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第二章

悪い魔法使いは過保護になりました

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 私がジュローデル公爵家にご厄介になって一か月が経った。
 町の季節病である流行り病ももうすっかりと落ち着き、広がることはなくなった。

 あとはドルト先生と残りの患者さんの様子を見に行ったり、オズ様と一緒に魔法薬茶を皆様に配る日々。

「セシリア、そこの魔法薬茶を取ってくれ」
「はいオズ様。お子様方にお口直しの飴も用意しておきました」
「ありがとう、助かる」

 ドルト先生の診療所で町の人に薬草を配る日。
 診療所前に用意したテーブルの上に、いろんな効能の茶葉を並べ、ヒアリングをした後その人にあった薬茶をブレンドして魔法を施す不定期イベントだ。
 治療に来られて患者さんはもちろん、冷え性や肩こりで悩む町の人もこぞって相談に訪れる。
 薬茶は飲みやすいものばかりではなく苦みのあるものもあって、そんなときは口直しとして甘い飴を配っているのだけれど……。

「飴を時々ご自分のお口に運んでいるのは私も見えてますからねオズ様」
「うっ……」
 罰が悪そうな顔をして動きを止めるオズ様をじっとりと見る。

「オズ様が糖尿病にならないように、しっかりと見張らせてもらいます!!」
「なんだその意気込みは……」
「オズ様にはたくさん長生きしてほしいんです!!」

 長く生きて、いつか私を楽に綺麗に痛み無く来世に送ってもらわねばならないんだから。
 死なせてなるものですかっ!!

「はははっ!! あのオズがたじたじじゃないか!!」
「ドルト先生、笑っちゃだめですよ。公爵様にようやく訪れた春なんですから」
「でもミトさん!! あのオズだよ!? 皆が結婚を諦めていたあのオズの貴重なシーンだよ!?」
「それはわかりますけどねぇ、こういうのは温かく見守るのが一番なんですよ」
「そっかぁ、さすがミトさん。じゃぁうまくいった暁には僕らで二人の式を取り仕切って──」

「とりあえずこれからは飲み物に気を付けることだな君たち。どこかの悪い魔法使いがうっかりと飲み物に毒草でも入れるかもしれん」

 オズ様、それは犯罪です……。
 基本表情が変わらないから、本気か冗談化の区別がつかないのがオズ様の怖いところだ。

 でもこの領地に来て一か月。
 トレンシスの町の皆さんはとても明るく優しい人たちばかりで仲も良くて、そんな中に入れてもらえたのはこの上なく幸せだと思う。

「くだらないことを言ってないで、そろそろ終いの時間だ。片づけて帰るぞ」
「はい!!」
 帰ってお夕食の支度をしないと。
 きっと二匹がお腹を空かせて待ってるわ。

***

「ぷぁ~……おいしかった~……」
「今日のスープは僕の大好きな魚が入っていたね。すごくおいしかったよ」

 普段カラスと猫の姿でいるまる子とカンタロウは、食事の間だけは人型になる。
 なんでも、この方が食べやすいんだとか。
 そうしているとまるで人間の家族のように思えてくるから不思議だ。

「今日はミトさんの旦那さんが釣ったお魚を分けていただいたの。今度お礼に何か作って持って行かなきゃね」
 マフィンがいいかしら?
 タルトが良いかしら?
 喜んでくれるといいなぁ。

「ずいぶん町になじんだな、セシリア」
「オズ様。はい!! だと、嬉しいです」

 素敵な町の一因になれたなら、こんなにうれしいことはない。

「はっ!! そういえばこのスープ、ドルト先生におすそ分けに行く約束をしてたんでした!!」
「図々しい奴だな……。そんな約束律義に守る必要はない。放っておきなさい」

 相変わらずドルト先生への扱いが雑!!

「そんなわけにはいきません!! ご飯を抜いて待っているかもしれませんし、私、これから持って行ってきます!!」

 いつもよくしてくれるドルト先生との約束を違えるわけにはいかないわ。
 それに、オズ様の大切なご友人だもの。
 私も大切にしなければ。

「オズ、僕らもついていくから大丈夫だよ」
「そうね。安心して。オズの可愛いセシリアは私たちが守ってあげるから」

 にやにやと目を三日月型にして笑うまる子とカンタロウ。
 そんな二匹にオズ様が頬を引きつらせ「俺のじゃない」とつぶやいた。

「だがまぁ、まる子とカンタロウがいるなら大丈夫か。セシリア、気を付けていってきなさい」
「はい」
「寄り道はせずにまっすぐ帰ること」
「わかりました」
「知らない人にはついていかないように」
「え、あ、はい」
「拾い食いは──」
「しませんからね!?」

 過保護なの!?
 私のお母様やお父様はそんなじゃなかったけれど、世間一般の親というものはむすめに対してはこんなものなのかしら。
 ……オズ様、お母さん体質よね、きっと。自称悪い魔法使いなのに。

「……気を付けて」
「はいっ!! 行ってきます」

 私は厨房でドルト先生用のスープを鍋に入れると、両手に抱えてまる子とカンタロウと一緒にドルト先生のもとへ向かった。






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