40 / 63
第一章
闇花《ダークフロウ》
しおりを挟む
朝だ。──と、思う。
ダンジョン内の明るさと言うものは一日特に変わりがないからわかりづらいけれど、きっとそう。
だってテントの外のヨイノクサが緑になっているもの。
「ティアラさん」
「アユムさん、おはようございます」
「おはよう。よく眠れた?」
アユムさんの言葉に私は曖昧に笑顔を返す。
よく……、は、正直眠れていない。
あの後、レイナさんが制服に入れていた携帯で遊んでいたから。
電波が無いのでメールや電話はできないけれど、充電はわずかに残っていて写真は撮れると言うことで、女子会からの派生で大写真大会が始まったのだ。
こっちの世界にも写真はあるけれど、魔石が組み込まれた魔道具で撮影し、紙に念写されるような感じだから、携帯のようにデジタルの画面の中にぽんぽん入る写真は珍しい。
だからか、職人の血が騒いだカナンさんが「解体したい!!」と暴走し始めて、それを止めるのが大変だった。
目が血走ってたものね……。
「あ、歩君、おはよう」
「アユム、おはよ」
手櫛で髪を整えながらレイナさんが、大きなあくびをしながカナンさんが、揃ってテントから現れた。
「おはよう、れいなちゃんカナンちゃん」
対するアユムさんも僅かに二重になって少しばかり眠そうにしている。
「アユムさん、なんだか眠たそうですね」
「うん……、少し考え事をしていたらつい夜更かししちゃって」
困ったように眉を下げて笑うアユムさん。
考え事……。向こうの世界へ帰ることについて、かしら?
あぁでも、そうか。今日、帰るのよね。
アユムさんにおはようの挨拶をするのも今日で最後なのか……。
そう思うとどこからともなく寂しさが押し寄せてくるけれど、気づかないふりをする。
「そういえばマモルさんは?」
「それが、俺が起きた時にはもういなくて……」
私が起きてきたのもついさっき。
だけど守さんには会っていない。
狭いテント内なら人の動きはすぐにわかるものだけれど、その気配もなかった。
いったいどこに……?
「おーーーーい」
噂をすれば、明るい大声が階段の方から聞こえてきた。
「マモルさん!! どこに行ってたんですか!?」
しかも一人で。
魔物はもういないとはいえ、何があるかわからないと言うのに。
そんな私の心配もよそにマモルさんは白い歯を覗かせて笑った。
「これ取りに行ってたんだ」
そう言って私たちの前に差し出したのは五本の小さな青い花──“闇花《ダークフロウ》”。
ダンジョンに生息する唯一の花で日の光がなくとも生きる非常に強い花だ。
「ちょっと待っててね」
そう言って一度テントへ入り、なぜか本を持って出てくると、マモルさんは丁寧にその本の上に花を並べ、パタンと閉じた。
「これを本に挟んで──、っと、歩君、魔石で熱風起こせる?」
「え、あ、はい」
炎の魔石でほんのりと暖かな風が起こり、次にマモルさんが本を開いてみると──。
「わぁ……!! 押し花?」
綺麗にぺったんこになって乾燥した“闇花《ダークフロウ》”。
この短時間で……あ、そうか、熱風の力?
