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第一章
Side歩~魔石~
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「え……れいな、ちゃん? と、守さん?」
リビングに現れたのは、先ほど別れたばかりのダンジョン仲間達だった。
どこか深刻な表情の二人に、俺はごくりと息を飲む。
「どうしたんですか? 二人揃って」
「あぁ、うん。突然ごめんね。実は、れいなちゃんから相談されて……。これは歩君じゃなきゃダメかなって思ってさ」
俺じゃなきゃダメ?
ということは、何かあちらがらみか。
「とりあえず座って。俺じゃなきゃダメな話って?」
俺が二人をソファへと促すと、二人はソファに腰を下ろし、れいなちゃんがためらいながらも口を開いた。
「あの、ね、やっぱり私、ティアラさんやカナンちゃんのこと、気になっちゃって……。家に帰ってスタンピードについて調べたら、ものすごく恐ろしいものだってわかって……。不安になって……。それで、思い出したの。この石のこと……」
れいなちゃんが取り出したのは大きな握り拳ほどのクリスタル。
通信石だ。
俺たちが使っていたものよりも遥かに大きい。
「何でれいなちゃんがこれを?」
「あの時……ティアラさんが怪我をした時に拾ったの。ティアラさんに話したら、これは魔力を流さなかったらただの石だから持っていて、って。で、守さんに相談したら、歩君なら発動させることができるんじゃないかって、連れてきてくれたの」
あぁそうか。
守さんは一応異界省のお役所勤めだし、俺の家の場所くらい調べればすぐにわかるのか。
俺はれいなちゃんから通信石を受け取ると、ゆっくりと自分の中の魔力を流し込んで、おそらく今頃家に帰っているであろう仲間のことを考える。
刹那、俺たちの目の前には、朝まで一緒だった少女──カナンちゃんが大きく映し出された。
「うわっ!? 女の子!?」
「なにこれすげっ!! ファンタジーじゃん!?」
「まぁ……可愛い子ねぇ」
「おや、なんだいこれは」
異世界について馴染みのない兄や弟、母、そに風呂から上がってリビングに入ってきたばかりの父が声をあげる。
それは映像の中のカナンちゃんも同じだ。
「うあぁ!? あ、アユム!? それにレイナにマモルも!? 知らない場所から通信来たと思ったら……。え、なに、どういうこと!?」
「うん、カナンちゃん、朝ぶりだね。あぁ、これ、兄と弟、それに父と母です」
俺の雑な紹介に、家族がそれぞれ緊張したように会釈する。
「わぁ~無事に帰れたんだね!! よかったぁ。あ、私カナンです。向こうではアユムにお世話になりましたー」
「カナンちゃん、私、どうしても気になっちゃって……。歩君にあの石を発動してもらったの」
相変わらずの順応力の高さに苦笑いをして、れいなちゃんが本題を伝えた。
「レイナ……。うん、ま、気になる、よね……」
歯切れ悪くこぼしながら表情を曇らせるカナンちゃんに、何かあったのではないかという不安が大きくなる。
「カナンちゃん、何があった? スタンピードは……ティアラさんは、どうなった?」
聞きたい。
彼女の無事を。
俺の問いかけに眉間に皺を寄せ俯くと、カナンちゃんはしばらく考えてから、真剣な表情で俺を見た。
「……うん。とりあえず、スタンピードはティアラ様がすぐになんとかしてくれたよ」
「ティアラさんが……。そっか……よかっ──」
「でも……っ!! ……でも……、ティアラ様は……もう帰ってこない」
「え……?」
ティアラさんが──帰ってこない?
それはどういう……。
「まさか死ん──」
「守さん!!」
守さんが口に出そうとした最悪の結末を、俺は否定するかのように大きく声を上げた。
「……大丈夫。生きてはいるよ。でも……」
「でも? まさか王太子がまたティアラさんを処刑するとか言い出したんじゃ……」
「違う。……明後日、大聖堂で結婚式を行うって、さっき緊急のおふれが出たんだ。王太子殿下と……ティアラ様の」
「けっ……こん……?」
あまりのことに血の気が引いていくようだった。
ティアラさんが結婚だって?
いや、まぁあれだけ魅力的な人なんだ。
結婚自体はありうることだろうけれど……。
あぁもう、思考がついていかない……!!
