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後ろから

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何ということだろう。
自分を取り繕う余裕もなく、だらしない声をあげた私は、純太の唇と舌と指に、あっという間にイカされてしまった。
はぁはぁと息を継いでいると、また彼はゆるりと私の内腿に唇を押し付け、ねちねちとそこを吸い上げてくる。
達したばかりで敏感になった私の身体はそれだけで悲鳴を上げ、膝からがくがくと力が抜けてゆく。

「怜奈」
「はぁ…っ…んっ…おねが…っ…も…やめて…」
「無理でしょ。俺もびんびんだし」
「……っ」
「怜奈も欲しくないの?俺ので怜奈の中、ぐちゃぐちゃに掻き回してあげるよ?」

こいつ。怜奈なんて、私の下の名前、ちゃんと知ってたんだ。
いや、ていうかそんなことよりこの事態はどうしたことだろう。
まだ彼を受け入れてさえいないのに、乱されて揺さぶられて、抵抗することすらできずに、むしろ彼自身で穿たれることを、いつの間にかこんなにも渇望させられているなんて──
 
「…やめていいの?」

そう優しく問われ、私は快楽のあまり滲み出した涙の堪った目で彼を見つめながら、ふるふると力なく首を振る。
好き放題にされている情けなさと、今までとはまるで違う巨大な快楽を与えられる悦びで、頭がどうにかなりそうだった。
また「ふ」と笑った純太は湯船の中で立ち上がり、まだ腰かけたままの私の顔の前に、屹立したそれを晒け出す。

──で…でかっ。

思わず息を呑んだ私をニヤリと見下ろし、彼はそっと催促するように私の左耳を指で挟み込んだ。
基本的に私はそんなにご奉仕は好きではないのだが、目一杯昂らされた身体が欲情しているせいか、自分でも驚くくらいすんなりと、それを口に受け入れる。

「んっ…」

思った以上の質量に思わず呻くと、純太は私の耳に触れている指先を優しく動かし始めた。
いやらしく彼自身に舌を這わせている自分の口許のすぐそばをゆるゆると愛撫され、私の興奮は再びどんどん高まってゆく。

「…エロいなぁ、お前」
「…んんっ…」
「はは。やっぱもういいよ」

お世辞にも達者とは言えない私のご奉仕をすぐに遮ると、純太はおもむろに両手で私の両手を取り、引っ張り上げた。
力の抜けきった膝をがくがくと震わせながらも、これから始まるであろう行為に期待してしまっている自分を律するように、私は何とか立ち上がる。

「後ろ向いて」
「………」
「壁に手をついて」
「…ど…して…」
「後ろからぐちゃぐちゃにしてあげる」
「…!!」

耳元で囁くように卑猥な言葉を囁かれ、欲しがりになった身体がびくりと震えた。
言われた通りに後ろを向いて壁に両手をつくと、勢い前のめりになってしまった私の背中の上、逞しい純太の胸と腹筋が、べったりと覆い被さってくる。

「お前さぁ、Mだろ」
「……っん」
「あーあー、ほらちゃんと足に力入れて」
「やぁ…!ん…っ!」

後ろからすっぽりと抱かれながら、耳元では言葉攻めみたいに囁かれ、それだけで私の理性は音を立てて崩れそうになった。
たちまち力が抜けてへたり込みそうになる腰を ぐいっと持ち上げ、純太は更に追い討ちをかけてくる。

「…なぁ。まだここ、ぐちょぐちょじゃん」
「あ…ダメぇ…っ」
「エロい身体ー。なぁ、気持ちいい?」
「…はぁ…はぁ…あ…ぁあ…」
「なぁって」

なぁ、と言われても、後ろから私を抱きかかえながら足の間に伸ばされた手は、ひっきりなしに小さな双丘をぬるぬるとまさぐっていた。
彼の指の腹が、またすっかり固く大きくなってしまった肉芽をぬるりと撫でるたび、私の口からはとめどなく喘ぎが零れ落ちてしまう。
しまいには気持ち良さのあまり閉じることすらできなくなり、あられもなく涎まで垂らし始めた私の口に、純太は無遠慮に自分の右手の指を2本突っ込み、また耳元で楽しそうにクスクスと笑う。

「あ-…やっべー超可愛い…怜奈、後ろから俺にクリストリス弄り回されて涎まで垂らしてんの?」
「んん…!!んー…!!」
「これから下も塞いであげるね」

口腔を彼の長い指で掻き回されながら、執拗に下の突起も刺激され、とうとう私は崩れ落ちかけてしまった。
慌ててもう一度腰を抱え直した純太は「あーごめんごめんやりすぎた!」と悪びれる風でもなくそう言いざま、もうはち切れんばかりになっていた自身を私の入り口にゆっくりとあてがう。

「…入れるよ」
「…はやく…っ…はやく…!」

完全に力尽きてしまう前に、彼を飲み込みたくて気が狂いそうだった。
私の催促に、純太がごくりと喉を鳴らす気配がして、すぐにズンッと貫かれる感覚が凄まじい快楽を伴って全身を駆け抜ける。

