来世に期待します~出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで~

景華

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第二章

エルフの大賢者リュシオン

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「オズ様見てください!! 今日はリリアさんが美味しそうな果物を分けてくださったんです!! 何を作りましょうか。フルーツタルト? コンポート? ぁ、ジャムなんかも良いですね!!」

「楽しそうだな、セシリア」
「はいっ!! 皆さん気さくな優しい方ばかりで、毎日いろいろくださいますし」
「それは餌付けというやつでは……」

 トレンシスの町の皆さんは本当に皆気さくな人ばかりで、町に行くたびに何かしら「持っていきな」と食材やお菓子をくれる。
 そしてそんな彼らにも、作ったお菓子などをお裾分けをしたり、良好な関係を築いていると思う。

「オズ様、あの町は本当に素敵な町ですね」
「そうだな。俺も、そう思う」
 二人穏やかにほほ笑みあったその時。

「あなたがあのオズが娶ったお嫁様、ですか。……あぁ……なかなか良い魔力の持ち主ですね」
「!?」
 私でもオズ様でも、まる子やカンタロウでもない、ふんわりおっとりとした声が部屋に響いて、私とオズ様はその声の先へと視線を向けた。

「──師匠……」
「やぁオズ。しばらくぶりですね。見ないうちにまぁ大きくなって」

 師匠ぉぉおおお!?
 にこやかにほほ笑む目の前の男性を一度視界に入れてしまえば、そこから視線を外すことができなくなった。
 それほどまでに美しく、幻想的な人。

 長く白みがかった翡翠色の髪。
 エメラルドのようなキラキラとした緑色の瞳。
 そしてもっとも目に付くのは、その長く尖った耳。

「……エルフ……?」
 つぶやいた言葉に、長い耳がぴくんと反応した。
「おや、あなたはエルフをご存じで?」
「あ、いえ、物語の中でだけ……」

 小さなころにお姉様が読んでくれた絵本に、エルフという美しい種族が出てきた。
 もっとも、グリフォンやケットシーと同じく、幻の種族だと思っていたのだけれど。

「そうですか……。まぁ、一般的にエルフという種族は物語の中の認識が強いでしょうね。初めまして、お嬢さん。私はリュシオン。ご明察の通り、エルフ族です」
「俺に魔法のコントロールのやり方を教えてくれた師匠だ。普段はどこかにあるエルフの集落にいるらしいが、時々ふらりと2,3年に一度やってくる」

 ふらりと2、3年に一度って……。
 でも、お父様とお母様の件があってから今に至るまでの魔力のコントロールは、この方に教えてもらったのか……全属性持ち《オールエレメンター》のオズ様の魔力のコントロールを教えられるくらい強いお方なのね。

「初めまして、セシリアと申します」
「よろしくお願いしますね。あのオズがお嫁様を取ったと風の噂で聞いて、思わず見に来ちゃいました」
「嫁じゃない。俺の……助手だ」
 相も変わらずあまり表情が変わらないけれど、私の立場というものを明言してもらえるというのはうれしい。
 なんだか、本当に私の居場所を作ってもらったみたいで。

「ふぅん。助手、ですか……。うん、お似合いだと思います。媚びることのない純粋な目、家庭的な雰囲気。オズの嫌いなタイプの真反対です。良いお嫁様をもらいましたね、オズ」
「話聞いてたか? 老化で耳の機能がやられたんじゃないか?」

 あぁぁぁっ辛辣すぎるっ!!
 お師匠様になんて口を……!!

「そうそう。私がここに来たのは、オズがお嫁様を取ったと聞いたからと、もう一つ。その子が聖女だと聞いたからなんですけど……。魔力測定はもう?」
 相も変わらず嫁扱いをするお師匠様の言葉を直すことを諦めたオズ様ははぁ、とため息をつく。
「いや、家の事情で受けていない。だが、あの治癒魔法……。聖女しか使えないものだろうと思う」
 オズ様が答えると、お師匠様は「ふぅ~む」とうなりながら、私をじっと上から下まで眺め始めた。

「セシリア、私の手に両の手を重ねてください」
 そう言って私に両手の平を上にして差し出すお師匠様に、私は戸惑いながらも言われるがままに手を上に重ねる。
 すると私とお師匠様から真っ白い光が溢れ、同時に身体がぽかぽかと暖かく包まれるような感覚になった。

 これはいったい──。

「そうですね……。オズの見立ては正しいです。セシリアは、真の聖女のようですね」
「!!」
「やはりか。あなたが言うならば、間違いはない。セシリア、エルフの大賢者である師匠に認められたなら、魔力測定を通さずともこれで認定されたことになる。本来なら大々的に聖女の存在を知らしめることになるが……」
「い、嫌です!!」

 つい大きな声を上げてしまった。
 でも、本当に嫌なのだから仕方ない。
 私のことが大々的に知られれば、今が変わってしまう気がして、怖い。

 お母様やお父様に認めてもらえるかもしれないけれど、でもそれすらも拒絶されてしまったら?
 そうなれば私はいよいよ絶望してしまうだろう。
 それにお姉様は?
 私が聖女なら、お姉様はどうなるの?

 オズ様に魔力測定の石が反応したのは私の魔力で、お姉様のではないだろうという話を聞いてからずっと怖くて聞くことができなかった。
 反応したのが聖女の力が私のものならば、お姉様はどんなものだったのだろう?

「あ、あの、お姉様は……」
「お姉様? あぁ、今聖女と言われているあなたのお姉さんですね。んー……だいたいわかりますが、鑑定してみましょうか」

 そう言ってお師匠様は両手を前に突き出し、瞑目すると、目の前にボヤっと浮かび上がったのはお姉様の映像。

 そして映像のお姉様から灰色の靄《もや》が、まるで吸い出されるかのようにお師匠様の手のひらへと吸い込まれていく。

「うん、あぁ……これは……聖女じゃない、ですね」
「っ……」

 やっぱり、オズ様が言っていたのは正しかったんだ。
 測定の石はお姉様の魔力に反応して白く輝いたのではない。
 付き添っていた私の魔力に反応したのだという、オズ様の仮説が……。

 少しばかりの胸の苦しさを感じた私に、お師匠様は更に残酷な言葉をつづけた。

「それどころか彼女は──魔力が少しもないですね」
「!?」
「魔力が……ない……!?」







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