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第二章
孤児院訪問と元公爵令嬢
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「セシリアは孤児院は初めてか?」
「はい。王都の店へのおつかいで王立孤児院の前を通ることはありましたが、訪問は初めてです。ほとんどを家で過ごして、外に出るとしたら男爵領内の町へ食材の発注に行くくらいでしたし……。お姉様は何度か殿下と王立孤児院へ訪問されていましたけど」
朝から訪問用のドレスに着替えるように言われた私は、今、オズ様と一緒に町の最奥にある孤児院を目指して歩いていた。
王都の中にある大きな王立孤児院とは違って、子どもの数が八人、シスターの数が三人というこじんまりとした孤児院で、今日はそこの子供たちにお菓子を配る日なのだそうだ。
そういえばお姉様が殿下と孤児院に慰問に行く際、よく、孤児院の子供たちに配るからカップケーキを作るようにと言われて作ってたっけ。
もらった子どもたちは喜んでくれたのかしら。
それすら聞くことなくここまできてしまった。
市販のお菓子と、私が作ったカップケーキをバスケットに詰めて、人型に変身したまる子とカンタロウが一つずつ持って後ろを歩く。
彼らはこういう公の訪問の際はよく従者や侍女として振舞っているらしく、町の人が二匹を見ても特に誰だ誰だと不思議がられることはない。
「──あそこだ」
北にあるドルト先生の診療所よりも少し西に進んだところで、木の囲いにぐるっと囲まれた孤児院が見えてきた。
庭で子供たちが走り回って遊ぶ声がここまで聞こえてくる。
すると子供たちと一緒に遊んでいたシスターの一人が私たちの姿に気づいてこちらへ駆けてきた。
「公爵様、いらっしゃいませ。ようこそ、ジュリアン孤児院へ」
「あぁ。邪魔をする。こっちは俺の助手のセシリアだ。セシリア、こっちはこの孤児院の院長。ハーティス院長だ」
ハーティス院長と紹介された女性の視線が私に切り替わると、私はあわてて彼女にカーテシーをする。
「は、はじめまして、セシリアです」
カーテシーなんて久しぶりだしかなり動きがぎこちなくなってしまったわ。
「まぁ!! あなたが噂のセシリア様!! 町の皆が、可愛らしいお嬢様が公爵様のお嫁様になってくれたと──」
「嫁じゃない」
孤児院にまでこの噂が流れているとは……。
公爵領にしては小さな町だから、噂の広がりも早いのね。
「子供たちに菓子と、孤児院用に魔法薬茶を持ってきた。それと──セシリアがカップケーキを焼いてくれたから、院長やシスターたちも含めた全員で食べると良い」
「たくさん焼いてきましたから、良かったら……」
「まぁまぁまぁ!! ありがとうございます!! シスターも子供たちも皆喜びますわ!! さ、お入りくださいまし」
ハーティス院長に促されて孤児院へ入ると、木でできた大きな長テーブルに椅子が綺麗に等間隔で並んで設置されていた。
皆が庭へ遊びに出ているなか、その椅子にぽつんと一人座って頬杖をついている少女が目に移り、私は思わず視線を硬直させた。
青くてきれいな瞳は物憂げに伏せられ、時折その見事な金色の長い髪を手櫛でなでつける少女。
注目すべきはその姿勢だ。
ピンと伸びてどこか気品さえも感じられる。
「まぁルーシア、あなたまたこんなところで一人で……。たまにはお外に出て、皆と身体を動かして──」
「嫌よ。平民に混ざって泥だらけになるだなんて、はしたな──っ、公爵様……!! 失礼いたしました。お見苦しいところを……」
オズ様が視界に入るや否や、すぐさま立ち上がってよれた服を正し、綺麗なカーテシーを披露した。
ルーシアという名前……そしてこの身のこなし……まさか……。
「ルーシア・ブロディジィ公爵令嬢?」
思わず口から出てしまった名前に、ルーシアと呼ばれた少女の碧眼の瞳が大きく見開かれ、私をとらえた。
「っ……あなた……!! 出涸らし如きが、私の名前を軽々しく口にしないでしょうだい!!」
「これ、ルーシア!!」
ルーシア・ブロディジィ公爵令嬢。
彼女とは一度だけ一緒にいた記憶がある。
まだローゼリアお姉様が聖女になる前。
公爵家ご一行が視察としてフェブリール男爵領に訪れた際、一緒にピクニックに行って花を摘んで花冠を作って遊んだんだ。
同い年で手先の器用なルーシア様に憧れを持ったのを覚えている。
そのあとすぐにお姉様の魔力測定式があって、お姉様が聖女として発表されて、私も外に出なくなって、公爵家もうちに来ることはなくなったのだけれど。
まさかここでお会いするだなんて。
「何で……。何で私はこんなところで働いて暮らさなきゃいけないのに、同じように魔力のないあなたは公爵家にいますの!? ……私が……公爵家にいるはずだったのに……」
「!! ルーシア様、それは──」
「うるさい!! あなたの顔なんて見たくありませんわ!! 失礼します」
そう怒鳴り上げると、ルーシア様は孤児院の外へと飛び出して行ってしまった。
「ルーシア様……」
「申し訳ありませんセシリア様。ルーシアは少し特殊でして……」
特殊?
公爵令嬢だから?
「それは──魔力枯らしのことか?」
「!!」
魔力……枯らし……。
そうだ。何で気が付かなかった?
