私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華

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すれ違いと確かな約束

海月の想い

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「主任……何で……」

 私はこの部屋に主任を招いたことはおろか、どこに住んでいるかも言ったことが無かったのに。
 何で主任は、私の部屋にいるの?
 何でそんなに……怖い顔をしているの?

「会社の情報網使った。ったく……電話、何で出なかった?」

 静かに発せられたその言葉が、空気をピリつかせる。
 怒っている。
 それが確かにわかる。

 だけど私は、謝罪することなくただ視線を伏せて、可愛げもなく言葉を発する。

「出たくなかったからです」
「っ、おい水無──」
「デートの邪魔もしたくはなかったですし」
「!? デート、って……」
「皆川さんとのデート中に私なんかに声をかけちゃだめですよ、主任」
「お前……」

 淡々と、抑揚のない声で言葉を返せば、主任が息を呑む音が聞こえた。
 そして──。

「はぁ……やっぱり由紀の言ったとおりだったか……」
 由紀。
 再び彼の口から出てきた名前に、私はもう限界だった。

「何のことかわかりませんけど、帰ってください!! 私は、皆が馬鹿にしていい存在じゃない!! 罰ゲームで告白したり、からかってやろうとかで付き合われて喜ぶような馬鹿じゃない!!」

 こんな大きな声、初めてかもしれない。

 いつも誰かに気を使いながら生きてきた。
 顔色をうかがいながら、母を傷つけないように、母に嫌われないように、皆に嫌な思いをさせないようにと、息を殺して生きてきた。

 だけどもう、良いよね?
 だって私の人生は──私のものだから──。


「水無瀬……。……変わったな」
「へ?」

 ぴりついた空気の中、主任が言って、空気が揺らいだ。
 さっきと変わって柔らかい表情。
 おおよそ上司に発するような物言いでなかったにもかかわらず、どこか嬉しそうなその表情に、私は眉を顰めると、私の身体は一瞬にしてすっぽりと主任の大きな腕に包み込まれてしまった。

「っ、は、離してくださいっ!!」
「嫌だ」
「嫌だ、って……。彼女がいるのに何で──」
「自分の彼女抱きしめて何が悪い?」
「はぁ!? 私じゃなくて皆川さ──」
「冗談はやめてくれ。あれは身内だ」
「へ?」

 み……うち……?
 振り払おうとしていた動きを止めた私は、目を大きく見開いて、私を抱きしめる男を見上げた。
 困ったように、でも愛おしそうに私を見下ろす主任の顔に、思考が付いて行かない。

「やっぱり勘違いしてたか」
「勘違い?」
 私の言葉に、主任は深くうなずいて口を開いた。

「由紀は俺の彼女なんてもんじゃない。あれは俺の──双子の姉だ」
「!?」

 双子の──姉!?

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