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第一章
国民の目
しおりを挟む「ねぇティアラさん」
「はい?」
前方を男性、後方を女性で固まって、五層へと向かう途中、レイナさんが私に小さな声で話しかけてきた。
彼女から私に声をかけてくるのは珍しい。
少しは慣れてくれたのかしら?
「ティアラさんは、歩君と付き合ってるの?」
「っ!?」
突然の質問に口から吸ったものが喉に詰まる。
く、空気が……っ!!
「え、と……その、なんで、そんな?」
「だって、歩君てばやたらティアラさんのこと気にしてるし、お風呂だってティアラさんの時は見張りを買って出てついていくし、二人は最初から一緒にいたんでしょう? ならそういう仲になっててもおかしくないのかなーって。歩君、かっこいいし」
確かにアユムさんは私に対してものすごく過保護だし、アユムさんのことが好きな人からしたら気になるのも無理はないのかもしれない。
だけど──。
「私とアユムさんは、そんな仲じゃないですよ。私が頼りないから、お世話してくれようとしているだけで、他意はないと思いますし……」
むしろ私の方が守りたいと思っていたのに。
私が言うとレイナさんは安心したように「よかったぁ」と息をついた。
「そもそも、私みたいな脳筋はモテませんから」
皆か弱い乙女が好きなんだ。
こんな、筋肉の発達した乙女じゃなくて。
あ、なんか悲しくなってきた。
「そっか、よかった。歩くーん」
私の言葉に完全に安堵したレイナさんは、少し前を歩く歩さんの方へとかけていった。
高校生の青春かぁ、良いなぁ……。
私にはそんな青春を送ることすら許されなかったもの。
私が一人で考え、一人で落ち込み始めると、
「そんなことないんじゃないですか?」
ともう一つの声が飛んできた。
「カナンさん?」
さっきまで大人しく私たちの会話を聞いていたカナンさん足を止め、妙に真剣な表情で私を見る。
「国民から見たティアラ様は、そんなじゃないですよ。まぁ、聖女としての力がまだ使えないって言うのは残念に思ってる人もいたけど、それよりもティアラ様には感謝してる人の方が多いんですよ」
「感謝?」
「そう。今みたいに水路が確保されて、井戸の整備も進んでなくて疫病の蔓延に悩まされてた時。ティアラ様は“水が綺麗でないと疫病は蔓延しやすくなる”って、地面を粉砕しながら水路を作ってくれて、緯度も増やして、飲み水や洗濯水の区別をつけてくれて、そのおかげで疫病は少しずつ落ち着き始め、町も心なしか綺麗になって活気付いてきた。それに、土砂崩れで洞窟で遊んでいた子供が閉じ込められたのを聞きつけて、岩を砕いて助けにいってくれたのは国じゃない。ティアラ様だもん。あたし達にとってはね、王太子の隣で聖女の顔してる聖女よりも、泥まみれになって助けてくれる脳筋聖女の方が、ずっと聖女なんですよ。だから、自信持って。あたしは、ティアラ様ならアユムとくっついても良いって思ってる」
「カナンさん……」
王都の貴族街では常に嘲笑われてきた。
聖なる力を使えない役立たず。
力ばかりで野蛮な脳筋聖女。
無能で伯爵令嬢のくせに王太子の婚約者に収まったずるい女。
だけど、確かにその力が役に立って、そんな私を認めてくれる人はいるんだ。
今までそのことに気づかないでいた。
きっと、彼女が言ってくれなかったら、気づかないままだっただろう。
「ありがとう……ございます」
それだけで、この力を誇れるような気がする。
「なら……この力で、必ず三人を元の世界に戻してみせますね」
「ハハッ。戻さなくてもあたしは良いんですけどね」
冗談めかして笑うカナンさんに、私も笑顔を向けた。
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