「…っ怜奈…っ…すっげ締まってる…」
「あぁ、あ、あん、あ、あ」

大きな手で腰骨を掴まれ、強い律動で彼自身が私の中に穿たれるたび、快楽はいや増して脳の中をぐちゃぐちゃに引っ掻き回した。
私はもうただ声を上げるだけの人形のようになって、たらたらと零れる涎さえ気にする余裕もなく、彼から与えられる快楽に墜ちてゆく。
彼のモノの括れが自分の内壁を何度も何度もズルリと擦り上げるたび、きゅうっと収縮したそこからは水のような液体が吹き出した。
やがていっそう激しく腰を使いだした純太は微かに息を漏らし「イキそ」と呟く。

「………っあ…ぁ…!!」

殆ど同じタイミングで達してしまった私は、とうとう立っていることもできなくなり、そのまま落ちるようにして湯船の中に座り込んでしまった。
今度は腰を支えてくれなかった純太もまた「はー」と満足げな息をつきながら座り込んだらしく、自然、私は彼の足の間に後ろ向きで倒れ込むような形になる。

「めっっっちゃ気持ち良かったなぁ」

ちゅ、と音を立てて私の髪にキスした純太の声をぐったりと疲れきった身体で聞きながら、うっすら我に返り始めた私はじわじわと「どうしよう」と思っている。

まさか。
まさか江川とこんなことになるなんて。
しかも、ベッドでも自分勝手そう!なんてこき下ろしたその江川に、立てないくらいに感じさせられるなんて。
月曜から私は一体どんな顔でこいつと顔を合わせればいいの──?

「…何か面倒くせーこと考えてんだろ、お前」

不意に後ろから江川が言い、私は「うー」とだけ返した。
でも、気まずいのは江川だって同じはずだ。
だいたいにして、よくよく考えたらこいつ、彼女いるって聞いたことあるような──

「別に、独身の男がフラれたばっかの独身女をホテルに誘ったって何の問題もないだろ」
「は!?何であんたそんなこと知って…!!」
「解るよ。仕事でどんな嫌な目に遭おうが俺に負かされようが凹む素振りひとつ見せたことない女が、明らかに泣いた顔してたろ、一週間くらい前か。そんで大村さんに聞いたら、彼氏と別れたみたいって」
「ち、千春のやつ……」
「俺も、2ヶ月になるかな。まぁ正直寂しくなかったって言えば嘘になるかも」
「…え、江川も別れたの?」
「バーカ。女いたらお前のこと誘うかよ」

─へえ。ちゃんと彼女は大切にする男なんだ…

仕事ではいつも淡々としていて、どちらかと言えばクールなところばかり目にしてきたから、江川が彼女をどう扱うかなんて、今まで想像したこともなかった。
でも、こんな風に身体を重ねてしまったあとだと、少しだけ今までの彼女が羨ましく思えてしまう。
こんなにも巧みに身体を扱われ、その上大切に愛されるなんて。
「結局、怜奈は仕事以上には俺のこと愛せないんだよ」なんて反論の余地もなくフラれる私とは大違いだ。
いや、きっと江川の歴代の彼女たちは、私みたいに可愛げない女じゃなかったに違いない。
ちゃんと、愛されるに相応しい女たちだったのだろう。

「なぁ、聞いていい?」

江川が言うので、私は「ん~」と曖昧な返事をした。

「何で別れたの」
「…………」
「なぁ」
「…休日出勤」
「ん?」
「彼と観に行こうって言ってた映画、休日出勤で3週も続けて踏み倒しちゃったの。そしたら、公開終わっちゃって」
「あ-…」
「他にも色々積み重なってたたんだろうね。でも、それが決定打だったみたい。仕事の方が好きなんだろーってやつよ」

言い終わった刹那、後ろで江川が ぶはっと吹き出して笑った。
ちょっとなに笑ってんの!?失礼じゃない!?と身を捩ると、小突かれないように私の手首を素早く捕まえた江川が、至近距離に顔を近づけて更に続ける。

「見るからに藤咲らしい理由すぎて」
「ひっど!」
「どうせ素直に謝らなかったんだろ」
「…何でそんなこと解るのよ」
「わぁーかるよ。何年お前と仕事してきたと思ってんだ」
「…う…」
「今みたいに素直に欲しがってりゃ普通に可愛いのになぁ」

瞬間、また後ろから抱き締められ、まだ余熱を残したままの身体は勝手にびくりと反応してしまった。
江川は再び小さな笑いをこぼしながら私の耳を啄み「ていうかさ」と囁く。

「これで終わったと思ってるわけじゃないよね?」
「えっ……」
「まだベッドにも行ってない」
「はぁ!?」
「足りないし」
「ちょ…!待って!無理!もう無理!」
「大丈夫。2回目はもっと蕩かしてやるから」
「…んぁ…っ…ダメって…!」

大きな掌で柔らかく乳房を包み込まれた瞬間、私は全ての抵抗が無意味になるであろう未来を簡単に受け入れた。
だって、こうして少し触れられるだけで、身体からはへなへなと力が抜けてしまう。

「…怜奈」

耳の中に低く甘い声を放り込んだ江川は、またゆっくりと指先を私の肌に這わせ始めた。
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