63 / 66
番外編~その後~
気づいてほしい気持ち
しおりを挟む
だめだ。
なんだかモヤモヤして料理どころじゃない。
オズ様にとって私は、婚約者、よね?
「愛してる」って言ってくれたのは、まさか夢だったのかしら?
も、もしかして私、長い夢を見てた?
そもそもいつからいつまでが夢!?
そっと右の手で自身の唇に触れる。
あのキスも……もしかして私の夢、妄想だった?
あれから一度もそんな雰囲気にはなったことはないし、その可能性が高いような気がしてきた。
「はぁ‥…」
ジュゥ~~~~~……。
ため息をついた瞬間、どこからともなくざらついた音が耳に入ってくる。
ん? ジュゥ~~~~?
「!! しまった!! っ、熱っ!!」
すぐに火を止めてフライパンの蓋を取ると、閉じ込められていたアツアツの蒸気がもわりと解放される。
「あー……」
お肉、焼きすぎちゃった……。
フライパンの上には見事に黒く焦げた肉の塊。
と同時に、背後からもなにやら焦げ付いたようなにおい──。
「あぁぁあああっ!! き、キコの実のパンがぁ……」
窯の中で焼いていたパンがカチコチの黒焦げ状態に……。
「こ、今夜の食事がぁ……」
無事なのはサラダとコーンのスープだけ。
料理を失敗してしまうだなんて……。
私の唯一の取り柄なのに。
そもそもご飯を作るためにここでご厄介になっていたというのに。
「私の意味が……ないじゃない……」
ポタリ、ポタリ。
調理台の上に零れ落ちる雫。
「っ……ダメだ。メインをどうするか。ちゃんと考えないと。だって私は、そのためにいるんだから……!!」
私はごしごしと袖で涙をぬぐい取ると、戸棚にある食材に手をかけた。
***
「珍しいわね、リゾットだなんて」
「うんうん。リゾットとスープの組み合わせなんて斬新でいいと思うよ」
「は、はは……」
屋敷にあるものでとりあえず作ったのは、他国から取り寄せた穀物を煮て、ミルクとチーズ、調味料で味付けをしたチーズリゾット。
前世でよく作っていたのを思い出して作ったのだ。
そしてすでに作り終えていたコーンのスープとサラダ。
ドロドロ×ドロドロという奇跡のコラボレーション。
……はい、チョイスミスです。
「キコの実でパンを作ると言っていたんじゃなかったか?」
「それが……私がぼーっとしていたから焦がしてしまいまして……。お肉ともども……」
ごめんなさい、と頭を下げる私に、オズ様は「気にするな」と言ってリゾットを一口口に含んだ。
「今日は様子もおかしかったし、疲れていたんだろう? 気にすることはない。それに、チーズリゾットもとてもおいしい」
「オズ様……」
相変わらず作ったものに対してきちんとおいしいと伝えてくれるオズ様。
でも……。
疲れていたんじゃない。
気づいて。
心の中でもう一人の私が叫ぶ。
いつから私は、こんなにも欲張りになってしまったんだろう?
欲張りで、わがままで……。
知らない自分がどこか恐ろしく、汚らしく思えて、私は持っていたスプーンをそっと伏せた。
「すみませんオズ様。私、オズ様がおっしゃっているように疲れているのかもしれません。先に部屋に戻らせていただきますね。お皿は、寝る前にでも洗っておきますから、そのまま置いておいてください」
「お、おい、セシリア!?」
驚く声に振り替えることなく、私は足早に広間を後にした。
なんだかモヤモヤして料理どころじゃない。
オズ様にとって私は、婚約者、よね?
「愛してる」って言ってくれたのは、まさか夢だったのかしら?
も、もしかして私、長い夢を見てた?
そもそもいつからいつまでが夢!?
そっと右の手で自身の唇に触れる。
あのキスも……もしかして私の夢、妄想だった?
あれから一度もそんな雰囲気にはなったことはないし、その可能性が高いような気がしてきた。
「はぁ‥…」
ジュゥ~~~~~……。
ため息をついた瞬間、どこからともなくざらついた音が耳に入ってくる。
ん? ジュゥ~~~~?
「!! しまった!! っ、熱っ!!」
すぐに火を止めてフライパンの蓋を取ると、閉じ込められていたアツアツの蒸気がもわりと解放される。
「あー……」
お肉、焼きすぎちゃった……。
フライパンの上には見事に黒く焦げた肉の塊。
と同時に、背後からもなにやら焦げ付いたようなにおい──。
「あぁぁあああっ!! き、キコの実のパンがぁ……」
窯の中で焼いていたパンがカチコチの黒焦げ状態に……。
「こ、今夜の食事がぁ……」
無事なのはサラダとコーンのスープだけ。
料理を失敗してしまうだなんて……。
私の唯一の取り柄なのに。
そもそもご飯を作るためにここでご厄介になっていたというのに。
「私の意味が……ないじゃない……」
ポタリ、ポタリ。
調理台の上に零れ落ちる雫。
「っ……ダメだ。メインをどうするか。ちゃんと考えないと。だって私は、そのためにいるんだから……!!」
私はごしごしと袖で涙をぬぐい取ると、戸棚にある食材に手をかけた。
***
「珍しいわね、リゾットだなんて」
「うんうん。リゾットとスープの組み合わせなんて斬新でいいと思うよ」
「は、はは……」
屋敷にあるものでとりあえず作ったのは、他国から取り寄せた穀物を煮て、ミルクとチーズ、調味料で味付けをしたチーズリゾット。
前世でよく作っていたのを思い出して作ったのだ。
そしてすでに作り終えていたコーンのスープとサラダ。
ドロドロ×ドロドロという奇跡のコラボレーション。
……はい、チョイスミスです。
「キコの実でパンを作ると言っていたんじゃなかったか?」
「それが……私がぼーっとしていたから焦がしてしまいまして……。お肉ともども……」
ごめんなさい、と頭を下げる私に、オズ様は「気にするな」と言ってリゾットを一口口に含んだ。
「今日は様子もおかしかったし、疲れていたんだろう? 気にすることはない。それに、チーズリゾットもとてもおいしい」
「オズ様……」
相変わらず作ったものに対してきちんとおいしいと伝えてくれるオズ様。
でも……。
疲れていたんじゃない。
気づいて。
心の中でもう一人の私が叫ぶ。
いつから私は、こんなにも欲張りになってしまったんだろう?
欲張りで、わがままで……。
知らない自分がどこか恐ろしく、汚らしく思えて、私は持っていたスプーンをそっと伏せた。
「すみませんオズ様。私、オズ様がおっしゃっているように疲れているのかもしれません。先に部屋に戻らせていただきますね。お皿は、寝る前にでも洗っておきますから、そのまま置いておいてください」
「お、おい、セシリア!?」
驚く声に振り替えることなく、私は足早に広間を後にした。
103
お気に入りに追加
753
あなたにおすすめの小説
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。
彩世幻夜
恋愛
エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。
壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。
もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。
これはそんな平穏(……?)な日常の物語。
2021/02/27 完結
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
召喚から外れたら、もふもふになりました?
みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。
今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。
すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。
気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!?
他視点による話もあります。
❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。
メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋
【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜
よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」
ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。
どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。
国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。
そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。
国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。
本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。
しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。
だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。
と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。
目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。
しかし、実はそもそもの取引が……。
幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。
今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。
しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。
一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……?
※政策などに関してはご都合主義な部分があります。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる