上 下
13 / 44

四人目の婚約者候補フロウ

しおりを挟む

「初めましてフロウ王子。リザ・テレシア・ラブリエラと申します」
「初めまして、リザ王女。フローリアン王国第二王子フロウ・ブレイン・フローリアンです。お噂通り、とても美しいお方ですね」

 その噂は娼館でのものと同じじゃないわよね!?
 遠くフローリアン王国にまでビッチ王女説が流れるなんてたまったもんじゃないわ。

 今日はついに最後の婚約者候補、フローリアン王国第二王子、フロウ王子との面談日だ。
 今朝ラブリエラ王国に入国したフロウ王子一行は、今日から一週間この城に滞在する。

 フロウ王子は一回目の人生で結婚した時と変わりないわね。
 麗しくキラキラと輝く長い金髪に夕焼け色の瞳。
 滑らかな褐色の肌。
 一つ一つのしぐさが優雅で、どこか浮世離れした雰囲気。
 花の国の王子様にぴったりよね。

「父がフロウ王子にお会いしたいと言っていたのですが、あいにく今日は体調が優れず……申し訳ありません」
「いえ、大切な陛下の御身。お身体、大事になさってください」

 花が好きな父の個人庭園は、フロウ王子が自らデザインし、送ってくださった花で作り上げた庭園だ。
 フロウ王子の庭園デザインのセンスは抜群で、世界中にファンがいるらしい。
 もちろん父もその一人で、王子から定期的に送られてくる花を植え替えるのもメイドに任せることなく父自らの手で行っている。

「フロウ王子の庭園の手入れは父が誰の手も借りることなく一人で行っているのですよ。そしてそんなお気に入りの庭園で、母と共にお茶をするのが父の一日の楽しみですの」
 一回目の人生では見ることのできなかった光景。
 花に囲まれて幸せそうに母と語り合う姿は、二回目があってよかったと思わせてくれる。

 一回目では私が2歳の頃に馬車の事故で亡くなったお母様。
 二回目では馬車の事故になんて遭うことなく元気に生き残っているけれど、私を産んだ時の後遺症でもう二度と子をなすことができなくなって、そのことについていろいろネチネチと言ってくる輩も多い。
 そのせいか、お母様が表公務に出ることはあまりない。
 基本城に籠って、書類のお仕事をされている。

 とはいえ、お父様のお仕事もお母様のお仕事も、今やほとんどを私が受け持っているのだけれど。

「こちらの庭もとてもお綺麗ですね。あぁ、この花はラブリエラ王国にのみ生息するものですね。実物は初めて見ましたが、素晴らしい……!!」
 興奮したように目の前で咲き乱れるピンク色の木花を見上げるフロウ王子。
 さすが花の国の王子様。本当に花がお好きなのね。

「ふふっ。ありがとうございます。この木はリザリスという木で、今ぐらいの暖かい気候になるとこのようにピンク色の花を咲かせるのです。ほら、花びら一枚一枚がハートになっていて可愛らしいでしょう? ですがとても繊細で、空気がきれいな場所でしか育たない神聖な木なのです。この国の国花とされ、大切に保護されているのですよ」

 ちなみに私のリザという名は、このリザリスから取ってつけられたらしい。
 こんな神聖な木の名前をつけてもらっといてビッチ悪役王女になるとか、あらためて考えると残念過ぎる。

「神聖な木……。あなたにぴったりですね」
「え?」
「リザという名前は、この木からつけられたのでしょう? 陛下からの書状に書いてありましたから。うちの娘は神聖で美しいこの木から名前を取ったおかげか、とても美しく優しい子に育っている、とね」
 親ばかぁぁぁあああ!?

「ぶふぅっ!! ごほんっ、ごほんっ、失礼」
 フロウ王子の言葉に、私の背後で控えていたセイシスが噴き出す。
 くっ、後で覚えてなさいよセイシス……!!
 名前負けしてるのは私が一番よくわかってるわよ!!

「お、お恥ずかしい限りですわ。ほ、ほほほ……」
 精いっぱいの笑顔を張り付けてから特大の猫をかぶる。

「フロウ王子は、本当にお花が好きなのですわね。お花を見る目が活き活きしていますもの」

「ふふ。これはお恥ずかしい。国で見ない花につい興奮してしまいました。花は大変奥深い。美しいだけでなく、扱いによって薬になるものもあれば毒になるものもある。一年を通して姿かたちを変えながら、我々に季節を告げてくれる。私はそんな花にあふれた美しいフローリアンに生まれたことを、誇りに思っています」

 あぁそうだ。
 一回目の人生もそうだった。
 フロウ王子はフローリアンをとても愛していた。

 だからフローリアンの大不作で飢きんに陥った際はものすごく落ち込んでいたし悔しがっていたのよね。
『私が国王になっていたならば、もっと違っていたのに』って。

「フロウ王子、フローリアンはやはり、開けた貿易はなさらないのですかしら?」
 少し探ってみよう。
 もしかしたら将来訪れるはずの飢きんを防げるかもしれないし。

 私の問いかけに、フロウ王子は少しだけ視線を伏せ、口を開く。

「そうですね……。現時点では、父の意向はそのようですね。兄であるルクスはどちらかというと父寄りの考えで、フローリアンはフローリアンの純粋な文化を守るため、極力他国との交流は避けると……」
「あなたは?」
 兄や父の意向はそうだとしても、フロウ王子はきっと違う。
 一度目の彼を見てきたからこそわかる。

「私は……そうですね。開けた貿易はある程度必要だと考えています。国にもしものことがあった時、頼ることのできる信頼のおける国があることはとても大きな分岐になると思うからです。何かあった際、物資の行き来がある国があれば、少なくとも国民が生き延びるだけの最低限の物資には困らないでしょうからね」

 やっぱり。
 この人は本当に国を愛しているだけではない。
 国の行く末を憂いてもいる。
 何とかしたいと、心から思っている。

「あなたとのこの縁談も、他国との縁をつなぐという意味では有益なものです」
「!!」

 そうだ。
 他国との婚姻は国と国の関係を強くする。
 まさかそれをその相手に大っぴらに言ってくるとは思わなかったけれど。

「ですが……私は、美しく聡明なあなたとなら、国のことがなくともうまくやっていけると思っていますよ」
「っ……ありがとう、ございます」

 一回目の時もそうだった。
 フロウ王子は私にとても優しかった。
 それはどの夫もそうだったけれど、彼だけは他の夫のような私を崇拝するかのような盲目的なものは感じられなかった。

 そんな彼も、私を刺した一人、なのよね──。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様

日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。 春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。 夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。 真実とは。老医師の決断とは。 愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。 全十二話。完結しています。

処理中です...