私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華

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すれ違いと確かな約束

その関係は──

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 それからの仕事はもう散々だった。

 やるべきことが頭に入ってこないし、主任に指示を頂いている時もぼーっとして叱られてしまったし。
 頭の中にめぐるのは、トイレで聞いたあの話だった。

 本当に主任は皆川さんと付き合っているんだろうか?
 結婚前提に?
 私とのことは全部嘘だったのか?

 考えれば考えるほど泥沼にはまって出られない。

 そういえば明後日は会社の創立パーティだっけ?
 もちろん皆川さんも来る、んだよね……。
 行きたくない。
 だけど行かなきゃ。
 一応仕事の一環だもの。

 家に帰ったらパーティで着ていくスーツを出しておかないと。
 友達がいないから結婚式に呼ばれることもなくて、ドレスなんてもの家には無いから、私はスーツ参戦だ。
 せめて就活生みたいにならないように、胸につけるコサージュくらいは買っておこう。

「はぁー……。帰ろ」

 私は深いため息をついてから立ち上がった。
 その時だった。

「水無瀬」
「主任……」

 今一番会うのが一方的に気まずい人──主任が私に声をかけた。


「あの、今日はすみませんでした……!! 少し、ぼーっとしてしまって……。主任の指示をうまく聞き取ることが出来なくて……」
 
 彼の姿を認めるなりに、私は彼に向って深く頭を下げ、今日のことを謝罪した。
 仕事を大切にする主任だ。
 これで見放されたら、私は──。

「あぁ、いや。気にするな。不調な時は誰にでもある。だが、何かあったのか? お前が仕事に関してぼーっとするのは珍しい」

 貴方の噂を聞きました!!
 なんて、言えないチキンな私は、無理矢理に笑顔を作ってみせると、首を横に振って「何でもないですよ」と答えた。


「あの、主任。今お帰りですか?」
「あぁ。今日は少し用があってな」
「用?」
「あぁ。少し寄らなければならない店が──」

 そこまで言いかけて、主任の言葉は落ち着いた色気のある声に阻まれた。

「雪兎、おまたせ」
「!?」

 現れたのは先ほどまで頭の中をめぐっていた中心人物──皆川由紀さん。
 相変わらず綺麗な髪をなびかせて、きらきらと輝く皆川さんに、思わず目を見開いたまま動けなくなってしまった。

 雪、兎……?
 主任の下の名前、よね?

 何で皆川さんが、主任のことを下の名前で呼んでいるの?
 何で主任は、それを受け入れているの?

 やっぱりあの噂は──本当?

 頭の中を靄が包む。
 信じたいのに、完全に信じることができない。


「いや、俺も今終わったところだから」
「そう? それならよかった。あれ? 水無瀬ちゃん?」

 私の存在に気づいた皆川さんに、私はできる限りの笑顔を作って「ご無沙汰してます、皆川さん」と挨拶をする。

「知り合いだったのか?」
「うん。この子の仕事の話ってすごく興味深くて、勉強になるのよねー。雪兎もそう思わない?」
「あぁ。水無瀬の発想力には、いつも助けられている」
「もー、相変わらず言い方が硬いんだから!! 素直に水無瀬ちゃん最高ーって言ったら良いのに」
「お前なぁ……」

 すごい。皆川さんがあの主任を押してる……。
 こんな主任、初めて見た。
 それだけで二人の関係が薄っぺらいものではないことが伝わってくる。

「ふふ。水無瀬ちゃん、雪兎は厳しいだろうけど、とっても優しい子だから、嫌わないであげてね?」
「おい由紀……」

 由紀!?
 彼女(多分)の私のことは未だ名字で【水無瀬】だというのに、呼び捨て──。
 やっぱり、あの噂は……。
 だめだ。
 ここに居ない方が良い。
 ここに居たら、私は──自分の涙を、抑えられない。

「そう、ですね……。優しい人だって、知ってます。だから、嫌いになんて、なれない」
「水無瀬?」

 声が震える。
 もう少しだけもって。私の涙腺。

「お二人でお出かけのようですし、私は帰りますね。失礼します」
「お、おい水無瀬!!」

 私は早口でそれだけ言うと、バッグを片手に部屋から逃げるように走り去ってしまった。

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