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第一章
Side歩~手紙~
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「……」
「……」
「……」
何と言ったらいいのか、わからなかった。
それはここにいる全員がそうなのだろうと思う。
皆、それぞれ俯き、れいなちゃんはこぶしを膝の上で握りこみ、守さんはぎりりと奥歯をかみしめている。
ティアラさんが……結婚。
それも自分を捨てた元婚約者と。
無理矢理に。
何とかして救い出したい。
この石があれば、可能ではある。
ただし使えるのは一度だけ──。
ということは、一度向こうに行けば俺は二度とこちらへは帰ってくることができないということだ。
家族との二度目の永遠の別れ。
落とした視線の先に、二人が来る前に読もうとしていたティアラさんからの手紙を見つけ、俺はそれに手を伸ばした。
「手紙……」
「それ、ティアラさんが書いた?」
「あー、総理とかが青ざめてたやつか!!」
俺はそれをかさりと音を立てながら開いて目を通していく。
「うわぁ……」
なんといえばいいのか……。
読み進めるうちに何とも言えない気持ちになってきた。
俺の変わっていく表情に興味をもった守さんが前のめりになって「何? 何が書いてあるの?」と尋ねる。
「あ、あぁ、読みますね」
そういうと俺は、手紙の内容を声に出して読み始めた。
「『あちらの世界──日本の責任者の方へ。
私はティアラ・プレスセント。
この名は聞いたことがあるでしょう。
そう、聖女です。
“ヨミ”の探索中、私は黒崎歩さんに出会い、行動を共にしておりました。
そのうちに坂巻れいなさん、木月守さんに出会い、彼らがなぜここに来ることになったか、あなた方が何をしようとしているのか、その事実を知りました。
人の生死を国民にゆだねるということは、ご自身もそうされても構わないということです。あなたに、あなた方に、その覚悟はおありでしょうか?
私は“ヨミ”のボスを、勇者であるアユムさんとともに討伐することに成功しました。それを成し遂げたのは、れいなさんや守さんのおかげでもあります。
なので私は、彼らに“祝福”の魔法をかけてそちらにお返すと同時に、“扉”は封印しました。
これでこちらがそちらに攻め入ることはありません。そちらもまた同じ。
私たちは、この“扉”に関するすべての法、制度を廃止し、 互いに干渉することなく過ごしていこうではありませんか。
だって“扉”が発見される前は──それなりに平和に暮らしていたのですから。
それと、三人ですが、どうか不当な扱いをされませぬよう。
すぐに家族のもとへと帰し、平和に穏やかに暮らせるように求めます。もしそれがなされない場合、私が彼らにかけた“祝福”が、あなた方をどうするか……保証はできませんので、悪しからず。
それでは、どうか賢きご判断を。
ティアラ・プレスセント』」
半ば脅迫交じりのそれに、聞き終えたれいなちゃんも守さんも顔を引きつらせていた。
らしい、といえばらしいが……。
「あいかわらず野蛮……。でも、ティアラさんのこういうところ、嫌いじゃない」
言い方はひねくれているが、れいなちゃんのその表情からはティアラさんへの信頼が感じられる。
「かっこいいな~、ティアラちゃんは!! ……うん、やっぱ俺がもらっとけばよかったな」
守さんのどさくさ紛れのとんでも発言に、それは聞き捨てならないとにらみを利かせる。
油断も隙も無い人だ。
「ティアラさんは、最後まで俺たちのために動いてくれていたんだな……」
俺は、あの人に何かしてあげられただろうか?
