合わせの布地で作ったのが始まりです。私は裁縫の心得もございますので」
サポートカード【SSR◆4佐保姫】を使って作ったのだから令和日本でもおしゃれなブラジャーとして売られていても不思議ではないものだ。佐保姫は裁縫を司る女神である。
基本的にこの時代の女性はノーブラかサラシのようなものを乳房に巻いているのが一般的だ。かつて能と紗代と東海道を旅していた道中、夜は二人を愛でたものだが、形の良い能と紗代の乳房が加齢によって形が崩れるのは断固阻止したくなった長康、当時作太郎は作ってしまった。令和日本のオーパーツは作らないでおこうと決めていたが、やはり、どんなに男が偉くとも女の乳房には敵わないという古の賢人の言葉は正しかったということか。能と紗代は大喜びで今は製法を長康から教わり自分で作っている。下着と月当てもだ。
「今は塩見家の女たちに作り方を教えて各自で作っております。一つ一つ手作りなので現状、産業にすることは視野に入れておりません」
「ふむ、我らにも伝授せよ、これ千代」
「はっ」
山内一豊の妻千代だ。長康の側室千代と同名だが別人である。裁縫を得手とする。
「武蔵守様、どうか私に伝授を。そして山内家の女たちにも胸当てを作るお許しを」
「ああ、かまいませんよ」(おおっ、良妻の鑑と言われるだけあって美人だな…)
「武蔵守、下着の方を聞かせよ」
「はい、それは月当てとも関連します。私がまだ牢人で妻二人と旅をしていた時です。各々に月のものが訪れて経血が垂れて着物も汚れます。言うに心苦しいことなれど異臭もいたします。だから私は考えました。事前に性器へ厚い布を当てておけば良いのではないかと。しかし都合よく、その厚地がペタと性器にくっつくものではないので、下着の発想にも至りました。それを履いて腰紐を結んで下着を固定、厚地を性器に当てておけば良いのだと。また月のものでないにせよ、女性器は繊細なものゆえ着物の下に何も履かぬより下着で覆った方が医者の観点からしても良いと考えました。当初は月当てのついでに考案したものですが、どうせなら可愛らしく、美しいものにした方がよいと考え、私が作りました下着と胸当てを園子に渡した次第です」
月当ては木綿に綿を挟んだ単純なもので使い捨てだ。誰でも発想できるものかもしれない。園子も長康に作り方を教えられて以来、自分で作っている。
当時女性の生理は血の穢れと言われていた。月経小屋なんてものが存在し、生理中は隔離されて暮らしていたという話もある。生理の話をすること自体が禁忌とも言えた時代、それを男である長康が妻の体を思い、これを作ったという事実が帰蝶には衝撃だった。
「武蔵守」
「はい」
「おぬしはまことの女好きじゃな」
「ありがたき幸せにございます」
「胸当てと下着、それと月当てか。確かに現状では産業化は難しそうであるが、私から上様に進言はしておく。いずれは実現させたいものじゃ。これに救われる女子は多いと思うからのう」
「はっ!」
「さらに」
「はい」
「園子の顔の肌がこれほど艶々な理由は何か」
「それは昨夜園子が何度も絶頂に達して…」
「ちょっと武蔵様!」
園子の顔が真っ赤になり両手で顔を覆ってしまった。サポートカード【光源氏】をセットして女を抱くと相手の女は極上の快楽と至福の癒しを得られる。ちなみに【嫪アイ】のサポートカードは夏江専用なので使わない。
「性豪と聞くが、それだけではなかろう?」
「ああ、もしかして、これですか?」
収納法術から栓がされている徳利を出した。
「それは酒?」
「いえ、容器として使っているだけです。中身は『化粧水』です」
ヒポクラテスと薬祖神は生薬に特化したサポートカードであるが、何も病に対応するだけの薬だけではなく、ゲーム内でレシピを手に入れれば、こうした化粧水も生薬出来る。前世ゲームプレイ中にレシピは入手済みであった。
この二枚のサポートカードはいずれもSSR◆4に達しているため出来上がる化粧水の完成度は高く、令和日本でも超高級品として販売されてもおかしくない逸品である。
「私は薬師でもあるので、肌の水分と保湿成分を補給する水を生薬しました。これは材料が結構貴重なものが多くて、申し訳ないですが私の妻たちと現地妻にしか渡しておりませんので…」
