脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~

景華

文字の大きさ
上 下
37 / 63
第一章

最後の晩餐

しおりを挟む
「と、いうことで──!! ボス討伐成功を祝して、かんぱーい!!」

「いえぇえええい!!」
「やったね二人とも!!」
「すごい!! さすが歩君!!」

 カラン、カラン、と小さくぶつかり合うコップの音。
 仲間達の歓喜の声。

 その晩、ケルベロスの肉を捌いて持って帰った私たちは、盛大な焼肉パーティを開いていた。
 ケルベロスの焼き肉。
 木の魔物に出来ていた果物。
 少量の食べられそうなそこらへんに生えていた草。
 そして泉の水。
 やっぱり肉多めで野菜少なめだけれど、今日はなんと、小さなカップケーキまであるのだ!!

「これどうしたんですか?」
「美味しそう!! 甘いものなんて久しぶり」
 目をキラキラさせながらレイナさんとカナンさんが目の前に置かれた小さなチョコレート味のカップケーキを凝視する。

「ふふ。実はこのテントの持ち主の携帯用保存食なんです。いつまでここにいるかわからなかったので今まで大切にとっておいたんですが、皆さんを元の世界に返す目処も、私達がここから出る目処もつきましたし、食べ尽くしちゃいましょ」

 “扉”は明日封印するし、魔物は全て討伐した。
 もうここに保存食がある必要は無くなるのだから、最後の晩餐ぐらいぱーっと豪華に楽しみたい。

「ここから出るって、でもどうやって? 入り口は遠く上の方で、這い上がることなんて……」
 ここに落とされる際、彼らは私に魔法で作り上げたロープをくくりつけ、ゆっくりと降ろしていった。
 そして私が降り立つと同時にロープはポロポロと崩れたのだから、何もなしに出るなんてことは不可能だ。
 だけど──。

「聖女の力があれば、地上までひとっ飛びです」
 そう言って私は自身の力を背に集中させる。
 すると私の背中が暖かい熱を持ち始め、金色に輝く美しい翼が現れたのだ。

「すごい……!!」
「綺麗……!! さすがティアラ様……!!」
「ティアラちゃん、天使みたいだね!!」
「ティアラさん──すごく、綺麗だ」
 浴びせられる感嘆混じりの声と最後のアユムさんの言葉に、少しだけ恥ずかしくなって両手で頬を包み隠す。

「あ、ありがとうございます。力を背中に集中させて具現化させてみました。これで飛ぶことができますし、カナンさん一人街へ抱えて送ることも、私の腕力ならば可能です」
 鍛えておいてよかった。
 何事も無駄じゃないんだなぁ……。

「ティアラ様ティアラ様!! お姫様抱っこでお願いします!!」
「はい!! 任せてください!! 皆さんを見送った後、すぐに出発しましょう」
 きっと親御さんも心配しているはず。

「っ……」
 私の言葉に表情をなくしたアユムさんが、真っ直ぐに私を見る。
 その視線に私が首を傾げると同時に「そっか……」とレイナさんがぽつりとつぶやいた。

「私や歩君や守さんはもう帰れるんだよね、元の世界に」
「……」
「そうだね。ボスも討伐してくれたし、“扉”、もう開くんだろうな」

 しんみりとした空気が漂うとともに、なんとも言えない不安そうな表情のレイナさん。
 望んでいたであろうことなのにどこか浮かないその表情に、私はカナンさんと顔を見合わせ、首を傾げた。

「あの……、何か、問題でも?」
「……問題、っていうか……。今更戻ってもいいのかな、っていう……。私や歩君みたいな“贄”は、誰かの悪意が集まってできたんですよ? 皆が自分を嫌っている世界に帰るっていうのは……。それに、“贄”として供物になることなく帰ってきたなんて知られたら、私だけじゃない。親だって政府に何されるか……」

 そうか。
 “贄”は自分たちにとっていらないものとして選ばれた嫌悪の象徴。
 それに、そういう制度のもと送られた以上帰ってくると何らかの罰を与えられる可能性があるのだ。
 それを恐れるのは無理もない。
 
