脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~

景華

文字の大きさ
上 下
46 / 63
第一章

Side歩~魔石~

しおりを挟む
「え……れいな、ちゃん? と、守さん?」

 リビングに現れたのは、先ほど別れたばかりのダンジョン仲間達だった。
 どこか深刻な表情の二人に、俺はごくりと息を飲む。

「どうしたんですか? 二人揃って」
「あぁ、うん。突然ごめんね。実は、れいなちゃんから相談されて……。これは歩君じゃなきゃダメかなって思ってさ」

 俺じゃなきゃダメ?
 ということは、何かあちらがらみか。

「とりあえず座って。俺じゃなきゃダメな話って?」
 俺が二人をソファへと促すと、二人はソファに腰を下ろし、れいなちゃんがためらいながらも口を開いた。

「あの、ね、やっぱり私、ティアラさんやカナンちゃんのこと、気になっちゃって……。家に帰ってスタンピードについて調べたら、ものすごく恐ろしいものだってわかって……。不安になって……。それで、思い出したの。この石のこと……」

 れいなちゃんが取り出したのは大きな握り拳ほどのクリスタル。
 通信石だ。
 俺たちが使っていたものよりも遥かに大きい。

「何でれいなちゃんがこれを?」
「あの時……ティアラさんが怪我をした時に拾ったの。ティアラさんに話したら、これは魔力を流さなかったらただの石だから持っていて、って。で、守さんに相談したら、歩君なら発動させることができるんじゃないかって、連れてきてくれたの」

 あぁそうか。
 守さんは一応異界省のお役所勤めだし、俺の家の場所くらい調べればすぐにわかるのか。
 俺はれいなちゃんから通信石を受け取ると、ゆっくりと自分の中の魔力を流し込んで、おそらく今頃家に帰っているであろう仲間のことを考える。
 刹那、俺たちの目の前には、朝まで一緒だった少女──カナンちゃんが大きく映し出された。

「うわっ!? 女の子!?」
「なにこれすげっ!! ファンタジーじゃん!?」
「まぁ……可愛い子ねぇ」
「おや、なんだいこれは」

 異世界について馴染みのない兄や弟、母、そに風呂から上がってリビングに入ってきたばかりの父が声をあげる。
 それは映像の中のカナンちゃんも同じだ。

「うあぁ!? あ、アユム!? それにレイナにマモルも!? 知らない場所から通信来たと思ったら……。え、なに、どういうこと!?」

「うん、カナンちゃん、朝ぶりだね。あぁ、これ、兄と弟、それに父と母です」
 俺の雑な紹介に、家族がそれぞれ緊張したように会釈する。

「わぁ~無事に帰れたんだね!! よかったぁ。あ、私カナンです。向こうではアユムにお世話になりましたー」
「カナンちゃん、私、どうしても気になっちゃって……。歩君にあの石を発動してもらったの」
相変わらずの順応力の高さに苦笑いをして、れいなちゃんが本題を伝えた。

「レイナ……。うん、ま、気になる、よね……」
 歯切れ悪くこぼしながら表情を曇らせるカナンちゃんに、何かあったのではないかという不安が大きくなる。

「カナンちゃん、何があった? スタンピードは……ティアラさんは、どうなった?」

 聞きたい。
 彼女の無事を。
 俺の問いかけに眉間に皺を寄せ俯くと、カナンちゃんはしばらく考えてから、真剣な表情で俺を見た。

「……うん。とりあえず、スタンピードはティアラ様がすぐになんとかしてくれたよ」
「ティアラさんが……。そっか……よかっ──」
「でも……っ!! ……でも……、ティアラ様は……もう帰ってこない」
「え……?」

 ティアラさんが──帰ってこない?

 それはどういう……。
「まさか死ん──」
「守さん!!」
 守さんが口に出そうとした最悪の結末を、俺は否定するかのように大きく声を上げた。

「……大丈夫。生きてはいるよ。でも……」
「でも? まさか王太子がまたティアラさんを処刑するとか言い出したんじゃ……」
「違う。……明後日、大聖堂で結婚式を行うって、さっき緊急のおふれが出たんだ。王太子殿下と……ティアラ様の」
「けっ……こん……?」

 あまりのことに血の気が引いていくようだった。
 ティアラさんが結婚だって?
 いや、まぁあれだけ魅力的な人なんだ。
 結婚自体はありうることだろうけれど……。
 あぁもう、思考がついていかない……!!

「でもね、町の酒場の常連の騎士から聞いた噂によると、聖女として覚醒したティアラ様に目をつけた国王と王太子は、ティアラ様を再び王妃にしようと魔力封じのアイテムで魔力を封じ、城に監禁しているらしいの。プレスセント公爵も同じように魔力を封じられて、地下牢に監禁されているとか……」

「ひどい……!!」
「本人の意思ならともかく、強制的な結婚はいただけないな」
 れいなちゃんや守さんが声を上げて、俺はただ無言で唇をギュッと噛み締める。

「なんとかしたくて町の皆と話し合ってはいるんだけど……、力のない私たちにはなにもできなくてさ……。でも、やれるだけのことはやってみるよ!! だから心配しないで」

「カナンちゃん……」
 結局住む世界の違う俺たちは、なにもできない。
 カナンちゃんに任せて祈るくらいしか……。
 そういえば、あのボスの魔石、カナンちゃんならどんなものかわかるのだろうか。
 なんとなくあの魔石のことが気になった俺は、持っていた魔石をコロンと机の上に転がす。

「カナンちゃん、この石のこと、何か知らないかな? ダンジョンのボスを倒した時のものなんだけど……」
「うっそぉぉぉぉおおおお!?」
 俺が出した魔石を見た瞬間、カナンちゃんが目を輝かせて声を上げた。
 な、何?
 そんなに珍しいものだったのか?

「すごいよアユム!! これ、転移石だよ!! S級の魔石で滅多にお目にかかれない!! これがあれば自分の思い描く場所へ自由に転移することができる!!」
「どこでも?」
「そう!! たとえ世界を超えてでも……ね」

 世界を超えて……。
 これがあればティアラさんの元へ、彼女を助けにいける……!!

「ただし使えるのは一度だけ。片道のみだけどね。しかもその魔石はレア中のレアで、割って複数にすることもできないんだ。それをどう使うかはアユムに任せるよ。それじゃ、私はまた話し合いに参加してくるから、またね」

 またね。
 これほどまでにひどく不安定な“またね”は初めてだ。

「うん、ありがとう、カナンちゃん。“また”」

 俺の謝意ににっこりと微笑むと、カナンちゃんとの通信は切れた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

見捨てられたのは私

梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。 ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...