私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華

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鬼畜上司がおかしい

素顔、見られました

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「──と、いうわけで……」

 あれだけ流していた涙はぴたりと止まって、ただただ、無、だった。
 話し終えて顔を上げれば、そこには一層険しさを増した主任の顔がすぐそこにあった。

「ちっ……クズが……」
 今何て!?
 主任の口からどすのきいた声と共に暴言が聞こえてきたのだけれど気のせいだろうか?

「あ、あのしゅに──っ」
 私の言葉をさえぎって、主任は私の手を自分の方へと引き寄せ、私の身体をすっぽりと長い腕で抱きしめた。

 え……?
 何?
 何で私、鬼主任に抱きしめられて……?

 ほのかに香るすっきりとした香水の香りが心地いい。
 安心感が私を包み込む。

「んな顔してんな。悲しい時や苦しい時は泣いたらいい。って、最初にそれを邪魔したのは俺か。これはその詫びだ。特別に胸貸してやるから、しっかり泣け」
 「っ……なんですか、っ、それ……っ」

 滅茶苦茶な言い分なのに、思わず頬が緩んで、私の目からまた熱いものが流れ落ちた。

 
 
 私は泣いた。
 こんなに泣いたのは、高校生の時に女手一つで育ててくれた母が亡くなって以来だ。

「落ち着いたか?」
 優しい声が頭上から落ちて、私はふと我に返った。
 そして──。

「も……申し訳ありませんでしたぁぁああああっ!!」
 逞しいその腕から抜け出した私は勢いよく主任の目の前へとスライディング土下座をかました。

 あぁっ、私、鬼の主任になんてことを……!!
 スーツ私の涙でべっちゃりだしっ!!
 主任の前であんな醜態……っ!!
 穴があったら入りたい……!!

「とりあえず落ち着け。そして頭上げろ」
 そう言って強引に再び私の両頬に手を添えてググっと持ち上げる主任に、私の顔は強制的に主任の方へと向かせられた。
 そして呆けた私の隙をついて、主任は私の大きなメガネを取り外した──!!

「ぁっ、そ、それだめっ!!」
「うるせぇ。涙でメガネぐしゃぐしゃだろうが……って……え……」
「み、見ないでくださいっ」

 私の素顔を見た主任は目を丸くして固まってしまった。

「……」
「……」
 沈黙が痛い。

「レンズが軽すぎる。なぁこれ……」
「……伊達メガネです」

 バレた。
 そして見られた。
 ずっと、隠してきた顔を。
 母を捨てた父によく似た、この顔を……。

「こっちの方が良いんじゃないか? 何でわざわざ伊達メガネなんか……」
 不思議そうに大きな丸眼鏡をまじまじと見ながら、主任が尋ねる。

 もうここまで色々話したなら、今更隠すこともないか。
 私は一度深呼吸をすると、ゆっくりと口を開いた。




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