「でもね、町の酒場の常連の騎士から聞いた噂によると、聖女として覚醒したティアラ様に目をつけた国王と王太子は、ティアラ様を再び王妃にしようと魔力封じのアイテムで魔力を封じ、城に監禁しているらしいの。プレスセント公爵も同じように魔力を封じられて、地下牢に監禁されているとか……」
「ひどい……!!」
「本人の意思ならともかく、強制的な結婚はいただけないな」
れいなちゃんや守さんが声を上げて、俺はただ無言で唇をギュッと噛み締める。
「なんとかしたくて町の皆と話し合ってはいるんだけど……、力のない私たちにはなにもできなくてさ……。でも、やれるだけのことはやってみるよ!! だから心配しないで」
「カナンちゃん……」
結局住む世界の違う俺たちは、なにもできない。
カナンちゃんに任せて祈るくらいしか……。
そういえば、あのボスの魔石、カナンちゃんならどんなものかわかるのだろうか。
なんとなくあの魔石のことが気になった俺は、持っていた魔石をコロンと机の上に転がす。
「カナンちゃん、この石のこと、何か知らないかな? ダンジョンのボスを倒した時のものなんだけど……」
「うっそぉぉぉぉおおおお!?」
俺が出した魔石を見た瞬間、カナンちゃんが目を輝かせて声を上げた。
な、何?
そんなに珍しいものだったのか?
「すごいよアユム!! これ、転移石だよ!! S級の魔石で滅多にお目にかかれない!! これがあれば自分の思い描く場所へ自由に転移することができる!!」
「どこでも?」
「そう!! たとえ世界を超えてでも……ね」
世界を超えて……。
これがあればティアラさんの元へ、彼女を助けにいける……!!
「ただし使えるのは一度だけ。片道のみだけどね。しかもその魔石はレア中のレアで、割って複数にすることもできないんだ。それをどう使うかはアユムに任せるよ。それじゃ、私はまた話し合いに参加してくるから、またね」
またね。
これほどまでにひどく不安定な“またね”は初めてだ。
「うん、ありがとう、カナンちゃん。“また”」
俺の謝意ににっこりと微笑むと、カナンちゃんとの通信は切れた。
リビングに現れたのは、先ほど別れたばかりのダンジョン仲間達だった。
どこか深刻な表情の二人に、俺はごくりと息を飲む。
「どうしたんですか? 二人揃って」
「あぁ、うん。突然ごめんね。実は、れいなちゃんから相談されて……。これは歩君じゃなきゃダメかなって思ってさ」
俺じゃなきゃダメ?
ということは、何かあちらがらみか。
「とりあえず座って。俺じゃなきゃダメな話って?」
俺が二人をソファへと促すと、二人はソファに腰を下ろし、れいなちゃんがためらいながらも口を開いた。
「あの、ね、やっぱり私、ティアラさんやカナンちゃんのこと、気になっちゃって……。家に帰ってスタンピードについて調べたら、ものすごく恐ろしいものだってわかって……。不安になって……。それで、思い出したの。この石のこと……」
れいなちゃんが取り出したのは大きな握り拳ほどのクリスタル。
通信石だ。
俺たちが使っていたものよりも遥かに大きい。
「何でれいなちゃんがこれを?」
「あの時……ティアラさんが怪我をした時に拾ったの。ティアラさんに話したら、これは魔力を流さなかったらただの石だから持っていて、って。で、守さんに相談したら、歩君なら発動させることができるんじゃないかって、連れてきてくれたの」
あぁそうか。
守さんは一応異界省のお役所勤めだし、俺の家の場所くらい調べればすぐにわかるのか。
俺はれいなちゃんから通信石を受け取ると、ゆっくりと自分の中の魔力を流し込んで、おそらく今頃家に帰っているであろう仲間のことを考える。
刹那、俺たちの目の前には、朝まで一緒だった少女──カナンちゃんが大きく映し出された。
「うわっ!? 女の子!?」
「なにこれすげっ!! ファンタジーじゃん!?」
「まぁ……可愛い子ねぇ」
「おや、なんだいこれは」
異世界について馴染みのない兄や弟、母、そに風呂から上がってリビングに入ってきたばかりの父が声をあげる。
それは映像の中のカナンちゃんも同じだ。
「うあぁ!? あ、アユム!? それにレイナにマモルも!? 知らない場所から通信来たと思ったら……。え、なに、どういうこと!?」
