21 / 25
すれ違いと確かな約束
私だけの席
しおりを挟む誤解が解けたところで、私は今のとんでもない状況に気づいてしまった。
私……部屋着じゃん!?
しかもこんな夜に部屋へ男性を連れ込むだなんて……!!
「言いそびれたが……可愛い部屋着だな」
「っ!?」
「部屋も女の子らしくて可愛い部屋だし」
「はぅっ」
「お前にぴったりだ」
「ぐはぁっ!!」
急に羞恥心が襲ってくるのを耐えるように口をキュッと引き結ぶと、雪兎さんが私の身体を丸ごと抱きしめた。
「ちょ、しゅ、しゅに──」
「雪兎」
「ゆ、雪兎さん!! 何して──」
「可愛い彼女をチャージしてる」
「~~~~っ!?」
駄目だ。
雪兎さんが甘くてとろけそう。
私の力がだんだんと抜けて文字通りとろけ始めてから、主任が思い出したように声を上げた。
「っと、忘れるところだった。海月、これ」
私の身体をそっと解放し、鞄と一緒に持っていた取っ手付きの大きく平らな箱を差し出す主任。
「何ですか? これ」
「開けてみろ」
首をかしげながら言われた通りその箱を開けてみると、桜色の綺麗なパーティドレスが包装されていた。
「綺麗……」
「明後日の創立パーティ、これを着て出席してほしい。アクセサリーはこれを」
そう言って懐から化粧箱を取り出し開くと、中には綺麗な真珠とダイヤモンドのネックレスとイヤリングのセットが入っている。
「これを買いに行くのを、由紀に付き添ってもらっていたんだ。お前を驚かせたくてな」
いたずらっぽく笑う主任に、私はぽーっとしていた自分の頬を叩いて意識を戻した。
「で、でもこんな高級そうなもの──」
「俺に考えがある。お前との未来のために、いろいろ考えた。虫は一気に絶滅させるのが良い、とな」
虫?
一体何で虫の話になった?
「当日はこれを身に付けて来てくれ。悪いことにはならない。だから……俺を信じてほしい」
真剣な瞳でじっと見つめられると、全てがどうでもよくなりそうになる。
私との未来のために──。
主任は私のことを本当に思ってくれている。
私のことを気にかけて、家まで来てくれて、話をしてくれた。
この人のことは──信じられる。
「……わかりました。明後日、これでパーティに参加します」
「!! ありがとう」
「でも、一人にしないでくださいね?」
職場の人達の前で親しくすることはできないだろうけれど、こんな綺麗な服を着させたまま一人にはしてほしくない。
「あぁ。お前の席は、俺の隣だ。ずっと、な」
「っ……」
その確かな約束は、意外な形で守られることになろうとは、この時はまだ考えもしなかった。
17
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。
高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。
婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。
名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。
−−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!!
イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる