上 下
57 / 63
第二章

魔王城へ

しおりを挟む
 順調に逢瀬を重ね、アユムさんも少しずつこの世界に慣れ、町の視察の際には二人一緒に視察に行くようにもなった。

 時々二人で、アユムさんのお母様が持たせてくれたという缶詰食品の味を楽しんでは、故郷に思いを馳せる。
 だけどその食品もなくなってしまったら、アユムさんは大丈夫だろうか?
 つながりを感じられるものがなくなってしまった時が心配だ。

 私はどう頑張ってもアユムさんのお父様とお母様にはなれない。
 私はあちらで死んで、こちらに転生して、転生先の家族がいる。
 でもアユムさんには──それがない。

 世界を捨ててこっちに来てくれたからには幸せにしたいし幸せにするつもりだけれど、やっぱり何かあちらとのつながりを作ってあげられたら……。

 そう考えていた矢先だった。それを見つけたのは。
 城の宝物庫の整理をしていた際に見つけた、古い書物。
 何気なく開いてみてみると、あったのだ。私が探していたものが。

“魔王の魔石には、魔力を介さずとも通信できる不思議な力がある”

 ──という、なんとも魅力的な一説。

 魔力を介さずとも通信できる不思議な力がある……。
 そういえばあの世界観転移の魔石も、ダンジョンボスのドロップアイテムだったと聞く。
 なら、その魔王の魔石だって不思議な力があるかもしれない。

 アユムさんが討伐してすぐに魔王城の魔物ごと封印されたから、中にはアユムさん以外は入ったことがないのよね、確か。

 もし、あの中にその魔石があれば、魔力のないご家族と通信をつなげてあげられる……!!
 一週間後の結婚式だって、ご家族に見てもらうことができる!!

「よし──!!」
 思い立った私は机の引き出しから紙とペンを取り出すと、さらさらと一言書置きをしてから執務室を出た。

***

 ──魔王城があるのは、城からはるか遠くの森の中。
 普通に歩けば一週間もかかる場所だけれど、光の羽でひとっ飛びだ。
 私は空を飛び森の入り口で降りると、一人薄暗い森の中へ入っていった。

 一歩立ち入ればたちまち魔物に囲まれると言われていて、誰も近寄ろうとはしない。
 が──。

「えぇ……」
 私の場合は逆のようだ。
 ダンジョン攻略とスタンピードを強制討伐したという噂は魔物の間でも広まっているようで、気配は感じるものの様子をうかがって出ては来ない。

 時々姿が見えた状態で木の陰から覗いている魔物を見つけても、目が合った瞬間にそらされる始末。
 解せぬ……。

「見るくらいなら案内してくれたらいいのに」
 ぶつぶつ言いながらしばらく歩くと、黒く大きな城が目の前に見えてきた。

「おぉ……これが魔王城……。結構大きいのね。マドレーナ城よりも大きそうだわ」

 この城の中に、まだたくさんの魔物が封印されている。
 中から外には封印で出られないけれど、外から中に入ることのできる今の魔王城
 中には、私や聖マドレーナ国に恨みを持つ魔物も多い。
 タダならぬ殺気を感じる。
 そして何より──。

「薄暗くて不気味ね……」
 朝だというのに日の光が入ることのない森にそびえたつ黒い城。
 
 気味が悪いわ。
 何か、お化けでも出てきそう。
 ……出て、こないわよね?
 魔物は平気だけど、お化けは無理。
 実体がないものほど怖いものはないわ。

 でも、アユムさんもここに来たのよね、一人で。
 何の縁もゆかりもない世界のために。

「私がここでビビってる場合じゃないわよね」

 私はドレスを翻すと、愛棒相棒のモーニングスターを取り出し、そっと城の中に続く扉に手をかけた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

処理中です...