貴族が孤児院に入っている理由なんて、わかりきったことだろうに……。
「私、何も考えずに……」
「君が気にすることじゃない。院長、ルーシアのこと、少し様子を見てやってくれ」
「えぇ、もちろんですわ」
それから孤児院の皆さんに混ざって持ってきたカップケーキを食べたけれど、その場にルーシア様はもう姿を現すことはなかった──。
「はい。王都の店へのおつかいで王立孤児院の前を通ることはありましたが、訪問は初めてです。ほとんどを家で過ごして、外に出るとしたら男爵領内の町へ食材の発注に行くくらいでしたし……。お姉様は何度か殿下と王立孤児院へ訪問されていましたけど」
朝から訪問用のドレスに着替えるように言われた私は、今、オズ様と一緒に町の最奥にある孤児院を目指して歩いていた。
王都の中にある大きな王立孤児院とは違って、子どもの数が八人、シスターの数が三人というこじんまりとした孤児院で、今日はそこの子供たちにお菓子を配る日なのだそうだ。
そういえばお姉様が殿下と孤児院に慰問に行く際、よく、孤児院の子供たちに配るからカップケーキを作るようにと言われて作ってたっけ。
もらった子どもたちは喜んでくれたのかしら。
それすら聞くことなくここまできてしまった。
市販のお菓子と、私が作ったカップケーキをバスケットに詰めて、人型に変身したまる子とカンタロウが一つずつ持って後ろを歩く。
彼らはこういう公の訪問の際はよく従者や侍女として振舞っているらしく、町の人が二匹を見ても特に誰だ誰だと不思議がられることはない。
「──あそこだ」
北にあるドルト先生の診療所よりも少し西に進んだところで、木の囲いにぐるっと囲まれた孤児院が見えてきた。
庭で子供たちが走り回って遊ぶ声がここまで聞こえてくる。
すると子供たちと一緒に遊んでいたシスターの一人が私たちの姿に気づいてこちらへ駆けてきた。
「公爵様、いらっしゃいませ。ようこそ、ジュリアン孤児院へ」
「あぁ。邪魔をする。こっちは俺の助手のセシリアだ。セシリア、こっちはこの孤児院の院長。ハーティス院長だ」
ハーティス院長と紹介された女性の視線が私に切り替わると、私はあわてて彼女にカーテシーをする。
「は、はじめまして、セシリアです」
カーテシーなんて久しぶりだしかなり動きがぎこちなくなってしまったわ。
「まぁ!! あなたが噂のセシリア様!! 町の皆が、可愛らしいお嬢様が公爵様のお嫁様になってくれたと──」
「嫁じゃない」
孤児院にまでこの噂が流れているとは……。
公爵領にしては小さな町だから、噂の広がりも早いのね。
「子供たちに菓子と、孤児院用に魔法薬茶を持ってきた。それと──セシリアがカップケーキを焼いてくれたから、院長やシスターたちも含めた全員で食べると良い」
「たくさん焼いてきましたから、良かったら……」
「まぁまぁまぁ!! ありがとうございます!! シスターも子供たちも皆喜びますわ!! さ、お入りくださいまし」
ハーティス院長に促されて孤児院へ入ると、木でできた大きな長テーブルに椅子が綺麗に等間隔で並んで設置されていた。
皆が庭へ遊びに出ているなか、その椅子にぽつんと一人座って頬杖をついている少女が目に移り、私は思わず視線を硬直させた。
青くてきれいな瞳は物憂げに伏せられ、時折その見事な金色の長い髪を手櫛でなでつける少女。
注目すべきはその姿勢だ。
ピンと伸びてどこか気品さえも感じられる。
「まぁルーシア、あなたまたこんなところで一人で……。たまにはお外に出て、皆と身体を動かして──」
「嫌よ。平民に混ざって泥だらけになるだなんて、はしたな──っ、公爵様……!! 失礼いたしました。お見苦しいところを……」
オズ様が視界に入るや否や、すぐさま立ち上がってよれた服を正し、綺麗なカーテシーを披露した。
ルーシアという名前……そしてこの身のこなし……まさか……。
「ルーシア・ブロディジィ公爵令嬢?」
思わず口から出てしまった名前に、ルーシアと呼ばれた少女の碧眼の瞳が大きく見開かれ、私をとらえた。
「っ……あなた……!! 出涸らし如きが、私の名前を軽々しく口にしないでしょうだい!!」
「これ、ルーシア!!」
ルーシア・ブロディジィ公爵令嬢。
彼女とは一度だけ一緒にいた記憶がある。
まだローゼリアお姉様が聖女になる前。
公爵家ご一行が視察としてフェブリール男爵領に訪れた際、一緒にピクニックに行って花を摘んで花冠を作って遊んだんだ。
同い年で手先の器用なルーシア様に憧れを持ったのを覚えている。
そのあとすぐにお姉様の魔力測定式があって、お姉様が聖女として発表されて、私も外に出なくなって、公爵家もうちに来ることはなくなったのだけれど。
まさかここでお会いするだなんて。
「何で……。何で私はこんなところで働いて暮らさなきゃいけないのに、同じように魔力のないあなたは公爵家にいますの!? ……私が……公爵家にいるはずだったのに……」
「!! ルーシア様、それは──」
「うるさい!! あなたの顔なんて見たくありませんわ!! 失礼します」
そう怒鳴り上げると、ルーシア様は孤児院の外へと飛び出して行ってしまった。
「ルーシア様……」
「申し訳ありませんセシリア様。ルーシアは少し特殊でして……」
特殊?
公爵令嬢だから?
「それは──魔力枯らしのことか?」
「!!」
魔力……枯らし……。
そうだ。何で気が付かなかった?
貴族が孤児院に入っている理由なんて、わかりきったことだろうに……。
「私、何も考えずに……」
「君が気にすることじゃない。院長、ルーシアのこと、少し様子を見てやってくれ」
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