来世に期待します~出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで~

景華

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第二章

Sideオズ

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 町の人間が賊に襲われた一件から、セシリアの力はより大きく、そして安定するようになったように思う。

 最大限まで魔力を使ったことで、魔力が鍛えられて上限が上がったんだろう。
 今では俺の魔法薬茶に光魔法を重ね掛けするという作業を一時間以上続けていても使い果てる様子はないほどだ。

 だが、あの後セシリアに聞いた話によると、男爵家は前々から賊が出ることを知っていて放置しているとのこと。
 セシリアの進言も無視され続けているというのだから、これは明らかなあちらの過失となる。
 フェブリール男爵家には抗議文を送っておいたが……さて、どう出るか……。

「オズ様」
 突然背後から声を掛けられ、意識を浮上させる。

「あぁミトか。どうだ、アルトの調子は」
「えぇ。まだ時々うなされて目が覚めることもありますけど、少しずつそれも少なくなってきてますよ。オズ様の魔法薬茶のおかげで、起きてしまうとはいえ睡眠自体はとれていますし、元気なもんです」
「そうか、それはよかった」

 賊にやられた被害者の中には、あの時のことを夢で見てはうなされて起きてしまう者、傷があった場所に痛みを感じてしまう者もいる。
 精神的なものによるのだろう。

 ミトの夫のアルトのような、重症だったものはなおさらだ。
 そんな彼らには、眠り草と陽々花を混ぜた薬茶に魔法を施して持って行っている。
 何にしても、少しずつ良くなっているならば何よりだ。

「早くセシリア様に新鮮な魚を釣って行ってやりたいって騒いでますよ」
「ふむ。それは彼女(いや、主にはまる子か……)も喜ぶだろうが無理をして身体に不調を抱えたままでは、あれも喜ばないからな」
「えぇ、もちろんですとも。あの人、セシリア様とオズ様の結婚を見届けるまでは死ねないって息巻いてますからね」

「けっ!?」

 けっ……こん……だと……!?
 待て、今……誰と誰のって言った!?

「セシリア様とオズ様のお子は、さぞかし可愛らしいんでしょうねぇ。お二人とも美男美女ですし」
「子!? ちょ、ちょっと待て!! そんな話は──っ!!」

「照れなくてもよろしいんですよっ!! オズ様が愛おしそうにセシリア様の頭を撫でるのを、私たちはちゃーんと見てましたからね!! 領民一同、二人のことを応援して見守ってるんですからっ!!」

「は!? お、おい、まっ──」
「ではオズ様、私はこれで失礼しますね。今度はセシリア様も一緒にいらしてくださいねー」
「なっ、み、ミト!? おい!!」

 ──行ってしまった……。

 なぜかこの町の人間は、俺とセシリアが婚約者同士だとか、はたまたすでに夫婦なのだとか、思いあっているのだとかいう認識をしている者が多い。
 誰もが俺の言い分を聞くことなく、言いたいことだけ言って去っていくのは何なんだ。

 確かに、よくセシリアの頭に触れてしまうのは認める。

 なぜだかはわからないが、時々無性に触れたくなるのだ。
 壊れないように注意を払いながらそっと撫でてやれば、セシリアは気持ちよさそうに目を細めて微笑む。
 その顔が見たいという欲求が自分の中に芽生えているのを必死に否定しながらも、彼女の頭に無意識に手を伸ばしてしまう自分がいる。

「……人前では控えよう」
 これ以上噂に信ぴょう性を持たせてしまってはセシリアに悪い。

 彼女は俺に来世へ送ってもらいたがっているが、正直、俺にその気はない。

 彼女が苦しい状況の中生きるのがつらいと感じていたあの頃ならば、俺は彼女を何の迷いもなく殺ることができたかもしれないが、今は違う。

 彼女は出会った頃より良く笑うようになった。
 町にも馴染んで、領民に親しまれ、そして慕われるようになった。

 彼女自身も少しずつ自分に自信をもって、自分の尊厳をしっかりと大切にできるようになったが……未だに俺に殺されたがっているのは何とかならないものか。
 ただ、ルーシアという友人ももって、毎日楽しそうにしている姿は、とてもこの世を捨てたいと思っているようには見えない。

 ずっと、この町で生きていってくれたらとも思う。
 彼女が、それを望むのであれば。

 だがそんな時、俺との噂に信ぴょう性が加わってしまえば、それは彼女のこれからの人生に支障をきたす恐れがある。
 彼女がいずれ好きな男ができた時、俺との噂はマイナスにしかならないのだから。

「……ちっ」
 セシリアが男と一緒にいる様子を想像して思わず舌打ちをしてしまった自身の行動に驚く。

 なんだかわからないが、妙に胸がむかむかする。
 風邪か?

 まぁいい。帰るか。
 今日はセシリアがチョコレートタルトを作って待っていると言っていた。

 さっきまでのむかむかが一瞬にして消えていく。
 その理由に気づかないまま、俺は家路を急いだ。


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