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繰り返さない惨劇
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「……やっぱり……毒が……」
「はい。茎と花は無害ですが、根の方に毒があり、手袋をつけていればさほど問題はありませんが、手入れの際素手で触ってしまうと、その手は徐々に毒に侵され、しびれ、やがては動かなくなる、神経系の毒です」
手のしびれ、そして動かなくなる……。
父の症状と同じだわ。
「その毒は素手で触り続ければ神経を伝い全身に回り、いずれ──」
「死ぬ、のね?」
静かに放たれた私の言葉に、サフィールが眉を顰めて頷いた。
「……あ、あの。陛下の片手の調子がお悪いんですよね? それって……」
「違うわ」
サフィールが言わんとしていることを否定して、私はただ一つ息をついてから続けた。
「フロウ王子じゃない」
「で、ですが、あの庭は──」
「えぇ。フロウ王子のデザインで、花もフロウ王子が手配してくださったものよ。だけど、彼じゃない。彼はきっと……その毒のことを知らない」
「!?」
今朝までは、私もフロウ王子が一番怪しいと踏んでいた。
でも違う。
確証はないけれど、私の中でフロウ王子よりももっと疑惑が深まった人物がいるから。
「毒のことを知っていたなら、自分が今から花の植え替えをやる、だなんて申し出ないわ。それも、側近が止めたにも関わらず、特に気にするそぶりもなかった」
ただ本当に、善意で、フローリアンの花をきれいに植え替えてあげたい、そんな風に見えたもの。
違和感があったのはむしろ──。
「ルビウス・ローゲル」
「!!」
「私は彼の独断だと思ってる。いつも沈着冷静な彼が、フロウ王子が素手で植え替えに行こうとしたのを必死で止めていたの。まるで素手で触られてはまずいかのように……」
私は彼が大声でフロウ王子を止める場面を見たことがない。
一回目も、二回目も。
彼はただひたすら、フロウ王子に付き従って、彼を見守っていた。
彼があれだけ取り乱すのは……敬愛するフロウ王子の身が危険にさらされると感じたから。
「ねぇアルテス。あなた、フロウ王子が来た夜の晩餐で、私たちが部屋に戻った後もフロウ王子と話をしていたのよね? 貴方が話して感じたフロウ王子と今回の件、照らし合わせてどう思う?」
あの時ぐいぐいフロウ王子に質問しまくって距離を詰めていたアルテスは、一回目のことを踏まえてフロウ王子を探っていたのだと思う。
そんな彼の目線からの意見が聞きたい。
「んー……。実はフロウ王子と話をした時、陛下の庭の話にもなったんです。フロウ王子は、植物学者である側近で護衛のルビウスに花の候補を選んでもらい、その中から王子自ら選んで庭のデザインを考えたんだって言ってました。それから嬉しそうに、ルビウスはどんな花のどこに毒があるかも、薬になるかもよくわかっているから、自分も安心してあの国で生きていられるんだって、本当に信頼してるんだ、って教えてくれました」
ルビウス、植物学者なの!?
信頼する側近がそんな知識豊富な専門家なら、自分に知識がない花も信じて選んでしまうのも納得がいくわね。
「少し前、図書室の梯子からリザ王女が転落しました」
「!! 本当ですか!? 大丈夫、だったんですか?」
セイシスの突然の報告にカイン王子が心配そうに私の顔をうかがう。
「えぇ。セイシスが受け止めてくれたから、大事に至らなかったわ」
「そうですか……よかった」
安堵の笑みを浮かべるカイン王子に、セイシスがごほんっと咳払いをしてから続ける。
「実はその後気になって梯子を調べたところ、何者かによる細工がされていた跡がありました。ある一定の重量が加われば落ちるようになっていたようです」
セイシス、調べてくれてたんだ……。
一回目の記憶がある私は細工のことにも気づいていたけれど、一回目、あの場にいなかったセイシスが調べることによって、やっぱり、という確信に繋がった。
「あの時、私の本を取ろうと、本当はフロウ王子が梯子に上ろうとしてくれていたの。フローリアンの本が梯子のすぐ先にあったから、どっちみちフロウ王子がのぼっていたはず。でも私が勝手に飛び出して、自分でのぼった……。もしフロウ王子がそうなっていたとしたら……」
「責任感の強いリザ様は、責任を感じてフロウ王子につきっきりで看病する。ですよね? リザ様」
アルテスのぴったりと合った未来の予定という名の予感に頷くと、それを聞いた男たちが眉を顰めた。
「そこで結婚の話がまとまる可能性も大きかった。つまり──」
「次女王王の王配になるかもしれなかった。セイシスの調査によると、フロウ王子は開国のため、フローリアンの王になることを願っていた。王配となれば多少の権力は持てるし、フローリアンを開国させることだって希望が見える。メリットは大きいわ。現に、婚約を急ぐようになったのは──父の……陛下の手がもう限界でもあるから、ですもの」
一回目のことを抜きにしても、イロイロと合点がいくし辻褄も合う。
「ルビウスは、主であるフロウ王子の開国派支持者でもある。主の思いに勝手に忖度して勝手に動いている可能性が、私は濃厚だと考えているわ」
あの忠臣ならあり得る。
そう思えるほどに、ルビウスはフロウ王子を妄信している。
フロウ王子もまた──ルビウスを……。
「フロウ王子が来た日、私の部屋のベッドにフローリアンの花が飾られていたの。そしてそれは、晩餐で出たフローリアンの食用花とあわせれば媚薬効果を発揮するものだったわ。もしあの時アルテスがフロウ王子を引き留めていなければ──フロウ王子は私の部屋を訪ねたかもしれないし、そのまま流されてしまっていた可能性だってある」
図書室でのトラブルに媚薬騒動に……。
どれも、私とフロウ王子がくっつく可能性のあるものばかり。
「媚薬でも梯子でも、私はフロウ王子と必要以上に接することはなかった。となれば、パーティでまた何かが起きる可能性もあるわ。そこで、ここにいる人たちにお願いがあります」
「お願い?」
「えぇ。明日、私がフロウ王子と踊っている間に、ルビウスの周辺を洗ってほしいの。目的が私であるならば、彼は再び私とフロウ王子をくっつけようと何かしら仕込んでくる。それを見つけてもらいたいの」
フローリアンとこの国は少し離れている。
そうそう来ることもなければ、このチャンスを逃すまいとするはず。
きっと、何か証拠を持ってきているわ。
私は主役としてパーティにいなければならないけれど、彼らならば……。
「つまり、リザ王女がおとりになっている隙に証拠を探せ、ということですか?」
カイン王子が腕を組み神妙な面持ちで口にする。
「ま、まぁ、簡単に言えばそうですね」
「危険は? あなたに何かあったら──」
「大丈夫です。セイシスが、絶対守ってくれるから」
そう言ってセイシスを見上げると、セイシスは驚いたようにその黒い瞳を大きくさせてから、すぐに力強く頷いた。
「あぁ。もちろん。命に代えても」
代えられても困るけれど……。
「……わかりました。では、私とサフィール殿でルビウスの泊っている部屋を探りましょう。フローリアンの花の研究をしている私たちが適任でしょうし」
カイン王子とサフィールが視線を合わせ頷きあう。
「では僕はルビウス本体をマークしますね。念のため会場の警備も増やしておくよう、騎士団長にお願いしておきます」
騎士団長からの信頼も厚い騎士のアルテスがそうしてくれるなら安心だわ。
「なら僕は馴染みのお姉さんたちに聞き込みを。ちょうどフローリアンに親類のいる人もいるし」
「助かるわ、レイゼル」
大人気男娼のレイゼルならば女性から情報を聞き出すのなんてお手のもの。
まぁ、あまりいい手ではないけれど、この際仕方がない。
「皆……よろしくお願いします……!!」
こうして心強い複雑メンバーを味方に、私は明日のパーティへ望む。
もう絶対に繰り返させない──!!