「うん、カナンちゃん、朝ぶりだね。あぁ、これ、兄と弟、それに父と母です」
俺の雑な紹介に、家族がそれぞれ緊張したように会釈する。
「わぁ~無事に帰れたんだね!! よかったぁ。あ、私カナンです。向こうではアユムにお世話になりましたー」
「カナンちゃん、私、どうしても気になっちゃって……。歩君にあの石を発動してもらったの」
相変わらずの順応力の高さに苦笑いをして、れいなちゃんが本題を伝えた。
「レイナ……。うん、ま、気になる、よね……」
歯切れ悪くこぼしながら表情を曇らせるカナンちゃんに、何かあったのではないかという不安が大きくなる。
「カナンちゃん、何があった? スタンピードは……ティアラさんは、どうなった?」
聞きたい。
彼女の無事を。
俺の問いかけに眉間に皺を寄せ俯くと、カナンちゃんはしばらく考えてから、真剣な表情で俺を見た。
「……うん。とりあえず、スタンピードはティアラ様がすぐになんとかしてくれたよ」
「ティアラさんが……。そっか……よかっ──」
「でも……っ!! ……でも……、ティアラ様は……もう帰ってこない」
「え……?」
ティアラさんが──帰ってこない?
それはどういう……。
「まさか死ん──」
「守さん!!」
守さんが口に出そうとした最悪の結末を、俺は否定するかのように大きく声を上げた。
「……大丈夫。生きてはいるよ。でも……」
「でも? まさか王太子がまたティアラさんを処刑するとか言い出したんじゃ……」
「違う。……明後日、大聖堂で結婚式を行うって、さっき緊急のおふれが出たんだ。王太子殿下と……ティアラ様の」
「けっ……こん……?」
あまりのことに血の気が引いていくようだった。
ティアラさんが結婚だって?
いや、まぁあれだけ魅力的な人なんだ。
結婚自体はありうることだろうけれど……。
あぁもう、思考がついていかない……!!
「でもね、町の酒場の常連の騎士から聞いた噂によると、聖女として覚醒したティアラ様に目をつけた国王と王太子は、ティアラ様を再び王妃にしようと魔力封じのアイテムで魔力を封じ、城に監禁しているらしいの。プレスセント公爵も同じように魔力を封じられて、地下牢に監禁されているとか……」
「ひどい……!!」
「本人の意思ならともかく、強制的な結婚はいただけないな」
れいなちゃんや守さんが声を上げて、俺はただ無言で唇をギュッと噛み締める。
「なんとかしたくて町の皆と話し合ってはいるんだけど……、力のない私たちにはなにもできなくてさ……。でも、やれるだけのことはやってみるよ!! だから心配しないで」
「カナンちゃん……」
結局住む世界の違う俺たちは、なにもできない。
カナンちゃんに任せて祈るくらいしか……。
そういえば、あのボスの魔石、カナンちゃんならどんなものかわかるのだろうか。
なんとなくあの魔石のことが気になった俺は、持っていた魔石をコロンと机の上に転がす。
「カナンちゃん、この石のこと、何か知らないかな? ダンジョンのボスを倒した時のものなんだけど……」
「うっそぉぉぉぉおおおお!?」
俺が出した魔石を見た瞬間、カナンちゃんが目を輝かせて声を上げた。
な、何?
そんなに珍しいものだったのか?
「すごいよアユム!! これ、転移石だよ!! S級の魔石で滅多にお目にかかれない!! これがあれば自分の思い描く場所へ自由に転移することができる!!」
「どこでも?」
「そう!! たとえ世界を超えてでも……ね」
世界を超えて……。
これがあればティアラさんの元へ、彼女を助けにいける……!!
「ただし使えるのは一度だけ。片道のみだけどね。しかもその魔石はレア中のレアで、割って複数にすることもできないんだ。それをどう使うかはアユムに任せるよ。それじゃ、私はまた話し合いに参加してくるから、またね」
またね。
これほどまでにひどく不安定な“またね”は初めてだ。
「うん、ありがとう、カナンちゃん。“また”」
俺の謝意ににっこりと微笑むと、カナンちゃんとの通信は切れた。
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