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鬼畜上司がおかしい
鬼畜上司が優しいです!?
しおりを挟む「……私の父は、他に女性を作って私が小学5年生の頃に私たちを捨てて出ていきました。その後すぐに離婚した母は、私を女手一つで一生懸命育ててくれた。でも……時々、私の顔を見て悲しそうに笑うんです。私は……私の顔は、父親によく似ていたから……」
「!! まさかそれで……?」
主任が息を呑んでそう口にすると、私は彼をまっすぐに見上げて頷いた。
「大きいからしっかりと顔が隠れるこの伊達メガネがあれば、母は私を見ても辛くはならないでしょう? 少しでも、母の心を楽にしたかった。母は病気になって死んでしまったけれど、それでも死の間際、確かに私を見て笑ってくれたんです。このメガネの事、周りからいろいろ言われたりもしたけど、でも、後悔はないです」
母の笑顔を、最後に見ることができたんだから。
「水無瀬……。……んじゃ、今はもう必要ないな?」
「へ?」
不穏な言葉が聞こえたと同時に──バキッ──と硬い音が響いて、見れば主任の手にあった私の伊達メガネが真っ二つに割れていた。
「あぁあああああっ!? な、何するんですか!?」
「いや、だって、もう必要ないだろう? 気にする相手もいないんだから」
「そ、それは……」
そんなにはっきりと言わなくても良いのに。
まだお母さんの死を受け入れられない私に。
やっぱり主任は……鬼だ。
私が不貞腐れるように心の中で吐き捨てた刹那、私の左頬に大きな手が触れた。
さっきまでのように強引に顔を向かせるんじゃない。
優しくただ触れるだけのその手に、私は思わず息を呑む。
「俺は、このまま水無瀬がつらい思いをし続ける方が、お前の母親は苦しむと思う。俺もお前がつらいばかりなのは見ていたくないしな」
「っ、な、なんっ……」
「だからさ、見返してやれ。お前の本来の姿で。少しだけ勇気を出して自分を変えてみろ。お前の人生はお前のものだ。村上のものでも、佐倉やお前に仕事を押し付けるやつらのものでもない」
「!!」
いつも厳しい主任の目もとが、ふわりと緩んだ。
「お前は、お前の人生を大切にしろ。俺が一緒に大切にしてやるから」
「~~~~っ」
鬼畜上司が優しい。
こんなのいつもの主任じゃない。
きっとそのせいだ。
私の目から、また大粒の雫が流れ出したのは──。
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