上 下
36 / 66
第三章

王都の危機に

しおりを挟む
「オズ様。茶葉への光魔法の付与、しておきました」
「あぁ、ありがとう。助かる。……うん、良い色だ」

 私はオズ様が魔法を付与した魔法薬茶の茶葉に、さらに光魔法を付与するという大役を任され、最近は毎日光魔法を使っている。

 何でもお師匠様の話によると、使い方やコントロールをマスターしたら、あとは魔力を発散させることも大切になるのだそう。

 薬草は通常オズ様が乾燥させてこげ茶色になっているけれど、私が光魔法を施すと綺麗な金色に変化する。

 こうして作った光魔法入りの魔法薬茶は、薬草の効能も、オズ様の魔法の効果もパワーアップさせ、且つ、体力の回復もしてくれるのだ。

 多少の疲れは出るものの、毎日作り続けて一部屋が全部光魔法入りの茶葉置き場になるくらいにはストックができた。
 これでもしまた流行り病の時期が来ても安心だ。

「オズ様、私、オズ様の助手として、この町の人の役に立てているでしょうか?」

 1をしてあげても1が返ってくる。
 そんな優しい、支えあいをしてくれるこの町で、私はその1になれているのだろうか。
 そう時々不安になる。

 視線を伏せた私の頭上に、ふわりと大きなぬくもりが降ってきた。

「あぁ。よくやってくれてる。町の皆もセシリアが来てくれて助かっていると、喜んでいるしな。ありがとう、セシリア」
「お、オズ様っ……」

 最近オズ様は二人きりの時にはよく私の頭をこうして優しく撫でてくれる。

 とても幸せな気持ちになって、思わず魔力が溢れて花を咲かせてしまうこともしばしばあるのだから、感情が駄々洩れになっているようで少し恥ずかしい。
 私が恥ずかしさにオズ様から視線をそらした、その時だった。

「オズ―!! ってごめん取り込み中!? お、お邪魔だった!?」

 相変わらずノックもなしに入ってきては両手で顔を覆い、指の間からこちらを覗き見るのは毎度おなじみのドルト先生。

「貴様……ノックをしろと何度も……!!」
「ってそれどころじゃないんだよっ!! 大変なんだ!! 王都が……王都が、このままじゃ死の都になる!!」
「!?」
「死の──都──?」

 人と人が行き交い賑わいを見せるあの都が?
 一体、何で……。

「どういうことだ、説明しろ」
 オズ様も気になったようで、ドルト先生に迫るように尋ねる。

「実は、ここで流行っていた季節性の流行り病が、王都でもはやり始めたんだ。これは毎年のことだけれど、今年のこれは質が悪い。ここで流行ったのと同じように今年は広まりも早くて、免疫もほぼ効かない。王都はこの町の比じゃないほどに人口も多いし人の行き交いが盛んだから、余計に人から人へと移ってしまって大流行しているらしいんだ。王都の治療院に人が押しかけてパンク寸前だし、僕も手伝いに行かないといけない。オズ、良いかな?」

 治療院がパンク状態……。

 となれば普段から医師にかかっている人の診察すらできない状態になって、被害が別の部分でも出てくる。
 近隣の町から応援を、となるのは当然なのだろうけれど……。

「……そうだな。仕方あるまい」

 この町にはドルト先生しかお医者さんはいない。
 ドルト先生がいない間、かかりつけで通っている人たちは?
 信頼するお医者さんが長期にわたっていないということに不安を覚えるだろう。
 彼に代わりはない……!!

「──あのっ!!」
「セシリア?」
 気が付けば、私は声を上げていた。

「私が行きます」
「セシリアちゃんが!?」
「はい。私なら、光魔法でなんとかできると思うんです」

 この町の人達の怪我を治した時と同じように光魔法を使えば。
 ここのところ魔力が安定しているし、量も増えている気がする。
 今ならたくさんの魔力を使っても大丈夫だろう。

「だが王都で力を使えば、君のことが知られることに──」
「大丈夫です。私が行って、ちゃちゃっと終わらせた方が効率が良いですし、それに……この町には、ドルト先生が必要だから」
「っ……セシリアちゃん……」

「私が大好きなこの町の人達には、不安なく、元気でいてほしい。私、ちゃんと帰ってきますから。……オズ様さえ、よければ……」

 オズ様が帰ってくるなというのならば話は別だけれど、彼が帰ってきても良いと言ってくれるなら、私はここに帰ってきたい。
 ちらりとオズ様に視線を移すと、未だ眉間にしわを寄せたオズ様が「ぐっ」と唸った。

「君の居場所はここだ。が……一人で行っても帰ってくる保証はない。俺も行く」
「オズ様が?」

 も、もしかして一人では迷子になるとか思われてる!?
 子ども扱いされてるの私!?

「オーズ。言葉足らずは良くないよ。ちゃんと言ってあげないと。セシリアちゃんがあちらに取り込まれて帰ってこないんじゃないかと心配してるって」
「っドルト!!」

 へ?
 心配、してくれてるの?
 私を?
 遠慮がちにオズ様に視線を向けると、オズ様は頬を赤くして視線をそらし、口を開いた。

「聖女の力を見た良からぬ者に攫われる可能性もあるからな。……その……無事に君が帰ってこなければ困るし……。とにかく!! 俺も行く。ドルト、留守を頼んだぞ。セシリア、急いで支度をする。まる子とカンタロウに知らせてくれ」

「!! はいっ!!」

 私はオズ様の気持ちに暖かさを感じながら、はっきりと返事をした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

【完結】見た目がゴリラの美人令嬢は、女嫌い聖騎士団長と契約結婚できたので温かい家庭を築きます

三矢さくら
恋愛
【完結しました】鏡に映る、自分の目で見る姿は超絶美人のアリエラ・グリュンバウワーは侯爵令嬢。 だけど、他人の目にはなぜか「ゴリラ」に映るらしい。 原因は不明で、誰からも《本当の姿》は見てもらえない。外見に難がある子供として、優しい両親の配慮から領地に隔離されて育った。 煌びやかな王都や外の世界に憧れつつも、環境を受け入れていたアリエラ。 そんなアリエラに突然、縁談が舞い込む。 女嫌いで有名な聖騎士団長マルティン・ヴァイスに嫁を取らせたい国王が、アリエラの噂を聞き付けたのだ。 内密に対面したところ、マルティンはアリエラの《本当の姿》を見抜いて...。 《自分で見る自分と、他人の目に映る自分が違う侯爵令嬢が《本当の姿》を見てくれる聖騎士団長と巡り会い、やがて心を通わせあい、結ばれる、笑いあり涙ありバトルありのちょっと不思議な恋愛ファンタジー作品》 【物語構成】 *1・2話:プロローグ *2~19話:契約結婚編 *20~25話:新婚旅行編 *26~37話:魔王討伐編 *最終話:エピローグ

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜

よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」  ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。  どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。  国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。  そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。  国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。  本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。  しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。  だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。  と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。  目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。  しかし、実はそもそもの取引が……。  幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。  今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。  しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。  一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……? ※政策などに関してはご都合主義な部分があります。

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

処理中です...