「俺、異界省では異界植物課にいたから、よく異界の植物を管理役員にもらっては観察して、その後押し花にしたりしてたんだ。で、これ。皆で持ってたらどうかなって。日本では異界の植物でも、異界植物課がつけた花言葉があるんだ。この“闇花《ダークフロウ》”は、暗闇の中でも強く生きることから『生命力』そして『暗闇の中の希望』って花言葉なんだ」
「『生命力』……。『暗闇の中の希望』……」
まさに私たちのようだ。
暗闇の中を、希望を持って生き延びた私たちの。
「皆、ここで出会ったのも何かの縁じゃん? これからそれぞれの人生をいくだろうけど、ずっと繋がってる。どんな時があっても希望を持って進んでいこう。あぁ、まだ少し生乾きだから、それぞれ帰ったら本にでも挟んでね」
希望を持って……。
手渡された“闇花《ダークフロウ》”がぼんやりと光る。
それはこの絶望のダンジョンの、僅かな希望の光のようにも見えた。
ダンジョン内の明るさと言うものは一日特に変わりがないからわかりづらいけれど、きっとそう。
だってテントの外のヨイノクサが緑になっているもの。
「ティアラさん」
「アユムさん、おはようございます」
「おはよう。よく眠れた?」
アユムさんの言葉に私は曖昧に笑顔を返す。
よく……、は、正直眠れていない。
あの後、レイナさんが制服に入れていた携帯で遊んでいたから。
電波が無いのでメールや電話はできないけれど、充電はわずかに残っていて写真は撮れると言うことで、女子会からの派生で大写真大会が始まったのだ。
こっちの世界にも写真はあるけれど、魔石が組み込まれた魔道具で撮影し、紙に念写されるような感じだから、携帯のようにデジタルの画面の中にぽんぽん入る写真は珍しい。
だからか、職人の血が騒いだカナンさんが「解体したい!!」と暴走し始めて、それを止めるのが大変だった。
目が血走ってたものね……。
「あ、歩君、おはよう」
「アユム、おはよ」
手櫛で髪を整えながらレイナさんが、大きなあくびをしながカナンさんが、揃ってテントから現れた。
「おはよう、れいなちゃんカナンちゃん」
対するアユムさんも僅かに二重になって少しばかり眠そうにしている。
「アユムさん、なんだか眠たそうですね」
「うん……、少し考え事をしていたらつい夜更かししちゃって」
困ったように眉を下げて笑うアユムさん。
考え事……。向こうの世界へ帰ることについて、かしら?
あぁでも、そうか。今日、帰るのよね。
アユムさんにおはようの挨拶をするのも今日で最後なのか……。
そう思うとどこからともなく寂しさが押し寄せてくるけれど、気づかないふりをする。
「そういえばマモルさんは?」
「それが、俺が起きた時にはもういなくて……」
私が起きてきたのもついさっき。
だけど守さんには会っていない。
狭いテント内なら人の動きはすぐにわかるものだけれど、その気配もなかった。
いったいどこに……?
「おーーーーい」
噂をすれば、明るい大声が階段の方から聞こえてきた。
「マモルさん!! どこに行ってたんですか!?」
しかも一人で。
魔物はもういないとはいえ、何があるかわからないと言うのに。
そんな私の心配もよそにマモルさんは白い歯を覗かせて笑った。
「これ取りに行ってたんだ」
そう言って私たちの前に差し出したのは五本の小さな青い花──“闇花《ダークフロウ》”。
ダンジョンに生息する唯一の花で日の光がなくとも生きる非常に強い花だ。
「ちょっと待っててね」
そう言って一度テントへ入り、なぜか本を持って出てくると、マモルさんは丁寧にその本の上に花を並べ、パタンと閉じた。
「これを本に挟んで──、っと、歩君、魔石で熱風起こせる?」
「え、あ、はい」
炎の魔石でほんのりと暖かな風が起こり、次にマモルさんが本を開いてみると──。
「わぁ……!! 押し花?」
綺麗にぺったんこになって乾燥した“闇花《ダークフロウ》”。
この短時間で……あ、そうか、熱風の力?
「俺、異界省では異界植物課にいたから、よく異界の植物を管理役員にもらっては観察して、その後押し花にしたりしてたんだ。で、これ。皆で持ってたらどうかなって。日本では異界の植物でも、異界植物課がつけた花言葉があるんだ。この“闇花《ダークフロウ》”は、暗闇の中でも強く生きることから『生命力』そして『暗闇の中の希望』って花言葉なんだ」
「『生命力』……。『暗闇の中の希望』……」
まさに私たちのようだ。
暗闇の中を、希望を持って生き延びた私たちの。
「皆、ここで出会ったのも何かの縁じゃん? これからそれぞれの人生をいくだろうけど、ずっと繋がってる。どんな時があっても希望を持って進んでいこう。あぁ、まだ少し生乾きだから、それぞれ帰ったら本にでも挟んでね」
希望を持って……。
手渡された“闇花《ダークフロウ》”がぼんやりと光る。
それはこの絶望のダンジョンの、僅かな希望の光のようにも見えた。
1
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる