私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華

文字の大きさ
上 下
16 / 25
すれ違いと確かな約束

不穏の足音

しおりを挟む

 思いが通じ合った京都出張から2週間。

 お付き合いを始めたとて、特に変わったことはない。
 いつも通りの距離感で仕事をこなす毎日だ。

 だけど日曜日は一緒に出掛けたり、食事をしにカフェに行って、たくさん話をしたり、ちゃんとデートしている。
 好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きなもの、好きな本……。
 最初は緊張したけれど、話しているとあっという間に時間が過ぎて、次の休みが待ち遠しくなる。

 職場ではあんなにいつも通りなのに、二人の時はとろけそうなほどに甘い顔を見せてくれる主任に、いつか心臓が壊れてしまうのではないだろうかというほどに私の心臓は鳴りやむことがない。
 それほどいつも通り、な、はずだった──。

「ねぇねぇ、最近和泉主任、表情柔らかくなったと思わない?」
「思う―!! この間笑ってるとこ見かけたけど、ヤバかったー!!」
「ちょっと前から秘書課の皆川さんと付き合ってるって聞いたよ!! 結婚前提なんでしょ?」
「えぇ!? そうなの!? 美男美女カップルじゃん!!」

 トイレの個室の外から聞こえてきたそんな言葉に、心臓が飛び上がった。


 皆川由紀さん。
 秘書課の中だけでなく、この会社で一番華やかな皆のマドンナ。
 キラキラしていて、それでいて誰にでも分け隔てなく優しく接する、まさに女神だ。

 私も何度か声をかけられたことがあるけれど、他の人達のような見下すような感じではなく、対等な人間として仕事内容について話し合わせてもらった記憶がある。

 そんな彼女と主任が、付き合ってる──?
 そんなまさか。
 だって私……何も知らない。
 聞いてない。

 大丈夫。
 だって主任は、私を好きだと言ってくれたもの。
 大丈夫。
 だって主任は、毎日家に帰って連絡をくれるし、おやすみの日にはデートにも誘ってくれる。

 ──でも本当に大丈夫?

 優悟君も、最初の一ヶ月は待ち合わせをして一緒に帰ったよ?
 連絡もくれたし、おやすみの日にはデートだってした。
 だけど全部、嘘だった。

 もしかして主任も──?
 疑心暗鬼で何もわからない。

 だって無条件で信じられるほど、私は主任のことをよく知らない。

 冷たく見えてじつはとっても優しい人だということ。
 ハンバーグと甘いお菓子が好きだということ。
 辛いものは苦手だということ。
 動物が好きだけど顔を見たらすぐに逃げられるということ。
 休日は家で推理小説を読んでいるということ。

 そんな浅い部分しか、私は知らない。

 主任と皆川さんの噂を否定できるだけの関係を、私は築けていないんだ……。

 綺麗で、優しくて、仕事もできる。
 皆川さんなら、主任とはお似合いなのかもしれない。

 私は誰もいなくなったであろう個室の外に出て、自分の顔を鏡で見た。

「ひどい顔」

 表情の抜け落ちた顔を見て自嘲気味に笑うと、私は一度大きく深呼吸をして、顔に力を入れた。

「行こう。まだ仕事が残ってる」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

処理中です...