26 / 63
第一章
間違えた選択
しおりを挟む「──さて、アユムさん、私これから五層にいってきますね」」
六層に行くにはまず五層を一掃させねばならない。
一人で勝手に行ってはまた心配をかけてしまうので、今回は先に言っておく。うん、私えらい。
「……俺も行きます」
「!? で、でも、レイナさんたちが──」
「守さんもいますし、大丈夫です」
大丈夫って……。
そもそもマモルさんって戦えるんだろうか?
アユムさんがいた方がきっとレイナさんもカナンさんも安心なんだと思うのだけれど……。
「えぇー!! 私、歩君についていくっ。守さんじゃ心許ないもん」
「あ、それに関してはあたしもそう思う。だってマモル、めちゃくちゃ弱そうじゃん」
「おい……」
剣を持っている分、アユムさんの方が強そうなのは確かだ。
だけど装備なしで言うとマモルさんの方ががっちりとした体格的に強そうなのだけれど……これが乙女フィルターというものなんだろうか。
「ね、皆で行こう。そのほうが色々食材とか持って帰られるでしょう?」
「そうそう。アユムのかっこいいとこ見たいし」
ワイワイと行く気満々のレイナさんとカナンさんに、アユムさんは僅かに眉間に皺を寄せてから「ダメだよ。危ないから」と拒否した。
あの魔物の量と強さだ。
流石に危険だから、致し方ないだろう。
「えぇー……」
「ぶー……」
あぁ……へそ曲げちゃった。
だけど私は見逃さなかった。
二人の口元が僅かに弧を描いていたのを。
二人とも、毎日置いてけぼりで待っているだけだから退屈なのだろう。
アユムさんのかっこいい姿を見たいのもあるのだろうが、気分転換したいのかもしれない。
「……アユムさん、やっぱり連れて行きましょう」
「ティアラさん!?」
信じられない、と言った表情でこちらを見るアユムさんに、私は続ける。
「黙ってついてこられて危険になるよりは、最初からいるつもりでいた方がマシです。私が二人についていますから」
あらかじめいることがわかっていた方が守りやすい。
「ティアラさん……。……わかりました。そこまでいうのなら」
「ありがとうございます、アユムさん」
渋々ながら了承の意を示したアユムさんの背後で、小さくガッツポーズをする二人に苦笑いして、私は「レイナさん、カナンさん、決して勝手な行動はしないでくださいね」と念を押す。
「はーい」
「わかりました!!」
二人とも我の強い子たちだけれど、基本素直だ。
良い意味でも、悪い意味でも。
とりあえずその返事を信じて、いつも以上に気を集中させていくしかない。
「さ、行きましょうか!!」
私たちは第五層へと向かった。
そして私は、この判断がすぐに間違っていたことを思い知る。
1
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる