私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華

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私の心の薬箱

波乱のパーティーの幕開け

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 ドレスを受け取ったあの日。
 結局名前呼びになった以上のことはなく、夜中に未婚女性の部屋にいつまでもいるものではないと言って彼は帰った。
 そして翌日も何事もなかったかのようにお互いの仕事をし、創立パーティ当日となった。

 都内のホテルで行われるだけあって豪華な食事が並び、社員だけでなく他社の重役たちも招待されている。

 私は雪兎さんにもらったドレスとアクセサリーを身にまとい、受付を済ませ、只今ぼっちで待機中だ。

「……視線が痛い」

 目立たないようにと隅に張り付き壁と化しているけれど、ちらちらと私の方に視線が向けられる。
 それもそうか。
 くらげ女がこんな綺麗なドレスを着て着飾っているんだから。
 物珍しいのだろう。

 肝心の雪兎さんは会場の真ん中で来賓者へのご挨拶中。
 可愛い女の子たちを引き連れて。
 その中にはちゃっかりと佐倉さんも混ざっている。

 まぁそうよね。
 今日の雪兎さんの姿、いつにも増してカッコいいもの。
 モヤモヤする。


「あ、いたいた!! 水無瀬ちゃーん」
「皆川さん?」

 人の波をかき分けながら駆けよってくるのは、先日振りの皆川さんだ。

「そのアクセサリー、よく似合ってるわ。ちゃんと渡せたのね、雪兎」
「はい。ありがとうございます。その、色々と気にしていただいて……」

 皆川さんが雪兎さんに私が誤解しているかもしれないと言ってくれなければ。
 そして戸籍謄本を持たせてくれなければ。
 私はずっと誤解したまま、雪兎さんと別れてしまっていただろう。

「ふふ、いいのよ。未来の義妹のためですもの」
「み、未来の義妹!?」

 ものすごくいい笑顔でそう言った皆川さんに、私は思わず声を上げる。

「これまで雪兎は訳あって仕事に集中してこなきゃいけなくて、私も心配してたんだけど、水無瀬ちゃんがいてくれるなら安心ね」
「え?」
「ふふ、そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫。すぐに適当にあしらって、可愛い彼女のもとにかけつけるわ」

 にっこりと笑って私の頭を撫でる皆川さん。
 それが妙に雪兎さんと重なって、あらためて二人は双子なのだと感じる。

「それじゃ、私も運営側の手伝いがあるから、失礼するわね」
「あ、はい。ありがとうございました」

 皆川さんは伝言だけ伝えると、颯爽とその場を後にした。


 ──とはいえ……あのハーレム状態、何とかならないものか……。
 自分が雪兎さんの彼女としてまだまだ自信が無いのが悔しい。

「はぁ……」
 私が小さくため息をついたその時──。

「海月」
 声をかけてきた人物を見て、、私は眉を顰めた。

「優悟君……。何の用?」
「冷たいな。付き合ってた仲じゃんか」
「言ったでしょ? 罰ゲームでの交際なんてノーカンだって」

 へらりと笑った優悟君に盛大なため息をつきたくなるも、それを飲み込むと私はただ淡々と言葉を返した。

「お前、本当に変わったよな。なぁ、やっぱり俺の彼女に──」
「まだ懲りてなかったか? 村上」

 優悟君の言葉を遮って、冷えた声が私たちの間に響いた。

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