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指先でフェザータッチ

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──溶けちゃう

殆ど何も考えられなくなりつつある頭の奥でそう呟きながら、私はベッドに身体を投げ出していた。

さっき、お風呂の中でいいだけ私の身体を昂らせた江川は、第2ラウンドに突入するかと身構えた私を案外すぐに解放し、そのまま手を引いて浴室を出た。
ものすごい快楽を与えられた身体はふらふらとよろめいて、足取りも覚束ない。
裸を取り繕う余裕も失ってしまった私を、江川は介抱するように支え、あろうことか身体まで拭いてくれた。
何とか歩いてベッドまで辿り着き、どさりと倒れ込むと、まだ全身に濃厚に残っている欲情の残り火がちりちりと思考を灼いている。

──溶けちゃう…っ

もう一度心の中で繰り返し、私はベッドの端に腰かけてミネラルウォーターをごくりとひと口飲み込んだ男の横顔を、上目遣いで眺めてみた。

タオルを首から下げてテレビをつけた端正なそれは、会社でいつも目にする時の印象とは大きく違っていた。
きりっと整った江川の横顔は、普段『いかにも仕事ができそう』といった風に張りつめており、販促月間の時などにふと目にすれば決まって私を「負けるもんか」という気持ちにさせた。

それなのに。
いつもより緩められた眉と、険を宿さない瞳を見つめていると、余熱を残す身体がもう少し彼を味わいたいと欲張りなおねだりを始めそうになる。


「飲む?」

と、ふとこちらを見た江川がペットボトルを差し出してきた。
「ん」と応じた私がよろよろと手を伸ばすと、江川は面白そうに微笑する。

「ちょうだい、って言え」
「…………」
「純太、ちょうだい、って」
「…あんたねぇ」

悪戯っぽく笑うその顔に、抵抗する気力もない。もう何もかもどうでもよくなって、私は素直におうむ返しで「純太ちょーだい」と、敢えて感情を込めない声色で言った。

「負けず嫌い女ー」
「……」
「泣かすぞ」
「……あんたもしかしてドSでしょ」
「ドSほどでもねーよ。ただ女を悦ばせるのが楽しいだけ」

伸ばした手を無視した江川はまた自分の口にミネラルウォーターを含み、そのまま私に覆い被さってきた。
重ねられた唇から流し込まれた冷たい水は、心地よく喉を通ってゆく。

「ん……」
「もっかい口開けて」
「……」
「怜奈」

名前を呼ばれると、抗い難い甘い何かが胸の中に込み上げてきて、思わず私は命じられるままにうっすらと口を開けた。
江川はそこにまた冷たい液体を口移しで流し込んできたかと思うと、舌で私の舌を掬うように刺激する。

「んんっ……」

それだけでじわっと秘部が疼き、堪らず私は両足をもぞもぞと動かした。
私の口腔に水を移し終えた江川は、そのままゆっくりと唇を下に向かって滑らせながら、強い力で私の身体をうつ伏せにする。

「そのまま動かないで」

言いながら、江川はするりと私のバスローブを剥ぎ取り、ゆっくりと背中に舌を這わせ始めた。と、同時に長い指の先を、フェザータッチでさわさわと腰骨あたりに彷徨わせてくる。
私は思わず「ひゃあっ」と声を上げ、またびくびくと腰を震わせた。


「気持ちいい?」

ちょうど背中の真ん中あたりで囁かれ、ふわりとかかる吐息が快感を更に強く呼び寄せる。

「んっ…んっ…」

素直に答えられないまま、私は再び自分を飲み込もうと襲ってくる欲情の波を堪え、爪先に力を入れた。
江川は一向に動きを止めようとせず、ゆるゆると背中や腰に舌と指を這わせ続けている。

「…すっげー感じやすいのな」
「そんっ…なっ…こと…」
「だってめちゃくちゃビクビクしてる」
「はぁ…あ…やぁ…っ」
「俺さ、こうやってたっぷり焦らしてね、どろっどろになった女の顔が最高に可愛いと思うんだよ」
「ばか…っ」
「って言いながらさ、どんどんぬるぬるに濡らしてくんだろ?最高じゃん」

──こいつ。言葉攻めの帝王か!

楽しそうに発せられる卑猥な言葉に煽られながら触れられるうち、悔しいことに江川の言う通り、私の奥からはとろとろと恥ずかしい液体が溢れだしてくる。
触れるか触れないかの絶妙さで与えられる快楽は、まるで美味しいごちそうをほんの少しだけ与えられるような焦れったさで、私を飢餓状態に落とし込んでいった。
時間を追うごとに身体は江川から与えられるはずのもっと強い刺激を欲し、涎を垂らしそうなほど焦れに焦れて、知らず知らずのうちにまた腰が動き出す。

「はぁ…っ…はぁ…えが…わ…っ」
「はは。…すっげ。怜奈、今自分がどんなんか、鏡見てみ?顔、真っ赤にして欲しがって腰くねらせてさ、最高にエロい」
「やめて…っ!」
「あー、やめてとか言われると余計やりたくなっちゃうじゃん?」

軽やかに言うと、江川は軽々と私を抱き起こして、自分の足の間に後ろ向きに座らせた。

「ちょ…何す…っ!」

嫌な予感に抵抗しようと身を捩ると、しっかりと私を後ろから抱え込んだ江川は、私の顎を左手で掴んで、強制的に前を向かせる。

「…!」
「ほら、鏡」
「や、やだって言ったでしょ!?」
「言ったっけ?まぁいいや」
「良くない!」
「いいからいいから。ほら、自分がどんな風にされて感じてんのか、ちゃんと見てみな?」
「……!」

──絶対興奮するから。

耳の中にそんな言葉が落ちてきたと同時に、私はぎゅっと目を閉じた。
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