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一回目の後悔、二回目のやり直し

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 たくさん泣いた。
 それこそ一晩中。
 ひとしきり泣き続けて、私が泣き終わったのを確認してから、レイゼルは自分の家へ帰っていった。

 別れ際、私はレイゼルに伝えた。
 思いに応えることが出来なくてごめんなさい、と。
 レイゼルは苦笑いしてから、「なんとなくわかってたし大丈夫ですよ」と言ったけれど、その後すぐに「セイシス様とうまくいかなかったらいつでも言ってくださいね、待ってますから」と妖艶な笑みを浮かべてから去っていった。

 あぁは言ってくれたけれどレイゼルにはたくさん世話になってしまったし、悪いことしてしまったわね……。
 今度美味しいお菓子でも差し入れに行きましょ。

「よしっ!!」

 私は一度頬をパチンと叩いて気合を入れると、そっと一人、部屋を出た。

 ***

「ごめんなさいねアルテス。こんな朝早くに伺ってしまって……」
「いいえ、大丈夫ですよ。それより今日はリザ様一人で? 兄さんは──」
「セイシスには聞かせられないから、抜け出してきたわ」

 今頃もぬけの殻状態の私の部屋を見て大慌てでしょうけれど、父と母には一応言ってあるから大事にはならないはず……と、思いたい。

「兄さんに聞かせられない話、っていうと……一回目絡みの?」

 さすがアルテス。話が早い。

「えぇ。……アルテスあなた……一回目の時、私が誰を思っていたのか、知っていたのね?」
 いきなり本題を繰り出した私に、アルテスはわずかに目を見開いてから、すぐに「……はい、知っていました」と答えた。

 やっぱり。
 だからあの時、私が図書室で梯子から落ちてセイシスが受け止めた際に笑っていたんだわ。

「どうしてわかったんです? 一回目のあなたは兄さんへの思いなんて微塵も感じなかったから、自分の気持ちについては忘れているものだとばかり思っていましたけど」

「えぇ。昨日まで忘れていたわ。私が誰を愛していたのか、何が起きたのか。図書室で私がセイシスに助けられて運ばれる時、あなた笑ってたでしょ? あの時はあなたは私を陥れようとしていたのかと疑ったけれど、一回目の記憶があるっていうこと、そして私が思い出した一回目のことを考えれば、そう考えるのが妥当かな、って。あれは私を陥れようとしていた笑みじゃなくて、一回目の私の気持ちを理解していたが故の──安堵」

 なぜ安堵なのかはわからないけれど、その表現が適切なんじゃないかと、漠然と感じたのだ。

「ははっ。さすがリザ様。うん、そうですね……。あってますよ、それで」
 屈託のない笑みを浮かべて、アルテスが続ける

「嬉しかったんです。一回目、あなたは確かに兄さんのことを愛していた。でも兄さんはそれを知らないまま、あんなことになって……。あなたと兄さんが寄り添うように血だまりの中倒れている姿が、今も忘れられなかった。それが二回目、自分の知らない展開になって、あなたを助けたのが兄だった。それがなんだか、一回目のあなたが報われるような気がして……つい、ほっぺが緩んじゃいました」

 あらためてそんな風に聞くと、なんだか恥ずかしさがこみあげてくる。
 私の気持ちだだ漏れで見守られてたってことよね!?
 ……穴があったら入りたい……。

「僕はリザ様のこと大好きですけど、兄さんと一緒にいて、幸せそうに笑うリザ様が一番好きですから」
「アルテス……ありがとう。急にごめんなさいね。確認して、すっきりさせておきたかったの」

 今やるべきはモヤモヤすることじゃない。
 もう絶対に、セイシスを殺させはしない。
 そのためにも私は──。

「アルテス、私の誕生日パーティで、もしかしたら一波乱あるかもしれない。協力してくれるかしら?」
「!! ……えぇ。もちろんです。何なりとお申し付けください、リザ王女殿下」

 そう言って恭しく頭を下げるアルテスに、私は頬を緩めた。

「ありがとう。あなたがいてくれてよかった」
「ふふ。お役に立てているならよかった。んー……もう少しゆっくり話したかったんですけど……。お迎え、来ちゃいましたね」
「お迎え?」

 ふとアルテスの視線が私からわずかに外れ、私もその視線の先を追うようにふりかえると──。

「!! セイシス!?」

 ──鬼のような形相のセイシスが、真後ろに立っていた。


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