私の未来も、セイシスやお父様の命も、好きにさせてたまるもんですか……!!
「はい。茎と花は無害ですが、根の方に毒があり、手袋をつけていればさほど問題はありませんが、手入れの際素手で触ってしまうと、その手は徐々に毒に侵され、しびれ、やがては動かなくなる、神経系の毒です」
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父の症状と同じだわ。
「その毒は素手で触り続ければ神経を伝い全身に回り、いずれ──」
「死ぬ、のね?」
静かに放たれた私の言葉に、サフィールが眉を顰めて頷いた。
「……あ、あの。陛下の片手の調子がお悪いんですよね? それって……」
「違うわ」
サフィールが言わんとしていることを否定して、私はただ一つ息をついてから続けた。
「フロウ王子じゃない」
「で、ですが、あの庭は──」
「えぇ。フロウ王子のデザインで、花もフロウ王子が手配してくださったものよ。だけど、彼じゃない。彼はきっと……その毒のことを知らない」
「!?」
今朝までは、私もフロウ王子が一番怪しいと踏んでいた。
でも違う。
確証はないけれど、私の中でフロウ王子よりももっと疑惑が深まった人物がいるから。
「毒のことを知っていたなら、自分が今から花の植え替えをやる、だなんて申し出ないわ。それも、側近が止めたにも関わらず、特に気にするそぶりもなかった」
ただ本当に、善意で、フローリアンの花をきれいに植え替えてあげたい、そんな風に見えたもの。
違和感があったのはむしろ──。
「ルビウス・ローゲル」
「!!」
「私は彼の独断だと思ってる。いつも沈着冷静な彼が、フロウ王子が素手で植え替えに行こうとしたのを必死で止めていたの。まるで素手で触られてはまずいかのように……」
私は彼が大声でフロウ王子を止める場面を見たことがない。
一回目も、二回目も。
彼はただひたすら、フロウ王子に付き従って、彼を見守っていた。
彼があれだけ取り乱すのは……敬愛するフロウ王子の身が危険にさらされると感じたから。
「ねぇアルテス。あなた、フロウ王子が来た夜の晩餐で、私たちが部屋に戻った後もフロウ王子と話をしていたのよね? 貴方が話して感じたフロウ王子と今回の件、照らし合わせてどう思う?」
あの時ぐいぐいフロウ王子に質問しまくって距離を詰めていたアルテスは、一回目のことを踏まえてフロウ王子を探っていたのだと思う。
そんな彼の目線からの意見が聞きたい。
「んー……。実はフロウ王子と話をした時、陛下の庭の話にもなったんです。フロウ王子は、植物学者である側近で護衛のルビウスに花の候補を選んでもらい、その中から王子自ら選んで庭のデザインを考えたんだって言ってました。それから嬉しそうに、ルビウスはどんな花のどこに毒があるかも、薬になるかもよくわかっているから、自分も安心してあの国で生きていられるんだって、本当に信頼してるんだ、って教えてくれました」
ルビウス、植物学者なの!?
