私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華

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近づく距離

独占欲

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「ふぁっ!?」
「これは……」

 部屋に入ってすぐ、その光景に私たちは言葉を失った。

 風情のある畳座敷の部屋。
 奥の窓から見えるのは、日本庭園をモチーフにした露天風呂。
 そして開け放たれた部屋の向こうには、並んで敷かれた二組の布団。

「え、えーっと……」
「まぁ、男女で同じ部屋、となれば、カップルと勘違いするのも仕方ないか」
「かっ──!?」

 カップル!?
 確かに宿泊者の名字は別々だから夫婦ではないし、それ以外で一緒の部屋なんて早々泊まるもんじゃないだろうけど……!!

「俺はこっちの寝室でパソコンしてくるから、ゆっくり入ってこい」

 変わらない表情でそう言ってから、主任は荷物をもって寝室に入り、ふすまを閉めた。
 私が気を使わないようにという配慮だろう。

 こんな紳士で完璧人間の主任に気を遣わせてばかりではいけない……!!
 さっさとお風呂に入って来よう。
 私は荷物を持つと、一人露天風呂へ向かった。

***


「待たせた」
 主任とお風呂を交代してしばらくして、主任が露天風呂から帰って来た。

 私がお風呂から上がった時には、隣り合わせでくっついていた布団は一定の距離を開けて並べなおされていた。
 きっと主任がしてくれたんだろう。
 うん、やっぱり紳士だ。

「おかえりな──!?」

 色気が……色気が溢れている!!
 ほんのり濡れた髪と上気した顔。
 浴衣から覗く逞しい胸元が目の毒です主任……!!

「? どうした?」
「へ!? い、いえ、何も!!」
「そうか? 髪、乾かしてくる」
「あ、は、はは、はいっ!!」

 慌てて視線を逸らすも目に焼き付いて離れない主任の色気溢れる姿に、顔だけじゃなく身体全体が熱くなる。
 落ち着け私。
 あれは鬼だ。
 人じゃない。
 騙されるな。
 魅入られるな。

 主任がドライヤーで髪を乾かしている間、必死で自分を落ち着けようとするも、なかなか霧散されない邪《よこしま》な映像。

「会社への連絡はしておいたから、今日はもう寝るぞ。お前も酒飲みすぎて身体辛いだろう?」
 洗面所からドライヤーの音と共に主任の声が飛んできた。

 主任がもう少し早くに助け出してくれたらこんなに飲んでません、とは怖くて言えない。


「は、はい!! じゃぁ……失礼して……」

 そそくさと横になり布団をかぶる。
 よし、このまま寝てしまえ私。
 そして朝になったらさっさと帰るぞ。

「……」

 眠れない……。
 困った。
 早くしないと主任が──。

「水無瀬? 寝たのか?」

 帰ってきた……!!!!


「ね、寝てます!! ぁ……」

 私のばかぁぁあああ!!
 何馬鹿正直に返事しちゃったの!?
 寝たふりでもしちゃえばそのまま朝になるのを待つだけでよかったのに!!
 墓穴掘った……!!

「ぷっ……お前、寝言にしても個性的すぎだろ。何だよ『寝てます!!』 ──って」
 小さく噴き出した主任の声に、私はゆっくりと鼻まで布団を下げて顔をのぞかせる。

 うあぁ……恥ずかしい……。
 穴があったら入るからそのまま埋めてほしい……。

「今日はご苦労だったな。呑みすぎて気持ち悪くないか?」
 少し距離のできた隣の布団にのそのそと潜り込んで、主任が私を見た。

 いつもきっちりセットされた髪をはねさせ無防備に笑う主任はどこか幼く見えて、思わず胸が高鳴る。

 思えば、あの日からいろんな主任の姿を見させてもらっている気がする。
 それまではただの、ものすごく怖い鬼主任のはずだったのに。

 優しい顔も。
 少し策士な悪い顔も。
 真剣に話を聞いて考えてくれる頼れる顔も。
 こんな風に少しだけ幼い無防備な顔も。

 私だけの特権、だったらいいのに。











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