帰蝶および園子の同僚侍女たちが、園子の顔をジーと見ている。顔をそむけて、わざとらしい咳をする園子。何の手入れもしていない肌と違いが一目瞭然だった。
「さらに」
まだあるのか、長康はげんなりしていた。
「園子の髪がずいぶんと美しいが」
「ああ、それは単純にござります。行為の前に私が洗浄の法術を彼女に施したからにございます。私は綺麗好きなので、相手の女子には草津の湯に入泉したばかりのような綺麗な体と髪になってもらうのですよ」
「ほう」
帰蝶が園子を見つめる。目が据わっている。微笑んでいるが目は笑っていない。園子は帰蝶と顔を合わせられず横を向いて冷や汗をかいている。
「やはり最初の言葉に行きつくの。己が女にだけひいきをするのは言語道断じゃ」
「まったくです!」
頬を膨らませて怒る女がいた。彼女は信長の側室、お艶の方だ。信長より年下の叔母であり、史実では岩村城主の遠山氏に嫁ぐも、夫は亡くなり、その後武田氏の秋山信友に岩村城を落とされ信友の妻になった。信長は激怒して岩村を落としたあと信友とお艶を逆さ磔にして殺したのだが…こちらの世界では側室となって寵愛されている。これも『異日本戦国転生記』にある後世の『こうなったらいいなぁ』が反映された設定なのだろう。
ちなみに言うと、長康が熱田神宮で信長の不能を治した翌日に信長が長康に言った『正室と側室二人、足腰が立たなくなるまでしてやったわ』と言うのは、帰蝶、吉乃、お艶のことだ。この三人からも夫の不能を治してくれたことを感謝されていた長康。
しかし、今は自分の女しか特別扱いをしない長康に怒り心頭のようだ。お艶に限らず女は美しさに執着するものだ。一人だけ特別扱いなど許しがたいだろう。
「化粧水は仕方あるまい。ただ今後は園子だけではなく、私やお艶様にも寄越すよう。して、その洗浄の法術とやら、私たちにも施せるか?」
「ええ、人数は御台様を含め七人、この人数なら一斉に施せます」
「頼む」
「分かりました。法術『洗浄』」
長康の法力が帰蝶とお艶、園子、千代、そして侍女たちを包む。施し終えると
「すっ、すごいです。髪がこんな艶々に!」
一斉に歓声を上げた。
「指で掬っても全く支えない、こんなサラサラな髪に!」
惚れ惚れとして自分の髪に触れるお艶。
「体がすごくきれいに…。髪もいい匂い…」
千代は大喜びだ。帰蝶も満足げに髪に触れて
「武蔵守、その法術を使うことで、おぬしの体に何か負荷はあるのか」
「いえ、汗一つかきません」
「ならば、織田に仕える女たちに定期的に施してやるとよい。夫たちの閥も関係なく、織田の女たちは武蔵守に味方することになろう」
「そういたします。そのお言葉、十万の援軍を得た思いにございます」
長康がそう答えると帰蝶たちも含め女たちは笑った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
毛利家とは播磨と但馬を国境にして隣接している。史実通り、元就は子供と孫に東を望むな。天下を目指すな、そう言い残した。大内と尼子との戦いで疲れ切ってしまったか、尼子経久が元就の欲した石見銀山を完全に破壊したことが堪えたのかもしれない。毛利元就は死んだ。史実なら、とうに亡くなっているが、ここは『戦国武将、夢の共演』の世界。祖父と孫の年齢差の尼子経久と毛利元就が同一時代の武将として戦い続けた。
しかし勝利した元就もダメージが大きかった。尼子に勝利すれば得られたはずの石見銀山がまったく開鉱の目処が立たない。経久が元就に奪われるくらいならと闘気最大の気弾を撃ち込み、かつ念入りに大量の火薬まで使って破壊しつくした。
嫡男の隆元は健在、史実のようにネガティブ思考ではなく弟たちの才幹に僻むこともない優れた武将だ。次男吉川元春、三男小早川隆景、長康側室の夏江が『毛利三兄弟のように!』と子育ての目標を立てるくらい織田領にも、この三兄弟の英邁さは知られていた。治の隆元、武の元春、智の隆景と。
「東を望むな、そう父上は言っていたが儂も同意見だ。毛利は天下を狙わぬ」
「「はっ」」
「ただ…」
吉田郡山城、毛利隆元は城主の間にある地球儀に触れて回した。馬関海峡を通る南蛮商人から贈られたもの。日本のあまりの小ささに驚いたものだった。世界の大陸から見て、まるでイモのヘタではないかと。
