脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~

景華

文字の大きさ
上 下
34 / 63
第一章

歩の告白

しおりを挟む

「ティアラさん、今度は俺のこれまで、聞いてもらえますか?」
「アユムさんの──これまで? はい、私でよければ」
 私が答えると、アユムさんは少し安心したように息をつき、
「あなただから、聞いてほしいんです」
 と頬を緩めゆっくりと口を開いた。

「俺は小さい頃から剣道をやっていて、剣道一筋で今まで生きてきました」
「!! やっぱり、アユムさんの構えは剣道の型だったんですね!!」

 剣道に詳しかったわけではないけれど、テレビで時々見る試合と同じ構えと立ち方だったから、なんとなくそうかなとは思っていた。
 アユムさんの道着姿……うん、絶対似合う。

「はは、同じ日本人ですし、やっぱりわかってましたか。……スポーツ推薦で高校に入り、大学も剣道で有名な大学に入学。これからもっと剣道を極めていこうとしていたんです」

 彼の腕ならば確実に世界で活躍することができるだろう。
 なのに“贄”なんかに選ばれるなんて……。
 こんなに優しくて誠実な人が。

「あの……私やっぱり、アユムさんが“贄”に選ばれるほど誰かに嫌われるなんて事、信じられないんですけど……」
 トラブルになるような気性の荒さもないし、どっちかというと男女ともにモテそうなイメージしかない。

「んー……そう、ですね……。人の悪意は、トラブルになる、ならないで向けられるものばかりじゃないんだと思います。……その……、自分でこう言うのも変な感じなんですけど……、俺、昔から女の子によく告白とかされていたんです」
「!!」

 まさかのカミングアウト──!!
 いや、わかってたけどね!?
 そうだろうなぁって思ってましたけどね!?

 その顔にその性格。
 モテないはずがない。
 チッ……リア充め……。
 
 私の思考を読んだかのように、アユムさんは慌てて、
「ち、違いますからね? 俺は剣道一筋でしたからね!?」
 と弁解し始めた。
 なぜそんなに焦ってるんだろうか。

「と、とにかく、剣道一筋だった俺は、誰からの告白も断り続けて──そうしていると、男からも女からも“調子に乗っている”と変な敵意を向けられるようになったんですよね」
「ひどい……」
「それを放置していたら、“贄”にされてしまいました」

『なんであいつばかり』
『なんであの人は気持ちに応えてくれないの?』

 そんな膨れ上がる負の感情にさらされながらも、自分のやりたいことを貫いていたアユムさん。
 そんな彼から、描いていた未来を奪ってしまったのか、あの扉は。彼の周りの人々は。

「そんな……アユムさんは何も悪くないのに……」

「はい。でも、もういいやって諦めたんです。周りがその気なら、あんな世界──って。俺がごねて家族に悪い影響が出るくらいなら、俺は“贄”として死んだっていい。そう思っていたら、勇者の力があることがわかって、なんか、魔王を倒せって言われて。嫌々ながらに光魔法の練習をしました。途中までは──」
「途中までは?」

 私が言葉を返すと、アユムさんは私の目をじっと見つめてから、柔らかく微笑んだ。

「あなたに、出会ったから」
「私に?」

 え、その時期私、アユムさんに会ってないんだけど、どういうこと?
 人違いなんじゃ……?
 混乱した私に、アユムさんは変わらぬ微笑みを浮かべたまま続けた。

「城の訓練場で、光の剣の修行中、あなたを見つけました。隅っこで、懸命に筋トレをする御令嬢を」
「ふぁっ!? み、見てたんですか!?」

 恥ずかしすぎる……!!
 全く気づかなかった……!!
 ていうか、筋トレに励む令嬢とか不審者でしかない……!!

「お、お見苦しいところを……」
 縮こまる私に、アユムさんはふふっと何かを思い出したかのように笑った。

「いいえ。ぷくっと頬を膨らませながら筋トレに励む姿は可愛らしかったです」
「かわっ!?」

 アユムさんから飛び出した言葉に、返す言葉が詰まる。
 おそらく彼は無意識なのだろうからいちいち反応していたらこちらの身がもたないのだけれど、どうにも彼の天然発言には慣れない。

「……それに、その真剣な姿に、気づけば見入ってしまってましたから。そして神官から、あなたのことを聞いたんです。婚約者である王太子のために強くならねばならないのだと」

 あぁ。きっと、無能だからせめて力だけでも鍛えてもらわねば、とか言ったんだろうなぁ……。
 はっ……!!
 ということは、アユムさんは最初から私が役立たずだと知って──!?

「百面相しているところ申し訳ないですけど、早とちりしないように。俺はそんな偏見で貴女のことを見てませんでしたからね」
 またも私の思考を読んだかのように告げたアユムさんは、もう思考が読める超人なんじゃないかとも思う。

「婚約者のために懸命になるあなたを見て、この人と守りたい、と思った」

「へ……?」

 聞き間違い?
 耳がおかしくなった?
 硬直する私をよそに、アユムさんは続ける。

「あなたを、ドロドロに甘やかしてあげたいと。でもそれは婚約者の仕事だから、俺はせめてあなたが安心して暮らせるよう、魔王を倒そうって。俺が魔王を倒せたのは、あなたに出会ったからなんですよ」

 真っ直ぐに向けられた真摯な眼差しから目を背けることができない。
 なんだこれ。
 まるで──。

「あなたに出会えたんだ。ここにきたのも悪くない。そしてここに落とされたのも。だから、これからはたくさん頼ってください。俺は、あなたのことを大切に思っているんですから」

「アユムさん……。はい!! 私も、アユムさんのことがとっても大切です!! いつもお世話してくれてありがとうございます。私もアユムさんに頼ってもらえるように、しっかりしていきますから、これからもよろしくお願いしますね!!」

 アユムさんはいつも私を見守り、お世話をしてくれようとする。
 まるで第二の母のように。
 私だって、そんなアユムさんの力になりたい。

「んー……多分伝わってないな。……まぁいいか、今は。──ティアラさん」
「はい? ──っ!?」

 小さなリップ音とともに額に落とされたのは、柔らかな感触。
 見上げれば耳まで赤くしたアユムさんのお顔。

「そろそろ行くよ、ティアラちゃん」

 赤い顔のまま微笑み、私を引き上げたアユムさんに、私の時がしばらく止まったのは言うまでもない。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う

咲宮
恋愛
 世界で唯一魔法が使える国エルフィールドは他国の侵略により滅ぼされた。魔法使いをこの世から消そうと残党狩りを行った結果、国のほとんどが命を落としてしまう。  そんな中生き残ってしまった王女ロゼルヴィア。  数年の葛藤を経てシュイナ・アトリスタとして第二の人生を送ることを決意する。  平穏な日々に慣れていく中、自分以外にも生き残りがいることを知る。だが、どうやらもう一人の生き残りである女性は、元婚約者の新たな恋路を邪魔しているようで───。  これは、お世話になった上に恩がある元婚約者の幸せを叶えるために、シュイナが魔法を駆使して尽力する話。  本編完結。番外編更新中。 ※溺愛までがかなり長いです。 ※誤字脱字のご指摘や感想をよろしければお願いします。  

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する

ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。 その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。 シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。 皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。 やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。 愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。 今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。 シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す― 一部タイトルを変更しました。

処理中です...