 だけど、彼女たちには愛してくれる家族がいる。
 少なくとも、自分の家族が無事と知って喜ばない親なんていないはずだ。
 ただ、それでも自分が帰ったことによって家族が危ない目に遭うのは……複雑、よね。

「いっそのこと政府を潰すか……」
「ちょ!? ティアラさん!?」
 私の口から飛び出たとんでも発言に、レイナさんがぎょっと目を見開いて声をあげる。

 ただそれだと色々と問題が出るわよね、今後の。
 んー……あ、待てよ?
 聖女は確か、本来王族と同等かそれ以上に尊いものとされる。
 それはあちらの世界でも同じで、聖女は世界を超えて最も敬われるべき存在だというのが全ての見解であり、法にも組み込まれたものだ。
 なら──。

 私は立ち上がり、奥のスペースから羊皮紙とペンを持ってくると、サラサラとそれに文字を認めていく。
 “日本語”で。
 そして書き終わると、その手紙と日本に帰る三人へ光魔法を施す。
 ふわふわとした白い光が手紙と歩さん達を包み込み、すぅっと吸収された。

「ティアラさん、これは?」
「聖女の祝福です。この魔法が、あなた達をきっと見守っていてくれる。それからこれを、あちらの政府のトップへ渡してください。聖女からだ、と」

 私はそう言ってアユムさんにそれを手渡した。
「これがあれば、皆さんやご家族の扱いは不当なものにはなりません。もしこの言いつけを破ったら、聖女の鉄槌が降《くだ》っちゃいますからね」
 半分脅しのようなものかもしれないけれど、三人のこれからの生活の保証は絶対的に必要だ。

「やっぱり野蛮……。でも、ありがとうございます、ティアラさん」

「ふふ、どういたしまして、です」

 どうか彼らに、安らかな生活を。
 そうして私たちは、皆で過ごす最後の夜を楽しく過ごしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完]出来損ない王妃が死体置き場に捨てられるなんて、あまりにも雑で乱暴です

小葉石
恋愛
 国の周囲を他国に囲まれたガーナードには、かつて聖女が降臨したという伝承が残る。それを裏付ける様に聖女の血を引くと言われている貴族には時折不思議な癒しの力を持った子供達が生まれている。  ガーナードは他国へこの子供達を嫁がせることによって聖女の国としての威厳を保ち周辺国からの侵略を許してこなかった。      各国が虎視眈々とガーナードの侵略を図ろうとする中、かつて無いほどの聖女の力を秘めた娘が侯爵家に生まれる。ガーナード王家はこの娘、フィスティアを皇太子ルワンの皇太子妃として城に迎え王妃とする。ガーナード国王家の安泰を恐れる周辺国から執拗に揺さぶりをかけられ戦果が激化。国王となったルワンの側近であり親友であるラートが戦場から重傷を負って王城へ帰還。フィスティアの聖女としての力をルワンは期待するが、フィスティアはラートを癒すことができず、ラートは死亡…親友を亡くした事と聖女の力を謀った事に激怒し、フィスティアを王妃の座から下ろして、多くの戦士たちが運ばれて来る死体置き場へと放り込む。  死体の中で絶望に喘ぐフィスティアだが、そこでこその聖女たる力をフィスティアは発揮し始める。  王の逆鱗に触れない様に、身を隠しつつ死体置き場で働くフィスティアの前に、ある日何とかつての夫であり、ガーナード国国王ルワン・ガーナードの死体が投げ込まれる事になった……………!   *グロテスクな描写はありませんので安心してください。しかし、死体と言う表現が多々あるかと思いますので苦手な方はご遠慮くださいます様によろしくお願いします。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。

❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。 それは、婚約破棄&女の戦い?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

最終的には球体になる

ゆれ
恋愛
のっぴきならない事情で追い込まれ、憧れの入谷にあるお願いをすることに決めた唯織。暴走して食い下がるもなかなか頷いてもらえず、それでも自宅まで漕ぎつけたけれど、もしかして彼女がいる? 噂に聞いた苦手なタイプにドンピシャなのはわかってます。だけど、一回きりでいいんです。※途中ちょっと下品だったり性行為の描写を含んだりしますのでご注意ください。真ん中だけ男性視点です。他サイトにも投稿済。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...