20 / 66
第一章
聖女の願いは一つだけ
しおりを挟む
あったかい。
公爵家でお世話になってからの寝具はこれまで生きてきた中で使っていた寝具よりもふかふかで温かくて、毎日幸せな眠りをいただいているけれど、今日は格別あったかい。
とくんとくんと耳に打つ小さな音も心地良いし、上下するベッドマットの揺れも安心感を覚える。
何より時々頭上で聞こえる吐息がくすぐったくて……ん……?
──吐息……?
「!?」
勢いよく目を開けて顔を上げると、そこにはオズ様の超絶美しいご尊顔!!
な、な、何……?
一体何が起こっているの!?
えっと、確か私、昨日オズ様のために薬茶を作ってお届けして、それで──。
……あぁぁああああああああ!!!!
オズ様にしがみついて大泣きしたうえそのまま眠りこけてしまったんだわぁぁああああ!!
しかもちゃっかりオズ様のお布団にまで入り込んで……なんて図々しい居候……!!
と、とりあえず離れなければ……!!
そう思って身体を起こそうとするも、しっかりとオズ様にホールドされていて動けない。
「ん……こら。逃げるな」
どんどん抱きしめる力が強くなるんですけど!?
何……?
これはいったい……。
新手の罰!?
いや、これは罰というよりもむしろご褒美のような……。
だ、ダメだ。
早く起こさねば!!
「オズ様!! オズ様、起きてください!!」
「ん……? あぁ……セシリア……。……セシリア!?」
オズ様が飛び起きて私の身体が解放される。
と同時にぬくもりが去ったことに少しばかりの寂しさを感じたのは気のせいだと思おう。
「すみません、オズ様。私、寝ちゃったんです、よね? 大泣きしたうえ病床のオズ様に多大なるご迷惑をおかけしてしまって……!! 本当にすみませんっ!!」
「あ……いや、別に、迷惑とかじゃ……」
目が泳いでらっしゃる!!
や、やっぱり私、ものすごい迷惑を……。
「違うからな?」
「へ……」
「君が迷惑とか、そんなの考えたことはない。君といるのは別に苦痛じゃないし、前世の知恵を与えてくれて、薬茶を配る手伝いやドルトの診療の手伝いまでしてくれて領地を助けてくれている君には感謝してるし、信頼もしている。だからこそ、俺は君に俺のことを話したんだと思う。だから……あまり卑下するな」
オズ様……。
そんな、そんなこと……まるで私が、ここにいても良いと、居場所をもらっているみたいじゃないか。
「私は……ここにいてもいいんですか?」
口からポロリと零れた、願いにも似た問いかけに、オズ様はふわりとほほ笑んだ。
「あぁ。好きなだけ居たらいい。ここはもう、君の家でもあるんだから」
「!!」
私の、家……。
「オズーおはよー……ってうぁ!? 結局そのまま寝たの!? 同衾じゃん同衾!! 既成事実よぉおお!!」
「オズはむっつりだからなぁ」
「お前たち……」
まる子とカンタロウがノックもなしに入るなりに声を上げる。
その顔はニマニマとからかうようで、そしてどこか嬉しそうだ。
「と、とりあえず、君はすぐに部屋に戻って着替えを済ませること!!」
「は、はい!!」
私はベッドからすとんと降りると、パタパタと扉の方へと駆ける。
そういえば私、下着脱いだままだったんだわ!!
なんかすーすーすると思った……!!
急いで着替えて、食事の支度をしなきゃ。
「セシリア」
「はい? 何でしょう?」
後ろから声を掛けられ振り返ると、オズ様の赤く綺麗な瞳が私のそれを見つめる。
「君の居場所は、ここだ。それを忘れるな」
「!! はい……!! オズ様に綺麗に楽に痛みなく来世に送ってもらうまで、不束者ですが、オズ様のもとにいさせてください!!」
「……ぶれないな、君」
あなたが良いというのなら、願いは一つだけ。
もう少しだけ、ここにいさせてください。
私を、私が望む形で来世に送ることができるのは、あなただけ。
それまで私は、今世の私をしっかりと生きます。
私が来世へ向かう、その日まで──。
公爵家でお世話になってからの寝具はこれまで生きてきた中で使っていた寝具よりもふかふかで温かくて、毎日幸せな眠りをいただいているけれど、今日は格別あったかい。
とくんとくんと耳に打つ小さな音も心地良いし、上下するベッドマットの揺れも安心感を覚える。
何より時々頭上で聞こえる吐息がくすぐったくて……ん……?
──吐息……?
「!?」
勢いよく目を開けて顔を上げると、そこにはオズ様の超絶美しいご尊顔!!
な、な、何……?
一体何が起こっているの!?
えっと、確か私、昨日オズ様のために薬茶を作ってお届けして、それで──。
……あぁぁああああああああ!!!!
オズ様にしがみついて大泣きしたうえそのまま眠りこけてしまったんだわぁぁああああ!!
しかもちゃっかりオズ様のお布団にまで入り込んで……なんて図々しい居候……!!
と、とりあえず離れなければ……!!
そう思って身体を起こそうとするも、しっかりとオズ様にホールドされていて動けない。
「ん……こら。逃げるな」
どんどん抱きしめる力が強くなるんですけど!?
何……?
これはいったい……。
新手の罰!?
いや、これは罰というよりもむしろご褒美のような……。
だ、ダメだ。
早く起こさねば!!
「オズ様!! オズ様、起きてください!!」
「ん……? あぁ……セシリア……。……セシリア!?」
オズ様が飛び起きて私の身体が解放される。
と同時にぬくもりが去ったことに少しばかりの寂しさを感じたのは気のせいだと思おう。
「すみません、オズ様。私、寝ちゃったんです、よね? 大泣きしたうえ病床のオズ様に多大なるご迷惑をおかけしてしまって……!! 本当にすみませんっ!!」
「あ……いや、別に、迷惑とかじゃ……」
目が泳いでらっしゃる!!
や、やっぱり私、ものすごい迷惑を……。
「違うからな?」
「へ……」
「君が迷惑とか、そんなの考えたことはない。君といるのは別に苦痛じゃないし、前世の知恵を与えてくれて、薬茶を配る手伝いやドルトの診療の手伝いまでしてくれて領地を助けてくれている君には感謝してるし、信頼もしている。だからこそ、俺は君に俺のことを話したんだと思う。だから……あまり卑下するな」
オズ様……。
そんな、そんなこと……まるで私が、ここにいても良いと、居場所をもらっているみたいじゃないか。
「私は……ここにいてもいいんですか?」
口からポロリと零れた、願いにも似た問いかけに、オズ様はふわりとほほ笑んだ。
「あぁ。好きなだけ居たらいい。ここはもう、君の家でもあるんだから」
「!!」
私の、家……。
「オズーおはよー……ってうぁ!? 結局そのまま寝たの!? 同衾じゃん同衾!! 既成事実よぉおお!!」
「オズはむっつりだからなぁ」
「お前たち……」
まる子とカンタロウがノックもなしに入るなりに声を上げる。
その顔はニマニマとからかうようで、そしてどこか嬉しそうだ。
「と、とりあえず、君はすぐに部屋に戻って着替えを済ませること!!」
「は、はい!!」
私はベッドからすとんと降りると、パタパタと扉の方へと駆ける。
そういえば私、下着脱いだままだったんだわ!!
なんかすーすーすると思った……!!
急いで着替えて、食事の支度をしなきゃ。
「セシリア」
「はい? 何でしょう?」
後ろから声を掛けられ振り返ると、オズ様の赤く綺麗な瞳が私のそれを見つめる。
「君の居場所は、ここだ。それを忘れるな」
「!! はい……!! オズ様に綺麗に楽に痛みなく来世に送ってもらうまで、不束者ですが、オズ様のもとにいさせてください!!」
「……ぶれないな、君」
あなたが良いというのなら、願いは一つだけ。
もう少しだけ、ここにいさせてください。
私を、私が望む形で来世に送ることができるのは、あなただけ。
それまで私は、今世の私をしっかりと生きます。
私が来世へ向かう、その日まで──。
213
お気に入りに追加
748
あなたにおすすめの小説
兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
召喚から外れたら、もふもふになりました?
みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。
今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。
すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。
気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!?
他視点による話もあります。
❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。
メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる