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変わり始めた世界
新しい私
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”朝からごめん。俺達別れよう”
優悟君から、そんな短いLIMEが早朝に届いた。
不思議とそれを見ても、私の感情は無だった。
私はすぐに”わかった”と、優悟君のよりもはるかに短いLIMEを返して、私たちの関係は終わった。
結局昨夜遅くまで、和泉主任は私の仕事を手伝ってくれた。
どうにか今日の会議に間に合うことができたのは、主任のおかげだ。
たくさん泣いて、たくさん話を聞いてもらって、私の中でそれが一つのきっかけになったような気がした。
自分を変える、きっかけに。
私は主任に壊された伊達メガネを鏡台に置くと、丁寧に化粧をし、長い髪を整え、パチンッ、と両頬を自分の両手で叩いて気合を入れた。
「よし。大丈夫。私は、私の人生を大切にする」
そう、チェストの上の母の写真に目を向け、微笑んだ。
「お母さん……。行って来るね」
そして私は、鞄を手に家を出た。
***
エントランスに入ると途端に胸が苦しくなってきた。
ゲームが終わっても、彼は私と同じ部署にいる。
メガネを外した私を見て、またいろいろ言われないだろうか?
いくら陰口に離れているとはいえ、気持ちのいいものではない。
怖い。
だけどそうも言っていられない。
私は大きく深呼吸すると、部署へ続く扉を開けた。
「おはようございます」
そろりと部屋へ入って朝の挨拶。
すると、いつもならまばらに返ってくる挨拶が全く返ってこないどころか、全ての音が掻き消えてシンとした空間に変わってしまった。
すでに出社している同僚たちの目が、私を驚いたように見つめる。
え……何?
私、そんなに変?
視線にさらされたまま固まっていると、遠くのデスクから優悟が私に近づいてきた。
皆の前で私に近づいてくるなんて、仕事の内容確認以外では初めてじゃないだろうか。
私の顔に、身体に、無意識に力が入る。
「君、どこの部署の子? 誰かに用事? 俺が聞いてあげるよ」
え………………?
まさか、私が海月だって、気づいてない?
いやまさかね。
だって嫌々だとはいえ、一応1ヶ月はデートしたり一緒に帰ったり、ちゃんとお付き合いをした彼女よ?
それを気づいてないなんてこと……。
「えっと、その……」
「俺は村上優悟。君は?」
嘘!? 気づいてないの!?
私の存在っていったい何だったんだろう……。
途端に虚無感が襲ってくる。
私が言葉を失っていたその時──。
「おはよう、水無瀬。昨夜は遅くまでご苦労だったな」
私の背後で、低く通る声が響いた。
「主任……」
「み、水無瀬、って……くら──いや、海月《みつき》!?」
主任の言葉に目を大きく見開いた優悟が声を上げる。
くらげと言いかけて変えても今更だ。
あほらしい。
「村上君、おはよう」
敢えて下の名前ではなく上の名前で挨拶をする。
大丈夫。
私は、私を大切に生きるって決めたんだから。
「主任も、おはようございます。昨夜は遅くまでありがとうございました」
「いや。それより、会議の時間が急遽早まった。昨日の資料、コピーしてもらえるか?」
「あ、はい!! すぐに全員分コピーしてお持ちします!!」
「頼んだ」
相変わらず淡々とした物言いだけれど、前みたいに怖くは感じない。
主任の優しさがわかるから。
「お、おい海月……」
「ごめん村上君。コピーしに行かなきゃだから」
私はそう断りを入れると、目の前を陣取っていた優悟君をすり抜けて自分のデスクに鞄を置き、昨夜遅くまで仕事をして完成させた資料を手にコピー室へ向かった。
その間、私の背を優悟君がずっと追っていた事に、気づかないふりをして。
優悟君から、そんな短いLIMEが早朝に届いた。
不思議とそれを見ても、私の感情は無だった。
私はすぐに”わかった”と、優悟君のよりもはるかに短いLIMEを返して、私たちの関係は終わった。
結局昨夜遅くまで、和泉主任は私の仕事を手伝ってくれた。
どうにか今日の会議に間に合うことができたのは、主任のおかげだ。
たくさん泣いて、たくさん話を聞いてもらって、私の中でそれが一つのきっかけになったような気がした。
自分を変える、きっかけに。
私は主任に壊された伊達メガネを鏡台に置くと、丁寧に化粧をし、長い髪を整え、パチンッ、と両頬を自分の両手で叩いて気合を入れた。
「よし。大丈夫。私は、私の人生を大切にする」
そう、チェストの上の母の写真に目を向け、微笑んだ。
「お母さん……。行って来るね」
そして私は、鞄を手に家を出た。
***
エントランスに入ると途端に胸が苦しくなってきた。
ゲームが終わっても、彼は私と同じ部署にいる。
メガネを外した私を見て、またいろいろ言われないだろうか?
いくら陰口に離れているとはいえ、気持ちのいいものではない。
怖い。
だけどそうも言っていられない。
私は大きく深呼吸すると、部署へ続く扉を開けた。
「おはようございます」
そろりと部屋へ入って朝の挨拶。
すると、いつもならまばらに返ってくる挨拶が全く返ってこないどころか、全ての音が掻き消えてシンとした空間に変わってしまった。
すでに出社している同僚たちの目が、私を驚いたように見つめる。
え……何?
私、そんなに変?
視線にさらされたまま固まっていると、遠くのデスクから優悟が私に近づいてきた。
皆の前で私に近づいてくるなんて、仕事の内容確認以外では初めてじゃないだろうか。
私の顔に、身体に、無意識に力が入る。
「君、どこの部署の子? 誰かに用事? 俺が聞いてあげるよ」
え………………?
まさか、私が海月だって、気づいてない?
いやまさかね。
だって嫌々だとはいえ、一応1ヶ月はデートしたり一緒に帰ったり、ちゃんとお付き合いをした彼女よ?
それを気づいてないなんてこと……。
「えっと、その……」
「俺は村上優悟。君は?」
嘘!? 気づいてないの!?
私の存在っていったい何だったんだろう……。
途端に虚無感が襲ってくる。
私が言葉を失っていたその時──。
「おはよう、水無瀬。昨夜は遅くまでご苦労だったな」
私の背後で、低く通る声が響いた。
「主任……」
「み、水無瀬、って……くら──いや、海月《みつき》!?」
主任の言葉に目を大きく見開いた優悟が声を上げる。
くらげと言いかけて変えても今更だ。
あほらしい。
「村上君、おはよう」
敢えて下の名前ではなく上の名前で挨拶をする。
大丈夫。
私は、私を大切に生きるって決めたんだから。
「主任も、おはようございます。昨夜は遅くまでありがとうございました」
「いや。それより、会議の時間が急遽早まった。昨日の資料、コピーしてもらえるか?」
「あ、はい!! すぐに全員分コピーしてお持ちします!!」
「頼んだ」
相変わらず淡々とした物言いだけれど、前みたいに怖くは感じない。
主任の優しさがわかるから。
「お、おい海月……」
「ごめん村上君。コピーしに行かなきゃだから」
私はそう断りを入れると、目の前を陣取っていた優悟君をすり抜けて自分のデスクに鞄を置き、昨夜遅くまで仕事をして完成させた資料を手にコピー室へ向かった。
その間、私の背を優悟君がずっと追っていた事に、気づかないふりをして。
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