「このまま、こんな小さい国がいつまでもまとまらなければ大陸や南蛮の邪教どもに付け入られ、日ノ本は窮地に陥るかもしれぬ。中央の覇者、織田信長には会わずばなるまい」
「兄上…」
「考えすぎと思うか元春、実際にイスパニアとやらは海を越えて、この国に邪教を広めに参った。そういう地力がある国と言うこと。日ノ本には、そんな力はない。応仁の乱以降、ずっと戦いが終わらぬからだ」
「あてにしていた石見銀山も経久の最後っ屁で使い物になりませぬ。織田と戦うにしても軍備が足りぬが現状、毛利は信長と共存の道を進んだ方がよいでしょう。あちらも武田徳川連合軍との戦で明智日向を始め宿老級の武将が多く討たれました。毛利とことを構えることはいたしますまい」
末弟、小早川隆景の言葉に長兄隆元、次兄元春は頷いた。
一方、上杉家。こちらでも上杉謙信が世を去った。脳卒中による死だった。
史実と同じく後継者を定めずに亡くなったため、御館の乱が発生した。だが結果は史実と異なり上杉景虎が勝利、北条家の援軍が春日山に来襲、孤立無援となった上杉景勝は将兵の助命を条件に切腹して果てた。樋口兼続はその前に景虎に斬られていた。
春日山城の最上階に上がり越後の海を見つめる景虎。城主の間には援軍の将である鉢形城城主の北条氏邦がいる。
「兄上、援軍感謝する」
「いや何の、北条が上杉を労せず乗っ取る策の最後の詰め、おぬしが謙信の養子になったころより決まっていたことじゃ」
「改めて義父の智謀知略には驚かされます」
景虎の義父とは早雲に代わり北条家の長老となった北条幻庵のことだ。温和な好々爺であるが、上杉乗っ取りという遠大な作戦を見事に達成させた老獪な武将だ。彼の娘が景虎の正室であったが
「雪殿も大儀であったな。お父上も褒めてくれよう」
「もったいなき仰せに」
北条幻庵の娘、雪姫、建前上は謙信の養子になるさいに離縁しているが実際はしていない。それどころか、くノ一として越後に来ている。北条幻庵は風魔忍軍を統括する立場にあり、雪は幼いころから風魔忍術を叩きこまれ、現在は風魔くノ一の頂点に君臨するほどの凄腕のくノ一。
雪もまた闘気と法力を駆使して戦う。そして『異日本戦国転生記』にも登場するヒロインだ。雪という名前、そしてくノ一になったのはゲームの設定であるが、とにかく強いうえ景虎のためなら命もいらぬというヒロインだ。
史実の雪姫は景虎と結婚はしたものの、結婚生活はわずか一年ほど。景虎は相模小机城の城主であったが上杉家に養子に出される際に雪姫と離縁、その後は景虎の弟氏光に嫁ぐ。
しかし御館の乱で景虎が亡くなったことを知るや、夫の氏光が存命中にも関わらずに髪を下して尼になった。
ここからは推測の話になるが、景虎の死より三年後、小机城領内にある神鳥前川神社が火災で焼失した。そのおり資金を出して再建させ、かつ二年の税を免除する書が宮司に発給された。その書の発給者の名は『上杉景虎』と記されている。景虎の死から三年後の日付のため、ありえない話だが、もしかしたら元小机城主だった景虎の妻、雪が行ったことではなかろうか。
『異日本戦国転生記』では、この歴史のミステリーが雪の設定に反映されており、見事なまでに景虎への恋慕の情が強すぎるヒロインとなっている。
「さて、これからどうするのだ。まずは越後を中心とした上杉領の統一かとは思うが」
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「仰せの通り、まずは領地内の統一でござるな。景勝に着いた者も儂に忠義を誓い、かつ使える者なら登用し、そうでない者は討つ。統一後は北条と共に武田を討ち、その後は状況によって方針を考えればよろしいかと」
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「はっ」
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「会うてはおりませぬ。しかし…絶望的な背水の陣に陥った柴田軍が一瞬で士気を取り戻し、迅速に魚鱗の陣を構築していった様を見た時は、ただ驚きました。あんな芸当は亡き養父謙信にも出来ますまい」
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