信頼する側近がそんな知識豊富な専門家なら、自分に知識がない花も信じて選んでしまうのも納得がいくわね。
「少し前、図書室の梯子からリザ王女が転落しました」
「!! 本当ですか!? 大丈夫、だったんですか?」
セイシスの突然の報告にカイン王子が心配そうに私の顔をうかがう。
「えぇ。セイシスが受け止めてくれたから、大事に至らなかったわ」
「そうですか……よかった」
安堵の笑みを浮かべるカイン王子に、セイシスがごほんっと咳払いをしてから続ける。
「実はその後気になって梯子を調べたところ、何者かによる細工がされていた跡がありました。ある一定の重量が加われば落ちるようになっていたようです」
セイシス、調べてくれてたんだ……。
一回目の記憶がある私は細工のことにも気づいていたけれど、一回目、あの場にいなかったセイシスが調べることによって、やっぱり、という確信に繋がった。
「あの時、私の本を取ろうと、本当はフロウ王子が梯子に上ろうとしてくれていたの。フローリアンの本が梯子のすぐ先にあったから、どっちみちフロウ王子がのぼっていたはず。でも私が勝手に飛び出して、自分でのぼった……。もしフロウ王子がそうなっていたとしたら……」
「責任感の強いリザ様は、責任を感じてフロウ王子につきっきりで看病する。ですよね? リザ様」
アルテスのぴったりと合った未来の予定という名の予感に頷くと、それを聞いた男たちが眉を顰めた。
「そこで結婚の話がまとまる可能性も大きかった。つまり──」
「次女王王の王配になるかもしれなかった。セイシスの調査によると、フロウ王子は開国のため、フローリアンの王になることを願っていた。王配となれば多少の権力は持てるし、フローリアンを開国させることだって希望が見える。メリットは大きいわ。現に、婚約を急ぐようになったのは──父の……陛下の手がもう限界でもあるから、ですもの」
一回目のことを抜きにしても、イロイロと合点がいくし辻褄も合う。
「ルビウスは、主であるフロウ王子の開国派支持者でもある。主の思いに勝手に忖度して勝手に動いている可能性が、私は濃厚だと考えているわ」
あの忠臣ならあり得る。
そう思えるほどに、ルビウスはフロウ王子を妄信している。
フロウ王子もまた──ルビウスを……。
「フロウ王子が来た日、私の部屋のベッドにフローリアンの花が飾られていたの。そしてそれは、晩餐で出たフローリアンの食用花とあわせれば媚薬効果を発揮するものだったわ。もしあの時アルテスがフロウ王子を引き留めていなければ──フロウ王子は私の部屋を訪ねたかもしれないし、そのまま流されてしまっていた可能性だってある」
図書室でのトラブルに媚薬騒動に……。
どれも、私とフロウ王子がくっつく可能性のあるものばかり。
「媚薬でも梯子でも、私はフロウ王子と必要以上に接することはなかった。となれば、パーティでまた何かが起きる可能性もあるわ。そこで、ここにいる人たちにお願いがあります」
「お願い?」
「えぇ。明日、私がフロウ王子と踊っている間に、ルビウスの周辺を洗ってほしいの。目的が私であるならば、彼は再び私とフロウ王子をくっつけようと何かしら仕込んでくる。それを見つけてもらいたいの」
フローリアンとこの国は少し離れている。
そうそう来ることもなければ、このチャンスを逃すまいとするはず。
きっと、何か証拠を持ってきているわ。
私は主役としてパーティにいなければならないけれど、彼らならば……。
「つまり、リザ王女がおとりになっている隙に証拠を探せ、ということですか?」
カイン王子が腕を組み神妙な面持ちで口にする。
「ま、まぁ、簡単に言えばそうですね」
「危険は? あなたに何かあったら──」
「大丈夫です。セイシスが、絶対守ってくれるから」
そう言ってセイシスを見上げると、セイシスは驚いたようにその黒い瞳を大きくさせてから、すぐに力強く頷いた。
「あぁ。もちろん。命に代えても」
代えられても困るけれど……。
「……わかりました。では、私とサフィール殿でルビウスの泊っている部屋を探りましょう。フローリアンの花の研究をしている私たちが適任でしょうし」
カイン王子とサフィールが視線を合わせ頷きあう。
「では僕はルビウス本体をマークしますね。念のため会場の警備も増やしておくよう、騎士団長にお願いしておきます」
騎士団長からの信頼も厚い騎士のアルテスがそうしてくれるなら安心だわ。
「なら僕は馴染みのお姉さんたちに聞き込みを。ちょうどフローリアンに親類のいる人もいるし」
「助かるわ、レイゼル」
大人気男娼のレイゼルならば女性から情報を聞き出すのなんてお手のもの。
まぁ、あまりいい手ではないけれど、この際仕方がない。
「皆……よろしくお願いします……!!」
こうして心強い複雑メンバーを味方に、私は明日のパーティへ望む。
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