いや、何もできていない。
あの人のことを守りたくて仕方がないのに。
俺はただのうのうと、平和な世界で家族と友人にかこまれているだけなのだから。
「……」
「……」
しばしの沈黙が場を支配する。
それぞれが何をしたらいいのかわからない、何もできない、そんな自分と戦っているように思えた。
そしてそんな空気をぶち壊したのは、意外にも俺の母親だった。
「この子は、あなたの目指していたような人だったのね」
「俺が、目指していた?」
俺が聞き返すと、母は一瞬きょとんとして俺を見てから、くすくすと笑った。
「あら、あなたが剣道を始めたのは、誰かを守れるように強くなりたいからだったじゃない」
「え──?」
俺が剣道を始めた──理由……。
「……」
「……」
何と言ったらいいのか、わからなかった。
それはここにいる全員がそうなのだろうと思う。
皆、それぞれ俯き、れいなちゃんはこぶしを膝の上で握りこみ、守さんはぎりりと奥歯をかみしめている。
ティアラさんが……結婚。
それも自分を捨てた元婚約者と。
無理矢理に。
何とかして救い出したい。
この石があれば、可能ではある。
ただし使えるのは一度だけ──。
ということは、一度向こうに行けば俺は二度とこちらへは帰ってくることができないということだ。
家族との二度目の永遠の別れ。
落とした視線の先に、二人が来る前に読もうとしていたティアラさんからの手紙を見つけ、俺はそれに手を伸ばした。
「手紙……」
「それ、ティアラさんが書いた?」
「あー、総理とかが青ざめてたやつか!!」
俺はそれをかさりと音を立てながら開いて目を通していく。
「うわぁ……」
なんといえばいいのか……。
読み進めるうちに何とも言えない気持ちになってきた。
俺の変わっていく表情に興味をもった守さんが前のめりになって「何? 何が書いてあるの?」と尋ねる。
「あ、あぁ、読みますね」
そういうと俺は、手紙の内容を声に出して読み始めた。
「『あちらの世界──日本の責任者の方へ。
私はティアラ・プレスセント。
この名は聞いたことがあるでしょう。
そう、聖女です。
“ヨミ”の探索中、私は黒崎歩さんに出会い、行動を共にしておりました。
そのうちに坂巻れいなさん、木月守さんに出会い、彼らがなぜここに来ることになったか、あなた方が何をしようとしているのか、その事実を知りました。
人の生死を国民にゆだねるということは、ご自身もそうされても構わないということです。あなたに、あなた方に、その覚悟はおありでしょうか?
私は“ヨミ”のボスを、勇者であるアユムさんとともに討伐することに成功しました。それを成し遂げたのは、れいなさんや守さんのおかげでもあります。
なので私は、彼らに“祝福”の魔法をかけてそちらにお返すと同時に、“扉”は封印しました。
これでこちらがそちらに攻め入ることはありません。そちらもまた同じ。
私たちは、この“扉”に関するすべての法、制度を廃止し、 互いに干渉することなく過ごしていこうではありませんか。
だって“扉”が発見される前は──それなりに平和に暮らしていたのですから。
それと、三人ですが、どうか不当な扱いをされませぬよう。
すぐに家族のもとへと帰し、平和に穏やかに暮らせるように求めます。もしそれがなされない場合、私が彼らにかけた“祝福”が、あなた方をどうするか……保証はできませんので、悪しからず。
それでは、どうか賢きご判断を。
ティアラ・プレスセント』」
半ば脅迫交じりのそれに、聞き終えたれいなちゃんも守さんも顔を引きつらせていた。
らしい、といえばらしいが……。
「あいかわらず野蛮……。でも、ティアラさんのこういうところ、嫌いじゃない」
言い方はひねくれているが、れいなちゃんのその表情からはティアラさんへの信頼が感じられる。
「かっこいいな~、ティアラちゃんは!! ……うん、やっぱ俺がもらっとけばよかったな」
守さんのどさくさ紛れのとんでも発言に、それは聞き捨てならないとにらみを利かせる。
油断も隙も無い人だ。
「ティアラさんは、最後まで俺たちのために動いてくれていたんだな……」
俺は、あの人に何かしてあげられただろうか?
いや、何もできていない。
あの人のことを守りたくて仕方がないのに。
俺はただのうのうと、平和な世界で家族と友人にかこまれているだけなのだから。
「……」
「……」
しばしの沈黙が場を支配する。
それぞれが何をしたらいいのかわからない、何もできない、そんな自分と戦っているように思えた。
そしてそんな空気をぶち壊したのは、意外にも俺の母親だった。
「この子は、あなたの目指していたような人だったのね」
「俺が、目指していた?」
俺が聞き返すと、母は一瞬きょとんとして俺を見てから、くすくすと笑った。
「あら、あなたが剣道を始めたのは、誰かを守れるように強くなりたいからだったじゃない」
「え──?」
俺が剣道を始めた──理由……。
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