脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~

景華

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第一章

熱い眼差し、その指先に

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「……」
「……」

 ジュージュー……。
 ジャクッジャクッ……。

 無言のまま、アユムさんは卵焼きを焼き、私はとれたての新鮮なお肉をさばく。
 朝早く起きた私は、朝食の足しにと一人で五層へと赴き、鳥型の魔物を2羽ほど調達して来たのだ。

 帰ってきた血まみれの私を見て顔面蒼白になったアユムさんは、私の無傷を確認すると、すんっと表情を無くし、無言で調理場に入ってしまった。

 怒っている……。
 ものすごく、怒っている……。

 なぜ?
 勝手に出て行って勝手に狩ってきたから?
 それとも、鳥の肉じゃなくて獣の肉の方が良かったとか?

 そういえば、昨夜から少し機嫌が悪かったような気がする。
 私、何かしてしまったのかしら?

「あ、あの、アユムさ──」
「歩君おはようっ」
「アユム、おはよ。あ、ティ、ティアラ様も、おはようございます。って……なんていうか……朝から殺伐とした絵面ですね……」

 意を決して声をかけようとしたところで、レイナさんとカナンさんが起きてきて、言葉は続けることができなかった。

「……」
「おはようございます、二人とも。あはは、朝から鳥の魔物を狩ってきて捌いていたので返り血が付いちゃいました。焼き鳥、楽しみにしていてくださいね」
 二人が来ても変わらず無を貫くアユムさんを気にしながら、つとおめて明るく言葉を返す。

「おはよー……ってうぉぉぉおっ!? ティアラちゃん!? どうした!? どっか怪我でもしたの!?」
「ふふ、大丈夫ですよ。朝狩りに行って、獲物を捌いていただけですから」

 私の姿を見るなり大慌てで駆け寄ってくれるマモルさんに思わず笑みが溢れると、隣からさらに黒いオーラが広がってきた。
 とてもじゃないけど勇者のオーラとは思えない程の禍々しさだ。

「焼き上がりましたから、皆さんこのお皿を机に並べてください」
 ようやく言葉を発したアユムさんに、皆と同じように了解の返事をし、皿に手をかけると──。

「ティアラさんは待って」
「へ?」
 制止の言葉とともに不意に伸びてくる長い指先。

「!?」
 突然のことにぎゅっと目を瞑ると──むにっ──「ふえっ!?」
 その指は掬い上げるように、優しく私の頬を拭った。

「血、ついてました」
「へ……? ……ぁ……」
 そうか。
 朝から狩りに行ったり魔物を捌いたりしてたから……。

「外の水で顔と手をしっかり洗ってきてください。食事をするときにバイ菌が口に入ったらまずいですから」
「は、はい……」

 真っ直ぐに向けられる視線。
 妙に熱を帯びた瞳から目を逸らすことができない。
 そして再び私の方へと伸びてくる、剣だこのできた指先。
 その指先を気にすることもないほど、吸い込まれそうな漆黒の瞳に見入って、私の頬に触れるまで後少し、というところで──。

「おーい、アユムー。並べたよー」
「っ!!」
 カナンさんの大きな声によって、二人同時に我にかえって距離を取る。
 なんだ、このベタな恋愛小説みたいな反応……!!

「じゃ、じゃぁ、俺は先に言ってますから。ティアラさんはしっかりと手と顔を洗ってからきてくださいね」
 早口でそう言い残して、アユムさんは皆の方へ行ってしまった。

 ポツンと残された私は、ひゅるひゅるとその場にしゃがみ込む。

「何……? 今の……!!」

 最近の若者──すごい……。
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