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第一章
最後の晩餐
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「と、いうことで──!! ボス討伐成功を祝して、かんぱーい!!」
「いえぇえええい!!」
「やったね二人とも!!」
「すごい!! さすが歩君!!」
カラン、カラン、と小さくぶつかり合うコップの音。
仲間達の歓喜の声。
その晩、ケルベロスの肉を捌いて持って帰った私たちは、盛大な焼肉パーティを開いていた。
ケルベロスの焼き肉。
木の魔物に出来ていた果物。
少量の食べられそうなそこらへんに生えていた草。
そして泉の水。
やっぱり肉多めで野菜少なめだけれど、今日はなんと、小さなカップケーキまであるのだ!!
「これどうしたんですか?」
「美味しそう!! 甘いものなんて久しぶり」
目をキラキラさせながらレイナさんとカナンさんが目の前に置かれた小さなチョコレート味のカップケーキを凝視する。
「ふふ。実はこのテントの持ち主の携帯用保存食なんです。いつまでここにいるかわからなかったので今まで大切にとっておいたんですが、皆さんを元の世界に返す目処も、私達がここから出る目処もつきましたし、食べ尽くしちゃいましょ」
“扉”は明日封印するし、魔物は全て討伐した。
もうここに保存食がある必要は無くなるのだから、最後の晩餐ぐらいぱーっと豪華に楽しみたい。
「ここから出るって、でもどうやって? 入り口は遠く上の方で、這い上がることなんて……」
ここに落とされる際、彼らは私に魔法で作り上げたロープをくくりつけ、ゆっくりと降ろしていった。
そして私が降り立つと同時にロープはポロポロと崩れたのだから、何もなしに出るなんてことは不可能だ。
だけど──。
「聖女の力があれば、地上までひとっ飛びです」
そう言って私は自身の力を背に集中させる。
すると私の背中が暖かい熱を持ち始め、金色に輝く美しい翼が現れたのだ。
「すごい……!!」
「綺麗……!! さすがティアラ様……!!」
「ティアラちゃん、天使みたいだね!!」
「ティアラさん──すごく、綺麗だ」
浴びせられる感嘆混じりの声と最後のアユムさんの言葉に、少しだけ恥ずかしくなって両手で頬を包み隠す。
「あ、ありがとうございます。力を背中に集中させて具現化させてみました。これで飛ぶことができますし、カナンさん一人街へ抱えて送ることも、私の腕力ならば可能です」
鍛えておいてよかった。
何事も無駄じゃないんだなぁ……。
「ティアラ様ティアラ様!! お姫様抱っこでお願いします!!」
「はい!! 任せてください!! 皆さんを見送った後、すぐに出発しましょう」
きっと親御さんも心配しているはず。
「っ……」
私の言葉に表情をなくしたアユムさんが、真っ直ぐに私を見る。
その視線に私が首を傾げると同時に「そっか……」とレイナさんがぽつりとつぶやいた。
「私や歩君や守さんはもう帰れるんだよね、元の世界に」
「……」
「そうだね。ボスも討伐してくれたし、“扉”、もう開くんだろうな」
しんみりとした空気が漂うとともに、なんとも言えない不安そうな表情のレイナさん。
望んでいたであろうことなのにどこか浮かないその表情に、私はカナンさんと顔を見合わせ、首を傾げた。
「あの……、何か、問題でも?」
「……問題、っていうか……。今更戻ってもいいのかな、っていう……。私や歩君みたいな“贄”は、誰かの悪意が集まってできたんですよ? 皆が自分を嫌っている世界に帰るっていうのは……。それに、“贄”として供物になることなく帰ってきたなんて知られたら、私だけじゃない。親だって政府に何されるか……」
そうか。
“贄”は自分たちにとっていらないものとして選ばれた嫌悪の象徴。
それに、そういう制度のもと送られた以上帰ってくると何らかの罰を与えられる可能性があるのだ。
それを恐れるのは無理もない。
だけど、彼女たちには愛してくれる家族がいる。
少なくとも、自分の家族が無事と知って喜ばない親なんていないはずだ。
ただ、それでも自分が帰ったことによって家族が危ない目に遭うのは……複雑、よね。
「いっそのこと政府を潰すか……」
「ちょ!? ティアラさん!?」
私の口から飛び出たとんでも発言に、レイナさんがぎょっと目を見開いて声をあげる。
ただそれだと色々と問題が出るわよね、今後の。
んー……あ、待てよ?
聖女は確か、本来王族と同等かそれ以上に尊いものとされる。
それはあちらの世界でも同じで、聖女は世界を超えて最も敬われるべき存在だというのが全ての見解であり、法にも組み込まれたものだ。
なら──。
私は立ち上がり、奥のスペースから羊皮紙とペンを持ってくると、サラサラとそれに文字を認めていく。
“日本語”で。
そして書き終わると、その手紙と日本に帰る三人へ光魔法を施す。
ふわふわとした白い光が手紙と歩さん達を包み込み、すぅっと吸収された。
「ティアラさん、これは?」
「聖女の祝福です。この魔法が、あなた達をきっと見守っていてくれる。それからこれを、あちらの政府のトップへ渡してください。聖女からだ、と」
私はそう言ってアユムさんにそれを手渡した。
「これがあれば、皆さんやご家族の扱いは不当なものにはなりません。もしこの言いつけを破ったら、聖女の鉄槌が降《くだ》っちゃいますからね」
半分脅しのようなものかもしれないけれど、三人のこれからの生活の保証は絶対的に必要だ。
「やっぱり野蛮……。でも、ありがとうございます、ティアラさん」
「ふふ、どういたしまして、です」
どうか彼らに、安らかな生活を。
そうして私たちは、皆で過ごす最後の夜を楽しく過ごしたのだった。
「いえぇえええい!!」
「やったね二人とも!!」
「すごい!! さすが歩君!!」
カラン、カラン、と小さくぶつかり合うコップの音。
仲間達の歓喜の声。
その晩、ケルベロスの肉を捌いて持って帰った私たちは、盛大な焼肉パーティを開いていた。
ケルベロスの焼き肉。
木の魔物に出来ていた果物。
少量の食べられそうなそこらへんに生えていた草。
そして泉の水。
やっぱり肉多めで野菜少なめだけれど、今日はなんと、小さなカップケーキまであるのだ!!
「これどうしたんですか?」
「美味しそう!! 甘いものなんて久しぶり」
目をキラキラさせながらレイナさんとカナンさんが目の前に置かれた小さなチョコレート味のカップケーキを凝視する。
「ふふ。実はこのテントの持ち主の携帯用保存食なんです。いつまでここにいるかわからなかったので今まで大切にとっておいたんですが、皆さんを元の世界に返す目処も、私達がここから出る目処もつきましたし、食べ尽くしちゃいましょ」
“扉”は明日封印するし、魔物は全て討伐した。
もうここに保存食がある必要は無くなるのだから、最後の晩餐ぐらいぱーっと豪華に楽しみたい。
「ここから出るって、でもどうやって? 入り口は遠く上の方で、這い上がることなんて……」
ここに落とされる際、彼らは私に魔法で作り上げたロープをくくりつけ、ゆっくりと降ろしていった。
そして私が降り立つと同時にロープはポロポロと崩れたのだから、何もなしに出るなんてことは不可能だ。
だけど──。
「聖女の力があれば、地上までひとっ飛びです」
そう言って私は自身の力を背に集中させる。
すると私の背中が暖かい熱を持ち始め、金色に輝く美しい翼が現れたのだ。
「すごい……!!」
「綺麗……!! さすがティアラ様……!!」
「ティアラちゃん、天使みたいだね!!」
「ティアラさん──すごく、綺麗だ」
浴びせられる感嘆混じりの声と最後のアユムさんの言葉に、少しだけ恥ずかしくなって両手で頬を包み隠す。
「あ、ありがとうございます。力を背中に集中させて具現化させてみました。これで飛ぶことができますし、カナンさん一人街へ抱えて送ることも、私の腕力ならば可能です」
鍛えておいてよかった。
何事も無駄じゃないんだなぁ……。
「ティアラ様ティアラ様!! お姫様抱っこでお願いします!!」
「はい!! 任せてください!! 皆さんを見送った後、すぐに出発しましょう」
きっと親御さんも心配しているはず。
「っ……」
私の言葉に表情をなくしたアユムさんが、真っ直ぐに私を見る。
その視線に私が首を傾げると同時に「そっか……」とレイナさんがぽつりとつぶやいた。
「私や歩君や守さんはもう帰れるんだよね、元の世界に」
「……」
「そうだね。ボスも討伐してくれたし、“扉”、もう開くんだろうな」
しんみりとした空気が漂うとともに、なんとも言えない不安そうな表情のレイナさん。
望んでいたであろうことなのにどこか浮かないその表情に、私はカナンさんと顔を見合わせ、首を傾げた。
「あの……、何か、問題でも?」
「……問題、っていうか……。今更戻ってもいいのかな、っていう……。私や歩君みたいな“贄”は、誰かの悪意が集まってできたんですよ? 皆が自分を嫌っている世界に帰るっていうのは……。それに、“贄”として供物になることなく帰ってきたなんて知られたら、私だけじゃない。親だって政府に何されるか……」
そうか。
“贄”は自分たちにとっていらないものとして選ばれた嫌悪の象徴。
それに、そういう制度のもと送られた以上帰ってくると何らかの罰を与えられる可能性があるのだ。
それを恐れるのは無理もない。
だけど、彼女たちには愛してくれる家族がいる。
少なくとも、自分の家族が無事と知って喜ばない親なんていないはずだ。
ただ、それでも自分が帰ったことによって家族が危ない目に遭うのは……複雑、よね。
「いっそのこと政府を潰すか……」
「ちょ!? ティアラさん!?」
私の口から飛び出たとんでも発言に、レイナさんがぎょっと目を見開いて声をあげる。
ただそれだと色々と問題が出るわよね、今後の。
んー……あ、待てよ?
聖女は確か、本来王族と同等かそれ以上に尊いものとされる。
それはあちらの世界でも同じで、聖女は世界を超えて最も敬われるべき存在だというのが全ての見解であり、法にも組み込まれたものだ。
なら──。
私は立ち上がり、奥のスペースから羊皮紙とペンを持ってくると、サラサラとそれに文字を認めていく。
“日本語”で。
そして書き終わると、その手紙と日本に帰る三人へ光魔法を施す。
ふわふわとした白い光が手紙と歩さん達を包み込み、すぅっと吸収された。
「ティアラさん、これは?」
「聖女の祝福です。この魔法が、あなた達をきっと見守っていてくれる。それからこれを、あちらの政府のトップへ渡してください。聖女からだ、と」
私はそう言ってアユムさんにそれを手渡した。
「これがあれば、皆さんやご家族の扱いは不当なものにはなりません。もしこの言いつけを破ったら、聖女の鉄槌が降《くだ》っちゃいますからね」
半分脅しのようなものかもしれないけれど、三人のこれからの生活の保証は絶対的に必要だ。
「やっぱり野蛮……。でも、ありがとうございます、ティアラさん」
「ふふ、どういたしまして、です」
どうか彼らに、安らかな生活を。
そうして私たちは、皆で過ごす最後の夜を楽しく過ごしたのだった。
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